上 下
152 / 796
★港町ジャネスコ編★

144:まるでジャガイモだ

しおりを挟む
   石化の呪いを受けて、体が固まってしまったルーリ・ビーを拾い集めること数十分。

「よしっ!  全部拾えたかなっ!?」

「うむ、もう残ってはおらぬようだな」

   辺りを見渡して、ふ~っと息を吐く俺とギンロ。
   ずっと屈んだ体制で拾っていたから、少し腰が痛い。

「じゃあ……、巣があった場所まで戻ろうか?」

「うむ、伝説の蜂蜜とやらを手に入れようぞ!」

「うん!  ……ねぇ、ちょっと味見とかしちゃう?」

「おお!  そうしようぞ!!」

   甘党のギンロは、俺の提案にぶんぶんと尻尾を振った。
   上機嫌な俺たち二人は、軽快に林の中を歩き、来た道を戻って行く。

   テクテクテク♪  サクサクサク♪

   途中から、甘~く美味しそうな香りが辺りに漂い始めて……

「あっ!  あそこだっ!!」

   見覚えのある大きな木を見つけて、走り出す俺とギンロ。
   ルーリ・ビーの、幻の蜂蜜がすぐそこにっ!
   俺たち二人は同時に、勢いよく木の根の間を覗いて、そこにある巨大な蜂の巣を捉えて満面の笑みに……、え、あっ!?

   ブブーン!!!

「ひぃっ!?」

「なんっ!?  離れろモッモ!!  ぐあぁっ!??」

「ギンロ!!  ぎゃっ!?  痛いぃっ!!!」

   突然の出来事に、パニックに陥る俺とギンロ。
   ルーリ・ビーの針が顔に刺さって、お互い悲鳴を上げた。

   なんと、巣にはまだかなりの数のルーリ・ビーが残っていたのだ。
   俺とギンロを目にしたルーリ・ビーは、途端に戦闘モードとなって襲い掛かって来た。
   そして、俺たちは逃げる間も無く奴らの針の餌食となって……

「ぬおぉっ!?  ぐおぉっ!??」

   魔法剣をめちゃくちゃに振り回すギンロ。

「やめてぇっ!  いぎっ!?   いったぁ~!??  くぅ、あっち行ってぇえぇ!!!」

   呪いをかける事すら忘れて、めちゃくちゃに万呪の枝を振り回す俺。

   なす術なく、やられるだけやられて、悲鳴を上げることしか出来ずに、体中ぶすぶすに針を刺されて……

   こうして、俺とギンロの冒険は幕を閉じたのだった。





「おぉ~、もっ……、モッモ?  えっ!??  どうしたんだおまいらっ!???」

「はっ!?   きゃあっ!!  ちょっ、ちょっと大丈夫なのっ!??」

   午後六時五十分。
   港町ジャネスコの北側、国営軍駐屯所内、ギルド出張所前のテーブルコーナーにて。
   先に帰っていた俺とギンロを目にし、カービィとグレコは目を見開いた。

「ちょっひょ、しくひっちゃっへね……」

   ちょっと、しくじっちゃってね、と言いたかった俺なのだが、いかんせん、顔中が腫れているので上手く話せない。

「ひんはいふるは。ほんはいはい」

   俺よりも面積が広い分、沢山刺されたギンロも、顔の原型が分からないほどに、顔面が腫れ上がっている。
   たぶん、心配するな、問題ない、と言いたかったのだろう。

「おいおいおいっ!?  医務室には行ったのかっ!??」

   カービィが、すぐさまスティクを取り出して、俺とギンロに白い光を浴びせ始める。
   こう、スーッと冷たくて、とても良い気持ちになる光だ。

「いっはんだへど、ほはにほじゅうひょうなひほがひて、あほまわひにさへたの」

   行ったんだけど、他に重傷者がいて、後回しにされたの、と伝える俺。
   駐屯所内には国営軍医療班の医務室が併設されていて、回復魔法を使える白魔道士や、外科的な手術を行う事ができる医師が常駐しているのだが、プラト・ジャコールを舐めてかかって返り討ちに遭った冒険者が数名いて、ベッドは満杯だったのだ。

   しかし、俺の言葉を聞き取れないカービィとグレコは、眉間に皺を寄せて首を傾げ、怪訝な顔をするだけだ。

「何をどうしたらこんなになるのよっ!?  何っ!??  プラト・ジャコールと戦ったんじゃないのっ!???」

   あまりに酷い有様の俺たちに向かって、グレコが怒り出す。
   顔中痛い上に、グレコに怒られたとなっちゃ、俺もギンロもシュンとなるしかない。

「とりあえず応急処置はした。鞄を宿屋に置いて来ちまったから、ちゃんとした手当は後でするからな!  それまで我慢するんだぞっ!!」

「あ~い」

「ふむ」

   あの時、巣に残っていたルーリ・ビーたちは、これでもか!  ってくらいに、俺とギンロを刺しまくった。
   不幸中の幸いか、ルーリ・ビーのお尻の針はかなり短くて、服や靴、手袋で隠れている部分は、刺されても特に問題なかったのだが……
   丸出しだった顔面は、完全に御陀仏となってしまった。
   このボコボコ具合、形だけ見るとまるでジャガイモだ。

