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【7章】新しい未来
斗和の初恋?
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「すごーい! 斗和くんのパパだ!」
「めちゃくちゃたかーい!」
いつの間にか千歳とレグルシュの間には距離ができ、まるで先生のように囲まれている。群がり寄ってくる園児達に、レグルシュは困り顔をして視線を下に落とした。
遠くにいる斗和は、すごいでしょ、と言いたげな顔で腰に手をあて胸を張りながら、途方に暮れる父親を見守っていた。それからしばらくは、斗和の送迎にはレグルシュができるだけ付き添うようになった。
斗和が言うには、園児達の間でレグルシュのことは瞬く間に有名人となったらしい。話題に上がるにつれて、保護者達から千歳とレグルシュへ向けた、偏見や噂話を耳にすることはなくなった。
嬉しい話の一方で、悲しい知らせもあった。何と、綾乃が別の保育園へと移るのだと、斗和から聞かされた。千歳達は目にしていないが、時々綾乃の母親が園を訪れていて、職場へ復帰するのだと、人伝いで知った。
「綾乃ちゃん。ちがうところに行っちゃうんだって……」
夕食時、斗和は悲しそうに千歳とレグルシュに呟く。
「そっか……寂しくなるね」
「うん……」
「たくさん遊んで思い出つくらないとね」
「ぼく、綾乃ちゃんとおわかれしたくない!」
斗和は目をうるうるとさせながら、フォークを持った手で、テーブルをこつこつと叩いた。千歳とレグルシュは苦い顔でお互いを見合わせた。
「でも、綾乃ちゃんとパパとママ。なかよしになったんだって……綾乃ちゃんうれしそうだったの。ぼくもうれしいけど、綾乃ちゃんとバイバイしたくないよおぉ」
斗和を二人がかりでどうにか泣き止ませ、寝室で休めたのは一時過ぎだった。あれほど長時間泣かれたのは赤子のとき以来かもしれない。レグルシュの表情は複雑そうだった。
「ユキが姉貴の家に戻ったときのことを思い出すな」
「そうですね……ユキくんも、今日の斗和みたいに泣いてたから」
「千歳だって。ユキと別れるときは泣いていただろう。斗和のことばかり言えないな」
「レグもですよ。ユキくんがエレナさんと樹さんのところへ戻ってからは、僕にユキくんのことばかり喋ってましたから」
「あれは肩の荷が下りたという意味で愚痴っていたんだ。あの野生児の面倒を見るのは、身体がいくつあっても足りないぞ。好き嫌いが多いわりに量は食う、風呂嫌いで、俺には反抗するしで……」
レグルシュは饒舌にユキとの思い出を語る。その横顔が楽しそうに見えて、千歳はふふっと笑いを溢してしまった。喋り過ぎたことに気付いたレグルシュは、咳払いをする。
「ユキのシッターを任せていたときも思っていたが。千歳には、子供に好かれる何かがあるのだろうな。優しさや甘さだけではない何かが。空気というか、カリスマ性とでもいうのか……」
「そ、そうでしょうか……?」
ストレートに褒められて、何だか恥ずかしくなる。ユキを任せられるまでは、シッター経験などなく、子育てのことは未知だった。
「レグのほうこそ。ユキくんは僕に対しては、少し遠慮しているところがありましたから。本音を言ってもらえるレグが羨ましくもありました」
千歳がそう言うと、レグルシュは信じられないとばかりに目を丸くした。
「羨ましい? ……本当にお前は。変わったやつだな」
レグルシュは笑いながら、優しい声音で呟いた。
……────。
初めてのレクリエーションは無事に成功に終わった。大きな画用紙を壁に見立てて、折り紙の花や果物を貼りつけた展示物が、教室の前に飾られていた。斗和は自分のつくったところを、千歳やレグルシュに指差しで教えてくれた。
綾乃はお盆休みに入る前に、きらぼし幼稚園から別の保育園へと転園した。
お別れ会から数日、斗和の顔は暗いままだった。幼稚園は夏季休暇に入り、レグルシュもそれに合わせて数日休みを取った。千歳もレグルシュも、元気のない斗和の様子が気がかりだった。
「ぼく、綾乃ちゃんに好きって言われたんだ」
何気なく、ぽつりと独り言を言うように呟く。途端にガチャンと、キッチンのほうで大きな音が響いた。
「れ、レグ? 大丈夫……」
「何でもない」
レグルシュは白い顔で言うと、お茶の入ったポットを再び手に持つ。千歳達は朝食を摂った後、食後のチョコレートと紅茶を片手に談笑する。
「つ、付き合うのか?」
レグルシュは緊張した面持ちで、斗和に質問する。斗和は父親の言うことが分からなかったようで、首を傾げた。
「レグ。斗和も綾乃ちゃんもまだ三歳だから」
「そ……そうだな」
レグルシュは冷静な声で動揺した自分を律するように、短く答えた。ソーサーとカップを持つ手は少し震えている。
