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【8章】溺愛アルファは運命の恋を離さない
結婚式1
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……────。
大きな雲がかかっていない、どこまでも澄みきった快晴だった。今年の四月、斗和は無事に年中クラスに移り、千歳達はケーキを買ってそのお祝いをした。もう二ヶ月も前のことなのに、つい最近だったかのように感じる。鏡台の前で、千歳は息子の喜ぶ顔を思い出していた。
スタッフに連れられて控え室を出ると、準備を済ませているレグルシュの姿があった。自分と同じ衣装を身に纏っているはずなのに、まるで違うもののように感じる。サイドを編み上げて長めの髪をハーフアップに仕上げたレグルシュが、千歳のほうを向いた。
「千歳。似合っている……素敵だ」
「そんな、レグに比べたら……」
「お前の欠点は謙遜し過ぎることだな。可愛くて綺麗だ」
魔法のような言葉に、千歳は少し自信がついた。結婚式の打ち合わせは途方もないくらいに時間がかかった。準備がなかなか進まない二人を見かねて、レグルシュの実姉であるエレナが時々手助けをしてくれたのだ。
何でもかんでもオプション付きで豪勢にしたがるので、レグルシュとは度々衝突していた。慎重に決めたいレグルシュと、豪胆なエレナの意見は折り合わず、千歳やプランナーは困り果て二人の議論を見守ることしかできなかった。
最終的に意見を押し通したのは、姉のほうだった。予算分を超えたオプションの費用まで出してもらい、千歳は感謝している。
『弟はどうでもいいけど、千歳くんの晴れ姿は私が絶対に見たいの!!』
『お式の費用、私が全部出したいんだけど、それだとレグの面子が立たないものね』
と、互いの親よりも、そして主役の二人よりも、エレナが一番張り切っていたのを覚えている。懐かしさに笑いがこみ上げてきて、多少緊張は緩んだ。
「本当にな。終始我が物顔で段取りを全部決めていったな」
「でも、そのおかげで助かりました。僕達だけだったら、来年になってたかも。経験者がいて助かりました」
エレナに感謝の言葉を溢す千歳を見て、頭上から微かな溜め息が降ってきた。
「あれを通して、姉貴の好みが分かった気がする。……可愛くて、物静かなタイプの男が好きなんだ」
「ふふ、そうかもしれないですね。樹さんがぴったりですから」
「……本当に。お前は」
今度、二人のウェディングフォトも見せてもらいたい。きっと、今の自分達と同じように幸福な番が写っているのだろう。スタッフから指示を受け、千歳とレグルシュはリラックスしていた表情をきりりと引き締めた。
「千歳。手を」
レグルシュが長い腕を差し出した。腕同士を絡めた状態で、人前を歩くのはもちろん初めてだ。手慣れたようにさらりとエスコートしてみせるレグルシュに、軽い嫉妬を覚えた。
「何だか、慣れてますね」
毒づいた千歳の台詞に、レグルシュは「何のことだ?」と、怒ったように返した。
「慣れてるわけないだろう。お前が初めてだ。……これからも」
千歳は「え?」と聞き返す。会話を続けようとしたところ、ピアノの音色とともに薄暗い廊下に光が差した。割れんばかりの大きな拍手に迎えられて、緊張で真っ直ぐ歩けているかどうかも分からない。
祭壇へ上がり振り返ると、参列席の最前に斗和がエレナと樹の横にちょこんと座っている。斗和も主役の一人なので、千歳やレグルシュと同じテイストの礼服を着ている。
純白のスーツに、襟やネクタイは気品を損ねないような程よいサックスブルー。斗和は白のフリルシャツに、子供らしいサックスブルーのタータンチェックのズボンを着用している。式場の景色も相まって、我が子ながら天使のような可愛さだと思う。
「ママー! パパー! 可愛くてかっこいいよー!」
斗和がこちらに向かってぶんぶんと大きく手を振る。千歳とレグルシュは手を振ってそれに応えた。
仲人はレグルシュの友人である宇野木が務めてくれることになっている。友人達に先を越され、スピーチはベテランだと自虐ネタを披露し、笑いを取っていた。
今日は親友の結婚式ということで、宇野木は主役の二人以上に大泣きし、スピーチの後半はほとんど鼻をすする音と、泣いている声で聞き取れなかった。席に戻った宇野木に、斗和や樹がハンカチを渡して慰めている。
レグルシュは拍手を送りながら、苦笑混じりに千歳に呟いた。
「何をしに来たんだ。あいつは」
「ふふ……でも、すごく嬉しいです」
宇野木の気持ちは、千歳にもレグルシュにも充分伝わった。スケジュール上では、この後結婚指輪を交換し合うはずだが、なかなかアナウンスが来ない。
もう一人、仲人のスピーチをする人がいると発表され、千歳とレグルシュは「えっ?」と声を上げた。エレナも一緒になって式の段取りを組んだので、サプライズの演出ということなのだろう。
