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★寄り道・魔法王国フーガ編★

461:釣り勝負

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「絶好の釣り日和であるな」

   晴天の空の下、釣竿を持ったギンロが似合わない事を口走る。

「でもなぁ……、あぁ~、全然釣れねぇ~なぁ~」

   前回同様、堪え性のないカービィは、開始数分で匙を投げかけていた。

「釣りは持久戦だよ。それに……、分かってる? これは勝負なんだからねっ!?」

   海面に垂れ下がる釣り糸の先を凝視しながら、俺はそう言った。

「モッモ殿の言う通りでござるよ、カビやん。釣りは己との戦いでござる。心を鎮め、ひたすらに待つ……。ぐぅ……。おっと!? 寝そうでござった!!」

   相も変わらず、独特の傘帽子を被るマイペースなカサチョも、この釣り勝負に参加していた。

   トガの月、30日。   
   朝日が昇ると同時に、白薔薇の騎士団及びモッモ様御一行を乗せた商船タイニック号は、予定通り、ニベルー島の港町ニヴァを出港した。
   ロリアン島の港町ローレまでは、最速航路で二日間の船旅となる。
   例によって、昨晩は船出の宴が開かれたので、船員達の顔色はすこぶる良くない。
   それでも船は順調に、穏やかな海を進んでいた。

   出航数時間後。
   俺とカービィとカサチョとギンロの四人は、甲板で釣り勝負を始めた。
   何故急に、釣り勝負なのかと言うと……

   時は少々遡り、昨晩。
   学習能力のないダイル族達は、またもや盛大な宴を開いていた。
   勿論俺たち四人も、喜んで参加した。
   騎士団の皆も、探索調査が無事に終了した事に安堵して、お調子者のモーブを筆頭に、かなり盛り上がっていた。
   ただ一人ノリリアだけは、死人のような顔付きで、甲板の端の方で静かに酒を飲んでいた。
   無理もない、船に帰ってからというもの、部屋にずっとこもりっきりで、必死になって報告書をまとめていたのだから……

   宴が始まる前に、ノリリアから少しだけ話があった。
   今後のプロジェクトについてだ。

   まず、魔力が回復しないメイクイとポピーの二人は、ニベルー島を最後にプロジェクトを離脱、魔法王国フーガへと帰還する事となった。
   残念そうな表情で、しかし笑顔で別れの挨拶をする二人を前に、俺の目は終始ウルウルしていた。
   だけど二人共、魔力がないだけで体は元気そうだから、そこは少し安心した。

   そして、二人がフーガへと帰還する事によって、プロジェクトメンバーに欠員が出てしまう為に、ニベルー島の現地調査員であったカサチョがプロジェクトに残る事となった。
   正直俺は、カサチョが残る事に対する不安の方が大きかったが……
   外野の俺が口を出せるはずもないので、静観していた。

   メラーニアは、メイクイとポピーと共に、フーガへと向かう事になった。
   さすがに、一般人のメラーニアを、このままプロジェクトに同行させるわけにもいかず……

「魔法を学びたいのならフーガへ行くべきだ」

   騎士団の者達は、口を揃えてそう言った。

   フーガには魔法学校が四つある。
   王立ギルドの騎士団の紹介となれば、どこかに必ず入れるそうだ。
   忙しい中でもノリリアは、丁寧に推薦状を書き、メラーニアに渡していた。
   メラーニアとも、ここでお別れとなるわけだが……、きっとまたどこかで会えると思う。

   そしてそして、ニベルー島には、通信班のカナリーと、衛生班のエクリュの二人が残る事となった。
   理由は、ホムンクルスの城から救出した者たちの面倒をみる為だ。
   結局のところ、騎士団の活躍で、あの場に捕まっていた全ての者を外へと運び出せたものの、そのほとんどが後日、亡くなっていた。
   生き残ったのはたったの九名で、その者たちだけでもなんとか助けたいと、エクリュがノリリアに残留を申し出たのだ。
   エクリュはその見た目通り、とても優しい性格の持ち主だから、まだ完治していない彼らを残して島を去る事が出来なかったのだろう。
   その気持ちを尊重し、ノリリアはエクリュの残留を許可した。
   そして、治療が終わり次第プロジェクトに合流出来るようにと、通信班のカナリーもニベルー島に残す事にしたのだ。 
   カナリーは、ちょっぴり不服そうな顔をしていたものの、根が真面目だから、ノリリアの決定に逆らう事はしなかった。

