溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル

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【2章】ユキと斗和

プロポーズ1

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「ユキねぇ、あるふぁだったんだよ! あるふぁって……何だっけ?」

自分で言った言葉を、エレナと樹に質問している。レグルシュにそっくりな顔で、こてんと首を傾げる姿は小学生になっても愛らしいままだ。

小学校になると誰しもが第二性の判定を受けるのだが、千歳には苦い思い出しかなかった。アルファとオメガの両親の下へ産まれた千歳の第二性はオメガで、父母だけでなく親戚中にも失望された。

自分がアルファだったら──嬉しそうに第二性の判定結果を話すアルファの同級生を眺めて、千歳は悔しくて血が滲むくらいに唇を噛んだ。

「ちーもアルファなの?」

千歳は笑って答える。

「ううん。僕はオメガなんだ」
「えーっ!? じゃあユキもオメガがよかったなぁ」

そんなことを言われたのは初めてで、千歳はつい吹き出してしまった。

「アルファだとレグと同じだね」

千歳はがっかりしているユキにそう声をかけたが、さらに落ち込むだけだった。溜め息までつく甥を、レグルシュは鼻で笑う。

「姉貴にそっくりだからな、お前は」
「それってもちろん褒めているのよね? レグ?」
「当たり前だろう」

レグルシュがニヒルな笑いを浮かべた。エレナは意趣返しとばかりに、ユキの汚れた口元をナプキンで拭いながら、項垂れている我が子を励ました。

「ママがアルファで、パパがオメガで番になったのよ。ユキと千歳くんは?」
「ユキがアルファで、ちーがオメガ……!?」
「そういうこと」

エレナはウインクをして肯定した。大きなペリドット色の瞳が、いっそう輝きを増したような気がした。

「ユキとちーはちゅがい!」

「番」という発音が難しいのか、「ちゅがい」という発音になっている。きゃっきゃっとご機嫌なユキとは裏腹に、千歳の横に座る男の瞳は翳りを帯びていた。

「番になるのは俺だ」

日に日にそっくりな顔立ちに近付いている二人は、千歳を挟んで互いに睨み合うのだった。


……────。


楽しい時間はあっという間だった。外はいつの間にか日が暮れていて、一気に涼しくなった。斗和を抱いた千歳は、ユキの家族を玄関先まで見送りに出る。

騒がしくしていたので、斗和がぐずってしまうのかと思いきや、最後まで眠っていた。樹はユキを抱えると、斗和の近くに引き合わせた。

「斗和バイバイ!」
「ふふ、斗和と仲良くしてくれてありがとう。あのね、ユキくんがよければ、斗和のお兄ちゃんになってあげてくれる?」

ユキは満面の笑みで頷く。ユキの伸ばした手を、夢の中にいる斗和が無意識にぎゅっと握った。

「……それと、千歳が世話になったな。その、感謝している」

ユキを抱いている樹に向けて、レグルシュは手短に告げた。千歳もできるだけ頭を下げる。

「い、いえいえ! 大したことではありませんから。頭を上げてください」

予定日の一週間前、レグルシュが仕事へ出かけた後、身体を動かそうと掃除をしていたら、微弱な陣痛を感じた。レグルシュに連絡を取ろうとしたが運悪く、その日は出張で電話を取れなかった。

千歳は藁にも縋る思いで、エレナと樹を頼ったのだ。ユキの登校を見送った直後で、タイミングよく家にいた樹と連絡が繋がり、病院まで車で連れて行ってもらった。樹は千歳と斗和の命の恩人だ。

「一週間も早く産まれてくるなんて、せっかちさんだね。レグに早く会いたかったのかな」
「そうかもしれないな」

レグルシュは幸せな顔をして、千歳の言葉に頷く。

薄闇に淡く星が輝く頃、ユキと両親は帰宅した。すこし経つと斗和が家の中でぐずり始めたので、早めにミルクを与え、千歳達も温かいお茶を淹れて一息つく。

「ユキがいなくなるとやっぱり静かになるな」
「久しぶりにユキくんに会えて楽しかったですね。従兄弟だから、斗和もきっと数年後にはユキくんみたいになるのかな」

レグルシュは緩く首を振る。

「怖い話はやめてくれ」
「怖い話なんてしないよ」

悪戯っぽいキスを仕掛けられ、甘えるような仕草を千歳は唇で受け止める。唇を割って入ってくる舌に、思わず身震いがした。レグルシュの手がシャツの内側へと潜り込み、千歳は腰を引く。

行為を求められたのは一年前の発情期以来だ。オメガの項に噛みつこうと……それでも、ギリギリの理性の内側で苦悶するレグルシュの表情が、ずっと脳裏に焼きついている。

震えを感じ取ったのか、レグルシュのほうから身体を離した。

「……悪い。怖がらせたな」
「す、すみません」

レグルシュは冷めたお茶を淹れ直すために立ち上がった。視線をどこに持っていけばよいのか分からず、千歳は自分の爪先を見つめていた。

「情けない話だが、嫉妬したんだ」
「え……?」

千歳と距離を空けてソファへ座ると、レグルシュは切り出した。

「お前が他のアルファに笑いかける度にそうしないでくれと思ってしまう。姉貴やユキに対しても」
「ご、ごめんなさい」
「千歳が謝ることじゃない。自分の狭量さに呆れているんだ。俺よりも千歳のことを理解して思いやることのできるアルファは、きっといる」
「れ、レグ……?」

レグルシュの他にもっとふさわしい相手がいる──そんなふうに言われて、千歳の胸は軋むみたいに痛んだ。不安げに瞳を揺らす千歳の前に、片手に乗るほどの大きさのケースを取り出した。ツイード生地に包まれたケースの中には、輝くリングがあった。

はっとして、レグルシュのほうを見ると、今まで見たこともないくらいに、白い肌を赤く染めている。
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