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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

701:先へ進まなくちゃっ!!!

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「はぁ、はぁ、急がないとっ!」

 森の中を走り抜け、一目散に村へ。

「何処にあるのか分かってるジェ!?」

 ポケットの中から、ゴラが問い掛ける。

「はぁ、はぁ、確信は、無いけど……。はぁ、たぶん、長老のとこだよ!」

 足を止めること無く、速度を落とすこと無く、俺は答えた。

 万呪の枝……、またの名を、自由の剣。
 現実世界では、俺が村を旅立つ前夜祭で、長老より賜ったものだ。
 村には武器庫も宝物庫もない。
 だから、あれがある場所は、長老の家以外に考えられない!

 程なくして村へと帰り着いた俺は、村で一番大きなテトーンの樹へと走っていく。
 この村で一番樹齢が長く、一番樹高が高い、ゴツゴツとした岩のような幹肌をした、非常に存在感のあるその樹に、長老の家は建っていた。

「モッモ、そんなに急いでどうしたんだ?」

「走ると疲れるぞ~」

 全速力で村を駆け抜ける俺に、不思議そうにこちらを見ているピグモル達が声を掛ける。
 だけど今は、返事をしている余裕がない!

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……、えぐっ、ぶっ!?」

 走り過ぎて、俺、吐きそう……

 なんとか長老の家があるテトーンの樹まで辿り着いた俺は、一旦足を止めて、両肩を大きく上下させながら、呼吸を整えようと立ち尽くす。

 夢の中だってのに、なんでこんなに息が切れるんだよっ!?
 夢なら夢らしく、体力や運動能力が底上げされててもいいじゃんかよっ!!?
 普通に苦しいわ、こんにゃろっ!!??

「どうしたんだよ、モッモ?」

 ん? 誰??

 不意に声を掛けられて振り向くと、そこには幼馴染のルールーが立っていた。
 それも、いつもとは違って、だらっとした服の着方をしており、かなり腑抜けた表情で……

「ルールーこそ……、ど、どうしたの?」

 あまりの変貌ぶりに、驚く俺。
 ルールーは、ピグモルにしては頭のキレる奴で、昔からその言動には感心されっぱなしであったが、ここ最近はテッチャに代わって、テトーンの樹の村を発展させる為のプロジェクトの代表を務めているほど、頼もしい奴なのだ。
 以前村に帰った際には、公用語であるヴァルディア語を完全にマスターしており、文字を書く事も出来るようになっていた。
 つまり、現実世界では、彼はとても真面目で、努力家で、働き者だったわけだが……
 この夢幻世界では、その事実も捻じ曲げられているらしい。
 
「ん~? 特にやる事もないからさ。散歩して、これから昼寝でもしよっかな~って」

 散歩して昼寝!?
 そんな馬鹿なっ!!?

 ルールーの言葉に、俺は眉間に皺を寄せた。

 ルールーはそんな奴じゃないっ!
 俺の夢の中とはいえ、改悪過ぎるわっ!!
 これはもう、一刻を争う事態である……
 こんな腑抜けたルールーを、俺は見ていたくない。
 さっさと万呪の枝を手に入れて、目を覚まさなければっ!!!

 俺はルールーを無視して、長老の家へと繋がる階段を駆け上がる。
 村一番のテトーンの樹は、それはそれは大きくて、一際高い位置に建てられた長老の家まで続く階段の段数も、他の樹にある家々とは桁違いに多い。
 全速力で森を走ってきた体で、この階段を駆け上がるのは少々堪えるが……、立ち止まってる暇はない!

 プルプルと震え出した太腿を宥めつつ、なんとか階段を上り切り、長老の家の玄関前へと辿り着く俺。
 遥か下の方には、不思議そうにこちらを見上げるピグモル達の、可愛らしい顔が沢山並んでいた。

 うわぁ……、全身汗でベチョベチョで、気持ち悪いったらありゃしない!
 これ、起きても汗かいていたりするのかねっ!?
 だとしたら最悪だねっ!!
 それにしても長老が……、あのヨボヨボな村で最高齢の長老が、毎日この階段を上り下りしているなんて……
 全く考えた事が無かったが、これってかなりの重労働じゃね?
 現実世界に戻って、封魔の塔を無事に全部攻略出来たなら、一度村に戻って助言しよう。
 長老の家は、もうちょい低い所に造っても良いと思いますよ、って!!!
 
 トントントン

 俺は、長老の家の玄関扉をノックした。
 ここへ来るのは、現実世界の、俺の15歳の誕生日以来である。
 なんだかちょっぴり、感慨深くなる俺。

 あの時はまだ、なぁ~んにも知らなくて、なぁ~んにも考えていなかった。
 だけどそれから、旅に出て……、沢山の仲間と出会って、数え切れないくらい、随分といろんな事があって……
 だから、俺はもう、戻れないんだ。
 それまでの、のんびりとした村の暮らしには、到底戻れない所まで、来てしまっているんだ。
 自分でも気付かないうちに……、もう、以前の俺には、戻れなくなっていたんだ!

「誰じゃ~?」

 長老の、緊張感の無いしゃがれた声がして、俺は大きく息を吸い込んだ。
 
「モッモです! 僕はこれから、旅に出ます!! だから僕に、自由の剣を、授けてくださいっ!!!」

 大きな声で、胸を張って、俺は叫んだ。

 もう、あの頃とは違うんだ。
 安全な村の中で、のほほんと生きていた、あの頃の俺とは違うんだよ!
 危険でも、大変でも……、苦しくても辛くても、俺は進んで行きたい!!
 いつしか俺は、自分でも気付かないうちに、旅をする事が好きになっていたんだ。
 大切な仲間と一緒に、笑ったり泣いたりしながら、毎日命懸けで旅をする事が……
 だから、戻れないんだ。
 戻ってなんかいられない、戻っていいわけないんだ。
 もっともっと、先へ進まなくちゃっ!!!

 すると、ガチャリと音がして、玄関扉がゆっくりと開かれていき……

「待っておったぞ、モッモ」

 そこには、シワシワの顔を更にシッワシワにして微笑む長老が立っていた。
 その手には、大きな葉に包まれた、なんて事ないただの木の棒を握り締めている。
 そしてそれは、決して熱くはない、激しく燃える真っ赤な炎を宿していた。
 
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