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二葉の過去2
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「知られたくないのなら……どうして、僕に教えてくれるの」
「何でだろ。同じオメガ……だからかなぁ」
笑みを浮かべてはいるけれど、どこか寂しそうな表情の二葉は、1つ1つを丁寧に思い起こしながら、立花に語り始める。
「高校生のときに付き合っていた彼に、番になろうと言われたんです。本気だったのか、ヒート中で咄嗟に口から出たのか。今となっては分かりませんけど」
ぽつり、ぽつりと言葉を垂らしていく。立花はどういう表情をしていいのかも分からずに、二葉の放った言葉の意味を咀嚼する。
「大事にすると言ってくれました。でも僕が迂闊だったので、すぐに両親に気付かれました。僕の家は、そこそこ大きくて。もちろんお互いに合意だったと説明はしたけど、彼を加害者にして訴えて……相手が男だったっていうのも、ショックだったようです」
第2の性が生まれたことにより、個々のステータスは多様化した。立花や二葉の親にあたる世代は、同性同士のパートナーシップには否定的な考えを持っているほうが多数だ。ニュースなどでは結ばれたアルファとオメガは、運命というきらきらした言葉を使って美談のように語られ、世間の同情を誘うが、所詮は他人事で身内となればまた話が違ってくる。
「最初のうちは彼も、僕の両親を説得してくれました。……でも、何も変わらなくて疲れちゃって。病んでしまって。って、何で立花さんが泣くんですか」
「だって……いつも元気で明るいのに、そんな辛いこと隠してるって、思わなかった」
──知らなかった、なんて無責任に言えない。
事情を知らずに、涼風のことを相談していた。それでも、二葉は奥手な立花の背中を、いつだって笑って押してくれて。恨まれたって、二葉を責められない。
「ごめんなさい。せっかく幸せな気分だったのに、暗い話をして。恋してる立花さんを見たら、もう1度そんなふうに戻ってみたくなりました」
番のアルファとは、月に1度のペースで会っているのだという。
「……二葉君。実は僕も……」
全てを話してくれた二葉に不公平だと感じ、立花も自身の過去を言おうとした。けれど、二葉が重ねるようにして、言葉を続ける。
「僕は初めて他の人に言えてすっきりしました。……立花さんのは、きっと、言ったら立花さんのほうが辛くなる……そんな気がするので。無理に話さなくてもいいですよ」
ぎゅう、と泣いている立花を、二葉は抱き締めてくれた。年下に甘えているみっともない立花を、二葉は胸で優しく抱き留めてくれている。
「たくさん泣いたら、目が腫れますよ。涼風さんに怒られるのは嫌なので、そろそろ泣き止んでください。……僕のために泣いてくれて、ありがとうございました」
ぱしぱしと立花の左右の頬を叩いて、二葉も涙を流しながら笑った。相変わらず芯が強く、年上に物怖じしない爛漫な子だな、と感心する。ところでどうして、二葉が涼風に怒られるのだろう。ふと気付いた疑問を口にしようとしたところで、女性の高い声が立花達のいる事務室まで届いてきた。
「ど、どうしたんだろう……行かなきゃ」
──不審者……じゃないよね?
以前、立花と二葉が2人きりのときに、柄の悪い男に絡まれたので、警戒する。袖で濡れた目を拭き取ると、二葉を連れて表へ向かった。
「別に大丈夫だとは思いますけど……」
そうぼやく二葉の予想のほうが正しいだなんて、焦る立花には到底思えなかった。カウンターの外に出て、1人の男性を囲んでいる輪が目に入り、立花は驚きで目をぱちくりとさせた。
「あっ! 今呼ぼうとしてたのよー。ほらほら、恋人さんがご挨拶にって」
確かに「俺もお世話になっていたから、ご挨拶したほうがいいかな」と相談を持ちかけられたけれど、とても忙しそうだったから、立花だけでいいと断っていたのに……。
「何でだろ。同じオメガ……だからかなぁ」
笑みを浮かべてはいるけれど、どこか寂しそうな表情の二葉は、1つ1つを丁寧に思い起こしながら、立花に語り始める。
「高校生のときに付き合っていた彼に、番になろうと言われたんです。本気だったのか、ヒート中で咄嗟に口から出たのか。今となっては分かりませんけど」
ぽつり、ぽつりと言葉を垂らしていく。立花はどういう表情をしていいのかも分からずに、二葉の放った言葉の意味を咀嚼する。
「大事にすると言ってくれました。でも僕が迂闊だったので、すぐに両親に気付かれました。僕の家は、そこそこ大きくて。もちろんお互いに合意だったと説明はしたけど、彼を加害者にして訴えて……相手が男だったっていうのも、ショックだったようです」
第2の性が生まれたことにより、個々のステータスは多様化した。立花や二葉の親にあたる世代は、同性同士のパートナーシップには否定的な考えを持っているほうが多数だ。ニュースなどでは結ばれたアルファとオメガは、運命というきらきらした言葉を使って美談のように語られ、世間の同情を誘うが、所詮は他人事で身内となればまた話が違ってくる。
「最初のうちは彼も、僕の両親を説得してくれました。……でも、何も変わらなくて疲れちゃって。病んでしまって。って、何で立花さんが泣くんですか」
「だって……いつも元気で明るいのに、そんな辛いこと隠してるって、思わなかった」
──知らなかった、なんて無責任に言えない。
事情を知らずに、涼風のことを相談していた。それでも、二葉は奥手な立花の背中を、いつだって笑って押してくれて。恨まれたって、二葉を責められない。
「ごめんなさい。せっかく幸せな気分だったのに、暗い話をして。恋してる立花さんを見たら、もう1度そんなふうに戻ってみたくなりました」
番のアルファとは、月に1度のペースで会っているのだという。
「……二葉君。実は僕も……」
全てを話してくれた二葉に不公平だと感じ、立花も自身の過去を言おうとした。けれど、二葉が重ねるようにして、言葉を続ける。
「僕は初めて他の人に言えてすっきりしました。……立花さんのは、きっと、言ったら立花さんのほうが辛くなる……そんな気がするので。無理に話さなくてもいいですよ」
ぎゅう、と泣いている立花を、二葉は抱き締めてくれた。年下に甘えているみっともない立花を、二葉は胸で優しく抱き留めてくれている。
「たくさん泣いたら、目が腫れますよ。涼風さんに怒られるのは嫌なので、そろそろ泣き止んでください。……僕のために泣いてくれて、ありがとうございました」
ぱしぱしと立花の左右の頬を叩いて、二葉も涙を流しながら笑った。相変わらず芯が強く、年上に物怖じしない爛漫な子だな、と感心する。ところでどうして、二葉が涼風に怒られるのだろう。ふと気付いた疑問を口にしようとしたところで、女性の高い声が立花達のいる事務室まで届いてきた。
「ど、どうしたんだろう……行かなきゃ」
──不審者……じゃないよね?
以前、立花と二葉が2人きりのときに、柄の悪い男に絡まれたので、警戒する。袖で濡れた目を拭き取ると、二葉を連れて表へ向かった。
「別に大丈夫だとは思いますけど……」
そうぼやく二葉の予想のほうが正しいだなんて、焦る立花には到底思えなかった。カウンターの外に出て、1人の男性を囲んでいる輪が目に入り、立花は驚きで目をぱちくりとさせた。
「あっ! 今呼ぼうとしてたのよー。ほらほら、恋人さんがご挨拶にって」
確かに「俺もお世話になっていたから、ご挨拶したほうがいいかな」と相談を持ちかけられたけれど、とても忙しそうだったから、立花だけでいいと断っていたのに……。
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