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第二章
14. 助言
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「…………なにしてんだかなぁ」
見上げた空は晴天だった。
一日の授業が全て終わった午後。
図書館の裏側にある穴場の自販機の前に座り込み、溜息が一つ零れる。
結局、何も聞けないまま、今朝はすっかりいつもの日常へと戻った。
朝起きて、二人分朝食を作り、一緒に食べて、彼に玄関まで見送られる。
当たり前になりつつある平和な日常。
なのに、そんな平和が積み重なれば積み重なる程に膨らむ、この胸の痛みは何だろう?
ぼんやりと空を見上げていれば、青い視界が突然陰った。
「どうした?」
黒い瞳が、俺を捉える。
「…………祥吾」
座り込んだままヘラリと笑うと、祥吾は何も言わずに自販機に小銭を入れてボタンを押す。何気なくその動きを目で追っていれば、出てきたペットボトルを頬に押しつけられた。
「わっ! 冷たっ!」
思わず悲鳴じみた声があがる。
それは、スポーツドリンクだった。
「蒼大、飲め。少し顔が赤い」
「え、いいの? さんきゅ!」
「何でここにいるんだ?」
「ここが穴場だって教えてくれたの祥吾じゃん」
「だからって、こんなに暑い日にこんなとこにいたら熱中症になるぞ」
「ははっ、確かに。でも、一人になりたくてさ。何となく帰りたくなかったし……」
そう呟いてから、面倒なことを言ってる自分に気がづいて後悔する。
しかし、祥吾は静かに言った。
「……ここが日陰なのは午前中だ。次、また来るならそうしろ」
ぶっきらぼうな優しさが、胸にじんわりと広がる。
「おう!……へへっ」
今度こそ、俺は素直に笑えた。
「祥吾は図書館で何してたの?」
「来週の期末試験に備えて勉強してた」
「うわっ、やべぇ。俺もしねぇと」
「明日は一緒に勉強するか」
「おー! するする!」
帰り道、自転車を押す祥吾の隣を歩きながら、たわいもない話をする。
何となく帰るのを渋っていた俺だったが、祥吾と一緒だったおかげで足取りは随分軽かった。
しかし、マンションの近くまで来た時、祥吾が立ち止まった。
「そういえば、蒼大」
「ん、なにー?」
「……作戦は、順調か?」
その質問に、押し黙る。
すると、祥吾がリュックから一枚のチラシを取り出した。
「これ、やる」
俺は、受け取ったチラシを読み上げた。
「花火大会?」
「大学近くの河川敷で毎年やってるらしい。出店もでるそうだ」
「出店!?俺、祭りの焼きそば好きっ!」
「ああ。だからーー……」
祥吾は俯いて少し迷うように言い淀んでから、顔を上げた。
「作戦に使え……、と。友達に伝えてくれ」
思いがけない提案に、驚く。
祥吾の瞳は真っ直ぐに俺に向いていた。
「暁人はセフレだの何だの言っていたが。その友達にとって、大切な相手には代わりないんだろう?」
「……うん」
「なら、早く作戦とやらを遂行して、向こうの言葉を待たずとも素直に胸の内を明かせばいい。大切な相手なら、遠慮なんてするな。大切な相手とは、対等であるべきだ」
その言葉に何も言えずにいると、わしゃわしゃと髪を撫でられた。
早川とはまた違う無骨な手が、心地いい。
それじゃあここで……と、自転車に跨り去ってゆく後ろ姿にありったけの声をかけた。
「ありがとう! 祥吾!」
振り返らずに、片手が上がる。
そんな仕草が祥吾らしくて、俺はその背中にいっぱい手を振った。
すっかり、ご機嫌で家を飛び出した俺は、コンシェルジュさんに挨拶しながら閃いた。
「その五! イベントに参加しよう……だ!」
目を丸くしたお姉さんに「ただいまっす!」と挨拶する。お姉さんもなぜか応援してくれたから、俄然やる気がでる。
俺は、決心した。
この花火大会に早川を誘おう。
そしてーー……、
この日、早川の気持ちを確かめるんだ。
見上げた空は晴天だった。
一日の授業が全て終わった午後。
図書館の裏側にある穴場の自販機の前に座り込み、溜息が一つ零れる。
結局、何も聞けないまま、今朝はすっかりいつもの日常へと戻った。
朝起きて、二人分朝食を作り、一緒に食べて、彼に玄関まで見送られる。
当たり前になりつつある平和な日常。
なのに、そんな平和が積み重なれば積み重なる程に膨らむ、この胸の痛みは何だろう?
