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★始まりの場所、テトーンの樹の村編★

16:出会ったその夜に……!?

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 俺の顔程の大きさの石を拾い集め、地面に丸く並べて、四本の太い枝を斜めに立てかけて支柱にし、真ん中に小さめの鍋を吊るす。
 よく燃えそうな落ち葉に火打石で火をつけると、鍋の中では色とりどりの野菜とスープが躍る。
 煮立ったところで、自ら持参していたピグモルサイズの器によそってもらい、スプーンで一口ぱっくんちょ。

「おぉ……、美味しい!」

 目をキラキラと輝かせて、俺はそう言った。

「でしょ? 私、料理は得意なのよ♪」

 ふふんと、上機嫌に笑うグレコ。
 その笑顔が可愛くて、俺はまた鼻の穴を膨らませた。

 グレコが作ってくれた晩御飯は、前世のもので例えれば、ポトフによく似た料理だった。
 いくつか知っている野菜が入っているものの、香辛料というか、調味料が俺の知らないものばかりだ。
 村では作り出すことが不可能な、とても味わい深いその美味しさに、俺は感動していた。

 夕食後。
 グレコは、自身の荷物であるリュックの中から、簡易テントのような物を引っ張り出して、サッと地面に設置した。
 その手際の良さを見て、自分がいかに旅というものをなめていたかという事を思い知らされる俺。
 俺はテントなんて持ってないし、持っていたってきっと設置すらできないだろう、ははは……

 グレコのリュックは、さほど大きくはないが、やはり長旅になると予想していたのか、中身はギューギューだ。
 俺はというと……、神様に鞄を弄られたから、外側から見ただけでは分からないだろうけれど、弄られる前から既に、中身はスカスカだった。
 まぁ、最初はずるして、北の山々の聖地までいったけど神のお告げはありませんでした、という事にしておこうとか考えていたもんだから、旅をなめていたも何もないのだけどね、ほほほほ……

「モッモはどうするの? どこで寝るの??」

「あ、僕は……、樹の上で寝ます」

 樹上を指差して、俺はそう言った。

 テトーンの樹は非常に頑丈で、樹高の高い樹だ。
 その幹幅もさながら、そこから生え出る枝も、そんじょそこらの樹なんか比べ物にならないほど、しっかり、どっしりしている。
 故にピグモルは、テトーンの樹の上に、家を造る事が出来るのである。

 今ここにあるテトーンの樹は、俺の村にあるそれと比べると、かなり貧弱ではあるけれど……
 まぁ、俺が寝そべって寝返りをうっても落ちない程には、枝の幅も広い。
 多少高さはあるものの、一番下部にある枝でならば、間違って地面に落ちても、さほど痛くは無いだろう。
 ……できれば落ちたくは無いけどね。

「え? あんなところで寝るの?? ……大丈夫???」

 眉間に皺を寄せ、上を見上げるグレコ。

「あ、はい、たぶん……、大丈夫です」

 この大丈夫は、落ちても大丈夫、という意味である。

「そう? でも……。あっ! そうだ!! ねぇ、良ければ一緒に寝ない?? このテント、二人用だし……。それに、モッモは小さいから、きっと余裕よ」

 テントを指さし、ニコリと笑って、提案するグレコ。
 その申し出に、俺の心拍数が一気に跳ね上がった事実は、言うまでもないだろう。

 おぉ、マジかよ……、出会ったその夜に……!?