「ぼくも綾乃ちゃんのこと好きだから、好きって言ったんだぁ」
斗和の追撃に、レグルシュはしばらく頭を抱えるのだった。
「めちゃくちゃたかーい!」
いつの間にか千歳とレグルシュの間には距離ができ、まるで先生のように囲まれている。群がり寄ってくる園児達に、レグルシュは困り顔をして視線を下に落とした。
遠くにいる斗和は、すごいでしょ、と言いたげな顔で腰に手をあて胸を張りながら、途方に暮れる父親を見守っていた。それからしばらくは、斗和の送迎にはレグルシュができるだけ付き添うようになった。
斗和が言うには、園児達の間でレグルシュのことは瞬く間に有名人となったらしい。話題に上がるにつれて、保護者達から千歳とレグルシュへ向けた、偏見や噂話を耳にすることはなくなった。
嬉しい話の一方で、悲しい知らせもあった。何と、綾乃が別の保育園へと移るのだと、斗和から聞かされた。千歳達は目にしていないが、時々綾乃の母親が園を訪れていて、職場へ復帰するのだと、人伝いで知った。
「綾乃ちゃん。ちがうところに行っちゃうんだって……」
夕食時、斗和は悲しそうに千歳とレグルシュに呟く。
「そっか……寂しくなるね」
「うん……」
「たくさん遊んで思い出つくらないとね」
「ぼく、綾乃ちゃんとおわかれしたくない!」
斗和は目をうるうるとさせながら、フォークを持った手で、テーブルをこつこつと叩いた。千歳とレグルシュは苦い顔でお互いを見合わせた。
「でも、綾乃ちゃんとパパとママ。なかよしになったんだって……綾乃ちゃんうれしそうだったの。ぼくもうれしいけど、綾乃ちゃんとバイバイしたくないよおぉ」
斗和を二人がかりでどうにか泣き止ませ、寝室で休めたのは一時過ぎだった。あれほど長時間泣かれたのは赤子のとき以来かもしれない。レグルシュの表情は複雑そうだった。
「ユキが姉貴の家に戻ったときのことを思い出すな」
「そうですね……ユキくんも、今日の斗和みたいに泣いてたから」
「千歳だって。ユキと別れるときは泣いていただろう。斗和のことばかり言えないな」
「レグもですよ。ユキくんがエレナさんと樹さんのところへ戻ってからは、僕にユキくんのことばかり喋ってましたから」
「あれは肩の荷が下りたという意味で愚痴っていたんだ。あの野生児の面倒を見るのは、身体がいくつあっても足りないぞ。好き嫌いが多いわりに量は食う、風呂嫌いで、俺には反抗するしで……」
レグルシュは饒舌にユキとの思い出を語る。その横顔が楽しそうに見えて、千歳はふふっと笑いを溢してしまった。喋り過ぎたことに気付いたレグルシュは、咳払いをする。
「ユキのシッターを任せていたときも思っていたが。千歳には、子供に好かれる何かがあるのだろうな。優しさや甘さだけではない何かが。空気というか、カリスマ性とでもいうのか……」
「そ、そうでしょうか……?」
ストレートに褒められて、何だか恥ずかしくなる。ユキを任せられるまでは、シッター経験などなく、子育てのことは未知だった。
「レグのほうこそ。ユキくんは僕に対しては、少し遠慮しているところがありましたから。本音を言ってもらえるレグが羨ましくもありました」
千歳がそう言うと、レグルシュは信じられないとばかりに目を丸くした。
「羨ましい? ……本当にお前は。変わったやつだな」
レグルシュは笑いながら、優しい声音で呟いた。
……────。
初めてのレクリエーションは無事に成功に終わった。大きな画用紙を壁に見立てて、折り紙の花や果物を貼りつけた展示物が、教室の前に飾られていた。斗和は自分のつくったところを、千歳やレグルシュに指差しで教えてくれた。
綾乃はお盆休みに入る前に、きらぼし幼稚園から別の保育園へと転園した。
お別れ会から数日、斗和の顔は暗いままだった。幼稚園は夏季休暇に入り、レグルシュもそれに合わせて数日休みを取った。千歳もレグルシュも、元気のない斗和の様子が気がかりだった。
「ぼく、綾乃ちゃんに好きって言われたんだ」
何気なく、ぽつりと独り言を言うように呟く。途端にガチャンと、キッチンのほうで大きな音が響いた。
「れ、レグ? 大丈夫……」
「何でもない」
レグルシュは白い顔で言うと、お茶の入ったポットを再び手に持つ。千歳達は朝食を摂った後、食後のチョコレートと紅茶を片手に談笑する。
「つ、付き合うのか?」
レグルシュは緊張した面持ちで、斗和に質問する。斗和は父親の言うことが分からなかったようで、首を傾げた。
「レグ。斗和も綾乃ちゃんもまだ三歳だから」
「そ……そうだな」
レグルシュは冷静な声で動揺した自分を律するように、短く答えた。ソーサーとカップを持つ手は少し震えている。
「ぼくも綾乃ちゃんのこと好きだから、好きって言ったんだぁ」
斗和の追撃に、レグルシュはしばらく頭を抱えるのだった。
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