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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★
592:熱帯魚
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翌日、トルテカの村の中央広場にて。
「精霊召喚師ミルクが命じる……、来たれっ! 水の精霊ウンディーネ!!」
少し変わった表紙の魔導書を開き、精霊を召喚する際に必要だという魔法陣のようなものを空中に発動させて、ミルクは叫んだ。
その手には【召喚石】と呼ばれる、瑪瑙石のようなウネウネとした模様のある宝玉のついた指輪をはめている。
なるほど、本来精霊を召喚する為には、あの召喚石と魔法陣が必要になるわけか。
……なら、俺のは何なんだ?
俺の場合、名前を叫べば出てきてくれるし、なんなら精霊が勝手に出てくる事もあるのだが??
「モッモとは随分違うやり方ね」
どう捉えればいいのか分からない言い方で、隣に立つグレコはそう言った。
無表情なので、褒められているのか貶されているのか、判断し難い。
「うむ。いかにも精霊召喚師らしいやり方である。これが正式な形なのであろう」
その言い方だと、絶対俺のことディスってるだろ、ギンロこの野郎め。
「精霊召喚師は、別名【精霊魔導師】とも呼ばれている。普通の魔導師が魔力を使って魔法を行使するのに対し、精霊魔導師は【霊力】によって精霊を召喚する。精霊魔導師は、所謂【召喚陣】を発動させ、鍵となる召喚石でもって、【精霊界】への扉を開くのであ~る」
詳しい解説をどうも、カービィくん。
ミルクを取囲む白薔薇の騎士団の面々、及び俺たち。
その外側では、紅竜人達が興味津々な顔でぐるりと円を成している。
そりゃ~、珍しいよな。
魔法すら存在しないこの島では、精霊召喚なんてこの機を逃したら一生見られないだろう。
まぁ……、俺も初めて見るんだけどね、うん。
「でも……、水の精霊っていえば、あいつよね? ほら、ギョギョギョギョ煩いあいつ……」
目を細め、口を尖らせてゼコゼコの真似をするグレコ。
やめなよその顔、不細工だよ?
「うむ、あやつであるな。あまり良い思い出はないが……」
両腕を胸の前で組み、渋い顔をするギンロ。
「あぁ! あの口のデカい魚かっ!? 確か……、ニベルーの小屋の地下にあった、緑色の腐った水を全部飲んでくれたんだよな? 確かに偉そうだったけど、ガッツはあると思うぞ!! なははははっ!!!」
まぉ、確かにガッツはあるよね、普通できないよあんな事。
けどさカービィ……、知らないと思うけど、この間奈落の泉に沈んだ時、あいつ勝手に居なくなったんだぜ?
俺は、ゼコゼコがどっかに行ったせいで、死霊溢れるあの黒い水の中で危うく溺れかかったのだ。
ちょっぴり分かり合えるかなって思った矢先のあれだったから、俺が傷付いたのなんのってもう……
出来れば、ゼコゼコにはしばらく会いたくない。
確実に暴言を吐いちゃうと思うから。
という事で、トルテカの村に畑を作る際の要となる井戸作り、その為の水脈探しは、病み上がりのミルクさんに任せる事にしたわけです。
今朝目が覚めると、ミルクは既に起きていて、ノリリアと何かを話し合っていた。
あれだけ濃い瘴気の中にいたというのに、プヨプヨの何かに守られていたミルクの体は、なんとも無かったらしい。
「良かったね!」と声を掛ける俺に対し、ミルクの視線は例によってライバル心メラメラなどぎついものだったけど……、どこか寂しげにも見えた。
そして朝食の後、ロビンズから井戸を掘る為に、精霊を召喚して水脈を探して欲しいと言われた俺は、ミルクにその話を持ち掛けた。
ミルクはかなり怪訝な顔をしていたが……、俺は今、ゼコゼコには会いたく無いのだ。
勿論そんな事はミルクには伝えてないが、ミルクは了承してくれた。
「最後くらい、役に立たないと……」と言って。
ミルクが作り出した召喚陣は、空中で青い光を放ちながら、ゆっくりと回転し始める。
そしてその中心から、丸い光の玉がポーンと飛び出てきた。
「似てるわね」
「うむ、同じだな」
「ぶふっ!? ……中身も同じだったりして?」
神妙な面持ちで見守る俺達。
なんだか見た事のあるその光の玉は、プワーンプワーンと宙に浮かびながら、ミルクの手の平へと着地して……
パシャンッ!
