無貌の男~千変万化のスキルの力で無双する。

きゅうとす

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冒険者Dの道行

吸血鬼と冒険者D

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ふと、その村に立ち寄ったのは単なる偶然である。
俺に利益になる話かありそうな気がした、というのは嘘くさいかも知れない。

薄汚れた名もない廃墟のような村には金がなさそうだった。
なのに良い女の匂いがした。
モノトーンの暗い曇り空の下に見えた廃墟のような村に鮮やかな朱の色を纏った女の影が見えた。

思わず足早になるが村に着いた時にはその姿は無かった。
俺が村の境界を越えたからだろうか、村人が数人鍬や鎌を持って現れた。
年季の入った剣を帯びた男を伴った老人が前に出てきた。

「何用だ?この村には何もないぞ!」
尖った警告の籠もった声だった。老人の声はどこか震えている。

「なに、ただの冒険者だ。宿を頼みたい。」
警戒心が高いのは何処の村も同じだ。よそ者が村に入り込むのを良しとしない。
冒険者と聞いた老人の眼に光が宿る。何やら訳ありかも知れない。

「この村にギルドはないぞ。だが、頼み事を聞いてもらえるならそれなりの饗応はしよう。お前さん、強いのか?」
「これでもA級冒険者だ。Dと言う。ちなみに傭兵証もあるぜ、よろしくな」

俺の出した手に握手してきた老人が名乗る。驚いているところを見ると合格のようだった。
「キエフ村の村長のベーシュだ。」
そこで横に立っていた男が口を出した。

「村長!いきなり現れたこんな男に依頼するんですか?!ギルドには依頼してるじゃないですか!」
「あぁーん?、自警団では手も出ないでは無いか!それに依頼が受領された連絡もないんだ、急がなくでどうする!?」
村長の勢いに男が黙り込む。
ははっ、茶番は終わったようだ。

場所を村長ベーシュの家に移し、椅子に座って話を聞くことにした。付いて歩く男は自警団長のミスルだと紹介された。

「この村の北に広がる森は古くから村の収入源なんだが、いつの間にやら夜の住人が出始めた。そこで、自警団に調べて貰った所、森の中の古い建物の中で吸血鬼に出会ったらしい。
吸血鬼は敵対的では無かったが一年に一人の若い娘を要求してきた。応じない場合は村を夜の住人に襲わせると脅してきた。
そうだったよな、ミスル?」
「はい、村長。俺が最初に話をしました。」

そこへ朱いフードを被った女性が飲み物を出してくれた。
村を遠目で見た時に見掛けた女だろう。フードから覗く唇は蠱惑的に朱い。

「孫のエラだ。吸血鬼の要求に答えるにはこの娘しかおらん!」
憤慨した様子で村長ベーシュは言った。エラが部屋を出ていくのをミスルが目で追っている。

「吸血鬼が要求している期限は直ぐだ。5日と無い。何とかしたいんじゃ!」
村長ベーシュの声には必死さが籠もっていた。

会話の出来る吸血鬼ならそれなりに高位の古強者だろう。だが、話を自警団長のミスルに聞けば、森に入ると何処からか夜の住人、つまりゾンビやグールが出てきて脅すらしい。今の所襲われた者は皆無だそうだが森からの食料供給が途絶えては村の生計が成り立たないらしい。今のところは近隣から買付ているので何とかなっているようだ。

出せる報酬はこれだけだと出された袋に入っていたのは銀貨や銅貨など全部で金貨2枚程だ。この報酬で高位の吸血鬼を討伐しようとする冒険者は出ないだろう。まぁ、俺は気にしないがね。

この村に相応しくない娘とねっとりした目で見る自警団長。なんか裏がありそうで面白い。

俺は依頼を受ける事にしてその晩は饗応を受けた。
無論、エラも俺に熱い視線を送ってきたから応えてやったぜ。ちょっとおつむが足りなそうだったが。
エラは近場の街から逃げて来たらしい。それなりの場数を踏んでいるようでなかなかに強かだ。静かな微笑みがちょっと怖い。

翌日、村長の家を出て森へ向かう。だが余計な虫も付いてきた。自警団長ミスルだ。何でも討伐確認をすると強硬に主張してきたからだ。
めんどくせぇ。まぁ、こんな虫がいても問題ないがな。

吸血鬼の居るらしい建物まで案内をさせる。無論、護ってやる義理は無いが途中で現れたゾンビやグールは片手間で排除する。
俺の剣でゾンビやグールの頭が爆砕する様子を見て呆れていたが、褒めろよ!

森の中を歩いておよそ30分程度で吸血鬼の屋敷に到着する。確かに雰囲気のある建物だった。村長のベーシュに聞いた話では昔村が栄えていた頃貴族が別荘として建てたらしい。酔狂なもんだぜ。
既に老朽化して建物の壁ほぼ全面に蔦が這い回っていた。金属製の門も錆びたり、一部朽ちて傾いでいる。

「どうするよ、中まで来るか?」
聞いた俺の声にビクつきながら自警団長ミスルはここで待っていると答えた。ふん、と鼻を鳴らし俺はのんびり建物の中に入った。

建物の中は埃臭かった。歩くたびに埃が舞うが気にしたら負けだ。
中央のダンスホールを抜けて2階へ上がる階段を進む。吸血鬼のような魔物は高い所か暗い所が大好きだ。地階があるとは思えなかったので上を目指す。

思った通り最初に開けた部屋の床にに棺があった。吸血鬼は夜の住人だが、昼間彷徨かない訳でもない。光に弱いのは俗説だ。本当に弱いのは神聖属性や光属性の攻撃である。

棺の蓋を蹴飛ばすと中には干からびた吸血鬼がいた。モゾモゾしているが俺に気づいて飛び上がった。反転して天井に張り付く。
それを俺は見上げて観察する。

う~ん、自警団長ミスルの言うことは嘘だな。こりゃ、吸血鬼の中でも低位の奴だ。話もできまい。
剣を持ち直してスキルを起動する。
『神聖纏い』

剣と俺に光が纏わり付く。神聖属性に気づいた吸血鬼が窓を突き破って逃げようとするが遅い。
飛び上がって俺が振るった発光する剣が吸血鬼の背中を抉る。
ギャァァァー

叫び声を上げで落ちたところへ俺が踏みつけて、心臓目掛けて剣を刺した。
うぐゎ!

小さく声を上げると突き刺さった所から体が白い灰に成っていき、崩れる。完全に消滅したところで剣を戻す。
これで終了だな。簡単なものだ。

一応、他の部屋や地階の有無を確認したが問題無かった。

建物を出て行くと自警団長ミスルが物陰から姿を現した。

「お、終わったのか?」
偉そうな物言いだが俺が頷くと確認すると言って建物に入って行った。
ぼんやり待つのも阿呆らしいので一人でさっさと村に戻り、村長ベーシュの家に行く。

まだ、昼前だが村長のベーシュが待っていた。
「お、終わったのか?早いな。」

お前も同じ事を言うのかよ。
そうだと答えると自警団長ミスルが戻ってきたら報酬を渡すと言うので状況と経緯を村長ベーシュに話をしながら待つことにした。
高位の吸血鬼と思ったが話も出来ない低位だったこと。
吸血鬼が灰となって消滅したから森にいた眷属のゾンビやグールも力を失って森に還ること。

ベーシュ自ら入れてくれた何の変哲もない茶を飲みながら待っていたが幾ら待っても自警団長ミスルが帰って来なかった。
苛立ったベーシュが他の自警団員を呼んでミスルを探させたが、森の建物にもミスルの家にも居ないという事が分かっただけだった。

更には村長の孫娘エラも居なくなっていた。
結局、ミスルがエラを連れて逃げたらしい事が分かった。

自警団員に話を村長ベーシュが聞くとどうやら娘を寄越せと言う吸血鬼の要求はミスルの嘘だったらしい。
吸血鬼にかこつけてエラを自分の物にしたかったようだった。

俺は報酬を受け取って夕方にはキエフ村を出た。
村長のベーシュに泊まってけと言われたが面白くもない結末にお腹いっぱいだ。


村から離れた場所で背中からナイフを生やしたミスルの死体を発見した。
そこにエラは居なかった。

何があったのか分からんがそのまま俺は立ち去った。




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