上 下
417 / 796
★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

406:共闘

しおりを挟む
「只今より、ホムンクルス殲滅計画の作戦会議を開く! 皆の者!! 姿勢を正せぇえっ!!!」

「うおぉおぉぉっ!!!!!」

   日暮れ時。
   橙色に染まる穏やかな夕焼け空の下、ケンタウロスの蹄族の里は、荒々しくいきり立つケンタウロス達で溢れ返っていた。

   族長であるタインヘンのテントの前に集結したのは、およそ二百頭のケンタウロス。
   男も女も入り混じってはいるが、全員に共通して言える事は、皆かなり戦闘能力高めの者たちであるという事。
   顔は揃いも揃って厳つくて、腕なんか丸太みたいに太い者ばかりである。
   そして何より、馬のものである下半身がもう……、ムッキムキのビッキビキ。
   あんなので踏まれた日にゃもう、一思いにあの世行きもいいとこだな……

   そんな彼らは皆、完全武装状態である。
   頭には兜を、人の形をしている上半身には鎧や鎖帷子くさりかたびらを装備して、馬である下半身部分には、なんていう名前の防具なのかは分からないけれど、これまた頑丈そうな鉄の掛物を装着している。
   どれもこれも金属製で、かなり重そう……
   けれど、みんな当たり前のように平然としているので、やはりケンタウロスも鬼族に劣らぬ戦闘民族なんだな~と、俺は思った。
   そして、そんな彼らの背中には、弓矢、短剣、長剣、大剣、槍、中には斧や鎌を背負っている者までいて……
   みんな、戦う準備は万端です。

   まぁ、俺が総じて言いたい事はというと……
   やっべぇ~!? こっ、怖えぇえぇ~!??
   って事ですね、はい。
   もはや、強そう! だとか、カッコいい!! だとかは通り越して、ただただ怖い。
   先程からずっと、俺の体は小刻みにプルプルと震えていて……
   すぐ隣にギンロが居てくれなければ、きっと今頃失神していた事でしょう。
  
   彼らを統率するのは、族長タインヘンの娘で、あのおっかない美人ケンタウロスのシーディアだ。
   鋭い目付きで周りのケンタウロス達に睨みを利かせながら、輪の中心に立って、今回の作戦の概要を大声で説明している。
   でも、俺からしてみれば……、なんていうか、説明しているのか、みんなを煽っているのか分からないような話し方です、はい。

   そして、そのシーディアの背の上に立つ、ピンク色の毛玉が一匹。

「いいか野郎どもっ! ホムンクルスは無敵!! 感情もなければ痛みも感じねぇっ!!! よって、生半可な覚悟じゃこっちがやられちまうっ!!!! ギッタギタのメッタメタになるまで、斬って殴って蹴り上げろぉおぉっ!!!!!」

「うぉおおぉぉぉっ!!!!!!!」

   いやぁ~、いつもながらにほんと、肝が座ってますねぇ~、カービィさんや。
   シーディアの背の上で、ケンタウロス達を煽るお手伝いをしているなんてねぇ~。
   さすがです……、バーカ!!!

「私達の仲間を救う為に、最後の一匹までやっつけちゃってぇ~!!!」

「うぉおぉぉっ! グレコ姉さん最高~!!」
  
   おやまぁ、グレコや……、君もかね?
   君のコミュ力の高さは重々承知しているけれど、仮にも嫁入り前の君が、そんな見ず知らずのお馬さんに跨ってはいけないよ??
   ほら見てみなさい、ケンタウロス達が注目しているのは、君の発する言葉ではなくて、上半身で揺れている君のお胸ですよ???
   ……そこから降りなさいっ!!!!

「我はいつも思う。カービィやグレコのように、誰とでも分け隔てなく心を通わせられるというのは、まさに天性の才能ではないかと……。我も二人のような、明け透けな性格で生まれたかった」

   隣に立つギンロは、羨望の眼差しで、ケンタウロス達の輪の中心にいるグレコとカービィを見つめる。

   ……ねぇギンロ、憧れるところ間違えてない?
   あれは別に、彼らの長所ではないと思うよ??
   しかも、明け透けな性格って……、あ、もしかして小馬鹿にしてるのかな???

   俺は、大きな溜息をつきながら、少し離れた場所で、作戦会議の行方を見守った。






   ……さて、ここまでの経緯を説明しよう。

   浄化されたヒッポル湖にて、河馬神タマスが姿を消した後、俺たちはこれからどう行動するかについて相談した。

   ニベルーの隠れ家を調査して分かった事は、大魔導師ニベルーはここで、世界的に禁止されている造出生命体、別名ホムンクルスの製造に着手し、その製造を成功させていた事。
   小屋で見つけたテジーの日記から推察するに、その後に何らかのトラブルがあったという事。
   カービィ曰く、小屋の地下にあった九つの遺体から得た記憶から考えるに、あの遺体は全て、ニベルーの妻であったテジーの体から作られたホムンクルスであって、仲間割れの末に殺されたのだろう、という事。
   そして、河馬神タマスが残した最後の言葉。
   それら全てを熟考し、その結果……

