溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル

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【4章】はじめての幼稚園

初登園日2

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信号待ちをしていると、タイミングよく千歳のスマホに着信が入る。スピーカーフォンに切り替えて、千歳は応答した。向こうではふっと笑う声が聞こえる。

「泣いていたらどうしようかと思ったが……随分機嫌がいいな」
「でしょう?」
「ああ。さすがママだな」

からかいの言葉に、千歳は「もう」と明るい溜め息をついた。レグルシュの声が車内に響き、斗和は「パパー!」と元気な声で呼びかける。

「ぱぱぁ」
「斗和。ちゃんといい子にしているな?」
「うんっ。パパもようえんち来たらいいのに」
「パパはお仕事があるからな」

レグルシュは千歳よりもずっと心配していたようなので、斗和の元気な様子が伝わってよかった。

「パパにお仕事頑張って、って言ってあげて」

斗和は頷くと、「パパお仕事がんばってー!」と大きな声で叫んだ。ビデオ通話が繋がっているスマホは斗和が持っているので、レグルシュの素顔は確認できないが、息子のエールを聞いてにやにやしているに違いない。

レグルシュはまだ少し斗和と話したそうに引き止めていたが、マイペースな息子は「バイバイ!」と言うと通話を切ってしまった。

三十分弱、車を走らせると、千歳達はきらぼし幼稚園へ着いた。

「とうちゃくー!」

斗和は大きな木造の建物を見上げて、キラキラと目を輝かせている。千歳達親子以外にも、手を繋いだ二人組がぞろぞろと門のほうへ集まってきている。仲の良さそうなグループもいくつかできていた。

「おはようございます」

千歳は近くにいた母親に、挨拶をする。少し間が空いた後、「おはようございます」と義理的な挨拶が返ってきた。男親で子供は千歳とそっくりとは言えない、髪も瞳の色も一致しない息子だ。

「おはようございます!」

斗和も千歳の真似をして元気よく挨拶をするが、さっと母親の後ろに隠れてしまう。不思議そうに首を傾げる斗和の手を引いて、千歳は建物の中へ入る。

「何でおはようございますって言ってくれなかったの?」

斗和の問いかけに、千歳はぎくりとする。

「もしかしたら、聞こえなかったのかもしれないね」
「そうなのかなぁ?」

ここへ来るまでの間、千歳と同じ男親のオメガはいなかった。同性のアルファとオメガが結ばれるのはごく僅か、運命と呼ばれる番はさらに少ない。

園児や園児の母親達は、あからさまに千歳達には関わりたくないというような空気を出していた。

斗和の年少児クラスは「もも組」だ。教室に入ると、千歳よりも若い女性の先生が出迎えてくれた。

教室の中にはところどころすでに仲良しのグループができているが、ほとんどは一人で散らばっている。所在なさげに先生のエプロンを掴んでいる園児が、じっと千歳と斗和のほうを見る。

「初めまして。周防 千歳です。本日からよろしくお願いします」

ほら、と千歳は斗和に挨拶をするよう促す。

「すおう とわです! 男の子で三歳です!」

元気に自己紹介をする斗和に、先生はにこにこと笑い、挨拶を褒めてくれた。千歳が一歩下がると、斗和の周りに園児達が集まってくる。それぞれ名前を教え合っているようだ。

「斗和くんよろしくねー」
「斗和くんは、外国の人なのー? おめめと髪がキレイねー!」

斗和は照れくさそうに顔をくしゃっとさせている。

──よかった……。

「まぁーま」
「お昼を過ぎたらまた迎えに来るね」
「えっ!? ママも幼稚園じゃないの!?」

斗和は慌てた様子で、千歳に駆け寄ってきた。帰るのを阻止するように、斗和は千歳の足へしがみつく。若いオリーブ色の瞳には、涙の膜が張っていた。

「ままぁー!」
「お友達とたくさん遊んでおいで。ママはちゃんと迎えに来るから大丈夫だよ」

斗和は千歳の足に濡れた頬を擦りつけた。どうしたものかと千歳が迷っていると、後ろから「斗和くん」と呼びかける声がした。

「斗和くんいっしょに遊ぼ!」
「ご飯もみんなで食べるんだよー」

口々にそう言われて、斗和はどれに返事をしようかそわそわしている。園児達の輪に混ざることのできた斗和を見届けてから、千歳は「またね」と斗和に声をかけた。

「ママ。ばいばい!」

屈託のない笑顔で斗和は叫んだ。ほんの少しの間だが、親と離れるのが平気になった斗和を見て、千歳はつい涙ぐみそうになってしまった。

帰宅してからも、頭の中は幼稚園にいる斗和のことでいっぱいだった。最後は平気そうな顔をしていたが、上手く友達とコミュニケーションを取れているだろうか。

友達と何かトラブルを起こしていないだろうか。今のところ園から千歳のスマホへ連絡はないため、問題ないと思うが。

家にいても少しも休まらず、家事も中途半端なままだ。結局千歳は予定よりも一時間も早く家を出て、幼稚園近くのカフェで待機することにした。久しぶりにコーヒーを飲もうとしたが、念のため、カフェインレスのものを頼んだ。
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