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第9話
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ソファーに座って数秒後……
頭の後ろで手を組もうとしていた俺の目の前に、突然何かがパッと現れて驚いた。
光り輝くパネルのようなものだった。
大きさは1メートル程度の正方形で、少し眩しく感じる程度の光を放っている。
触れようとして反射的に手を伸ばすと、パネルに溶け込むように指がスッと入って素通りした。つまりこれは……映像ってことだ。
身体を横に倒しながら奥行きを確認すると、紙のように薄っぺらかった。
風呂上がりに俺がこのソファーに座ることを予想してABCトリオが仕掛けていったのだろう。そういやさっきソファーを改造していたな、と思い出した。
何かメッセージでも出てくるのか……? と構えていると、パネルの光はだんだんおさまってゆき、半透明に変化した。
そのまましばらく見ていると、パネルの映像内の左右と下から見覚えのある手とおでこが出て来た。
(ほらな、やっぱり……)
その後は予想通り、映り具合を調整するABCトリオのドアップだった。毛穴も見えそうな近さだ。
狭いパネルの中に3人がバランスよく入ろうと、押し合いへし合い必死になる。
『頭入らないから、もうちょっとそっち~』
『耳がはみ出ちゃうから、こっち~』
『それじゃあ、アゴが切れちゃう~』
何やってんだか……と、無意識に頬が緩む。
ABCトリオの背景はこのリビングだから、俺が風呂の間に作ったのだろう。
『えーと、ぼっちゃんラブ、ぼっちゃんラブ』
『マイクのテスト中、通じてますか?』
『通じてたらニマニマして下さいね』
その恥ずかしいマイクテスト、他では絶対やるなよ……と思いつつ、俺はそっぽを向いた。
何となく照れ臭かったのだ。
『あー、あー、愛してるぼっちゃんー♪』
『うんうん、聴こえてる』
『超特大イイネッ♪』
で、結局こいつらは何がしたいんだ……? と思いつつも、視線を戻してつい聞き入ってしまう自分を認めたくない自分もいたり……。
『では、ぼっちゃん! 帰りますねー☆』
『またいつでもお呼び下さいー☆』
『呼ばなくても勝手に来ますけどっー☆』
(ハイハイ、わかったよ)
ABCトリオが振っている手に、座った目で振り返す。
『今日はしっかり寝て下さいねー!』
『明日から楽しい日々が待ってますよー!』
『ある意味我慢比べですけどねー!』
『『『アデュー♥♥♥』』』
3人が俺に投げキッスすると、パネルは「たーまやー、かーぎやー」という機械的な音声と共に天井の方へのぼっていき、パーンと音を立ててバランスよく四方八方に飛び散って消えた。
ほんの一瞬だけ天井にカラフルな七色の花が咲いたような、とても奇麗な弾け方だった。
「“たまや”と“かぎや”って……」
俺はポカーンとした後、思わずプッと吹き出した。
実物を見たことはないが、昔のドラマやアニメでこんな掛け声を聞いたことがある。
夜の空に大きな音と共に打ち上げ、暗闇の中で大輪の花を咲かせる「花火」。それを見る時に叫ぶ言葉が「たまや」と「かぎや」だったはずだ。
記憶の中ではどちらか片方を叫ぶ人はいたが、両方同時に叫ぶのはあまり聞いたことがない。
それに明るい部屋の天井で映像を弾けさせるという発想も大胆だ。
一歩間違うと部屋の照明に溶けて映えないのに、ちゃんと花火の形に見えていた。明度と彩度を調整してあるのだろう……。
俺の前にいきなり出てきたパネルといい、この花火に見立てた弾け方といい、ABCトリオに聞いてみたいことは山ほどあるが、今日は疲れたからもう寝ることにした。
俺は緩んだ表情を引き締めながら立ち上がり、部屋の電気とエアコンを消してリビングを出た。
