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1章
第4話
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その日の夜。
めずらしく早く帰宅した姉貴と一緒に晩御飯を食べることになった。
活発な姉貴は部活動の顧問をしていたり、職場仲間と飲みに出かけたりしていて毎日とても忙しい。
母は「これから観たい番組があるのよー」と先に食事を済ませてリビングでくつろいでいて、父はまだ帰宅していない。
よってキッチンのテーブルには、俺と姉貴だけだった。
内容が内容だけに相談しづらいが、でも言わないとコトがすすまないし……と悩みつつ、俺は思い切って姉貴に聞くことにした。
「なあ、姉貴。甘いお酒ってどんなやつ?」
「はぁー?高校生の分際で飲む気か?」
反応は予想通り。風呂上りでビール片手に食事をしていた姉貴は、「あげないぞ!」と缶を引っ込めた。
「違うよ。例のひなたのことで、ちょっと相談なんだけどさ……」
「ああ、学校の座敷童子ね。……って、相談するほどそんなに頻繁に会うの?」
「会うも何も、音楽室に行くといるんだ。いるというか、来るというか、現れるというか……」
「へえ~、好かれたもんだね~」
酒が入った姉貴は頬を赤らめて、楽しそうに笑った。
「ひなたさ、てるてる坊主の曲……好きみたいなんだよ」
「え?あの、てるてる坊主~♪てる坊主~♪って昔からあるやつ?」
「そう」
「ふうん……」
何か手掛かりになる情報を持っていないかと姉貴に期待を込めたが、どうやら何も知らないらしい。
姉貴はひなたに直接会ったことがないと言っていた。だから仕方ないのかもしれない……。
「実はさっきひなたに〝欲しいものがある〟って言われたんだ。で、それが曲とリンクしてるんじゃないかと思ったんだ。やたらと〝てるてる坊主〟の曲にこだわるから……」
「へえ?」
「座敷童子って神様だろ?ならお供え物とか必要なのかな?って」
「……で、お酒?」
姉貴は持っていた缶を左右に振り、俺は頷いて話を続けた。
「帰って来てから曲を調べたんだけどさ、歌詞の中に、【金の鈴】と【甘いお酒】ってのが出てくるんだよ。用意できるとしたら、その2つだと思って。後は抽象的でよくわかんねーから……」
「なるほど、ね……。ふむ……」
姉貴は少し考え込み、「……ま、ここじゃナンだから、後で部屋においで」と言って、缶の中身を一気に飲み干した。
そのタイミングで父が帰ってきたので、ひなたの話はそこで止まり――――
三人で雑談しながらそれぞれ食事を終え、俺は自分の食器を流しに置くと、先に部屋に戻っているはずの姉貴の部屋を訪ねた。
「お、待ってたよ史朗。これこれ♪」
ほろ酔いでご機嫌な姉貴は座っていたベットから立ち上がり、ペットボトルくらいの大きさのビンを俺に差し出してきた。
ラベルに果実のイラストが描いてあるが、多分酒なのだろう。
「……貰っていいの?」
一応尋ねる。
「いいよ、買えるもんだし。今まで飲んだ中でそれが一番甘いから、ひなたに見せてみるといい。……まぁ甘いお酒って甘酒のことかもしれないけどね。でもあれはほとんどソフトドリンクみたいなものだから、あたしからすれば酒扱いにならない。よって却下!」
「さんきゅ!酒のこと全然わからないし、助かったよ」
「たーだーし!」
姉貴は部屋を出ようとした俺の首根っこをつかんで睨みつけた。
「扱いは厳重に注意してよ!?それお酒だからね!?見つかったら停学くらう可能性あるし、あたしの顔にも泥塗るからね!いいね?わかったね!?問題起こしたら、卒業するまで史朗のこづかい全部貢がせるからね!?」
「……わかったよ……」
そんなに厳しい校則の学校ではないが、さすがに酒の持込みが見つかったらやばいだろう。
それに姉貴は本気で俺のこづかいを全部貢がせる気だ……。
「……まぁ、これくらいのことならいつだって協力してやるからさ……。だから相談しなよ?ひとりで抱え込むな」
姉貴は柔らかく微笑みながらそう言って、俺の背中をバシッと叩いて気合いを入れてくれた。
ハッキリとした物言いをするのでキツイ印象ではあるが、いつだって心配して見守ってくれているのは伝わっている。
俺は自分の部屋に戻り、酒を新聞紙でぐるぐるにまいた後、体操着の袋に入れることにした。これなら持っていっても変ではないはずだ。
――――後は、金の鈴か……
15分ほど歩いた駅の近くに24時間営業の100円ショップがあることを思い出し、探しに行くことにした。
店に入ると、思いの他「金の鈴」らしきものは沢山あった。
ほぼまがい物だろうが、見た目だけならどれも「金の鈴」だ。
ストラップについていたり、キーホルダーについていたり。むしろありすぎて迷ったくらいだ。
――――これで、いいかな……
眉毛の濃い顔の雪だるまと一緒に、小さな金の鈴がついているキーホルダーにした。
選んだ基準はただひとつ。吹雪が見たら「これ可愛い!欲しい!」と言いそうだったからだ。
……それに、雪だるまの白さと丸みを帯びた体格が、どことなくひなたの背格好にも似ていた。
――――まぁ、ひなたに見せたところで何も変わらないかもしれないが、一応気になることはやってみるか……。
そんな安易な気持ちだった。
コートとマフラーを身に着けていても冬の夜道はとても寒く、俺は風邪をひかないよう……急いで帰宅して風呂で身体を温めた。