シャボン玉のように弾けた丸い光の玉。
その中から現れたのは、色鮮やかな尾びれを持った、艶やかな熱帯魚のような魚だ。
色っぽさすら感じられる美しいその姿に、俺達四人は……
「なっ!?」
「むむっ!?」
「なんとっ!?」
「はぁっ!?」
同時に衝撃を受けた。
なんでっ!? 全然違うっ!??
しかもめちゃくちゃ綺麗じゃないか!?!?
俺も……、俺もあの精霊がいいっ!!!
そして、三人の視線が俺へと向けられる。
三人とも、なんでミルクが召喚する水の精霊はあんなに美しいのに、お前のは偉そうで煩くて醜いんだ? と言いたげな顔で……
そんなの、俺が一番知りたいわっ!
『お呼びでしょうか? ご主人様』
熱帯魚の品のある静かな声に、俺達は開いた口が塞がらない。
「この周辺に水脈があるか探して欲しいの。出来る?」
『承知致しました』
ミルクの言葉に、ペコリとお辞儀をしてから、熱帯魚は青い光の粒となって消えた。
その数秒後、ミルクの足元の地面からプワーンプワーンと光の玉が再度現れて、熱帯魚が戻ってきた。
『見つけました。ここより少し東に、清らかな水の流れる地下水源がありました。ただ、地表より随分と下にありますので、人の力で掘り当てるのは不可能でしょう。土の精霊の力を借りるのがよろしいかと』
うわぁ……、なんって的確で、礼儀正しいのでございましょう。
うちのオコゼと同じ水の精霊だとは、全くもって思えませんわ。
「分かったわ。そこまで案内してくれる?」
『承知致しました』
空中を泳ぐように移動する熱帯魚の後を追うミルク。
周りのみんなもゾロゾロとそれに続くが、俺達四人は動けずにいた。
あんまりにも違ってて、あんまりにもショックで……
「ねぇモッモ。水の精霊、変えてもらえないの? 私、あの子がいいわ」
遠慮なくそう言ったのはグレコだ。
俺もさっき、同じ事考えてました、はい。
「あのように美しく、礼節を弁えた精霊ならば、さぞ扱い易かろうな……。モッモ、どうにかならんのか?」
ギンロも同意見らしい。
分かるよ、分かるよその気持ち、痛いほど分かるわ。
「けど、一度結んじまった契約は、簡単には破棄できないはずだぞ? 精霊も、一生仕えるつもりで召喚主を選んでいるはずだからな」
えぇっ!? そうなのっ!??
マジかぁあぁぁ~……
ん? でも待てよ……、契約だと??
「あの、さ……。僕、契約なんか結んだ覚え、無いんだけど……?」
そうだ、そうだよ。
俺の場合、何故だか精霊が助けに来てくれているだけで、契約を結んだとか、そういう難しい事は何にもしてないはず。
ほんと、みんな勝手に出てきたり、勝手に居なくなったり……
何がどうなってそうなってるのか、俺にもサッパリ分からないんですよ。
しかしながら、周りの反応は冷たくて……
グレコはやれやれといった様子で首を振り、歩いて行く。
ギンロも、ふーんと鼻から息を吐いて、グレコの後に続く。
カービィは……
「ま、一度召喚しちまった精霊を別の精霊に変えんのは無理だろうよ。モッモ、どんまいっ!」
ポンッ! と俺の肩に手を置いて、グレコとギンロの後を追った。
一人取り残される俺。
……なんなの? 俺にどうしろっていうのさ??
俺が好き好んであいつを召喚したわけじゃないんだけど???
