溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル

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【6章】二人の絆

助けにきてくれた2

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「あーあ。綾乃が余計なことを言うから。どうせ俺達の家のこと、言いふらすんだろ? 噂話にはいいゴシップだもんな」
「何を投げやりになっているんだ? 俺も妻もお前や子供のことを話題に出すつもりもない。忘れたいくらいだ」

的場は「育児も仕事も頑張る親」の仮面を剥がし、ぎょろっとした目を千歳に向けた。

「アンタはちゃんと動く嫁がいていいよな。正直、同じオメガで男なのに子供を産んだくらいで、ここまで差が出るとは思わなかった。うちの嫁は仕事を辞めさせてやったのに、家事も育児も俺に手伝ってほしいなんて甘えたことを……」
「だから何だ? 一人暮らしもしたことがないのか。家のことは二人でやるのが筋だと俺は思っているが」
「……健康な嫁がいるからそう綺麗事を言えるんだ。仕事をしながら子供の面倒なんて」

レグルシュは意味が分からないというふうに、呆れた溜め息をついた。

「俺は妻と出会う前、一人で野生児の面倒を見ていたぞ。お前が預かっていたら、半日で発狂していたかもな」
「はあ……? なんの話だよ……」
「人は全員が合理的に動くものじゃない。愛情には損得もない。妻も子供も、少しは労ってやったらどうだ? お前に人の心があるならな。……ああ、それと」

レグルシュは威圧的なフェロモンを放ちながら、的場に近付いた。アルファの的場は平均男性よりも体格は大きいが、一九〇センチを超えるレグルシュのほうが目線は上だ。
髪も瞳の色も派手なレグルシュを前に、的場は一歩退いた。

レグルシュは相手が逃げる前に素早く踏み込む。

大きな身体で隠れて、千歳の立ち位置からははっきりと確認できないが、的場がその場で呻いて背を丸めたのがかろうじて分かった。

「俺の番に近付き過ぎだ。次にお前の匂いを妻から感じたら……そのときは──してやる」

血の気の引いた的場は、声も出せない様子でレグルシュの言葉に首が振り落ちそうなくらい何度も頷いた。レグルシュは千歳の肩を抱き、自分達の車へと向かった。

車内はしんと静まり返り、重苦しい空気が漂う。レグルシュに何か言わなければ、と思うものの、何から話せばよいのか千歳は迷っていた。

そうこうしているうちに、後部座席にちょこんと座っている斗和がやきもきした様子で「もー!!」と、声を張り上げた。

千歳とレグルシュは同時に、我が子のほうを振り返る。

「ぼくは綾乃ちゃんと仲直りしたんだから、ママとパパも仲直りして!」
「えっ……?」

お説教を受けて、二人は顔を見合わせた。気恥ずかしい気持ちに包まれて、同時に顔を赤くする。

「ごめんなさいは?」
「わ、悪かった……」
「こ、こちらこそ……」
「仲直りするときはごめんなさいでしょお!?」

三歳の息子は腕組みをして、両親の行く末を見守る。

「ごめんなさい」

二人の声が重なると、斗和はうんうんと感心したように首を振った。

「じゃあ、ママとパパは今日からまたラブラブだからね!」

斗和の言葉に、千歳とレグルシュは歯切れの悪い返事をした。家に帰る途中、斗和が眠っていることを確認したレグルシュは、千歳に提案した。

「少し、遠回りをして帰るか」
「はい」

車内に柔らかな橙色の西日が差し込む。郊外で空いた車線を走りながら、レグルシュは「すまなかった」と、再度謝罪を口にした。

「斗和に説教をされてしまったな。十割俺に向けてだが」
「きっと二人に言ったんです。斗和に心配をかけてしまいましたね。起きたらたくさんお礼を言わないと」
「ああ……そうだな」

一度は途切れてしまいそうだった運命の恋を、再び繋ぎ合わせてくれた斗和。お腹の中にいた頃から、きっと不器用な千歳とレグルシュを見守ってくれていたのだ。

「ねえ……レグ。斗和が産まれたとき、約束したこと覚えてる?」
「アルファでもベータでもオメガでも幸せにしてあげたい。俺達が親でよかったと思ってほしい」

千歳は頷く。レグルシュは深く息を吐いた。

「……できてなかったですね。いろいろと、あり過ぎて」
「ああ……嫉妬に駆られて、あの子も千歳も……俺は守ってやれなかった」

ペリドットの瞳が翳りを帯びる。千歳は彼を励ますように、空いた手を握った。付き合い始めた当初と同じ、どこかぎこちない繋ぎ方だった。

「僕も、幼稚園のママさん達と上手く馴染めなくて……そのことをレグに相談しなかったから。心配をかけたくないと思って。斗和にも寂しい思いをさせてしまいました」
「言葉足らずだったな。俺達は」

レグルシュと出会ってから、番になってから、まだ片手で数えられるほどしか経っていない。すれ違いや誤解はこれからもあるかもしれないが、レグルシュとの絆はきっと断ち切れたりせず、より強くなっていくのだと思う。

天使の寝顔をミラー越しに見つめながら、千歳は穏やかな笑みを浮かべた。
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