17 / 42
【4章】はじめての幼稚園
二人だけの時間1
しおりを挟む
朝仕事に行く前と帰宅したときに、キスをするのは周防家の習慣だ。千歳も呼ばれて、いつものように頬を差し出した、が。
「んっ……」
唇に温かいものが触れて、千歳は目を見開く。ペリドットの瞳が、愉快そうに形を変えている。唇にキスをするのは斗和が起きていないときだけだったのに……。不意打ちのキスに、千歳は頬を赤らめた。
「もう、レグ」
そっぽを向く千歳の頬を追いかけるように、指の背で撫でられた。
「今朝、忘れた分を込めたんだ」
「レグが忘れたんでしょう……?」
「千歳だって。言ってくれればよかった」
レグルシュはそれ以上の言い合いは不毛だとばかりに、キッチンのほうへ逃げた。今夜は初登園の記念日に、レグルシュが手料理を振る舞ってくれるのだ。
「ママとパパはラブラブ!」
「どこで覚えたの。そんな言葉」
入浴の準備をしている千歳に、斗和は従兄弟の名前を呼んだのだった。
……────。
三十分ほどで入浴を済ませると、テーブルの上は料理の皿でいっぱいになっていた。斗和の大好物である山盛りのフライドチキンに、たくさんのチーズとベーコンの乗ったシーザーサラダ。レグルシュはオーブンからグラタン皿を出し、それぞれ三人の皿に、ミートグラタンを取り分ける。
「す、すごいね。いつもありがとう、レグ」
料理の腕も外で食べるものと遜色ないのだが、手際も要領もいいからすごい。料理の直後も、流し台とキッチンはピカピカに片付いている。
「わあぁ!! チキンだ! チキン!」
椅子によじ登った斗和は、骨付きのフライドチキンを見て手を叩いた。火傷をしないように、持ち手部分にはペーパーが巻いてある。
三人揃って席につき、「いただきます」と手を合わせる。斗和が真っ先に手を伸ばしたのは、やはりこんがりといい色に揚がったフライドチキンだった。
「たくさんあるからゆっくりな。骨があるから気を付けて食べるんだぞ」
「うん。パパのご飯おいしー!」
レグルシュが斗和のことを見てくれている間に、千歳は先に食べることにした。レグルシュが後回しになってしまっていることが気になって、千歳は速いペースで食べていると、少しむせてしまった。
「ママもゆっくりでいい」
「う、うん。レグ、ありがとう」
千歳が食べ終わり、食器を片付けている間、レグルシュも遅れて夕ご飯を食べた。斗和はちょうどやっていたアニメを見るのに夢中だ。
夜のニュースへと番組が切り替わり、バース性の特集が流れると、斗和は思い出したかのように問いかけた。
「パパ。オメガってなに? ママはオメガなの?」
「ん?」
レグルシュはソファへ移動すると、斗和の小さな身体を抱き寄せる。
「そうだな……ママみたいに素敵で優しい人のことを、オメガと言うんだ」
「えーっ!? ママすごい! ぼくもオメガになれるかなぁ?」
「どうだろうな。ユキくらいの年になったら、斗和も分かるかもしれないな」
「パパもオメガなの?」
「パパはアルファだ。アルファだからママと結婚をして、斗和が産まれたんだ」
御伽噺をするように、レグルシュは優しい声で語りかける。九時過ぎ、うとうととし始めた息子を子供部屋へと移動させ、レグルシュと千歳も今日は早めに就寝することにした。
クイーンサイズのベッドに横になると、レグルシュが瞼にキスを落とす。
「斗和。すごく楽しそうだったね。今朝行きたくないって言われたときは、どうしようかと思った」
「ああ。よほど楽しかったのか、今日は寝るのが早かったな。きっと今は夢の中だ」
レグルシュは念を押すようにそう言った。寝巻きの下に大きな手が滑り込んできて、千歳は突然のことに「えっ?」と思わず漏らした。レグルシュは項の消えない痕を、愛おしそうに舌でなぞった。千歳の身体がびくりと跳ねる。
「千歳……」
乞うように潜めた声で名前を呼ばれ、千歳の張り詰めていた心の防波堤がとろりと緩む。
「ん……レグ」
千歳が拒まないと分かると、レグルシュは服に手をかける。白い肌が顕になると、レグルシュは丁寧に口付けを落としていく。
発情期ではない時間も、こうして抱いてくれることが嬉しい。後孔を丹念に拡げられ、千歳は声を押し殺すことに集中するのに精一杯だった。
「綺麗だな、千歳。……昼間、あのアルファの隣にいるのを見たとき、俺は嫉妬でどうにかなりそうだった」
「レグ……普通に話してただけだよ」
「ああ……その普通が、俺には許しがたい。お前はくだらないと呆れるかもしれないが」
レグルシュの両親はアルファ同士だ。ある日、運命のオメガが現れて、幸せな日常が傾いた。千歳には彼の不安が、痛いほど分かる。
千歳の実親も運命の番と呼ばれる存在だったが、千歳がオメガに産まれたせいで、その関係は崩れた。父は千歳がアルファでないことを怪しみ、母の不貞を疑うような言葉を千歳の前で苦しみながら吐いていた。
「あ……んっ」
レグルシュは避妊具の入っている引き出しに、一瞬視線を寄せただけで行為を中断することはなかった。
「ああぁ──っ! レグ、あっ、あぁ……ん」
雁首を飲み込んだときに感じる場所を擦られ、甘い声を上げた。レグルシュは意地悪く、最奥にはあえて入れないで、そこばかりを執拗に攻める。
「んっ……」
唇に温かいものが触れて、千歳は目を見開く。ペリドットの瞳が、愉快そうに形を変えている。唇にキスをするのは斗和が起きていないときだけだったのに……。不意打ちのキスに、千歳は頬を赤らめた。
「もう、レグ」
そっぽを向く千歳の頬を追いかけるように、指の背で撫でられた。
「今朝、忘れた分を込めたんだ」
「レグが忘れたんでしょう……?」
「千歳だって。言ってくれればよかった」
