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第一章
番外編① 間宮くんと漫画本
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これは、二人の出会いより遡ること八年前の出来事ー……
「ただいまっ!じいちゃん!っし。友達ンチ遊び行ってくるー!!」
一瞬玄関の引き戸を開けたまだ幼さの残る少年は、またもや一瞬で引き戸を閉めようとする。しかし、家の中から伸びてきた手が、それを許さなかった。
「ばかたれ!ランドセルくらい降ろせ!」
「痛っ、ゲンコツ反対!!」
「おい、蒼大。宿題は?」
「……っ、帰ってきたらやるからぁ。早く合併号のジャビン読みてぇのー」
「この前もそう言ってやらなかっただろうがっ!」
「いだだだっ!ゲンコツグリグリすんなし!じゃあ友達ンチ持ってくからー!!」
涙目で懇願する少年ー……蒼大に、祖父はしぶしぶゲンコツを降ろした。
「気をつけて行ってこいよ」というお許しの言葉をもらえた彼は、満面の笑みで家を飛び出す。これは近頃、週刊少年誌にハマっている蒼大の週一回のルーティンであった。
♢ ♢ ♢
友達の家に着いた俺は、差し出された漫画本に飛びついた。もう読み終えたという友達からのネタバレを回避しつつ、一ページ一ページ目を輝かせながら捲っていく。
すると、あるページで手が止まった。
「あれ?こんな連載あったっけ?」
その呟きに気がついた友達が、隣から顔を覗かせ言った。
「あぁ。新人賞の読切だって」
「ふぅん」
「あんま面白くなかったよ。絵が綺麗すぎて迫力がさぁ、なんかイマイチっつーか。バトルシーンがさぁ……」
「ちょっ、ネタバレ禁止!俺、今から読むんだから」
ペラペラ喋る友に睨みを効かせて黙らせ、俺もそのページを捲り始める。
それは、ある伝説の殺し屋の話だった。
殺し屋の弟が亡くなり、火葬されるシーンから物語は始まる。そこで、彼は決意した。
殺し屋を、やめようー……と。
しかし、組織はそれを許さない。
読切のためテンポよく話は進んでいき、目まぐるしくバトルが展開していく。
捲る手が、止まらない。
細い線で描かれる美しい絵から、目が離せない。
最後のページまで読み終えた時、俺の胸は熱くなった。
「…………カッケェ」
もう一度、表紙へと戻り絵を眺める。
その右下には、名前が記されていた。
『芦川 悠月』
それは、俺が初めて一目惚れした短い物語だった。
♢ ♢ ♢
俺は、中学生になった。
あれからも友達に毎週漫画を読ませて貰っていたが、『芦川悠月』の新作と出会えることはなかった。
そうして、今日もいつも通りの1日が過ぎてゆく。
そう思っていた俺の隣の席で、女子達が何やらコソコソ話し始めた。
「はい、これ。……の、新刊」
「わ!ありがとー!読みたかったの」
小声だが、その興奮は隠せていない。
彼女達はお互いの鞄を近くに寄せて、そこから何かを取り出した。
それは、一冊の単行本だった。
学校に、こうした漫画を持ってくるのは禁止されている。ドキドキしながら貸し借りする彼女達を横目に、見て見ぬフリをしようとした時だった。
チラリ、とその表紙が手から覗く。
「あっ!」
気づけば、大きな声が出ていた。
それによって、漫画は教師にバレた。
そして、俺はいま放課後の職員室で説教を受けている。何故なら、彼女達よりも先に言ってしまったから。
「それ、俺の漫画です!」と……
俺が貸したことになった漫画を片手に、教師のお説教は止まらない。
結局、反省文を書くということで話は纏まり、職員室から追い出された。
すっかり夕暮れに染まる廊下を、とぼとぼと一人歩く。
しかし、俺は落ち込んでなんていられなかった。だって、手にはあの漫画本があったから。
人気のない階段の踊り場に辿り着くと、俺はその場にしゃがみ込み、我慢できずにページを捲った。
「…………わぁっ!」
やはり、その漫画はあの絵だった。
ドキドキする胸が、抑えられない。
一通り読み終え満足した後、そっと本を閉じて表紙を見る。そこにはー…………
「早川……、悠介?」
それが、やっと再開できた彼の新しい名前だった。
***
「僕の名前はねー……」
木の枝を持った長い指先が、地面に文字を書き出してゆく。
「早川悠介。ぜーんぜん、怪しい人じゃないよ?」
砂糖を煮詰めたような、甘い声。
夕暮れに照らされたミルクティー色の髪が、そよ風に靡く。
彼らの運命が交差するまで、あとー……?