「フラスコの国はホムンクルスの国だ。ノリリア達が危ねぇ」

   という事になった。

「その、ホムンクルスという奴らが何者なのかは知らぬが……。十年前、この森の入り口で暮らす我ら蹄族を襲いし輩と、同一犯であるのだな?」

   俺たちの護衛に着いてくれている、ケンタウロスのレズハンが尋ねた。

「その可能性は大いにある……、というか、おいらは間違いなくそうだと思ってる。魂を抜かれて、食欲ばかりが旺盛になったリーラットを、ホムンクルス達は森へと連れて行き……、そこでお前達が襲われたんだろう」

「なんと……。ならば奴らは、我らの敵でもあるという事になるな」

   そう言った時のレズハンの表情を、俺はきっと、生涯忘れないだろう。
   額に青筋を立て、ギリリと歯を食いしばり、その瞳には溢れんばかりの殺意が籠っていたのだ。  

   ……後で、もう一頭の護衛のケンタウロス、ゲイロンに聞いた話なのだが、レズハンのお母さんは、ホムンクルスとリーラットの襲撃を受けた際に命を落としたらしい。
   里には他にも、奴らの襲撃で身内を失った者が多数いるという。
   だから……

「そうか……。なら、一緒に戦うかっ!? おいら達は仲間を助ける為、おまい達は敵である奴らを討つ為、協力して戦おうっ!!」

   カービィの言葉に、レズハンとゲイロンは迷わず頷いた。
   
   こうして俺たちは、ノリリアを助ける為、そして、心のない怪物と呼ばれるホムンクルスを倒す為に、フラスコの国へ向かう事を決めたのだった。

   その後俺たちは、急いでケンタウロスの里に戻った。
   族長のタインヘンに、共闘の申し入れをする為だ。 
   フラスコの国に潜んでいるホムンクルスの、その数は知れない……
   こちらの人数が多いに越した事はない、というわけだ。
   レズハンとカービィとマシコットの三人が、真っ直ぐに族長のテントへと向かった。
   
   その間俺は、ゲイロンの家だとかいう掘っ建て小屋で、ニベルーの小屋の中で見た物と、テジーの手帳の内容と、地下室で見た遺体の事などを、グレコとギンロとカナリーに、詳しく説明して聞かせた。
   途中、ホムンクルスの製造に関する難しい説明は、ほとんどカサチョに任せた。
   俺の化学的な説明だと、みんなには伝わらないだろうからね。

   一通り説明が終わった頃に、カービィとマシコット、レズハンが戻ってきて、族長から共闘の許可が下りたとの事だった。
   俺たちは立ち上がって、作戦会議が開かれる、里の広場へと向かった。





   ……かくして、フラスコの国に潜む、ホムンクルス殲滅計画が実行されようとしているわけなのだが。
   作戦会議と称した雄叫び合戦にて、これでもかってくらいにいきり立つケンタウロス達を、俺は冷やかな目で見つめていた。

   何が作戦会議だよ。
   ただ叫んでるだけじゃねぇかよ、こんにゃろめ。
   ちゃんと作戦立てろよ、馬鹿野郎め。

   心の中で、目の前の全てに悪態をつく俺。

   ……はい、皆さんの御想像通りですよ。
   俺、今、めちゃくちゃビビってますよ。

   え、何? なんなの??
   ホムンクルスとかいう化け物を、どうして俺が倒さなきゃならないの???
   
   確かにさ、ノリリア達の事は心配だよ?
   でもさ、俺なんかが行ってさ、どうにかなると思う??
   これまでの経験から考えても、足手まとい決定ですよ???

   なのにさ、なんで誰も、「危ないから、モッモはここに残って!」とか、「後の事はおいらに任せておけ!」とか、「我が安全な港町ニヴァまでモッモを連れて帰っておこうぞ!」とか、言ってくれないのかな……
   なんで俺も、共闘する前提なのぉおぉっ!?

   怖くて、悔しくて、腹立たしくて……
   プルプル、わなわなと震える俺。
   すると、そんな俺の肩を、誰かが優しくツンツンした。

「ホワァアッ!?!?」

   例によって、敏感過ぎる体質の為に、かなり過剰な反応をしてしまう俺。

「ご!? ごめん!?? そんな驚くと思わなくて……」

   恐る恐る振り返ると、そこには白髪に赤目の少年、メラーニアが立っていた。
       
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,023pt お気に入り:12,202

可愛いあの子は溺愛されるのがお約束

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:205pt お気に入り:6,818

俺の初恋幼馴染は、漢前な公爵令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,812pt お気に入り:289

はい、私がヴェロニカです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:36,068pt お気に入り:946

いつから魔力がないと錯覚していた!?

BL / 連載中 24h.ポイント:23,983pt お気に入り:10,506

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:30,082pt お気に入り:35,186

ゆとりある生活を異世界で

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:3,810

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:92,008pt お気に入り:29,897

処理中です...