28 / 42
【6章】二人の絆
助けにきてくれた2
しおりを挟む
「あーあ。綾乃が余計なことを言うから。どうせ俺達の家のこと、言いふらすんだろ? 噂話にはいいゴシップだもんな」
「何を投げやりになっているんだ? 俺も妻もお前や子供のことを話題に出すつもりもない。忘れたいくらいだ」
的場は「育児も仕事も頑張る親」の仮面を剥がし、ぎょろっとした目を千歳に向けた。
「アンタはちゃんと動く嫁がいていいよな。正直、同じオメガで男なのに子供を産んだくらいで、ここまで差が出るとは思わなかった。うちの嫁は仕事を辞めさせてやったのに、家事も育児も俺に手伝ってほしいなんて甘えたことを……」
「だから何だ? 一人暮らしもしたことがないのか。家のことは二人でやるのが筋だと俺は思っているが」
「……健康な嫁がいるからそう綺麗事を言えるんだ。仕事をしながら子供の面倒なんて」
レグルシュは意味が分からないというふうに、呆れた溜め息をついた。
「俺は妻と出会う前、一人で野生児の面倒を見ていたぞ。お前が預かっていたら、半日で発狂していたかもな」
「はあ……? なんの話だよ……」
「人は全員が合理的に動くものじゃない。愛情には損得もない。妻も子供も、少しは労ってやったらどうだ? お前に人の心があるならな。……ああ、それと」
レグルシュは威圧的なフェロモンを放ちながら、的場に近付いた。アルファの的場は平均男性よりも体格は大きいが、一九〇センチを超えるレグルシュのほうが目線は上だ。
髪も瞳の色も派手なレグルシュを前に、的場は一歩退いた。
レグルシュは相手が逃げる前に素早く踏み込む。
大きな身体で隠れて、千歳の立ち位置からははっきりと確認できないが、的場がその場で呻いて背を丸めたのがかろうじて分かった。
「俺の番に近付き過ぎだ。次にお前の匂いを妻から感じたら……そのときは──してやる」
血の気の引いた的場は、声も出せない様子でレグルシュの言葉に首が振り落ちそうなくらい何度も頷いた。レグルシュは千歳の肩を抱き、自分達の車へと向かった。
車内はしんと静まり返り、重苦しい空気が漂う。レグルシュに何か言わなければ、と思うものの、何から話せばよいのか千歳は迷っていた。
そうこうしているうちに、後部座席にちょこんと座っている斗和がやきもきした様子で「もー!!」と、声を張り上げた。
千歳とレグルシュは同時に、我が子のほうを振り返る。
「ぼくは綾乃ちゃんと仲直りしたんだから、ママとパパも仲直りして!」
「えっ……?」
お説教を受けて、二人は顔を見合わせた。気恥ずかしい気持ちに包まれて、同時に顔を赤くする。
「ごめんなさいは?」
「わ、悪かった……」
「こ、こちらこそ……」
「仲直りするときはごめんなさいでしょお!?」
三歳の息子は腕組みをして、両親の行く末を見守る。
「ごめんなさい」
二人の声が重なると、斗和はうんうんと感心したように首を振った。
「じゃあ、ママとパパは今日からまたラブラブだからね!」
斗和の言葉に、千歳とレグルシュは歯切れの悪い返事をした。家に帰る途中、斗和が眠っていることを確認したレグルシュは、千歳に提案した。
「少し、遠回りをして帰るか」
「はい」
車内に柔らかな橙色の西日が差し込む。郊外で空いた車線を走りながら、レグルシュは「すまなかった」と、再度謝罪を口にした。
「斗和に説教をされてしまったな。十割俺に向けてだが」
「きっと二人に言ったんです。斗和に心配をかけてしまいましたね。起きたらたくさんお礼を言わないと」
「ああ……そうだな」
一度は途切れてしまいそうだった運命の恋を、再び繋ぎ合わせてくれた斗和。お腹の中にいた頃から、きっと不器用な千歳とレグルシュを見守ってくれていたのだ。
「ねえ……レグ。斗和が産まれたとき、約束したこと覚えてる?」
「アルファでもベータでもオメガでも幸せにしてあげたい。俺達が親でよかったと思ってほしい」
千歳は頷く。レグルシュは深く息を吐いた。
「……できてなかったですね。いろいろと、あり過ぎて」
「ああ……嫉妬に駆られて、あの子も千歳も……俺は守ってやれなかった」
ペリドットの瞳が翳りを帯びる。千歳は彼を励ますように、空いた手を握った。付き合い始めた当初と同じ、どこかぎこちない繋ぎ方だった。
「僕も、幼稚園のママさん達と上手く馴染めなくて……そのことをレグに相談しなかったから。心配をかけたくないと思って。斗和にも寂しい思いをさせてしまいました」
「言葉足らずだったな。俺達は」
レグルシュと出会ってから、番になってから、まだ片手で数えられるほどしか経っていない。すれ違いや誤解はこれからもあるかもしれないが、レグルシュとの絆はきっと断ち切れたりせず、より強くなっていくのだと思う。
天使の寝顔をミラー越しに見つめながら、千歳は穏やかな笑みを浮かべた。
「何を投げやりになっているんだ? 俺も妻もお前や子供のことを話題に出すつもりもない。忘れたいくらいだ」
的場は「育児も仕事も頑張る親」の仮面を剥がし、ぎょろっとした目を千歳に向けた。
「アンタはちゃんと動く嫁がいていいよな。正直、同じオメガで男なのに子供を産んだくらいで、ここまで差が出るとは思わなかった。うちの嫁は仕事を辞めさせてやったのに、家事も育児も俺に手伝ってほしいなんて甘えたことを……」
