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第一章 「伝説の勇者の息子」
フォーキール①
しおりを挟む且つて『魔神』との闘いが繰り広げられ、後に「魔神大戦」と呼ばれる舞台となったネーブル荒野。
同時に、そこは一度は滅んだはずの『魔神』が突如として再誕した場所でもあり、全ての終わりであり全ての始まりの場所でもあった。
魔神戦争の時には僅かに残されていた自然も、再び蘇った『魔神』によって荒れ尽くされ、不毛の大地と変わり果てた場所を横断した先には、文明が発達したフォーキールという都市があった。
高層ビルが立ち並び、最先端の車が道路を行き交う程のインフレーションを引き起こす技術と文明が集まり、それは衣食住には決して困らない豊かな経済力を生み出すだけでなく、貧富の格差がない夢の都市として名を馳せていた。
同時に、勇者育成機関であるスクールを持ち、またスクールから派遣された者達で結成された部隊を持つことで、強大な軍事力を兼ね備えたフォーキールは、『魔神』と戦う組織を持つという背景から武力都市とも呼ばれていた。
そして、最大の特徴でもある、前述した勇者育成機関であるスクールとは、その名の通り『魔神』と戦う勇者を育成する場所でもあり、『魔神』に立ち向かうべく造られた機関のことだった。
『魔神』の脅威に晒される昨今では、その数を増やしつつあるが、それでもスクールを有する都市の数は未だ四つと少なく、中でもフォーキールのスクールは最古のものであり、同時に一番広大で充実したカリキュラムを提供する場所であり、勇者を目指す者にとっては憧れの場所であった。
しかし、勇者になりたい者が誰でも入れるわけではなく、厳しい事前審査と試験をクリアした者でしか入れず、そして入所したところで厳しいカリキュラムと昇級審査があり、幾人もの夢を追う者が夢破れ、勇者になることを諦めていた。
だが、次期勇者候補とも呼ばれる程の逸材を生み出してきた実績を持つのも確かで、彼らはフォーキールの防衛部隊に属したり、また世界各地の武力組織に派遣されるなどして名を馳せ、現役で活躍している。
勇者になることは難しい現実であることは知りつつも、勇者になろうとする者は後を絶たない。
次々と夢破れた者がフォーキールを立ち去っては、新たに夢を追う者がフォーキールに足を踏み入れていた。
そんな中、コラーダからトラックに乗ってきたヨエルは、地図を片手に歩いていた。
決して迷子になったわけでなく、目的地であるスクールに辿り着いているのだが、その広大な外壁に阻まれ、入り口を見付けることができずに外周をひたすら歩き回っていた。
(…デカすぎだろ、これ)
トラックの運転手に別れを告げ、歩き始めてからどれだけ歩いただろうか。
思えば、スクールに向かう道路が渋滞しており、待ち兼ねたヨエルが痺れを切らして徒歩で向かうと言い出したのが発端だった。
本気で歩いていくのか、と念を押されたのだが、地図もあるのだしどうせすぐ着くだろうと高を括ったのが不味かった。
白く聳え立つ外壁はとても高く、しかもそれが丁寧にもスクールを取り囲むようにできているのだから、侵入しようにもそう簡単にはできないだろう。
できなくもないのだが、なかなかどうして周囲を行き交う人々の目があっては、白昼堂々侵入するのも気が引ける。
何より、ボロボロのマントを羽織い、ベルトが幾重にも巻かれた鞘に納まった剣を携えるヨエルの姿は明らかに浮いており、既に擦れ違う人々が二度見をするなどの視線を何度も感じている。
今なら運転手が引き留めたのも理解できるし、素直に従っておけば良かったとヨエルは自分の短期さを半ば後悔していた。
(こんなことなら、おっちゃんの車で居眠りしてた方が良かった…)
コラーダからヨエルを運んだ男性は、クロエの伯父であり、そして彼女からの頼みを引き受けて遠路遥々フォーキールまで運転してきた。
道中話し込んだりする中で意気投合しつつあり、時には冗談などを交えながら向かう旅路は居心地が悪くなかったのだが、フォーキールの道路状況は、そもそも車に乗ったことが少ないヨエルにとっては酷なものであった。
待てど暮らせど一向に進まない渋滞と、また周囲を飛び交う車のエンジン音の中でただ助手席に座っていることは、特殊な環境で育ってきたヨエルには経験がない故に生殺しに近いものであり、その堪らなく退屈な時間が無駄に思えて仕方がない。
最初は談笑などして気を紛らわせていたものの、その内話すこともなくなってきて、車内に沈黙が流れるようになってしまい、それが余計に退屈な時間と考えさせてしまうことに拍車をかける。
短気な性格も考え物だと、ヨエルは溜め息を吐いてひたすらに歩き続けていた。
「…ん?」
歩き始めてからどれぐらい経っただろうか、ヨエルの視界に、いつもの白い外壁以外のものが映る。
遠目ではっきりとは見えないが、どうやら門のように見えるそれを見た時、僅かであるが希望を抱いた。
歩くことに飽き飽きしていたヨエルは、思わず動かす足を速め、そそくさとその場所にまで近付く。
目論見通り、門であることに違いなかったのだが、その大きさは外壁と同じく、巨大なものであった。
厚く硬いであろうその佇まいと、果たして人力で開けることができるのかと思う程に閉ざされた金属質の門は、例えフォーキールであろうと他には存在しないであろう代物であった。
また、取っ手らしきものも見当たらず、そもそもここは入り口なのかと疑心すら抱くものであり、そう思ったヨエルはキョロキョロと周囲を見回すが、やはり他にそれらしきものは存在しない。
(入り口って…ここしかないよな?)