今目の前に見えるのは、風呂上がりの時よりも薄暗く感じる静かな廊下。二階の寝室へと続いてる。
ところどころに足元を照らす照明はあるが、この時間は多分……それすらも不要なはずだった。
歩けば多分、アレが出てくるはずだから……。
俺は大きく息を吸って吐き出して、ゆっくり足を上げて一歩踏み出した。
―――――ポンッ……
廊下につま先が触れると同時に、ピアノの鍵盤を押すような音が響き渡る。
そして俺を囲むように、光の波紋ができる。
波紋はゆっくり広がって大きな輪になり、そのまま壁に染み込むように溶けて消えた。
歩くたびにポンッ、ポポンッと音を出し、波紋は出来ては消えてを繰り返す。
数歩歩いたところで廊下についている照明が全て消え、ほんの一瞬だけ真っ暗になる。
これは、次の展開に繋げるための仕様だ。
ランダムで廊下のどこかがキラリと光り、その光はふわりと浮き上がる。
目の前を飛ぶとわかる。これは1センチにも満たない「蛍」という名の小さな昆虫だ。
蛍は暗い廊下を漂ったあと浮上して天井に張り付き、宝石をちりばめたような輝く星の1つへと変化する。
最初は1つ2つ、そのうち10~20……最終的には数えきれないくらい一度に浮上する蛍の数は増える。
天井が星であふれる頃には、白とグレーの混じった雲のグラフィックが流れ出す。
流れる雲の合間からは、黄金に輝くお月様が気まぐれに顔を出し、、、
日によってまん丸だったり、欠けていたり色々だ。
今日は……細い月。多分、三日月という名の月。
天井の変化に見とれているうちに、周りの景色はいつの間にか夜の草原になっていて、流れる水音と、リリリ……という虫の声も聴こえてくる。
草むらの向こう側には本当に川が流れているような……リアルな音がする。
草をかき分け、つい川を探してみたくなる衝動が沸き上がる。
壁だとわかっているから、やらないけれど……。
(風呂もだけど、この草原も……ほんとすごいな……)
これらは、じーさんばーさんが作った風呂場のシステムを参考に、ABCトリオが作った立体ホログラム映像だ。
来るたびに改造を重ね、全てが造り物だと思えないほどのリアルさを追及している。
3人が帰った後に、今までとの違いを探すのも楽しみの1つだ。
一定時間内に俺がリビングの電気を消して廊下を歩くと、備え付けのモニターに登録されている身体情報に反応して発動するように設定されているらしい。
つまり、俺が寝る直前に見られるようになっているのだ。
今ではもう必要ないが、小さい頃の俺は周りに反抗してなかなか寝ようとしなかった。
だから自ら寝室に行きたくなるように、なるべく睡眠が楽しくなるように、ABCトリオが色々考えて工夫してくれたらしかった。
だいぶ昔……俺がまだ生まれてなくて日常生活に食事をする習慣があった頃、人類は蛍をベースにした曲を聴き、「終わり」を意識しつつ生活したこともあったそうだ。
何十年も聴き続けた人類の遺伝子にはきっとその曲が組み込まれているはずだから、「一日の終わり」を意識してよく眠れるのではないか? という実験もかねているらしい。
俺たちの時代は色々な機械やロボを使って便利にはなったけれど、同時に光や電磁波を感じすぎる脳への影響は多大なものになり、「身体は眠っていても、脳は常に起きている」そんな状態は加速する一方だとか。
―――――だから人間は、あらゆる手段を使って眠ろうとする。
―――――身体を休めるためだけに、ただただ眠ろうとする。
それを「自然の眠り」に誘導する手段として見直されているのが、人類の中に刻まれ続けてきたであろう遺伝子。
沢山の研究者が昔の記録や映像を研究しては、遺伝子に刻まれているかもしれない「何か」を探し続けている。
人類はもう、この便利さを手放すことができないのだから、と……。
―――――でもだからといって、「毒を以て毒を制す」ようなそんな生き方は、一体どこまで続くのだろうか……?