   そしてそしてそして……、何故釣り勝負をする事になったのか、だが……
   宴の最中、ギンロがコックのダーラに、得意げに氷の花を見せていた時の事だ。

「まぁ!? 綺麗ねっ!! ギンロちゃんたら、そんな事も出来るのね、凄いわぁ~♪」

「ダーラ殿の為ならば、我はいつでも作って差し出すぞ」

   ダーラに褒められて、ギンロはだらしのない顔で、尻尾をブンブンと振り回していた。
   すると、軽く酔っ払ったカービィが……

「ダーラぁっ!? 可愛いおいらを構ってくれぇっ!!?」

   訳の分からない事を叫びながら、ダーラの胸に飛び込もうとしたのだ。
   寸手の所でギンロに阻止されて、カービィは悔しそうに奇声をあげていた。

「うふふふふ♪ カービィちゃんもギンロちゃんも、同じように可愛いわよ♪ それに……、新入りのカサチョちゃんも、可愛いわねぇ♪」

   なんて、ダーラが言うから……

「なにぃっ!? カサチョが可愛いだとぅっ!?? おいらの方が可愛いに決まってるぅっ!!!」

   とかなんとか、カービィが叫び始めて……

「いや~、ダーラ殿に褒められると、拙者も嬉しいでござるよ~♪」

   満更でもないらしいカサチョが、遠慮なく喜んで……

「カァッ!? いいのかモッモ!??」

「え? ……なんで僕に振るのさ??」

「おまいは可愛いの世界代表だろうがぁっ!? あんな化け猫にその座を奪われていいのかぁあっ!??」

「そんな事言われても……」

   その後はもう、カービィの絡み酒に付き合わされ、挙げ句の果てにはダーラが、「一番可愛い子には明日のデザートをサービスしてあげる♪」なんて言うもんだから、みんなやる気になっちゃって……

   で、今に至る。
   誰が一番可愛いか決めよう! となったのはいいけど、そもそも何を基準にすればいいのかわからず(ギンロもいるしね)、釣り勝負で決めるぞ!! となったのだ。
   まぁ……、もはや何を競っているのか、当の本人である俺たちもよく分かってない状況ではあるが……
   とりあえず、釣り勝負に勝った者が、ダーラに今晩のデザートをサービスしてもらえる事となったのである。

   ダーラのデザートは勿論食べたい、食べたいが……
   それを除いたとしても、俺は負けるわけにはいかない。
   何故なら俺は、世界で一番可愛らしい種族、ピグモルなのである!
   その誇りに懸けても、この勝負……、勝たねばならないっ!!

   釣竿を手に一人意気込んでいると、何やら妙な音が俺の耳に届いた。
   
「……ん? なんだ??」

   俺は音の出所を探す為、海面から目を離した。
   何か……、キーンという、飛行音だ。
   という事は、頭上からか?

   不意に視線を上へと向けると、西の空の彼方から、何かが此方に向かって、猛スピードで飛んできている姿が目に入った。

「なっ!? 何だあれっ!??」

   思わず大声を出し、西の空を指差す俺。
   ギンロ、カービィ、カサチョの三人が、同時に空を見上げた。
   近くにいた副船長のビッチェが、すぐさま望遠鏡を覗く。
   そして……

「なんだありゃ? に……、人形??」

   なぬっ!? 人形っ!??

   ビッチェの言葉通り、徐々に近付いてくるそれは、良く見える俺の目にも鮮明に映った。
   真っ赤なドレスに身を包んだ、真っ白なウサギの……、人形だ。
   
「あれは……、うっ!? うおぉっ!!? やべぇっ!?!?」

   望遠鏡を取り出して覗いていたカービィが叫ぶ。

「どうした? 敵か??」

   腰の双剣に手を掛けるギンロ。

「いや、敵じゃねぇんだがっ! カサチョ!! すぐにノリリア呼んで来いっ!!!」

   めちゃくちゃ慌てるカービィ。

「いったい、何なのでござるか?」

   マイペースなカサチョ。

「馬鹿っ! コニーちゃんだよっ!! フーガから飛ばしてきやがったんだ!!!」

「なっ!? 団長のっ!?? す、すぐに呼んでくるでござるぅっ!!!」

   血相を変えて、船内へと走っていくカサチョ。
   カービィはというと、口を変な形に開けたまま、アワアワとしている。

   なんだなんだ? いったい何なんだ??

   訳が分からずキョトンとしていると、その間にも空飛ぶウサギの人形は、ぐんぐんと船に近付いてきて……

「くっ……、駄目だ、間に合わねぇっ!? モッモ、ギンロ、耳塞げっ!!!」

   急いで望遠鏡をしまったカービィは、すぐさま自分の耳を頭に押し当てた。
   そのあまりの慌てっぷりに、只事ではないと悟った俺とギンロも、それぞれの耳を頭へと押し当てる。
   猛スピードで空を飛ぶウサギの人形は、遂に商船タイニック号の上空まで辿り着き、スーッと甲板に降りてきた。

   本当に……、人形だ。
   キルト生地っぽいので出来た、人形だ。
   だが、何だろうな?
   体は完全に人形のくせに、その雰囲気はまるで生き物のようだ。
   フーフーと荒く呼吸をし、そのお顔は何故だか怒りに満ちていて、生地であるはずの額には青筋らしきものが走っていた。

   突然の人形の来訪に、構えるダイル族と、どうしてだか分からないけど耳を塞ぐ俺たち三人。
   そして……

「ノォ~! リィ~!! リィ~!!! アァ~!!!! 出て来ぉいぃ~~~!!!!!」

   恐ろしい形相で大口を開き、耳をつんざくほどの馬鹿でかい声で、ウサギの人形は叫んだ。

   ぎゃああぁぁぁっ!?
   みっ、耳がぁあぁぁっ!??

   あまりに突然の出来事、あまりに予想外のその行動、そしてそのでか過ぎる声量に、俺は危うく失神しかける。
   耳を塞いでなかった周りのダイル族達は、みんな揃って軽く後ろへと転倒していた。

   なっ!? 
   ななっ!?? 
   なななっ!???

   なんだこの人形はぁあぁぁっ!?!??
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