ぼんやりと空を見上げていれば、青い視界が突然陰った。
「どうした?」
黒い瞳が、俺を捉える。
「…………祥吾」
座り込んだままヘラリと笑うと、祥吾は何も言わずに自販機に小銭を入れてボタンを押す。何気なくその動きを目で追っていれば、出てきたペットボトルを頬に押しつけられた。
「わっ! 冷たっ!」
思わず悲鳴じみた声があがる。
それは、スポーツドリンクだった。
「蒼大、飲め。少し顔が赤い」
「え、いいの? さんきゅ!」
「何でここにいるんだ?」
「ここが穴場だって教えてくれたの祥吾じゃん」
「だからって、こんなに暑い日にこんなとこにいたら熱中症になるぞ」
「ははっ、確かに。でも、一人になりたくてさ。何となく帰りたくなかったし……」
そう呟いてから、面倒なことを言ってる自分に気がづいて後悔する。
しかし、祥吾は静かに言った。
「……ここが日陰なのは午前中だ。次、また来るならそうしろ」
ぶっきらぼうな優しさが、胸にじんわりと広がる。
「おう!……へへっ」
今度こそ、俺は素直に笑えた。
「祥吾は図書館で何してたの?」
「来週の期末試験に備えて勉強してた」
「うわっ、やべぇ。俺もしねぇと」
「明日は一緒に勉強するか」
「おー! するする!」
帰り道、自転車を押す祥吾の隣を歩きながら、たわいもない話をする。
何となく帰るのを渋っていた俺だったが、祥吾と一緒だったおかげで足取りは随分軽かった。
しかし、マンションの近くまで来た時、祥吾が立ち止まった。
「そういえば、蒼大」
「ん、なにー?」
「……作戦は、順調か?」
その質問に、押し黙る。
すると、祥吾がリュックから一枚のチラシを取り出した。
「これ、やる」
俺は、受け取ったチラシを読み上げた。
「花火大会?」
「大学近くの河川敷で毎年やってるらしい。出店もでるそうだ」
「出店!?俺、祭りの焼きそば好きっ!」
「ああ。だからーー……」
祥吾は俯いて少し迷うように言い淀んでから、顔を上げた。
「作戦に使え……、と。友達に伝えてくれ」
思いがけない提案に、驚く。
祥吾の瞳は真っ直ぐに俺に向いていた。
「暁人はセフレだの何だの言っていたが。その友達にとって、大切な相手には代わりないんだろう?」
「……うん」
「なら、早く作戦とやらを遂行して、向こうの言葉を待たずとも素直に胸の内を明かせばいい。大切な相手なら、遠慮なんてするな。大切な相手とは、対等であるべきだ」
その言葉に何も言えずにいると、わしゃわしゃと髪を撫でられた。
早川とはまた違う無骨な手が、心地いい。
それじゃあここで……と、自転車に跨り去ってゆく後ろ姿にありったけの声をかけた。
「ありがとう! 祥吾!」
振り返らずに、片手が上がる。
そんな仕草が祥吾らしくて、俺はその背中にいっぱい手を振った。
すっかり、ご機嫌で家を飛び出した俺は、コンシェルジュさんに挨拶しながら閃いた。
「その五! イベントに参加しよう……だ!」
目を丸くしたお姉さんに「ただいまっす!」と挨拶する。お姉さんもなぜか応援してくれたから、俄然やる気がでる。
俺は、決心した。
この花火大会に早川を誘おう。
そしてーー……、
この日、早川の気持ちを確かめるんだ。
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