辿り着いたのは良いものの、ここから先どうしたものかと思ったヨエルは、恨めしそうにその門を下から上まで嘗めるようにに眺める。
ふとその時、埃や雨水で汚れた門に薄っすらと文字が刻まれていることに気付いたヨエルは、目を細めてまじまじとその文字を読み始めた。
(……「勇者の道を望む者よ、自らの力を示してみせよ」…?)
読むことにやや手間取りはしたが、門に刻まれた文字を何とか解読できたヨエルは溜め息を吐く。
「御大層な書き方だけど、要するに力ずくで開けても良いってことか?」
あくまで自己解釈の範疇だが、要約すればそういうことになるだろう。
というより、それが正しいかどうか聞いたところで、正解を答えてくれる者など誰もいない。
試しにゴンゴンと音を立てながら門をノックしてみるが、中からは何も返事がなかった。
「…まあ、そもそも考えてみれば、あの野郎がここに呼んだのが事の発端なんだし…。ご丁寧に書いてあるんだから、多少乱暴にしたって良いよな」
ヨエルが言ったあの男という存在と、理不尽にただ来いとしか言われなかったことを思い出す度に、込み上げる苛立ちを隠すことなどできはしなかった。
その苛立ちをいざ晴らさんとするべく、ヨエルはマントの中から両腕を伸ばし、扉にピタリと掌を密着させる。
そのまま軽く押してみるものの、当然門はピクリとも動かない。
ならばと力を徐々に強めていくが、依然門は微動だにしないまま静かに聳え立っていた。
幼い頃からの経験故に自分の力には自信があったし、まずは反応を確認する為に全力ではないヨエルだったが、こうも反応がなくては嘲笑われているかのように感じる。
それはまるで、あの男のように。
「このっ…!!い…い加減にぃぃぃ…!!
あの男に対する苛立ちが頂点に達したヨエルは、身体の奥底から噴火したマグマのように湧き出る力を両腕に伝わらせ、そしてその力は門へとぶつけられた。
ヨエルが発揮した怪力は、今まで微動だにしなかった門へと伝わり、初めて軋む音を上げながらゆっくりと徐々に動いていく。
全力でやっていればもっと楽に、もっと早く開いていただろうが、最初に様子見などした所為で手がプルプルと震え始める。
しかし、ここで一度でも緩めてしまえばきっと門は再び閉まるだろうし、そもそも最初からやり直すつもりなど毛頭ないヨエルは歯を食いしばって力を込め続けた。
「開けってんだよっ!!」
このままでは埒が明かないことに痺れを切らしたヨエルは、頭の上から足の指先に至る全身の力で、その門を押し出す。
今までゆっくりだった門の動きは一気に加速し、バタンと大きな音を立てて開いた。
「どうだコノヤロー…!!開けてやったぜ…!!」
息を切らしながら、ヨエルは開いた門に向かって悪態を吐く。
門が悔しがるわけもなければ何かを言い返すわけでもないが、一方のやや苦戦した末に勝ったヨエルにとっては充実感で満ち溢れていた。
「……あん?」
だが、そんな想いを感じたのも束の間、ヨエルはふと何かに気付く。
視線を上げた先には、スクールへと続く石畳の道の真ん中に座り込む、一人の老人の姿があった。
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