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★始まりの場所、テトーンの樹の村編★

8:そのような便利な者はいないんだよ

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「けど……。けど、僕なんかじゃ、そんな……。無理だよ! だって、ピグモルなのにっ!!」

 そう、俺はピグモルだ。
 この世界で最弱と言われる種族なのだ。

 幼い頃から、なんとか強くはなれないかと、俺なりに努力をしてきた。
 毎日、腹筋背筋腕立て伏せを千回ずつ!(あくまで目標ね)
 ランニングと称して、朝から日が暮れるまで意味なく村を周回!!(ずっと走ってはいられなかったけどね)
 いつか敵と戦うために、武術や剣術を身につける!!!(どっちも自己流ね)
 とまぁ、様々やってみたのだが……、どれも悉く残念な結果に終わった。
 筋トレをどれだけやっても、体のプニプニ感は変わらない。(そりゃそうさ、目標達成出来たこと無いし)
 戦う練習をしようものなら、手足が短いせいかなかなかバランスが取れず、思ったように体が動かない。(体型よりも、運動神経の問題かも……)
 つまり、雑魚キャラにも程がある!ってほどに、俺は何も出来ないのだ。

 俺でも出来る事、と言ったら……、せいぜい、小さな体を活かして物陰に隠れる事くらいだ。
 そんな俺が、村を救うなんて……
 ましてや、世界の均衡を保つ為に、旅に出るだなんて……、不可能中の不可能だろう。

 そもそもがだ、そんな事を頼むつもりだったなら、どうしてピグモルなんかに転生させたんだっ!?
 もっと他に、強そうな種族が居ただろうに。

(それに、異世界転生もののテンプレといえば、チート能力とかギフトとかガチャとか……、所謂神様からのご褒美みたいな、そういうのがあるもんじゃ無いのかっ!? なのに、俺には何にも無いぞっ!!? 何故だっ!?!?)

 もやもやもやと、心の中で考えていると……

 ん? お?? はっ!?
 そうだよ、いるじゃんっ!!? 
 世界を救えるやつっ!!??

 俺の頭にピコーン☆と、彼の存在が浮かび上がった。

「ねぇ! 勇者に頼めばいいんじゃないっ!?」

 そうだよ! そうだよそうだよっ!!
 何も、世界最弱の種族である俺が、世界の均衡の為に奮闘しなくてもいいじゃないか!?
 この世界には神様がいて、リーシェのような精霊がいて、俺のようなピグモルもいる。
 即ちここは、ゲームとかラノベの世界にありがちな、ファンタジーな世界に違いない。
 だとしたら、きっといるはずだ!!!
 世界を救う力を持つ、みんなのヒーロー勇者様!!!!

『生憎、そのような便利な者はいないんだよ』

 溜め息混じりの少年の言葉に、俺の中の勇者様象がガラガラと崩れ落ちる。

 な……、何故っ!?!??

『勇者っていうのはね、後から見れば勇者なのであって……。何の功績もない若者がいきなり、勇者だから世界を救います! なんて、現れるもんじゃないんだ。そういうのはね、お話の世界。現実にはあり得ないんだよ』

 まっ…… まじかぁ……

(なんか神様、今の物言いだと、昨今のラノベ界隈で流行っている様々な要素を、全否定した気がするけど……)

 えっ? なに?? 
 じゃあ、どうすればいいの???

『大丈夫。僕は、なにも君に、命を懸けて戦え! なんて言うつもりはないよ』

 小さくなってプルプルと震える俺を見て、さすがの自称神の少年も憐れに思ったのだろう、声色が優しくなった。

『僕が君にお願いしたいのは、あくまでも神々の動向を探ることだけだ。いわば偵察だね。神々に気付かれないように、こっそり様子を観察して、僕に報告してくれればいい。何も問題なければそれでいいし、問題があればその時はこちらで対処する。君自身が危険を冒して何かと戦ったり、何かから逃げたり、そんな事は全然しなくていい。ただ、旅をするピグモルとして、気楽に、楽しく、世界を見て回ってくれればいいんだよ』

 そう言って、出会ってから1番の笑顔でニッコリと笑った。

 あ……、な、なんだぁ~、そっかぁ~。
 それなら、できるかも……、うん、たぶん……

『そうは言っても、産まれてからずっと村で暮らしてきた君にとっては、ただ楽しく旅をしろって言われても困るよね。だからさ、いろいろと便利なアイテムを用意したんだ! っと、その前に……。産まれる前に君に授けた僕の力、封印を解いておくね』

 少年は、その大きな手のひらを俺の頭に優しく置いた。
 ゾワゾワっと、少年の手が触れた感触が広がる。
 そして、少年の手から、何か温かいものが流れ出てきて……

「ぬっ!? うおっ!?? うおおおおおぉぉっ!?!?」

 血が逆流するかのような、耐え難い衝撃が全身を貫く!
 勝手の手足がピクピク、鼻がヒクヒク、お尻の穴がキュキュッと閉まる!!
 瞼が高速で瞬きし、頭の中に次々と、とんでもない量の情報が流れ込んできた!!!

 あばばばばばばばっ!?
 おぼぼぼぼぼぼぼっ!??
 ふべべべべべべべべぇえぇぇ~~~!?!?

『よし! これでオッケ……、大丈夫かい?』

 白目を剥き、その場に立ち尽くす俺。

『ちょっと刺激が強かったかな? 封印が緩くて、少々前世の記憶が漏れ出ていたみたいだけど……。今完全に封印を解いたから、気分が落ち着いたら、いろいろクリアになるはずだよ』

 ニッコリと笑う少年。
 未だ白目のままの俺。

 今日は、なんていうか……
 厄日なのかも知れない……、ぐへっ。
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