   それでもなんとか、魔法剣と万呪の枝を振り回し、残っていたルーリ・ビーたちをやっつけて、俺たちは蜂の巣の採取に成功した。
   無数の針が刺さり、パンパンに腫れ上がって、ボコボコに波打つ俺とギンロの顔。
   お互いに、誰ですか?  って顔のまま、さすがにプラト・ジャコールの狩りを再開させる気にはなれずに、俺たちは予定より早く町へと帰って来たのだった。

「けど、これ見へ?  ほら、幻の蜂蜜、なんらよ??」

   カービィの治癒魔法で、多少なりとも腫れが引いたらしい、ちょっと発音がマシになる俺。
   鞄の中から、採取したばかりの蜂の巣の一部を取り出して、二人に見せる。

「おぉ、は……、蜂の巣??」

「きゃっ!?  気持ち悪いっ!!!」

   グレコが拒否反応を示すのも無理はない。
   俺の取り出した蜂の巣には、規則的に作られた六角形の穴が無数に空いており、そこには白い虫が沢山詰まっている。
   それは、ルーリ・ビーの幼体である。
   穴の中で、うにうにの、むにむにの、丸々と太った幼虫が、モニュモニュと蠢いているのだ。
   それらと蜜の詰まっている箇所を選り分けて採取する体力は、もはや俺とギンロにはなかった。
   なのでそのまま、バリッと根から剥がして、ボコっと持ち上げて、ポーイと鞄に入れたのだった。

「ルーリ・ビーと言う名のはひでな。たいへん珍しく、美味なのら!」

   同じく、少し腫れが引いたギンロが、嬉しそうにニカっと笑ってそう言った。

   折角だからと、採取したその場で味見したものの、顔中腫れ上がって熱を帯びた状態では、味はほとんど分からなかった。
   けれど、幻の蜂蜜を手に入れたという達成感からか、俺たちはボコボコの顔のまま、お互い微笑み合っていた。

「美味なのはいいけど……。ジャコールは?  ちゃんと狩れたの??」

   グレコの言葉に、ギンロは手に持った茶色い紙を広げて見せる。
   そこには、モントリア公国国営軍の紋章である判子と、ギルド専用のクエストクリアの判子が押されていて、いろいろと概要やら何やらの文章が連ねられた最後に、《モッモ、ギンロ、パーティー:七十三体》という文字が書かれている。

「おぉっ!?  七十三体もっ!??  頑張ったなおまいらっ!!!」

「すごぉ~いっ!  さすがギンロ!!」

   ……ねぇグレコ、俺の事も褒めてくれていいのよ?
   
「おいらたちは二十九体だ!  西側はやっぱり数が少なかったのと、思ったより冒険者が流れて来てな。まぁ、目標の百体は超えたわけだから、結果オーライだなっ!!」

   同じく茶色い紙を手に持って、ワッハッハッ!  と豪快に笑うカービィ。

「私とカービィだと、二人共戦闘スタイルが遠距離攻撃でしょ?  前で戦ってる奴らが邪魔でね、倒した奴も何匹か奪われたし……。まぁ、魔法弓の試し撃ちとしては、ちょうど良い戦闘だったわ!」

   ちょっぴり悔しそうだけど、それなりに満足気な表情でニコッと笑ったグレコ。

   兎にも角にも、俺たち四人は、目標であったプラト・ジャコール百体を倒し、合計報酬額122000センスを手に入れる事ができる!
   これで、拾い集めた石化したルーリ・ビーと、採取した幻の蜂蜜を、万物屋とかいう不思議な店に売りに行けば、もう少し手持ちが増えるはずだ!!
    何はともあれ、良かった良かった!!!

   ……と、胸を撫で下ろしたのも束の間。

「あら、皆さんお揃いね?」

   背後から声を掛けられて、なんだか嫌な予感がする~、と思いながらゆっくりと振り返ると……
   あ~やっぱり君かぁ……

   俺たちと同じように、茶色い紙を手に持ち、勝ち誇ったような笑みを浮かべたユティナと、ニコニコ顔のサカピョンが、そこに立っていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,108pt お気に入り:12,202

可愛いあの子は溺愛されるのがお約束

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:6,818

俺の初恋幼馴染は、漢前な公爵令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,726pt お気に入り:291

はい、私がヴェロニカです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:33,094pt お気に入り:946

いつから魔力がないと錯覚していた!?

BL / 連載中 24h.ポイント:20,746pt お気に入り:10,508

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:30,581pt お気に入り:35,192

ゆとりある生活を異世界で

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:3,810

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:66,477pt お気に入り:29,898

処理中です...