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★セシリアの森、エルフの隠れ里編★

53:栄えさせる

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「デタラッタ国ならば、我も聞いたことがある。アンローク大陸の北東に位置する、ドワーフ族の始祖が興しし大国。確か、金山と銀山の谷間に存在する、富に溢れた黄金郷だとか」

   おうっ! 黄金郷!?

「昔はそうじゃったみたいじゃが、今は少しばかり変わっておるの。ご先祖様方が、金山も銀山も掘り尽くしてしもうたでな、山はすっからかんじゃ。今は、鍛治職が国を支えておる。武器や防具、食器や装飾品に至るまで、ありとあらゆる鍛治加工品を取り扱っておるのぉ。まぁ、黄金郷と呼ばれていた時代よりも、今の方が国の財政も民の生活も豊かじゃがのっ! ガハハハッ!!」

   ほほう、なるほどなぁ。

「その、予言者の言葉って? 何を予言されたの?? さっき、モッモの村を栄えさせる、とか言っていたけど……???」

   うんうん、言っていたね。

   まぁ確かに、今のテトーンの樹の村は決して栄えているとは言えないだろう。
   だが、みんなそれなりに幸せに暮らしている。
   それをわざわざ、ドワーフの力を借りてまで栄えさせる必要もないんじゃないか?

「わしの国にはよく当たる予言者がおっての。国に降りかかる災害や災厄を、これまでに何度も予言し、国を救ってきた者じゃ。数年前、そやつが急に言い出したんじゃよ。次期国王が、時の神の使者の元へ参る夢を見た!    とな」

 夢? 夢は……、予言とは別ものなのでは??

「予言者が言うには、わしが時の神の使者を助け、使者の暮らす村を豊かにせねばならんらしい。じゃがまぁ、わしは予言は信じないタイプでの。実際、今の今まで全く信じとらんかったんじゃが……。さすがに、時空石の指輪を持つ者を目の前にすると、信じんわけにもいかんしのぉ」

   ほほう、そういうことだったのね。

「つまり、私の母様のお告げのようなものね……。けど、栄させるって何? 具体的には何をするつもりなの?? ピグモル達は、今でも充分幸せに暮らしていると思うけど???」

   グレコが小首を傾げながら俺を見る。
   どうやら、俺と同じ事を考えているようだ。

「まぁまぁ、何かを急に変えようなどとは、わしも思うておらん。じゃがなモッモ、自分の暮らす村が豊かになればいいと、皆が快適に、便利に暮らせれば良いと、そうは思うじゃろう?」

   うん……、まぁ、それは思うよね。
   こくんと頷く俺。

「ならば話は早い。確かにピグモル達は、今でも充分幸せじゃろうが……、わしなら、その幸せを何倍にも膨らませる! 便利且つ快適且つ楽しく、生活の質を高上させられるぞっ!! そうする事が、わしの使命じゃて!!! ……実はもう、少~しばかり策を考えておっての。どうじゃ、今からわしを、村に案内してくれんか?」

   お、おうよ……
 テッチャさん、何やらやる気満々ですね。
   なんか、ちょっぴり強引な気もするけど……、まぁいいか。







   テッチャの勢いに押されて、俺はテッチャを村へと案内した。
   案の定、初めて見るドワーフの姿に、村のピグモルたちは慌てふためく。
   しかし、守護神であるガディスがみんなを安心させてくれたおかげで、なんとかスムーズにテッチャを紹介できた。

   例によって、ピグモルの言葉はテッチャには通じないようだったが……

「ピグモルたちはおそらく、【古代アストレア語】を話しておるの。わしは専門家では無いでの、言葉の断片を理解する事しか出来んが……。失われた言語を話すとは、さすが【幻獣種族】じゃのぉ」

   と、テッチャは何やら納得していた。
   幻獣種族、という表現にはいささか疑問を覚えたが、質問する間もないくらいに、テッチャが村のいろんな事について尋ねてくるので、俺はそれに答えるのに必死だった。

「よぉ~し、だいたいは理解できた! しかしまぁ、思っていたよりもマシじゃな。モッモが頑張っていたおかげじゃよ」

   ガハハ! と笑うテッチャ。
 なんだかちょっぴり褒められて、良い気分になる俺。

「で、栄えさせるって、具体的には何をするつもりなの? 私とモッモは今から旅に出なきゃならないのよ。あなたのその、栄えさせるっていうのに付き合ってる時間はないわ」

   おうグレコ、ハッキリ言ってくれてありがとう!  
   俺もそれが言いたかったのだよ!!

「何? 旅に出るのか?? それはまた、予想外じゃが……。しかしまぁ、わしは旅には必要なかろう。あくまでもわしは、村を栄えさせよと予言されただけじゃからの」

「じゃあ……、テッチャはどうするの?」

「ふむ、そうじゃのう……。こういうのはどうじゃ? モッモたちが旅に出ている間に、わしはそこの小川で宝石を採掘し、外界に売り出して資金を得る。そして、旅から帰ってきたモッモに、その資金を渡す。モッモはその資金を持ってまた旅に出て、旅先で村の繁栄に役立ちそうなものを得て帰ってくる」

   おっ? おぉ~、なるほどぉ~!
   なんかそれ、結構良さそうな案だな!!

「さっき、体を洗うついでに川を見とったんじゃが、まぁ~素晴らしいのっ! パッと見ただけでも、あっちこっちにウルトラマリンサファイアの原石がゴロゴロ転がっておったわいっ!! あれだけの数となると、どれだけの儲けになるかのぉ~? ぐふふふふふっ!!!」

 めちゃくちゃ嫌らしく笑うテッチャの目は、儲けが命! って感じの……、そう、まるで守銭奴である。
 なんだかちょっと、不安になる俺。

「けど、私は正直言って、あなたのこと信用できないわ。モッモ、いいの? こんな、よく分からないドワーフを村に置いたまま、旅に出るなんて」

   うん、グレコ。
   君の言いたい事はよ~く理解出来るけどさ……
   そういうきつ~いセリフは、本人の前では言ってはいけないのだよ?
   あ~ほら見てよ、見るからにテッチャが凹んでるじゃないか。

「グレコ、心配には及ばん。もし仮に、こやつが怪しい動きをしようものなら、我がこの牙をもって死を与えようぞ」

   は~い、ガディス君!
   そういう脅し方は良くないよ~!?
   ほら見て!? テッチャ君がビビって漏らしそうな顔してるでしょぉっ!??

「ま、まぁまぁ二人とも。何もテッチャは、村をめちゃくちゃしようなんて言ってないんだから、ねっ? それに、テッチャの提案通り、旅の資金が賄えるなら……。自由に使えるお金が増えるのは、僕としては助かるかな。グレコの父ちゃんに当面の旅費は貰ったけど、さすがに、足りなくなったからまたください、とは言い辛いしね」

「え? そう?? モッモが言い辛いなら私が言うわよ」

   あ……、うん、そう……、ありがとグレコ。

「とっ、とにかくっ! 今日はもう遅いからさ!! そろそろ晩御飯にしないっ!? これからの事はさ、また明日にでも話そうよ!!! ねっ!??」

   なんとか無理くり話をまとめにかかる俺。

   腑に落ちなさそうなグレコ。
   未だテッチャを敵視するガディス。
   そんな二人にビビるテッチャ。

   なんかもう、あれだな……
   ややこしいなぁ~こいつらぁ~!
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