―――――俺たちは、いや、「俺」は……一体いつまで、こんな生き方を……
立ち止まったままボーッとしていたらしき俺は、その場で意識が途切れてバランスを崩しそうになり、ハッと我に返った。
(やっぱ今日の俺、疲れてるな……)
足取り重く寝室に入ると、廊下を彩っていたホログラムは溶けるように消え……
今度は寝室の中に、同じようなホログラムが映し出された。
草むらの真ん中で、虫の声と川の音を聞きながら天井のグラフィックを見上げて眠る。
ちょっと贅沢な光景だ。子供の頃は、本当にわくわくした。
電気をつけるとホログラムは消えるので、俺は何もせずにそのまま歩いてベットに前のめりで倒れこんだ。
ベットに横になるとスイッチが入り、天井に映し出される星座。一定時間ごとにランダムで切り替わる。
小さい頃はこのベットにじーさんばーさんと3人で寝転がって、星座の名前を言い当てるクイズをした。
そうすると俺は、いつの間にか自然に眠ってしまっていたんだ……。
(さっき少し眠ったし、眠れるか心配だったけど、眠れそうだ……)
その夜の俺は、見た夢を全く覚えてないほどぐっすり眠っていたらしい。
翌朝誰かに起こされるまで全く起きなかった。
―――――ん? 「誰か」に「起こされる」……?
―――――でも、ABCトリオはいないはずだぞ……?
ベットにうつぶせになっていたらしき俺がゆっくり目を開けると、目の前には柔らかそうな膨らみ……いや、Eカップがあった。
俺がこのサイズを見間違うものか。これは間違いなくEだ! この神々しい輪郭……。触れるとこの手からあふれてしまう……愛しきEカップ……‼
「…………」
寝起きでぼーっとしながら、俺は思考をまとめていた。
(ああ、そうか。これはモチモチ・ロボか……)
俺は手を伸ばし、モチモチ・ロボ(?)をつかんだ。
柔らかい。ふにふにする。幸せな感触だ……。
(おや……?)
モチモチ・ロボ(?)の全身を輪郭に沿ってなでようとして疑問がわく。
モチモチ・ロボ(?)の横にも、モチモチ・ロボ(?)がいる。
ABCトリオが増やしていったのだろうか……。
そうか! 両手で揉むためか……‼
そのためにEカップを、ダブルでお得なEカップに……‼‼
幸せな気持ちでもう片方の手を伸ばし、両手でダブルEカップに触ろうとすると、、、
(あれ……?)
目的を達成する前に、何かに両手を掴まれた。
(痛い、何か痛いぞ⁉)
そして「コォォォォォ」と音もする。聞き覚えのある音だ。
―――――あ、何か嫌な予感がする……。これ、目を開けちゃイカンやつだ……。
俺は覚ましかけた目をもう一度閉じて「ネテマス」風を装った。
すると両手はすごい勢いで上に引っ張られ、身体がふわっと宙に浮いたと思ったら、ゆっくりと床に着地させられた。
つまり俺は「バンザイ」した状態のまま、ベットの横に立たされているのだ。
反抗的にまだ目は開けてないが、オチがわかる分、開けたくない……。
開・け・た・く・なぃぃぃいいぃいいいぃいぃぃ‼‼
コォォォォ……コォォォォ……
音がどんどん近づいて来て、無臭だが空気っぽいものが顔にかかっているのがわかる。
俺の顔の真ん前に、確実に「何か」がある。否、「いる」……のか⁉
怖い、怖いぃぃぃ……‼
しかしトイレに行きたい気もするので、このまま立たされているのも辛かった。
俺の分身君は何も言わず元気に立っているとはいえ、恐怖でしぼんでしまいそうだった。
(くっ……そろそろ限界だ……‼ 色んな意味で……‼)
覚悟を決め、思い切ってそぉーっと目を開けると……
そこには予想通り、身体はナイスバディなのに何故か腕だけムッキムキの筋肉質になっている金髪美女……
今にも呪われそうな……とても恐ろしい表情のクレアのドアップがあった。