「だから何だ? 一人暮らしもしたことがないのか。家のことは二人でやるのが筋だと俺は思っているが」
「……健康な嫁がいるからそう綺麗事を言えるんだ。仕事をしながら子供の面倒なんて」
レグルシュは意味が分からないというふうに、呆れた溜め息をついた。
「俺は妻と出会う前、一人で野生児の面倒を見ていたぞ。お前が預かっていたら、半日で発狂していたかもな」
「はあ……? なんの話だよ……」
「人は全員が合理的に動くものじゃない。愛情には損得もない。妻も子供も、少しは労ってやったらどうだ? お前に人の心があるならな。……ああ、それと」
レグルシュは威圧的なフェロモンを放ちながら、的場に近付いた。アルファの的場は平均男性よりも体格は大きいが、一九〇センチを超えるレグルシュのほうが目線は上だ。
髪も瞳の色も派手なレグルシュを前に、的場は一歩退いた。
レグルシュは相手が逃げる前に素早く踏み込む。
大きな身体で隠れて、千歳の立ち位置からははっきりと確認できないが、的場がその場で呻いて背を丸めたのがかろうじて分かった。
「俺の番に近付き過ぎだ。次にお前の匂いを妻から感じたら……そのときは──してやる」
血の気の引いた的場は、声も出せない様子でレグルシュの言葉に首が振り落ちそうなくらい何度も頷いた。レグルシュは千歳の肩を抱き、自分達の車へと向かった。
車内はしんと静まり返り、重苦しい空気が漂う。レグルシュに何か言わなければ、と思うものの、何から話せばよいのか千歳は迷っていた。
そうこうしているうちに、後部座席にちょこんと座っている斗和がやきもきした様子で「もー!!」と、声を張り上げた。
千歳とレグルシュは同時に、我が子のほうを振り返る。
「ぼくは綾乃ちゃんと仲直りしたんだから、ママとパパも仲直りして!」
「えっ……?」
お説教を受けて、二人は顔を見合わせた。気恥ずかしい気持ちに包まれて、同時に顔を赤くする。
「ごめんなさいは?」
「わ、悪かった……」
「こ、こちらこそ……」
「仲直りするときはごめんなさいでしょお!?」
三歳の息子は腕組みをして、両親の行く末を見守る。
「ごめんなさい」
二人の声が重なると、斗和はうんうんと感心したように首を振った。
「じゃあ、ママとパパは今日からまたラブラブだからね!」
斗和の言葉に、千歳とレグルシュは歯切れの悪い返事をした。家に帰る途中、斗和が眠っていることを確認したレグルシュは、千歳に提案した。
「少し、遠回りをして帰るか」
「はい」
車内に柔らかな橙色の西日が差し込む。郊外で空いた車線を走りながら、レグルシュは「すまなかった」と、再度謝罪を口にした。
「斗和に説教をされてしまったな。十割俺に向けてだが」
「きっと二人に言ったんです。斗和に心配をかけてしまいましたね。起きたらたくさんお礼を言わないと」
「ああ……そうだな」
一度は途切れてしまいそうだった運命の恋を、再び繋ぎ合わせてくれた斗和。お腹の中にいた頃から、きっと不器用な千歳とレグルシュを見守ってくれていたのだ。
「ねえ……レグ。斗和が産まれたとき、約束したこと覚えてる?」
「アルファでもベータでもオメガでも幸せにしてあげたい。俺達が親でよかったと思ってほしい」
千歳は頷く。レグルシュは深く息を吐いた。
「……できてなかったですね。いろいろと、あり過ぎて」
「ああ……嫉妬に駆られて、あの子も千歳も……俺は守ってやれなかった」
ペリドットの瞳が翳りを帯びる。千歳は彼を励ますように、空いた手を握った。付き合い始めた当初と同じ、どこかぎこちない繋ぎ方だった。
「僕も、幼稚園のママさん達と上手く馴染めなくて……そのことをレグに相談しなかったから。心配をかけたくないと思って。斗和にも寂しい思いをさせてしまいました」
「言葉足らずだったな。俺達は」
レグルシュと出会ってから、番になってから、まだ片手で数えられるほどしか経っていない。すれ違いや誤解はこれからもあるかもしれないが、レグルシュとの絆はきっと断ち切れたりせず、より強くなっていくのだと思う。
天使の寝顔をミラー越しに見つめながら、千歳は穏やかな笑みを浮かべた。
197
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜
鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。
そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。
あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。
そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。
「お前がずっと、好きだ」
甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。
※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる