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★ピタラス諸島、後日譚★

774:答え合わせ

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 クロノス山……、通称、時無しの山。
 その頂きに程近い場所に存在する、小さな広場。
 白い岩に囲まれたここは、時の神が降臨する聖地。
 俺の旅が、始まった場所……
 そこに一人、俺は今、立っている。

「かっ! みっ!! さっ!!! まぁ~~~!!!! 神様ぁあぁぁ~~~~~!!!!!」

 真っ青な快晴の空に向かって、叫ぶ俺。
 すると一瞬、空の一部がグニャッと歪んだかと思うと、見覚えのある姿がパッとそこに現れた。
 その者は造作なく、スーッと空から降りてきて、俺の目の前に降り立った。

『やぁモッモ。今日はどうしたのかな?』

 にこやかに問い掛ける、白髪の美少年。
 見るからに高級な真っ白いローブを身に纏い、左目には時計の歯車のように絶えず回る機械仕掛けの眼帯を装着していている。
 彼は、俺の神様。
 俺をこの世界へと転生させ、自らの使者となり世界各地に散らばる神々の様子を見てくるようにと、俺に使命を課した張本人。
 全知全能の神の右腕であり、この世界の時を司るといわれている、時の神クロノシア・レアだ。
 
 俺は、鼻の穴を膨らませながら、大きく息を吸い込んだ。
 ドキドキと煩い心臓の音を感じながら、胸の前で、小さな羊皮紙の切れ端をギュッと抱き締める。

 今日こそは、必ず、聞き出してみせる……

「答え合わせに、来ました。神様! 僕に!! 真実を教えてくださいっ!!!」

 神様の目を真っ直ぐに見つめて、俺はそう言った。
 すると神様は、眼帯の付いていない、輝く金色をした右目を細め、俺の事をしみじみと見つめてから、静かに頷いた。








「あ~もぉ~……、考えていても埒があかないわっ! モッモ!! 今から聖地へ行って、クロノシア・レアに直接、聞いて来なさいっ!!!」

 グレコがそう言ったのは、ここへ来るほんの数分前の事。
 パロット学士から教授された古代アストレア王国の話、その復習……、アイビーが考える、これから俺が成すべき事、成さねばならぬ事などを、いろいろと話し合っていた時だった。

「時の神クロノシア・レアは、俗に言う【カオスの雲隠れ】の後に姿を現した、現世界に存在する最高位の神だと考えて間違いない。その証拠に、カオスの存在に影が差し始めた千年ほど前から、時の神クロノシア・レアの存在と、その使者達の存在が各地で認知され始めたんだよ。つまり、今のこの世界を支えているのは、時の神クロノシア・レアに他ならない」

 アストレア王国の事、そしてカオス神話に続き、アイビーは時の神クロノシア・レアについても、知っている事を話し始めたのだ。

 アイビー曰く、この現世界を創り上げた(整えた)のは絶対神カオスであるものの、今のこの世界を支えているのは、俺を使者として遣わしている時の神クロノシア・レアだという事だった。
 俗に、カオスの雲隠れと呼ばれるそれは、絶対神カオスの存在が、千年ほど前より各地の遺跡で確認出来なくなった事象の呼び名らしい。
 そして、世界各地の遺跡、又は国や地域の伝承などから読み解くに、千年ほど前に、時の神クロノシア・レアがこの世界に出現したというのだ。
 これらの現象を、カオスの雲隠れ……、又は【時の神の台頭】と、考古学界では呼ぶそうな。

「ユディンが言っていた事を覚えているかい? いずこに封印されているこの世界の創造神を探し出し、理を変えさせる……、それが恐らく、神代の悪霊を永遠に葬り去る方法なんだ。クトゥルーやその他の神代の悪霊達が、永年に渡ってこの世界で甦り続ける原因は、おそらくカオスが創り上げたこの世界の理にある。ユディンは、その理自体を変えて、神代の悪霊達が二度とこの世界に復活しないようにしようと考えたんだろう。しかしながら、それを実行するには、絶対神カオスの居所を探し出す必要がある。その役目を、調停者であるモッモ君が、担わなくてはならないんだよ」

 アイビーの説明は、分かり易いような、分かりにくいような……
 いやそもそも、ユディンが言っていた事を、俺は覚えていませんね、残念ながら、はい。
 
「思うんだけど……。調停者って、やらなければならない事が多過ぎないかしら? それをモッモが担うなんて……」

 絶対無理よ! って言いたげな顔で、俺を見つめるグレコ。

 うん、分かるよその気持ち。
 俺も今、全く同じ気持ちだからね……
 絶対無理よ! 俺にはようっ!!

「だけどよぉ~、雲隠れしたカオスの居所なんて、どうやって探すんだ? そもそも、存在するかどうかも曖昧なのに……?? それも、十二神王頼りかぁ???」

 カービィが問い掛ける。

「その可能性は大いに有り得るね。十二神王は、絶対神カオス自らが選んだ王達だ。即ち、カオスとの接点を持っている者達であるという事。絶対神カオスを探す為には、先に十二神王を探し出さなければならない……、という事さ」

 アイビーの答えに、今度はティカが問う。

「それは、予想か? 確かな、事か?? 妄想か???」

 最後の、妄想って言葉がパンチ効いてますね。
 これまでの話が、全てアイビーの妄想だとしたら……、かなりヤバいよ。

「確実性の高い予想、とでも言っておこうかな。確信は無いが、これまで僕が研究してきた事と、アーレイクの記憶を照らし合わせて考えてみると、時の神クロノシア・レアがモッモ君にさせようとしているのは、絶対神カオスの捜索……、その為の十二神王の捜索だと、僕は考えている。それを裏付けるように、ユディンも絶対神カオスの捜索を口にしていた。確信は無いが……、確実性は、非常に高いと思う」

 ふむ、つまり……、完全なるアイビーの妄想では無いのですね?
 なるほどなるほど………

 ……で、ここまで話してからの、先ほどのグレコの叫びである。
 アイビーの、確実性の高い予想が真実であり、俺が今後しなければならない事、その意味を、直接神様に聞いて来いと、グレコは叫んだのであ~る。

「んまぁ~、それが一番確実だろうなぁ~。事の発端は時の神なんだ、なんでも知ってらぁ~。けどそいつ、モッモがアーレイク・ピタラスの事を聞いても、全然教えてくんなかったんだろ? 聞いたところで、ちゃんと答えてくれんのかぁ~??」

 何度でも、神様を「そいつ」呼ばわりする、不届者カービィ。

「答えてくれないかも知れない……。けど、答えてくれるかも知れない。行く価値はあるんじゃないかな?」

 アイビーは、グレコの提案に賛成のようだ。

「答え、知るべき。旅の、目的、知るべき。行け」

 ティカも、グレコの提案に賛成のようだ。

「うむ、それが懸命であろう。それにモッモ、他にも神に聞くべき事が、沢山あるのではないか? お主の中にある、全ての疑問……、その答えを、時の神は知り得ているはずだ」

 ギンロも、グレコの提案に賛成のようだ。

 みんなの視線が俺に集まって、俺は口をキュッと結び、考える。
 そして……

「えっと……。行くのはいいんだけど……。何を聞けばいいのかな?」

 にへらと笑った俺に対し、グレコはプチ切れ顔になり、カービィは爆笑して、ティカは無表情のまま、ギンロは目を閉じて上を向いた。
 さすがのアイビーも、俺の余りの無能さに、頭を抱えていた。
 








『話が長くなりそうだね……。ここじゃなんだから、僕の部屋で話そうか』

 神様はそう言って、目の前の何も無い空間に、手で大きく円を描いた。
 するとそこには、最近見た事があるような無いような、光り輝く大きな玉が出現したではないか。

 ファッツッ!?
 今、何したの神様!??
 そして……、神様の部屋とはっ!?!?

『これに触れると、僕の部屋へと誘われる。モッモ、僕の後についておいで』

 光り輝く大きな玉に神様がそっと手を触れると、シュンッ! と音を立てて、神様は玉の中に吸い込まれてしまった。
 
 ほぉおぉぉっ!?
 なんじゃそりゃあっ!??
 不思議っ! 不思議玉っ!!

 初めて見る現象に、どうすればいいのかと、アタフタする俺。
 すると、玉の中から神様の声が聞こえてきて……

『さぁモッモ、君も此方へおいで。怖がらなくていいよ、大丈夫』

 優しいその声に、俺は生唾をゴクリと飲み込み覚悟を決める。
 ビクビクと怯えながらも、プルプルと震える手で、そっと、光り輝く大きな玉に触れてみた。

 シュンッ!

「……お? はっ!? こっ!?? …………ここは??」

 瞬きするほどの一瞬で、俺は別の場所へと移動していた。
 キョロキョロと、忙しなく辺りを見回す俺。
 そこには、これまで見た事の無い、不思議な光景が広がっていた。
 
 眩しいほどに真っ白な、果ての無い、広い空間。
 床は白い大理石で、頭上には天井がなく、白い雲が流れる青空が広がっている。
 そして、この空間には壁がなく、どこまでもどこまでも広がっていて……
 異質なのは、壁が無いのに、至る所に窓がある点だ。
 沢山の、いろんな形、いろんな大きさの窓が、無数に宙に浮かんでいて、そのどれもが違った景色に繋がっているのだ。
 草原、森、湖、海、川、町、のどかな村の風景、真っ暗な夜の町や、夕陽が射す灼熱の砂漠、火山や氷河の風景へと繋がる窓もある。
 そして、それらの景色は、決して偽物などではなさそうだ。
 窓の外から聞こえる音、生き物の気配、風の流れまでもが全て本物だと、俺には感じられた。
 
 いったい全体、何がどうなってんだ……?
 
 一番近くにある窓の外の景色を、食い入るように見つめる俺。
 小鳥達の囀が聞こえる森の中を、鹿に似た姿形の魔物の群れが、ゆっくりと歩いている。
 森の木々の香り、獣の匂い、鳥の鳴き声、風の音……、全てが、本物だ。

 すると、背後でギーッと何かを引き摺る音が聞こえて、俺は慌てて振り返った。
 そこには、先程までは無かったはずの、小さなテーブルと椅子が二脚現れていて……

「ようこそ、僕の神域 テリトリーへ。生身の生き物がここへ来たのは……、モッモ、君で二人目だよ」

 椅子をゆっくりと引きながら、神様が手招きをしている。
 その姿は、俺の知っている神様とは少し違っていて……
 いつもの高級な白いローブではなく、白いシャツに白いパンツといった、ごくごく普通の、カジュアルな服装だ。
 そして、いつもは機械仕掛けの眼帯を装着している為に見えなかった左目が、眼帯を外している為に顕になっているのだ。
 初めて見るその姿、その左目の瞳に、俺は戸惑う。

「神様? あなたは一体………、何者なんですか??」

 震える声で尋ねる俺に、神様はニコリと笑う。
 神様の左目、その瞳の色は、いつぞや見た事のある、輝く虹色をしていた。
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