つづく。
頭の後ろで手を組もうとしていた俺の目の前に、突然何かがパッと現れて驚いた。
光り輝くパネルのようなものだった。
大きさは1メートル程度の正方形で、少し眩しく感じる程度の光を放っている。
触れようとして反射的に手を伸ばすと、パネルに溶け込むように指がスッと入って素通りした。つまりこれは……映像ってことだ。
身体を横に倒しながら奥行きを確認すると、紙のように薄っぺらかった。
風呂上がりに俺がこのソファーに座ることを予想してABCトリオが仕掛けていったのだろう。そういやさっきソファーを改造していたな、と思い出した。
何かメッセージでも出てくるのか……? と構えていると、パネルの光はだんだんおさまってゆき、半透明に変化した。
そのまましばらく見ていると、パネルの映像内の左右と下から見覚えのある手とおでこが出て来た。
(ほらな、やっぱり……)
その後は予想通り、映り具合を調整するABCトリオのドアップだった。毛穴も見えそうな近さだ。
狭いパネルの中に3人がバランスよく入ろうと、押し合いへし合い必死になる。
『頭入らないから、もうちょっとそっち~』
『耳がはみ出ちゃうから、こっち~』
『それじゃあ、アゴが切れちゃう~』
何やってんだか……と、無意識に頬が緩む。
ABCトリオの背景はこのリビングだから、俺が風呂の間に作ったのだろう。
『えーと、ぼっちゃんラブ、ぼっちゃんラブ』
『マイクのテスト中、通じてますか?』
『通じてたらニマニマして下さいね』
その恥ずかしいマイクテスト、他では絶対やるなよ……と思いつつ、俺はそっぽを向いた。
何となく照れ臭かったのだ。
『あー、あー、愛してるぼっちゃんー♪』
『うんうん、聴こえてる』
『超特大イイネッ♪』
で、結局こいつらは何がしたいんだ……? と思いつつも、視線を戻してつい聞き入ってしまう自分を認めたくない自分もいたり……。
『では、ぼっちゃん! 帰りますねー☆』
『またいつでもお呼び下さいー☆』
『呼ばなくても勝手に来ますけどっー☆』
(ハイハイ、わかったよ)
ABCトリオが振っている手に、座った目で振り返す。
『今日はしっかり寝て下さいねー!』
『明日から楽しい日々が待ってますよー!』
『ある意味我慢比べですけどねー!』
『『『アデュー♥♥♥』』』
3人が俺に投げキッスすると、パネルは「たーまやー、かーぎやー」という機械的な音声と共に天井の方へのぼっていき、パーンと音を立ててバランスよく四方八方に飛び散って消えた。
ほんの一瞬だけ天井にカラフルな七色の花が咲いたような、とても奇麗な弾け方だった。
「“たまや”と“かぎや”って……」
俺はポカーンとした後、思わずプッと吹き出した。
実物を見たことはないが、昔のドラマやアニメでこんな掛け声を聞いたことがある。
夜の空に大きな音と共に打ち上げ、暗闇の中で大輪の花を咲かせる「花火」。それを見る時に叫ぶ言葉が「たまや」と「かぎや」だったはずだ。
記憶の中ではどちらか片方を叫ぶ人はいたが、両方同時に叫ぶのはあまり聞いたことがない。
それに明るい部屋の天井で映像を弾けさせるという発想も大胆だ。
一歩間違うと部屋の照明に溶けて映えないのに、ちゃんと花火の形に見えていた。明度と彩度を調整してあるのだろう……。
俺の前にいきなり出てきたパネルといい、この花火に見立てた弾け方といい、ABCトリオに聞いてみたいことは山ほどあるが、今日は疲れたからもう寝ることにした。
俺は緩んだ表情を引き締めながら立ち上がり、部屋の電気とエアコンを消してリビングを出た。
今目の前に見えるのは、風呂上がりの時よりも薄暗く感じる静かな廊下。二階の寝室へと続いてる。
ところどころに足元を照らす照明はあるが、この時間は多分……それすらも不要なはずだった。