そして「いつもより早いけど……」と思いつつ、ベットに入って眠ることにした。
-続く-
めずらしく早く帰宅した姉貴と一緒に晩御飯を食べることになった。
活発な姉貴は部活動の顧問をしていたり、職場仲間と飲みに出かけたりしていて毎日とても忙しい。
母は「これから観たい番組があるのよー」と先に食事を済ませてリビングでくつろいでいて、父はまだ帰宅していない。
よってキッチンのテーブルには、俺と姉貴だけだった。
内容が内容だけに相談しづらいが、でも言わないとコトがすすまないし……と悩みつつ、俺は思い切って姉貴に聞くことにした。
「なあ、姉貴。甘いお酒ってどんなやつ?」
「はぁー?高校生の分際で飲む気か?」
反応は予想通り。風呂上りでビール片手に食事をしていた姉貴は、「あげないぞ!」と缶を引っ込めた。
「違うよ。例のひなたのことで、ちょっと相談なんだけどさ……」
「ああ、学校の座敷童子ね。……って、相談するほどそんなに頻繁に会うの?」
「会うも何も、音楽室に行くといるんだ。いるというか、来るというか、現れるというか……」
「へえ~、好かれたもんだね~」
酒が入った姉貴は頬を赤らめて、楽しそうに笑った。
「ひなたさ、てるてる坊主の曲……好きみたいなんだよ」
「え?あの、てるてる坊主~♪てる坊主~♪って昔からあるやつ?」
「そう」
「ふうん……」
何か手掛かりになる情報を持っていないかと姉貴に期待を込めたが、どうやら何も知らないらしい。
姉貴はひなたに直接会ったことがないと言っていた。だから仕方ないのかもしれない……。
「実はさっきひなたに〝欲しいものがある〟って言われたんだ。で、それが曲とリンクしてるんじゃないかと思ったんだ。やたらと〝てるてる坊主〟の曲にこだわるから……」
「へえ?」
「座敷童子って神様だろ?ならお供え物とか必要なのかな?って」
「……で、お酒?」
姉貴は持っていた缶を左右に振り、俺は頷いて話を続けた。
「帰って来てから曲を調べたんだけどさ、歌詞の中に、【金の鈴】と【甘いお酒】ってのが出てくるんだよ。用意できるとしたら、その2つだと思って。後は抽象的でよくわかんねーから……」
「なるほど、ね……。ふむ……」
姉貴は少し考え込み、「……ま、ここじゃナンだから、後で部屋においで」と言って、缶の中身を一気に飲み干した。
そのタイミングで父が帰ってきたので、ひなたの話はそこで止まり――――
三人で雑談しながらそれぞれ食事を終え、俺は自分の食器を流しに置くと、先に部屋に戻っているはずの姉貴の部屋を訪ねた。
「お、待ってたよ史朗。これこれ♪」
ほろ酔いでご機嫌な姉貴は座っていたベットから立ち上がり、ペットボトルくらいの大きさのビンを俺に差し出してきた。
ラベルに果実のイラストが描いてあるが、多分酒なのだろう。
「……貰っていいの?」
一応尋ねる。
「いいよ、買えるもんだし。今まで飲んだ中でそれが一番甘いから、ひなたに見せてみるといい。……まぁ甘いお酒って甘酒のことかもしれないけどね。でもあれはほとんどソフトドリンクみたいなものだから、あたしからすれば酒扱いにならない。よって却下!」
「さんきゅ!酒のこと全然わからないし、助かったよ」
「たーだーし!」
姉貴は部屋を出ようとした俺の首根っこをつかんで睨みつけた。
「扱いは厳重に注意してよ!?それお酒だからね!?見つかったら停学くらう可能性あるし、あたしの顔にも泥塗るからね!いいね?わかったね!?問題起こしたら、卒業するまで史朗のこづかい全部貢がせるからね!?」
「……わかったよ……」
そんなに厳しい校則の学校ではないが、さすがに酒の持込みが見つかったらやばいだろう。
それに姉貴は本気で俺のこづかいを全部貢がせる気だ……。
「……まぁ、これくらいのことならいつだって協力してやるからさ……。だから相談しなよ?ひとりで抱え込むな」
姉貴は柔らかく微笑みながらそう言って、俺の背中をバシッと叩いて気合いを入れてくれた。
ハッキリとした物言いをするのでキツイ印象ではあるが、いつだって心配して見守ってくれているのは伝わっている。
俺は自分の部屋に戻り、酒を新聞紙でぐるぐるにまいた後、体操着の袋に入れることにした。これなら持っていっても変ではないはずだ。
――――後は、金の鈴か……
15分ほど歩いた駅の近くに24時間営業の100円ショップがあることを思い出し、探しに行くことにした。
店に入ると、思いの他「金の鈴」らしきものは沢山あった。
ほぼまがい物だろうが、見た目だけならどれも「金の鈴」だ。
ストラップについていたり、キーホルダーについていたり。むしろありすぎて迷ったくらいだ。
――――これで、いいかな……
眉毛の濃い顔の雪だるまと一緒に、小さな金の鈴がついているキーホルダーにした。
選んだ基準はただひとつ。吹雪が見たら「これ可愛い!欲しい!」と言いそうだったからだ。
……それに、雪だるまの白さと丸みを帯びた体格が、どことなくひなたの背格好にも似ていた。
――――まぁ、ひなたに見せたところで何も変わらないかもしれないが、一応気になることはやってみるか……。
そんな安易な気持ちだった。
コートとマフラーを身に着けていても冬の夜道はとても寒く、俺は風邪をひかないよう……急いで帰宅して風呂で身体を温めた。
そして「いつもより早いけど……」と思いつつ、ベットに入って眠ることにした。
-続く-
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