溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル

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【4章】はじめての幼稚園

初登園日3

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番になった日から、発情期でなくとも千歳とレグルシュは身体を重ねている。千歳は何度か産後の検診でバース科へと足を運び、フェロモン量や妊娠の可能性を調べてもらっていた。

項に点在するオメガのフェロモン腺は、アルファの牙で断ち切られ、千歳とレグルシュは公的な書類で番だと認められている。

体内のフェロモン量が番になることにより一時的に落ち込むことで、妊娠の可能性が低くなることもあると、先生は言っていた。

千歳と同じように、レグルシュも「そろそろ」とは思っているはずだ。レグルシュは優しいから、プレッシャーをかけるような言葉を言わないだけで。

──赤ちゃんがいると言ったとき……レグはすごく嬉しそうにしていた。

レグルシュも千歳も子供を望んでいる。レグルシュの希望を叶えてあげたいと思っているのだが、気持ちが逸るばかりで何もできていない。

迎えの時間が迫り、千歳はテイクアウトのジンジャーティーを別で頼み、きらぼし幼稚園へ車を走らせた。子の迎えで人混みの中、千歳は斗和のいる教室へ向かう。ちょうどピアノの音色に合わせて、さようならの会をしているところだった。

「ままぁー!」
「おかえり。斗和。幼稚園楽しかった?」
「うんっ!」

斗和は満面の笑みで頷いた。千歳と会えて安心した表情と、幼稚園の友達とお別れする寂しさが混ざったような表情をしている。斗和は皆に向かって大きく手を振っている。

「明日も遊ぼうね!」や「斗和くんバイバイ!」と見送られ、千歳達は駐車場までの道のりをゆっくり歩いた。斗和は息づかせながら、幼稚園であったことを千歳に聞かせてくれる。

斗和と同じく、今日が幼稚園デビューの子がいて、泣き出してしまう子を皆で慰めていたという。他にも、カードを使った遊びやお昼ご飯に食べたものを、千歳に自慢気に話す。思いついた順番で話すので、時系列がめちゃくちゃだけれど、楽しかったのは十分に伝わってくる。

「パパにもお話してあげてね」
「うん! パパも幼稚園来たらいいのにね」

そう言いながら歩いていると、急に走ってきた女の子と斗和がぶつかってしまった。

「斗和っ? 大丈夫!?」

手を繋いでいた千歳にも、その衝撃が伝わる。斗和と同じくらいの背丈だったので、多分同じ年少組だろう。斗和は尻もちをついただけで、すぐに起き上がった。

「だいじょうぶ!」
「よかった……あの、ぶつかっちゃってごめんね。怪我はしてないかな?」

千歳はなるべく叱るときのような口調にならないよう、気を付けながら言った。

「ぶつかってごめんね。綾乃あやのちゃん」

お尻を叩いた後の手を差し出して、斗和は女の子の名前を呼ぶ。「お友達なの?」と聞こうとしたところ、斗和が発した名前を呼ぶ男の声がした。

──あ……。

ネイビーブルーのスーツを着た男性が、綾乃ちゃんと呼ばれた女の子に駆け寄ってきた。名前を呼び慣れている様子から、二人は親子であろうことが窺えた。

「すみません。うちの綾乃が」
「いえ! こちらこそすみませんでした」

俯いていた綾乃は、父親の後ろにさっと隠れた。ビジネスバッグを傍らに抱えた男は、レグルシュと同じか少し低いくらいの背丈だ。体格のよさ、そして何よりも自信に満ち溢れた表情を見れば、アルファだと誰しもが思うだろう。男もまた、千歳のほうをじっと見つめている。

「あの……?」
「ああ、すみません。周りが女性の母親ばかりで気後れしていたもので。えっと」
「そ、そうですよね。あ、僕は周防 千歳と言います」

気後れという言葉が、随分なお世辞に聞こえる。

「周防 斗和です! 三歳です!」
的場まとば 光成みつなりと申します。斗和くんも元気な自己紹介ありがとう。うちの子……綾乃は少し緊張しているようでして。いつもは活発な子なのですが」

千歳は少し屈んで、父親の後ろにいる綾乃に「よろしくね」と挨拶をした。綾乃は小さな頭をわずかに下げる。

「的場さんはお仕事の帰りですか?」
「ええ。エンジニアでいつもは在宅ワークが多いのですが、今日は出社する用事があったもので。周防さんもお仕事を?」
「あ、いえ。今は仕事はしていなくて……」

正確にはレグルシュの経営する会社で雇われているが、実働時間は月に二桁もいかない。月末締めの作業や、担当の税理士に提出する書類を整理するくらいだ。新たに事務員を雇うほどの仕事量ではないので、仕事は引き続き千歳が請け負っている。

「え? 周防さんは専業主夫なんですか?」
「はい……そうですけれど」

何故か的場は驚いている。きらぼし幼稚園は私立幼稚園の中でも設備はしっかりしているし、学費は平均よりは高めである。

子供を通わせているのは中流家庭以上が多く、片方が専業でも珍しくない。むしろ、そちらのほうが多いのではないだろうか。

信じられないような声で聞き返されて、何となく訝しげに思った。

的場は社交的な笑みを貼りつけて「専業主夫」と唱えた。
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