歩けば多分、アレが出てくるはずだから……。
俺は大きく息を吸って吐き出して、ゆっくり足を上げて一歩踏み出した。
―――――ポンッ……
廊下につま先が触れると同時に、ピアノの鍵盤を押すような音が響き渡る。
そして俺を囲むように、光の波紋ができる。
波紋はゆっくり広がって大きな輪になり、そのまま壁に染み込むように溶けて消えた。
歩くたびにポンッ、ポポンッと音を出し、波紋は出来ては消えてを繰り返す。
数歩歩いたところで廊下についている照明が全て消え、ほんの一瞬だけ真っ暗になる。
これは、次の展開に繋げるための仕様だ。
ランダムで廊下のどこかがキラリと光り、その光はふわりと浮き上がる。
目の前を飛ぶとわかる。これは1センチにも満たない「蛍」という名の小さな昆虫だ。
蛍は暗い廊下を漂ったあと浮上して天井に張り付き、宝石をちりばめたような輝く星の1つへと変化する。
最初は1つ2つ、そのうち10~20……最終的には数えきれないくらい一度に浮上する蛍の数は増える。
天井が星であふれる頃には、白とグレーの混じった雲のグラフィックが流れ出す。
流れる雲の合間からは、黄金に輝くお月様が気まぐれに顔を出し、、、
日によってまん丸だったり、欠けていたり色々だ。
今日は……細い月。多分、三日月という名の月。
天井の変化に見とれているうちに、周りの景色はいつの間にか夜の草原になっていて、流れる水音と、リリリ……という虫の声も聴こえてくる。
草むらの向こう側には本当に川が流れているような……リアルな音がする。
草をかき分け、つい川を探してみたくなる衝動が沸き上がる。
壁だとわかっているから、やらないけれど……。
(風呂もだけど、この草原も……ほんとすごいな……)
これらは、じーさんばーさんが作った風呂場のシステムを参考に、ABCトリオが作った立体ホログラム映像だ。
来るたびに改造を重ね、全てが造り物だと思えないほどのリアルさを追及している。
3人が帰った後に、今までとの違いを探すのも楽しみの1つだ。
一定時間内に俺がリビングの電気を消して廊下を歩くと、備え付けのモニターに登録されている身体情報に反応して発動するように設定されているらしい。
つまり、俺が寝る直前に見られるようになっているのだ。
今ではもう必要ないが、小さい頃の俺は周りに反抗してなかなか寝ようとしなかった。
だから自ら寝室に行きたくなるように、なるべく睡眠が楽しくなるように、ABCトリオが色々考えて工夫してくれたらしかった。
だいぶ昔……俺がまだ生まれてなくて日常生活に食事をする習慣があった頃、人類は蛍をベースにした曲を聴き、「終わり」を意識しつつ生活したこともあったそうだ。
何十年も聴き続けた人類の遺伝子にはきっとその曲が組み込まれているはずだから、「一日の終わり」を意識してよく眠れるのではないか? という実験もかねているらしい。
俺たちの時代は色々な機械やロボを使って便利にはなったけれど、同時に光や電磁波を感じすぎる脳への影響は多大なものになり、「身体は眠っていても、脳は常に起きている」そんな状態は加速する一方だとか。
―――――だから人間は、あらゆる手段を使って眠ろうとする。
―――――身体を休めるためだけに、ただただ眠ろうとする。
それを「自然の眠り」に誘導する手段として見直されているのが、人類の中に刻まれ続けてきたであろう遺伝子。
沢山の研究者が昔の記録や映像を研究しては、遺伝子に刻まれているかもしれない「何か」を探し続けている。
人類はもう、この便利さを手放すことができないのだから、と……。
―――――でもだからといって、「毒を以て毒を制す」ようなそんな生き方は、一体どこまで続くのだろうか……?