モヤモヤとした気持ちのまま、眉間にシワを寄せて、あの不細工な魚面を思い出し、俺は憤慨していた。
「精霊召喚師ミルクが命じる……、来たれっ! 水の精霊ウンディーネ!!」
少し変わった表紙の魔導書を開き、精霊を召喚する際に必要だという魔法陣のようなものを空中に発動させて、ミルクは叫んだ。
その手には【召喚石】と呼ばれる、瑪瑙石のようなウネウネとした模様のある宝玉のついた指輪をはめている。
なるほど、本来精霊を召喚する為には、あの召喚石と魔法陣が必要になるわけか。
……なら、俺のは何なんだ?
俺の場合、名前を叫べば出てきてくれるし、なんなら精霊が勝手に出てくる事もあるのだが??
「モッモとは随分違うやり方ね」
どう捉えればいいのか分からない言い方で、隣に立つグレコはそう言った。
無表情なので、褒められているのか貶されているのか、判断し難い。
「うむ。いかにも精霊召喚師らしいやり方である。これが正式な形なのであろう」
その言い方だと、絶対俺のことディスってるだろ、ギンロこの野郎め。
「精霊召喚師は、別名【精霊魔導師】とも呼ばれている。普通の魔導師が魔力を使って魔法を行使するのに対し、精霊魔導師は【霊力】によって精霊を召喚する。精霊魔導師は、所謂【召喚陣】を発動させ、鍵となる召喚石でもって、【精霊界】への扉を開くのであ~る」
詳しい解説をどうも、カービィくん。
ミルクを取囲む白薔薇の騎士団の面々、及び俺たち。
その外側では、紅竜人達が興味津々な顔でぐるりと円を成している。
そりゃ~、珍しいよな。
魔法すら存在しないこの島では、精霊召喚なんてこの機を逃したら一生見られないだろう。
まぁ……、俺も初めて見るんだけどね、うん。
「でも……、水の精霊っていえば、あいつよね? ほら、ギョギョギョギョ煩いあいつ……」
目を細め、口を尖らせてゼコゼコの真似をするグレコ。
やめなよその顔、不細工だよ?
「うむ、あやつであるな。あまり良い思い出はないが……」
両腕を胸の前で組み、渋い顔をするギンロ。
「あぁ! あの口のデカい魚かっ!? 確か……、ニベルーの小屋の地下にあった、緑色の腐った水を全部飲んでくれたんだよな? 確かに偉そうだったけど、ガッツはあると思うぞ!! なははははっ!!!」
まぉ、確かにガッツはあるよね、普通できないよあんな事。
けどさカービィ……、知らないと思うけど、この間奈落の泉に沈んだ時、あいつ勝手に居なくなったんだぜ?
俺は、ゼコゼコがどっかに行ったせいで、死霊溢れるあの黒い水の中で危うく溺れかかったのだ。
ちょっぴり分かり合えるかなって思った矢先のあれだったから、俺が傷付いたのなんのってもう……
出来れば、ゼコゼコにはしばらく会いたくない。
確実に暴言を吐いちゃうと思うから。
という事で、トルテカの村に畑を作る際の要となる井戸作り、その為の水脈探しは、病み上がりのミルクさんに任せる事にしたわけです。
今朝目が覚めると、ミルクは既に起きていて、ノリリアと何かを話し合っていた。
あれだけ濃い瘴気の中にいたというのに、プヨプヨの何かに守られていたミルクの体は、なんとも無かったらしい。
「良かったね!」と声を掛ける俺に対し、ミルクの視線は例によってライバル心メラメラなどぎついものだったけど……、どこか寂しげにも見えた。
そして朝食の後、ロビンズから井戸を掘る為に、精霊を召喚して水脈を探して欲しいと言われた俺は、ミルクにその話を持ち掛けた。
ミルクはかなり怪訝な顔をしていたが……、俺は今、ゼコゼコには会いたく無いのだ。
勿論そんな事はミルクには伝えてないが、ミルクは了承してくれた。
「最後くらい、役に立たないと……」と言って。
ミルクが作り出した召喚陣は、空中で青い光を放ちながら、ゆっくりと回転し始める。
そしてその中心から、丸い光の玉がポーンと飛び出てきた。
「似てるわね」
「うむ、同じだな」
「ぶふっ!? ……中身も同じだったりして?」
神妙な面持ちで見守る俺達。
なんだか見た事のあるその光の玉は、プワーンプワーンと宙に浮かびながら、ミルクの手の平へと着地して……
パシャンッ!