大きな雲がかかっていない、どこまでも澄みきった快晴だった。今年の四月、斗和は無事に年中クラスに移り、千歳達はケーキを買ってそのお祝いをした。もう二ヶ月も前のことなのに、つい最近だったかのように感じる。鏡台の前で、千歳は息子の喜ぶ顔を思い出していた。
スタッフに連れられて控え室を出ると、準備を済ませているレグルシュの姿があった。自分と同じ衣装を身に纏っているはずなのに、まるで違うもののように感じる。サイドを編み上げて長めの髪をハーフアップに仕上げたレグルシュが、千歳のほうを向いた。
「千歳。似合っている……素敵だ」
「そんな、レグに比べたら……」
「お前の欠点は謙遜し過ぎることだな。可愛くて綺麗だ」
魔法のような言葉に、千歳は少し自信がついた。結婚式の打ち合わせは途方もないくらいに時間がかかった。準備がなかなか進まない二人を見かねて、レグルシュの実姉であるエレナが時々手助けをしてくれたのだ。
何でもかんでもオプション付きで豪勢にしたがるので、レグルシュとは度々衝突していた。慎重に決めたいレグルシュと、豪胆なエレナの意見は折り合わず、千歳やプランナーは困り果て二人の議論を見守ることしかできなかった。
最終的に意見を押し通したのは、姉のほうだった。予算分を超えたオプションの費用まで出してもらい、千歳は感謝している。
『弟はどうでもいいけど、千歳くんの晴れ姿は私が絶対に見たいの!!』
『お式の費用、私が全部出したいんだけど、それだとレグの面子が立たないものね』
と、互いの親よりも、そして主役の二人よりも、エレナが一番張り切っていたのを覚えている。懐かしさに笑いがこみ上げてきて、多少緊張は緩んだ。
「本当にな。終始我が物顔で段取りを全部決めていったな」
「でも、そのおかげで助かりました。僕達だけだったら、来年になってたかも。経験者がいて助かりました」
エレナに感謝の言葉を溢す千歳を見て、頭上から微かな溜め息が降ってきた。
「あれを通して、姉貴の好みが分かった気がする。……可愛くて、物静かなタイプの男が好きなんだ」
「ふふ、そうかもしれないですね。樹さんがぴったりですから」
「……本当に。お前は」
今度、二人のウェディングフォトも見せてもらいたい。きっと、今の自分達と同じように幸福な番が写っているのだろう。スタッフから指示を受け、千歳とレグルシュはリラックスしていた表情をきりりと引き締めた。
「千歳。手を」
レグルシュが長い腕を差し出した。腕同士を絡めた状態で、人前を歩くのはもちろん初めてだ。手慣れたようにさらりとエスコートしてみせるレグルシュに、軽い嫉妬を覚えた。
「何だか、慣れてますね」
毒づいた千歳の台詞に、レグルシュは「何のことだ?」と、怒ったように返した。
「慣れてるわけないだろう。お前が初めてだ。……これからも」
千歳は「え?」と聞き返す。会話を続けようとしたところ、ピアノの音色とともに薄暗い廊下に光が差した。割れんばかりの大きな拍手に迎えられて、緊張で真っ直ぐ歩けているかどうかも分からない。
祭壇へ上がり振り返ると、参列席の最前に斗和がエレナと樹の横にちょこんと座っている。斗和も主役の一人なので、千歳やレグルシュと同じテイストの礼服を着ている。
純白のスーツに、襟やネクタイは気品を損ねないような程よいサックスブルー。斗和は白のフリルシャツに、子供らしいサックスブルーのタータンチェックのズボンを着用している。式場の景色も相まって、我が子ながら天使のような可愛さだと思う。
「ママー! パパー! 可愛くてかっこいいよー!」
斗和がこちらに向かってぶんぶんと大きく手を振る。千歳とレグルシュは手を振ってそれに応えた。
仲人はレグルシュの友人である宇野木が務めてくれることになっている。友人達に先を越され、スピーチはベテランだと自虐ネタを披露し、笑いを取っていた。
今日は親友の結婚式ということで、宇野木は主役の二人以上に大泣きし、スピーチの後半はほとんど鼻をすする音と、泣いている声で聞き取れなかった。席に戻った宇野木に、斗和や樹がハンカチを渡して慰めている。
レグルシュは拍手を送りながら、苦笑混じりに千歳に呟いた。
「何をしに来たんだ。あいつは」
「ふふ……でも、すごく嬉しいです」
宇野木の気持ちは、千歳にもレグルシュにも充分伝わった。スケジュール上では、この後結婚指輪を交換し合うはずだが、なかなかアナウンスが来ない。
もう一人、仲人のスピーチをする人がいると発表され、千歳とレグルシュは「えっ?」と声を上げた。エレナも一緒になって式の段取りを組んだので、サプライズの演出ということなのだろう。
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