―――――俺たちは、いや、「俺」は……一体いつまで、こんな生き方を……
立ち止まったままボーッとしていたらしき俺は、その場で意識が途切れてバランスを崩しそうになり、ハッと我に返った。
(やっぱ今日の俺、疲れてるな……)
足取り重く寝室に入ると、廊下を彩っていたホログラムは溶けるように消え……
今度は寝室の中に、同じようなホログラムが映し出された。
草むらの真ん中で、虫の声と川の音を聞きながら天井のグラフィックを見上げて眠る。
ちょっと贅沢な光景だ。子供の頃は、本当にわくわくした。
電気をつけるとホログラムは消えるので、俺は何もせずにそのまま歩いてベットに前のめりで倒れこんだ。
ベットに横になるとスイッチが入り、天井に映し出される星座。一定時間ごとにランダムで切り替わる。
小さい頃はこのベットにじーさんばーさんと3人で寝転がって、星座の名前を言い当てるクイズをした。
そうすると俺は、いつの間にか自然に眠ってしまっていたんだ……。
(さっき少し眠ったし、眠れるか心配だったけど、眠れそうだ……)
その夜の俺は、見た夢を全く覚えてないほどぐっすり眠っていたらしい。
翌朝誰かに起こされるまで全く起きなかった。
―――――ん? 「誰か」に「起こされる」……?
―――――でも、ABCトリオはいないはずだぞ……?
ベットにうつぶせになっていたらしき俺がゆっくり目を開けると、目の前には柔らかそうな膨らみ……いや、Eカップがあった。
俺がこのサイズを見間違うものか。これは間違いなくEだ! この神々しい輪郭……。触れるとこの手からあふれてしまう……愛しきEカップ……‼
「…………」
寝起きでぼーっとしながら、俺は思考をまとめていた。
(ああ、そうか。これはモチモチ・ロボか……)
俺は手を伸ばし、モチモチ・ロボ(?)をつかんだ。
柔らかい。ふにふにする。幸せな感触だ……。
(おや……?)
モチモチ・ロボ(?)の全身を輪郭に沿ってなでようとして疑問がわく。
モチモチ・ロボ(?)の横にも、モチモチ・ロボ(?)がいる。
ABCトリオが増やしていったのだろうか……。
そうか! 両手で揉むためか……‼
そのためにEカップを、ダブルでお得なEカップに……‼‼
幸せな気持ちでもう片方の手を伸ばし、両手でダブルEカップに触ろうとすると、、、
(あれ……?)
目的を達成する前に、何かに両手を掴まれた。
(痛い、何か痛いぞ⁉)
そして「コォォォォォ」と音もする。聞き覚えのある音だ。
―――――あ、何か嫌な予感がする……。これ、目を開けちゃイカンやつだ……。
俺は覚ましかけた目をもう一度閉じて「ネテマス」風を装った。
すると両手はすごい勢いで上に引っ張られ、身体がふわっと宙に浮いたと思ったら、ゆっくりと床に着地させられた。
つまり俺は「バンザイ」した状態のまま、ベットの横に立たされているのだ。
反抗的にまだ目は開けてないが、オチがわかる分、開けたくない……。
開・け・た・く・なぃぃぃいいぃいいいぃいぃぃ‼‼
コォォォォ……コォォォォ……
音がどんどん近づいて来て、無臭だが空気っぽいものが顔にかかっているのがわかる。
俺の顔の真ん前に、確実に「何か」がある。否、「いる」……のか⁉
怖い、怖いぃぃぃ……‼
しかしトイレに行きたい気もするので、このまま立たされているのも辛かった。
俺の分身君は何も言わず元気に立っているとはいえ、恐怖でしぼんでしまいそうだった。
(くっ……そろそろ限界だ……‼ 色んな意味で……‼)
覚悟を決め、思い切ってそぉーっと目を開けると……
そこには予想通り、身体はナイスバディなのに何故か腕だけムッキムキの筋肉質になっている金髪美女……
今にも呪われそうな……とても恐ろしい表情のクレアのドアップがあった。
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