シャボン玉のように弾けた丸い光の玉。
その中から現れたのは、色鮮やかな尾びれを持った、艶やかな熱帯魚のような魚だ。
色っぽさすら感じられる美しいその姿に、俺達四人は……
「なっ!?」
「むむっ!?」
「なんとっ!?」
「はぁっ!?」
同時に衝撃を受けた。
なんでっ!? 全然違うっ!??
しかもめちゃくちゃ綺麗じゃないか!?!?
俺も……、俺もあの精霊がいいっ!!!
そして、三人の視線が俺へと向けられる。
三人とも、なんでミルクが召喚する水の精霊はあんなに美しいのに、お前のは偉そうで煩くて醜いんだ? と言いたげな顔で……
そんなの、俺が一番知りたいわっ!
『お呼びでしょうか? ご主人様』
熱帯魚の品のある静かな声に、俺達は開いた口が塞がらない。
「この周辺に水脈があるか探して欲しいの。出来る?」
『承知致しました』
ミルクの言葉に、ペコリとお辞儀をしてから、熱帯魚は青い光の粒となって消えた。
その数秒後、ミルクの足元の地面からプワーンプワーンと光の玉が再度現れて、熱帯魚が戻ってきた。
『見つけました。ここより少し東に、清らかな水の流れる地下水源がありました。ただ、地表より随分と下にありますので、人の力で掘り当てるのは不可能でしょう。土の精霊の力を借りるのがよろしいかと』
うわぁ……、なんって的確で、礼儀正しいのでございましょう。
うちのオコゼと同じ水の精霊だとは、全くもって思えませんわ。
「分かったわ。そこまで案内してくれる?」
『承知致しました』
空中を泳ぐように移動する熱帯魚の後を追うミルク。
周りのみんなもゾロゾロとそれに続くが、俺達四人は動けずにいた。
あんまりにも違ってて、あんまりにもショックで……
「ねぇモッモ。水の精霊、変えてもらえないの? 私、あの子がいいわ」
遠慮なくそう言ったのはグレコだ。
俺もさっき、同じ事考えてました、はい。
「あのように美しく、礼節を弁えた精霊ならば、さぞ扱い易かろうな……。モッモ、どうにかならんのか?」
ギンロも同意見らしい。
分かるよ、分かるよその気持ち、痛いほど分かるわ。
「けど、一度結んじまった契約は、簡単には破棄できないはずだぞ? 精霊も、一生仕えるつもりで召喚主を選んでいるはずだからな」
えぇっ!? そうなのっ!??
マジかぁあぁぁ~……
ん? でも待てよ……、契約だと??
「あの、さ……。僕、契約なんか結んだ覚え、無いんだけど……?」
そうだ、そうだよ。
俺の場合、何故だか精霊が助けに来てくれているだけで、契約を結んだとか、そういう難しい事は何にもしてないはず。
ほんと、みんな勝手に出てきたり、勝手に居なくなったり……
何がどうなってそうなってるのか、俺にもサッパリ分からないんですよ。
しかしながら、周りの反応は冷たくて……
グレコはやれやれといった様子で首を振り、歩いて行く。
ギンロも、ふーんと鼻から息を吐いて、グレコの後に続く。
カービィは……
「ま、一度召喚しちまった精霊を別の精霊に変えんのは無理だろうよ。モッモ、どんまいっ!」
ポンッ! と俺の肩に手を置いて、グレコとギンロの後を追った。
一人取り残される俺。
……なんなの? 俺にどうしろっていうのさ??
俺が好き好んであいつを召喚したわけじゃないんだけど???
モヤモヤとした気持ちのまま、眉間にシワを寄せて、あの不細工な魚面を思い出し、俺は憤慨していた。
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