溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル

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【4章】はじめての幼稚園

二人だけの時間1

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朝仕事に行く前と帰宅したときに、キスをするのは周防家の習慣だ。千歳も呼ばれて、いつものように頬を差し出した、が。

「んっ……」

唇に温かいものが触れて、千歳は目を見開く。ペリドットの瞳が、愉快そうに形を変えている。唇にキスをするのは斗和が起きていないときだけだったのに……。不意打ちのキスに、千歳は頬を赤らめた。

「もう、レグ」

そっぽを向く千歳の頬を追いかけるように、指の背で撫でられた。

「今朝、忘れた分を込めたんだ」
「レグが忘れたんでしょう……?」
「千歳だって。言ってくれればよかった」

レグルシュはそれ以上の言い合いは不毛だとばかりに、キッチンのほうへ逃げた。今夜は初登園の記念日に、レグルシュが手料理を振る舞ってくれるのだ。

「ママとパパはラブラブ!」
「どこで覚えたの。そんな言葉」

入浴の準備をしている千歳に、斗和は従兄弟の名前を呼んだのだった。


……────。


三十分ほどで入浴を済ませると、テーブルの上は料理の皿でいっぱいになっていた。斗和の大好物である山盛りのフライドチキンに、たくさんのチーズとベーコンの乗ったシーザーサラダ。レグルシュはオーブンからグラタン皿を出し、それぞれ三人の皿に、ミートグラタンを取り分ける。

「す、すごいね。いつもありがとう、レグ」

料理の腕も外で食べるものと遜色ないのだが、手際も要領もいいからすごい。料理の直後も、流し台とキッチンはピカピカに片付いている。

「わあぁ!! チキンだ! チキン!」

椅子によじ登った斗和は、骨付きのフライドチキンを見て手を叩いた。火傷をしないように、持ち手部分にはペーパーが巻いてある。

三人揃って席につき、「いただきます」と手を合わせる。斗和が真っ先に手を伸ばしたのは、やはりこんがりといい色に揚がったフライドチキンだった。

「たくさんあるからゆっくりな。骨があるから気を付けて食べるんだぞ」
「うん。パパのご飯おいしー!」

レグルシュが斗和のことを見てくれている間に、千歳は先に食べることにした。レグルシュが後回しになってしまっていることが気になって、千歳は速いペースで食べていると、少しむせてしまった。

「ママもゆっくりでいい」
「う、うん。レグ、ありがとう」

千歳が食べ終わり、食器を片付けている間、レグルシュも遅れて夕ご飯を食べた。斗和はちょうどやっていたアニメを見るのに夢中だ。

夜のニュースへと番組が切り替わり、バース性の特集が流れると、斗和は思い出したかのように問いかけた。

「パパ。オメガってなに? ママはオメガなの?」
「ん?」

レグルシュはソファへ移動すると、斗和の小さな身体を抱き寄せる。

「そうだな……ママみたいに素敵で優しい人のことを、オメガと言うんだ」
「えーっ!? ママすごい! ぼくもオメガになれるかなぁ?」
「どうだろうな。ユキくらいの年になったら、斗和も分かるかもしれないな」
「パパもオメガなの?」
「パパはアルファだ。アルファだからママと結婚をして、斗和が産まれたんだ」

御伽噺をするように、レグルシュは優しい声で語りかける。九時過ぎ、うとうととし始めた息子を子供部屋へと移動させ、レグルシュと千歳も今日は早めに就寝することにした。

クイーンサイズのベッドに横になると、レグルシュが瞼にキスを落とす。

「斗和。すごく楽しそうだったね。今朝行きたくないって言われたときは、どうしようかと思った」
「ああ。よほど楽しかったのか、今日は寝るのが早かったな。きっと今は夢の中だ」

レグルシュは念を押すようにそう言った。寝巻きの下に大きな手が滑り込んできて、千歳は突然のことに「えっ?」と思わず漏らした。レグルシュは項の消えない痕を、愛おしそうに舌でなぞった。千歳の身体がびくりと跳ねる。

「千歳……」

乞うように潜めた声で名前を呼ばれ、千歳の張り詰めていた心の防波堤がとろりと緩む。

「ん……レグ」

千歳が拒まないと分かると、レグルシュは服に手をかける。白い肌が顕になると、レグルシュは丁寧に口付けを落としていく。

発情期ではない時間も、こうして抱いてくれることが嬉しい。後孔を丹念に拡げられ、千歳は声を押し殺すことに集中するのに精一杯だった。

「綺麗だな、千歳。……昼間、あのアルファの隣にいるのを見たとき、俺は嫉妬でどうにかなりそうだった」
「レグ……普通に話してただけだよ」
「ああ……その普通が、俺には許しがたい。お前はくだらないと呆れるかもしれないが」

レグルシュの両親はアルファ同士だ。ある日、運命のオメガが現れて、幸せな日常が傾いた。千歳には彼の不安が、痛いほど分かる。

千歳の実親も運命の番と呼ばれる存在だったが、千歳がオメガに産まれたせいで、その関係は崩れた。父は千歳がアルファでないことを怪しみ、母の不貞を疑うような言葉を千歳の前で苦しみながら吐いていた。

「あ……んっ」

レグルシュは避妊具の入っている引き出しに、一瞬視線を寄せただけで行為を中断することはなかった。

「ああぁ──っ! レグ、あっ、あぁ……ん」

雁首を飲み込んだときに感じる場所を擦られ、甘い声を上げた。レグルシュは意地悪く、最奥にはあえて入れないで、そこばかりを執拗に攻める。
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