レグルシュはそれ以上の言い合いは不毛だとばかりに、キッチンのほうへ逃げた。今夜は初登園の記念日に、レグルシュが手料理を振る舞ってくれるのだ。
「ママとパパはラブラブ!」
「どこで覚えたの。そんな言葉」
入浴の準備をしている千歳に、斗和は従兄弟の名前を呼んだのだった。
……────。
三十分ほどで入浴を済ませると、テーブルの上は料理の皿でいっぱいになっていた。斗和の大好物である山盛りのフライドチキンに、たくさんのチーズとベーコンの乗ったシーザーサラダ。レグルシュはオーブンからグラタン皿を出し、それぞれ三人の皿に、ミートグラタンを取り分ける。
「す、すごいね。いつもありがとう、レグ」
料理の腕も外で食べるものと遜色ないのだが、手際も要領もいいからすごい。料理の直後も、流し台とキッチンはピカピカに片付いている。
「わあぁ!! チキンだ! チキン!」
椅子によじ登った斗和は、骨付きのフライドチキンを見て手を叩いた。火傷をしないように、持ち手部分にはペーパーが巻いてある。
三人揃って席につき、「いただきます」と手を合わせる。斗和が真っ先に手を伸ばしたのは、やはりこんがりといい色に揚がったフライドチキンだった。
「たくさんあるからゆっくりな。骨があるから気を付けて食べるんだぞ」
「うん。パパのご飯おいしー!」
レグルシュが斗和のことを見てくれている間に、千歳は先に食べることにした。レグルシュが後回しになってしまっていることが気になって、千歳は速いペースで食べていると、少しむせてしまった。
「ママもゆっくりでいい」
「う、うん。レグ、ありがとう」
千歳が食べ終わり、食器を片付けている間、レグルシュも遅れて夕ご飯を食べた。斗和はちょうどやっていたアニメを見るのに夢中だ。
夜のニュースへと番組が切り替わり、バース性の特集が流れると、斗和は思い出したかのように問いかけた。
「パパ。オメガってなに? ママはオメガなの?」
「ん?」
レグルシュはソファへ移動すると、斗和の小さな身体を抱き寄せる。
「そうだな……ママみたいに素敵で優しい人のことを、オメガと言うんだ」
「えーっ!? ママすごい! ぼくもオメガになれるかなぁ?」
「どうだろうな。ユキくらいの年になったら、斗和も分かるかもしれないな」
「パパもオメガなの?」
「パパはアルファだ。アルファだからママと結婚をして、斗和が産まれたんだ」
御伽噺をするように、レグルシュは優しい声で語りかける。九時過ぎ、うとうととし始めた息子を子供部屋へと移動させ、レグルシュと千歳も今日は早めに就寝することにした。
クイーンサイズのベッドに横になると、レグルシュが瞼にキスを落とす。
「斗和。すごく楽しそうだったね。今朝行きたくないって言われたときは、どうしようかと思った」
「ああ。よほど楽しかったのか、今日は寝るのが早かったな。きっと今は夢の中だ」
レグルシュは念を押すようにそう言った。寝巻きの下に大きな手が滑り込んできて、千歳は突然のことに「えっ?」と思わず漏らした。レグルシュは項の消えない痕を、愛おしそうに舌でなぞった。千歳の身体がびくりと跳ねる。
「千歳……」
乞うように潜めた声で名前を呼ばれ、千歳の張り詰めていた心の防波堤がとろりと緩む。
「ん……レグ」
千歳が拒まないと分かると、レグルシュは服に手をかける。白い肌が顕になると、レグルシュは丁寧に口付けを落としていく。
発情期ではない時間も、こうして抱いてくれることが嬉しい。後孔を丹念に拡げられ、千歳は声を押し殺すことに集中するのに精一杯だった。
「綺麗だな、千歳。……昼間、あのアルファの隣にいるのを見たとき、俺は嫉妬でどうにかなりそうだった」
「レグ……普通に話してただけだよ」
「ああ……その普通が、俺には許しがたい。お前はくだらないと呆れるかもしれないが」
レグルシュの両親はアルファ同士だ。ある日、運命のオメガが現れて、幸せな日常が傾いた。千歳には彼の不安が、痛いほど分かる。
千歳の実親も運命の番と呼ばれる存在だったが、千歳がオメガに産まれたせいで、その関係は崩れた。父は千歳がアルファでないことを怪しみ、母の不貞を疑うような言葉を千歳の前で苦しみながら吐いていた。
「あ……んっ」
レグルシュは避妊具の入っている引き出しに、一瞬視線を寄せただけで行為を中断することはなかった。
「ああぁ──っ! レグ、あっ、あぁ……ん」
雁首を飲み込んだときに感じる場所を擦られ、甘い声を上げた。レグルシュは意地悪く、最奥にはあえて入れないで、そこばかりを執拗に攻める。
124
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜
みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。
自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。
残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。
この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる――
そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。
亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、
それでも生きてしまうΩの物語。
痛くて、残酷なラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる