溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル

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【7章】新しい未来

誤解

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翌朝、千歳よりも先に起きていたのは、レグルシュと斗和だった。まだ一時間もあるのに朝食もお着替えも済んでいる。お迎えの短縮はなくなり、斗和もレクリエーションの手伝いに存分に参加できるようになり、今朝からやる気がすごいらしい。

寝坊助の斗和の早起きよりも驚いたのは、レグルシュの宣言だった。

「今日からしばらくは、俺が斗和の送迎をする」
「え? そんな、仕事は……」
「柚弦と部下には理由を話して頭を下げた。離婚の危機だと……」
「そんなこと言ったのですか!?」

慌てる千歳の様子に笑いを溢し、「冗談だ」と呟いた。

「けれど送迎するのは本当だ。斗和には寂しい思いをさせたし、千歳にも負担をかけたからな。……それに」

レグルシュは斗和の身体を抱き上げて、額にキスをする。斗和もお返しとばかりに、レグルシュの頬へちゅっと音を立てた。

「園の親達にいろいろと誤解されていることがあるからな。的場の件と、姉貴が起こした件も。身内が起こした件は、俺が始末するのが当然だろう」

園の母親達に、千歳と斗和は腫れ物扱いを受けている。ユキへの虐めから波及した問題が、最上[モガミ]の退園と重なり、当時のことを目にした親達からは、あまりいい印象を持たれていない。

「ぱぁぱも幼稚園行くのぉ!?」
「ああ。斗和がいろいろと教えてくれ」

斗和はレグルシュの腕から降りると、大急ぎで登園の支度をする。レグルシュが園に顔を出したのは、初日の一回きりだったので斗和のテンションは跳ね上がった。

「い、いいの? 本当に……」
「……まあ、仕事の時間は削ることになるな。手伝ってもらえないか、千歳」

レグルシュは申し訳なさそうに眉を下げた。あまり人を頼ることのない彼の申し出が意外で、千歳は少し驚いてしまった。もちろん断る理由はない。

「はい。僕にできることなら何でも言ってください」

綾乃と喧嘩したことで、幼稚園に行きたくないと言われたらどうしようかと思っていたが、全くの杞憂だった。むしろ、綾乃に会えるのが楽しみらしい。

レグルシュと千歳は、斗和と両手を繋ぎながら登園した。周りの園児や親は物珍しそうに、千歳達を見ている。

まだ綾乃は登園しておらず、他の園児もそれほど集まっていなかった。斗和がもも組の部屋へ入ると、何人かが「だいじょうぶ?」と駆け寄ってくる。斗和は気丈に「へーき!」と答えていた。

「ほら、あの子。昨日、女の子を叩いたって……」
「私も聞いたわ、それ。怖いから園長先生にクラス替えを頼もうかしら」

千歳の耳に噂話が入ってきて、不甲斐なさで俯いた。きっとこちらに聞こえるように言っている。斗和を連れてその場から離れようとしたとき、レグルシュは逆に一歩前へと進んだ。

「レグ……!」

レグルシュが強く言い返してしまい、悪意のあるように捉えられたら困る。しかし、千歳の危惧するようなことは起こらなかった。レグルシュは保護者の前で、見たこともないくらい深く腰を折った。

「この度はお騒がせして申し訳ありませんでした。昨日、的場さんの保護者の方とお話をさせていただいています」

レグルシュは謝罪の言葉を口にする。母親達は閉口し、何やらひそひそと囁き合っている。遅れてやって来た千歳も、レグルシュと同じように低頭した。

「別に……私達に謝られても、ねぇ?」
「また今後もこういうことがあるかもしれないし……」

レグルシュは否定せずに話を続ける。

「家でも話し合い、斗和……息子にも言い聞かせております。理不尽なことがあっても、先に友達に危害を加えるような子ではありません。よろしければ、またこちらで仲良くしていただけないでしょうか?」

誠心誠意、千歳とレグルシュは謝罪した。母親達の顔つきが少し和らいだ気がする。

「まあ、それなら……」とまごついた雰囲気で、母親達は去っていった。園児達もぞろぞろと集まり始め、ちょうど綾乃が登園してきたところに出会す。今日は祖母だけが登園しているようだ。こちらに気付くと、手短に周りへ挨拶をし、すぐに帰っていった。

「あっ、綾乃ちゃん!」

いち早く気付いた斗和が、園児の輪から抜け出しておはようと挨拶をする。綾乃は気まずそうにしながらも、挨拶を返した。

「綾乃ちゃんだぁ」
「斗和くんと綾乃ちゃん、ケンカしてなかった?」

争いの結末を知らない園児達は、こぞって二人を囲んだ。斗和は臆することなく、綾乃の手を繋ぎながら答える。

「綾乃ちゃんとはもう仲直りしたの! 綾乃ちゃんいたいいたいしてごめんね」
「うん……私も斗和くんにいたいことしてごめんね」

二人の会話に、少しピリピリとしたムードだった保護者達の顔も朗らかになったようだ。園児達の気は、斗和達から何故かレグルシュのほうへ移った。
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