無貌の男~千変万化のスキルの力で無双する。

きゅうとす

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冒険者Dと近隣国

秘密基地

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心を鎮め魔剣『灼熱』を両手持ちして高々と掲げ、魔力を練り込める。

さっきまで淀んでいた黒い霧に流れが起こり始まる。俺の近くまで隠蔽などのスキルで近づいていたツキガラスが様相の違いに戸惑ったのだろう、気配が揺らめいた。

ツキガラスから見ればただ茫洋と突っ立って居るだけの筈の俺の周りの空気が変わったと見えただろう。焦ったツキガラスの棒手裏剣が俺に向かって背中側から投げられた。
だがその攻撃は俺に届かず向きを変えて空に飛んで行った。

2投、3投と棒手裏剣が飛ぶが全て弾かれるように方向を変えて飛んでいく。黒い霧が俺の周りで螺旋城に渦を巻き、天へ向かって登って行き、あっという間に消え去った。

何が起きたのか分からずに固まったツキガラスがスキだらけで立っていた。半眼を開いて魔剣『灼熱』を俺は振り降ろした。
「むん!」

剣先がそのまま地面を抉る。
あっさりと魔剣『灼熱』は刀身の半ばまで地面に突き刺さった。

魔力が俺を中心に爆発して地面が吹き飛び、土砂に塗れてツキガラスも一緒に飛んで行った。衝撃にツキガラスは20m程飛んで木々の枝を折りながら大木に叩きつけられた。

俺の周りは50cm程地面が抉れ、大きな爆心地の様な状態だ。
俺は魔剣『灼熱』をインベントリに仕舞うと大木の根本で気絶していたツキガラスに近づき、見下ろした。これでも出力を10%程度に抑えたのにな。

片手を伸ばしツキガラスに近づけた所で樹上から声が落ちて来た。
「その男は殺さないの?ディー」

ユキだった。殺気を感じなかったからの言葉だろう。
ほとんど空気を揺らさずに俺の隣に落ちて来たユキは俺のすることを見ている。俺はスキル『無貌』を使うのを止めた。
手を引き戻し、ユキに向かい合う。
「入江は見つかったのか?」
「この森の先に一つと、更に遠くに一つ、港街ラワヴァッツの反対側に一つあった。」
「そうかよ、じゃあ一番近い所に案内してくれ」

俺がツキガラスを背に離れて歩き始めるとユキは自然な動作で俺に乗っかる。
俺は乗り物じゃねえぞ。
「くんくん、新しい女の匂いがする。誰?」

おいおい、魔法で汚れは取れても女の匂いは残るのか?
「はん、気になるのか?」
「普通の女じゃ無さそう。匂いにメスの執着が無い。」

何だそりゃ。確かにバラナビィーチ冒険者ギルド受付嬢らしからぬ力を持ってそうなミリュエルだったけどな。
俺の下ではちゃんと乱れてたし、悦んでいたと思うんだがな。
「俺が他の女を抱くのが嫌なら好きな所に行って良いぜ」

ユキが嫉妬するならそれでも良いだろうと思って言ったがユキの答えは違った。
「ディーは好きにすれば良い。あたしも抱いてくれればもっと良い。」

はは、ユキは気にしないようだ。でも何だって?
新しい・・・って言ったよな。本気まじかよ、ユキは匂いで俺が抱いた女が分かるのか?

俺の驚きを感じたのかユキは言う。
「今夜はあたしの側から離さない。」

ユキの誘導で魔物にも合わずに森を抜けて海岸線に出てしまった。魔物を狩ろうと思って森に入ったのに俺の騒ぎオーバーマジックで魔物が逃げてしまったみたいだな。相変わらずユキは重さも存在も感じさせない。

入江は森に隠されるようにあって、深さも充分にありそうだ。ゴツゴツした岩礁が程よく転がっている。
「あの大岩の下に洞窟があってダゴンやらサハギンやら人魚やらが時々隠れて居る事がある」

成程、海の生き物達の隠れ家でもあるのか。候補としてはなかなかいい場所だな。
「って、洞窟の中も確認したのかよ」
「スキルで隠れて観察した。」

事も無さそうにユキは言うがダゴンやらサハギンやら人魚達の海の生き物は匂いに敏感な筈なんだかな。流石にツキガラスより隠形に優れて居るだけの事はあるな。

俺はユキにもう一つの場所について聞くとユキは何故か俺の背中から降りて走り出した。
「こっち」

乗っていてもいなくても問題無いがユキの行動が読めないな。

走る速さはスキルを使うまでも無いが、だんだん海岸線から離れて内陸に向かってるぞ。雑木林の中の獣道らしき場所を抜けて山道に差し掛かる。
かなりの距離を移動したから下手をするとベラーシを出ているかも知れない。すると方向を変えて山を下り始め、沢に出た。

沢に沿って歩くユキの後を追うとそこそこ大きな池があった。池の水の色が濃い。ただの池じゃないなと俺が思って居るとユキが言った。
「ここ。池の底が海に通じてる。」

良く見つけたもんだとユキに聞けばここで川の魚だけでなく、海の魚も釣れる事から地元の農民も時折訪れるらしい。人魚も時折姿を見る事があるのだと言う。悪くは無いが他人に知られすぎているな。

ユキが池の近くの倒木に座り、横に座れと倒木を軽く叩く。そういやそろそろ腹が減ってきたな。飯にするか。

池の中央とかで魚が長閑に跳ね、小魚が岸の近くを泳いでいるな。

ユキが魔法袋から何か出そうとするのを制して俺はインベントリから籠に入ったサンドイッチセットを出した。
5人前程の大きめの籠だがサンドイッチを見たユキの目が輝いていたので量は問題無さそうだ。

ユキと俺の間の倒木の上に置き、食べるように言うと中央の魚を挟んだ物から取り、口に運んだ。
当然魚はフライにしてある。

この籠は遠くマジェント共和王国の王都で買って置いた物だ。サンドイッチ専門店で大量に注文して保管して置いたものの一つだ。

サクサクと言う小気味よい音をさせてユキがにこやかにサンドイッチを食べる。手を舐めてる。
あれ?一口で食べた?

口の周りに衣が点いているのでこれまたインベントリから水の樽を出し、コップで掬って渡す。

小さくない筈なのにユキはこれまた一口で飲みきった。コップを籠の中の隙間に置いて更にサンドイッチを摘んだ。

そういや、ユキと食事をするのは初めてかも知れないな。

俺も負けじとサンドイッチを取って口に運ぶ。俺でさえ2口無いと食べ切れ無いのにユキは一口で口に詰め込んでいた。
大食いというユキの微笑ましい面が見れた。

渡したコップを使い樽の水を飲む。俺が余り食べないうちに籠の中のサンドイッチは無くなり、樽の水も半分になっていた。
「満足したか?」

俺が聞くと、ユキは少し考えて答えた。
「腹八分?」




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