《おしまい》
****
【備考】
・読切短編
『ようこそ!黒猫クリーニング店へ』
エブリスタにて公開中です♪
「ただいまっ!じいちゃん!っし。友達ンチ遊び行ってくるー!!」
一瞬玄関の引き戸を開けたまだ幼さの残る少年は、またもや一瞬で引き戸を閉めようとする。しかし、家の中から伸びてきた手が、それを許さなかった。
「ばかたれ!ランドセルくらい降ろせ!」
「痛っ、ゲンコツ反対!!」
「おい、蒼大。宿題は?」
「……っ、帰ってきたらやるからぁ。早く合併号のジャビン読みてぇのー」
「この前もそう言ってやらなかっただろうがっ!」
「いだだだっ!ゲンコツグリグリすんなし!じゃあ友達ンチ持ってくからー!!」
涙目で懇願する少年ー……蒼大に、祖父はしぶしぶゲンコツを降ろした。
「気をつけて行ってこいよ」というお許しの言葉をもらえた彼は、満面の笑みで家を飛び出す。これは近頃、週刊少年誌にハマっている蒼大の週一回のルーティンであった。
♢ ♢ ♢
友達の家に着いた俺は、差し出された漫画本に飛びついた。もう読み終えたという友達からのネタバレを回避しつつ、一ページ一ページ目を輝かせながら捲っていく。
すると、あるページで手が止まった。
「あれ?こんな連載あったっけ?」
その呟きに気がついた友達が、隣から顔を覗かせ言った。
「あぁ。新人賞の読切だって」
「ふぅん」
「あんま面白くなかったよ。絵が綺麗すぎて迫力がさぁ、なんかイマイチっつーか。バトルシーンがさぁ……」
「ちょっ、ネタバレ禁止!俺、今から読むんだから」
ペラペラ喋る友に睨みを効かせて黙らせ、俺もそのページを捲り始める。
それは、ある伝説の殺し屋の話だった。
殺し屋の弟が亡くなり、火葬されるシーンから物語は始まる。そこで、彼は決意した。
殺し屋を、やめようー……と。
しかし、組織はそれを許さない。
読切のためテンポよく話は進んでいき、目まぐるしくバトルが展開していく。
捲る手が、止まらない。
細い線で描かれる美しい絵から、目が離せない。
最後のページまで読み終えた時、俺の胸は熱くなった。
「…………カッケェ」
もう一度、表紙へと戻り絵を眺める。
その右下には、名前が記されていた。
『芦川 悠月』
それは、俺が初めて一目惚れした短い物語だった。
♢ ♢ ♢
俺は、中学生になった。
あれからも友達に毎週漫画を読ませて貰っていたが、『芦川悠月』の新作と出会えることはなかった。
そうして、今日もいつも通りの1日が過ぎてゆく。
そう思っていた俺の隣の席で、女子達が何やらコソコソ話し始めた。
「はい、これ。……の、新刊」
「わ!ありがとー!読みたかったの」
小声だが、その興奮は隠せていない。
彼女達はお互いの鞄を近くに寄せて、そこから何かを取り出した。
それは、一冊の単行本だった。
学校に、こうした漫画を持ってくるのは禁止されている。ドキドキしながら貸し借りする彼女達を横目に、見て見ぬフリをしようとした時だった。
チラリ、とその表紙が手から覗く。
「あっ!」
気づけば、大きな声が出ていた。
それによって、漫画は教師にバレた。
そして、俺はいま放課後の職員室で説教を受けている。何故なら、彼女達よりも先に言ってしまったから。
「それ、俺の漫画です!」と……
俺が貸したことになった漫画を片手に、教師のお説教は止まらない。
結局、反省文を書くということで話は纏まり、職員室から追い出された。
すっかり夕暮れに染まる廊下を、とぼとぼと一人歩く。
しかし、俺は落ち込んでなんていられなかった。だって、手にはあの漫画本があったから。
人気のない階段の踊り場に辿り着くと、俺はその場にしゃがみ込み、我慢できずにページを捲った。
「…………わぁっ!」
やはり、その漫画はあの絵だった。
ドキドキする胸が、抑えられない。
一通り読み終え満足した後、そっと本を閉じて表紙を見る。そこにはー…………
「早川……、悠介?」
それが、やっと再開できた彼の新しい名前だった。
***
「僕の名前はねー……」
木の枝を持った長い指先が、地面に文字を書き出してゆく。
「早川悠介。ぜーんぜん、怪しい人じゃないよ?」
砂糖を煮詰めたような、甘い声。
夕暮れに照らされたミルクティー色の髪が、そよ風に靡く。
彼らの運命が交差するまで、あとー……?
《おしまい》
****
【備考】
・読切短編
『ようこそ!黒猫クリーニング店へ』
エブリスタにて公開中です♪
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