異世界強制お引越し 魔力なしでも冒険者

緑ノ深更

文字の大きさ
77 / 87
2章

77 side ギィ

しおりを挟む
カイトとホームに越してから、依頼の受諾ペースを以前同様に戻した。併せて都の実家に本腰を入れて実績を上げる予定だと知らせたら、指名依頼として面倒な依頼を寄越して来るようになった。
実績を上げる心づもりを知らせたのは、これまでの様に呼び出されたら渋々でも帰っていたのも出来なくなると言いたかっただけなのに、実績に貢献してやるという名目で解決が滞っていた問題を押しつけて来やがって。こんな事を思い付くのは腹黒の次兄に違いない。
前の依頼が丁度終わる頃を見越して指名をしてくる辺りが絶対に奴の仕業だと確信させる。

今回の依頼も、指定の期日で遂行するのは俺でなければ厳しいものだっただろう。ただ時間をかければB級でも上位者がパーティで挑めば可能なはずだ。確かに俺が1人であたるよりは費用がかさむだろうが…。

折角カイトと久しぶりに2人きりの休日が過ごせそうだと思っていた矢先の指名でイライラしていたのが漏れてしまった。今はその依頼も完了したわけだし、さっさと旨い肉を狩ってエリカに戻ろう。
家に帰る前にまずいつものように、アンナに新鮮な肉を預けてカイト用の料理を依頼しなければ。
1番にカイトの顔を見たいのは山々だが、捌きたて生肉を家に持ち込むのは避けたいし。

そう考えながら狩場を探しつつ移動していた俺に、高速で近づいてくる気配がある。
よく知っている気配だが、ここまで殺気が漏れているのは何があったのか。

「…っ」

相手の間合いに入った瞬間本気の攻撃が飛んでくる。避けるだけでは間に合わず長剣を抜いて払いながら位置を移す。逃げ道を巧みに誘導され少し開けた場所に出た。

「…何があった」

木立の陰からこちらに歩いて来るルークに尋ねる。あいつがここまで殺気を漏らす程の事態なら大事なのは間違いないが、なぜ俺に向けられるのかがわからない。

「カイトを泣かせたら許さないって言ったよな」
「!!?
カイトが泣いたのか!?なぜだ!誰に泣かされた!カイトは大丈夫なのか!?」

許さん。

「はぁ。お前がカイトを泣かせたんだよ」
「…は。俺!?そんなはずはない!」
「そうだよな。無神経で無頓着の朴念仁は全く自覚がないだろうよ。説明してやるから先に一発殴らせろ!」
「…どういう「ごちゃごちゃ言ってる間にカイトが去ってても自業自得だぞ」……聞かせてくれ」

クソっ。手加減なしで殴りやがって。意地で倒れるのは耐えたが、その後聞いたカイトの話に崩れ落ちそうになった。

俺がカイト以外に心を移す?あり得ん!

「弁解はあるんだろうな」
「全部きっちり説明できるが、エリカに向かいながらだ」

告げるや否や走り出す。今回は狩りはなしだ。一刻も早く寂しがらせたことを謝って、カイトの誤解を解かなければ!
軽々追走して来るルークに俺の行動の理由を説明する。移動速度だけならルークの方が速いのはわかっているが、そんなに余裕でついて来られると癪に触る。あぁ、早くカイトを抱きしめて俺の気持ちをわからせないとっ。

「…お前な…言葉が足りなさすぎるだろう…。2人きりでいて、どうしてそんなにすれ違えるんだよ」

ひと通りの説明を聞いたルークの呆れ声に俺も本気で同意するさ。それもこれも全部俺の未熟さに原因がある。

「そもそもカイトは引っ越してすぐから不安を感じ始めていたようだぞ?何があったんだ?」
「…それは…俺に問題があってな…」
「…勃たなくなっ「違う!逆だ!!」」

言いたくなかったが、言わなければコイツは納得しないだろう。
逆…と呟くルークに嫌々本音を明かす。

「カイトと2人きりでいると、自制心を試され続けるんだ…。これまでは宿で、部屋に2人でいるといっても壁の向こうには人がいたが、家は違う。すぐそばに無防備なカイトがいて、かわいくて…」

やめろ。そんな目で見るな…。

「無理矢理押し倒しそうになったのか」
「無理矢理な訳ないだろ!カイトが俺を好きなのなんて見てたらわかるだろうが!だが、せめて成人まではと…」

宿で始めて肌を合わせた時に、カイトに触れると際限なく求めてしまう自分に気づいた。満足することがない。
ただ、カイトが寝ている間に所用を片付けるため部屋を出たら、宿の親父に問答無用で防音の道具を押し付けられて自分の管理能力の低さに慄くことになった。
あのカイトの艶声を宿中の奴らに聞かせることになってたかもしれないことに気づけなかったんだぞ?自分が信じられん!
親父は、昼間だったからほとんど聞いてる奴はいないだろうと言っていたが、そういう親父は聞いたはずだ。押し付けられた道具は有り難く受け取ったしその後は忘れず使用していたが、その事は俺の自制心の補強に少なからず影響してた。

だが、家は違う。俺に歯止めをかけるものがない。これまで通りカイトに触れたら、カイトがまだ望んでいなかったところまで進んでしまうかもしれない。もちろん存分に甘やかしてカイトを溶かす自信はあるが、それでもカイトが後悔するようなことになったらと思うと…。
避けてるように思われたのは、全て俺の未熟さが原因だ…。

俺の独白を口を挟む事なく最後まで聞いたルークは、魂まで抜けてしまいそうな大きなため息をついた。

「よし。急ぐぞ。もっとスピードを上げろ。とっとと帰ってカイトに懺悔しろ」

望むところだ!


だがエリカに着いて、この時間ならギルドにいるだろうと直行したギルドで、カイトが行方不明になってると聞かされるなど思いもしなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

巨人の国に勇者として召喚されたけどメチャクチャ弱いのでキノコ狩りからはじめました。

篠崎笙
BL
ごく普通の高校生だった優輝は勇者として招かれたが、レベル1だった。弱いキノコ狩りをしながらレベルアップをしているうち、黒衣の騎士風の謎のイケメンと出会うが……。 

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

処理中です...