「い、いいんですか? ……ゴクリ」

「うん、いいよ♪」

 グレコの笑顔に、俺の心臓は破裂しそうなほどに、ドックンドックンと、大きく鼓動していた。








 ……朝が来た。
 (えっ!? もう朝かよっ!?? と思ったそこの君、残念だったな、うくくくく)

 シンとした森はまだ薄暗く、足元に生える草や低木の葉などの上の至る所で、朝露がキラキラと光っている。
 その朝露を一滴ずつ、丁寧に、皮袋に取り込む俺。
 焚き火はもう消えているが、魔獣除けの為と昨晩燃やしたテトーンの葉の残り香が、辺りをやんわりと包んでいる。

 グレコはまだ、テントの中で眠っている。
 ぐっすりと、眠っているはずだ。
 起き抜けに見た寝顔が、これまた美しく、まるで天使のようだった。
 出会ったその夜に一夜を共にするなんて、なんて大胆な子なんだ!? とか、昨夜は思っていたけど……

 テントに入るやいなや、相当疲れていたのか、ものの一分もしないうちにグレコは夢の中へ。
 護身用のためか、短剣を胸の上で握りしめてはいるものの、俺にしてみりゃ無防備以外の何ものでもなかった。
 しかし悲しい哉、俺は世界で最弱の種族ピグモル。
 体が小さければ、あそこも小さいし、おまけに気も小さい。
 ここで彼女を襲ってどうなる? 返り討ちにあって毛皮を剥がれるだけだ。
 けど、ちょっと触れるくらいなら? と思ったけれど、小指の先も、触れられなかった。
 つまり……、何も、無かった……
 
 朝露を溜めた皮袋の中を覗き込み、ふぅ~と息を吐く。

 そりゃまぁ、種族が違うから、どこをどう間違えたって相手にはされなかっただろうがね。
 けどさ、ほら……、女の子から一緒に寝ようなんて誘われたらさ、こう……、ドキドキするじゃない?

「はぁ~~~。不甲斐無い」

 大きな溜息を吐く俺。
 何とも言えない気分ではあるが、少しでもグレコに好かれたいので、せっせと朝ごはんの準備をする事にした。







「へ~、これがピグモルの朝ごはんなの? 結構美味しいわね!」

 良かった、お口に合ったようだ。
   グレコは、俺が作った朝ごはんを美味しそうに頬張って、可愛らしい笑顔を見せてくれた。

 村で採れるムギュという小麦のような穀物を粉にして、水と混ぜてこねて焼いたパン。
 それに、リリコの実と蜂蜜を混ぜて作ったジャムを塗っただけの、ただのジャムパンだ。
 リリコの実は、林檎とよく似た果物で、爽やかな酸味と甘味がある。
 大きさが俺のお尻程もあるから収穫が大変だが、育てやすくて沢山収穫できるし、いろんな加工が可能なので村では重宝している。

 グレコの隣で、同じようにジャムパンを頬張りながら、俺は考える。

 さて、今日からどうしよう?
 俺はまぁ、このまま南に向かって、村へ帰るつもりなのだが……
 グレコはどうするのだろうか??
 神の力を宿しし者を探して、南西へと、また旅をするのだろうか???

「あの、グレコさん」

「ん? グレコでいいわよ。あと、敬語もなしね」

「あ、はい。あ……、うん。あの、今日はその、どうするの? まだ南西に向かうんで……、向かうの??」

「そうねぇ……。正直ね、もういいかなぁ~って思ってるの。でもねぇ~」

「……でも?」

「昨日話したでしょ? 巫女様の言う事は絶対! なのよ。それなのに、神の力を宿しし者には会えませんでした~なんて、口が裂けても言えないしねぇ。帰ろうにも帰れないなぁ……」

 なるほど、なかなか厳しい境遇なのだな。

「モッモはどうするの? 家に……、村に帰る??」

「あ、は……、うん。たぶん、ここからずっと南に行けば村があるから、とりあえず歩こうかな~と」

「そっかぁ……。あ! じゃあさ、私もついて行っていい!?」

 おぉっ!?

「え!? あ……、うん。いいですよ……?」

 いいのか!?
 え、いいのかなっ!!?
 分からないけど……、ま、いっか!!??
 だって……、相手は可愛いエルフの女の子だしねっ!!!

「ほんと!? やったぁ~♪」

 ニコリと笑うグレコを見て、俺はまたしても鼻の穴を膨らませていた。

 こうして、思わずして、可愛らしいブラッドエルフの女の子、グレコが仲間になったのでした。

 チャラララ~ン♪
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