異世界強制お引越し 魔力なしでも冒険者

緑ノ深更

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2章

78 side ギィ

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ルークと共にギルドに駆け込んだ俺を迎えたのは、かわいいカイトの笑顔ではなく、厳しい顔のギルド長と緊迫した空気だった。

「…何が「ギィ!家から来たのか!?」」

カウンター前に集まっているのはギルド長、副長、ダスにB級のティムカ、食堂の住人ベテラン3人組。カイトとよく一緒にいるD級の2人もいる。他にも普段は既に依頼に出てるはずの人数の多くが残っている。

「まだ家には寄ってないが、なぜだ」
「カイトが訓練に出てこないんだ。これまでこんな事は1度もないから心配で」
「俺が家まで見に行って来るかと相談してたんだが」

ティムカが今日の講師か。説明の途中で踵を返して扉に向かう。

「俺が見て来る。すぐ戻る」

ルークに目線で合図する。俺が確認に行っている間に情報を精査しておいてくれるだろう。

家は特に荒らされたような様子はなかった。カイトの装備一式、服、カイトが俺のバッテリーと呼ぶ魔力鉱石は部屋に残されている。
ベッドに寝た形跡はあるが温もりは残っておらず、カイトがベッドを離れてから相応の時間が経っていることがわかる。
家に手掛かりはないと判断してギルドに戻る。
ここからは人海戦術が有効だ。

「どうだった!?」
「カイトはいなかった。装備一式が残っていたから部屋着かパジャマかで出て行っているはずだ」
「攫われた可能性は」
「争った形跡はなかったし、可能性は低い。そもそも敷地はあそこに家があるとわかっている者しか認識出来ないようになっているから、敷地内から攫うなら計画的に実行しなければ無理だ。だがこれまでその気配はなかった」
「認識出来ないってのは…」
「そういう道具らしい。鞄の道具の応用で空間を畳むとか聞いたが詳しくはわからん」
「それは…あれだな…」

魔王だな。というギルド長の声にならない確認には頷く事で答えておく。

「カイト君は自分から敷地を出たと考えられるのですね?街なら見つからないはずはないので、森に向かったということですね…」

この辺りには大きな獣はいないとはいえ、装備も持たずに森に向かったのはなぜだ。

捜索隊の編成を副長に任せてカイトの行動の理由を推測していたところに、警備隊長と子どもが走り込んで来た。

まだ幼い少年はルークを見つけると一直線に駆け寄って来る。

「ルーク、これ!助けて!」

それは、カイトのギルド証!?

「お前っ、それをどこで「待て、ギィ!落ち着け」」

ルークの声にハッと子どもを見ると、泣くのを必死で我慢して震えている。

「…すまん」
「リノ!なんでそれを持ってるんだよ!」
「カイトは!?」

D級の2人が泣きそうな子どもに詰め寄る。

知り合いか?誰でもいいから早くカイトのことを聞き出してくれ!

「この子が男達に連れて行かれた所からカイトが逃してくれたらしい。場所がわかるというから警備隊はすぐに出るが、ギルドにも知らせておこうと思ってな」

隊長の説明に素早く動き出す。ギルドには副長が残り、一部は騎獣の調達へ、残りは西門へ向かう。

「森にある廃棄された猟師小屋のようだ。
カイト以外にもう1人女性が捕まっているらしい。拉致犯はわかっているだけで男2人だ。他にもいる可能性があるから気を抜くな」

ギルド長の指示で子どもから聞き出した方向に偵察隊が先行する。
カイトは子どもが逃げる時まではケガもなく元気だったようだ。パジャマ姿ではあったようだが。

カイト。見過ごせなかったのはわかるが、頼むから無茶はしないでいてくれよ。

偵察隊に続いて見つからないよう慎重に進む。しばらくして鳥の声に似せた笛の音が聞こえて、偵察隊の1人が戻って来る。小屋を見つけたが遠目には人気はないとのこと。
子どもが逃げてきた小屋には間違いないので手掛かりを求めて小屋へ向かう。
子どもは小屋を見つけた時点でギルドに戻す。ついて来ていたD級2人も子どもの護衛を兼ねてギルドに戻された。

物凄い抗議っぷりだったが足手まといとギルド長に言われたら逆らえなかったようだな。勝手な行動は囚われている者を危険に晒すと理解して耐えたのは評価してやろう。俺ならカイトが囚われていては我慢できたか怪しいからな。

小屋には男達はいないようだ。裏手に騎獣がいた跡があるから出かけているのか、あるいは既に移動したのか。
小屋横の物置きに囚われていたということで警備隊の1人がそっと近づいて中を確認した途端、扉に飛び付いて鍵を破壊し始めた!他の警備隊員が加勢してすぐに扉が破壊されると、中から怒り狂った若い女が自力で飛び出して来た。

あれは、アンナの娘か。

カイトは男達に連れて行かれたらしい。
娘は警備隊に任せてカイトを追う。騎獣の足跡から去った方向を読み取ってルークが駆け出す。
相手が逃げているなら、もう隠れながら追う必要はない。連れて来ていた騎獣に乗るより走った方が速いから俺もすぐにルークを追う。俺達について来られる者はいないが問題はない。カイトを傷つけた者は俺の獲物だ。

すぐに走る走駝を2体見つけた。後ろの走駝にカイトが荷物の様に乗せられている!

アイツら絶対に許さん。

逃走経路が直線にかかると、ルークが立ち止まって捕獲用の投げ紐を飛ばす。狩りにもつかう武器の一種で、ルークの放ったそれは過たず後方の走駝を捕らえて転倒させた。

おぃ、ルーク!カイト諸共倒れてるじゃないか!

走り寄る間に上手く受け身を取ったカイトは起き上がろうとしていた。大きなケガはなさそうだ。ならば少しの間ルークに任せて俺はもう1人を捕まえる。
殺さない程度なら報復も許されるだろう。
乗ってた走駝がちょっと派手に倒れただけだ。
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