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★ピタラス諸島第二、コトコ島編★
266:ネフェとサリ
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「なるほど、島外の者であったか。どおりで変わった格好をしていると思えば……」
「お二人とも、とても素敵ね、姉様」
ネフェとサリは、俺たちの服装が変わっているというが、こちらからすれば、ネフェとサリの格好の方がとても変わって見える、……当たり前だが。
藍染のような濃い藍色の布地の衣服を身に纏い、薄い黄色の細い布でウエスト部分を縛っている、かなり簡単な作りの服装だ。
暑さの為か露出はやや多めで、にゅっと伸びた長く逞しい足と腕が、少々視線に困る悩ましい恰好ではあるが……
二人とも、丸みを帯びた白い石が連なった首飾りや耳飾り、ブレスレットなどをしていて、とてもお洒落さんである。
……だがしかし、背に背負っている巨大な鉈のような、白く鋭利な武器が、鬼族のなんたるかを全て物語っている気がする。
なんだかちょっと、刃は部分的に茶色くなっていて、血が乾いたような、鉄っぽい臭いがするしね。
「その特徴故、そなたがエルフ族である事は一目見てわかったが……、ピグモルという種族は初めて聞く」
穏やかな海を進みながら、ジロジロと俺を観察するネフェ。
美しいお顔が、俺をジーっと見ているもんだから、ドギマギドギマギ、モジモジモジ……
そ、そんなに、見ないで……、緊張しちゃう。
「姉様、モッモ様が怯えておいでよ」
「ん? そうか、すまぬ」
サリの言葉に、視線を前方へと戻すネフェ。
グレコは、俺たちがワコーディーン大陸から商船に乗ってここまで来た事や、自分がブラッドエルフという種族である事、俺がピグモルという種族である事などを、簡潔に、分かりやすく、二人に説明した。
ネフェたち鬼族の間には、どうやらピグモルの存在は知られてないらしい……
「私たちが住まうコトコ島の隣に、ニベルー島という大きな島がある。大昔は無人島だったと聞くが……、いつしか外界より様々な種族が島を訪れ、現在は賑やかな港町が形成されている。そして、その島の中でも、奥地に住まうエルフ族の者達は皆、そなたのような小さき獣を連れ歩いて居ると聞いた事があったのでな。……先ほどは済まなかった、そなたの事を、ペットなどと言ってしまって」
「あ、うん、いえ……、大丈夫です」
ネフェの謝罪に、俺は小さく会釈する。
非常食だと思っていた事の方を謝って欲しいが、まぁいいよ、美しいから。
それにしても……
ニベルー島にはエルフ族がいて、ピグモルとよく似た小さな獣を連れ歩いている、とな?
まさかそれ、本当にピグモルで、奴隷にされていた奴らの生き残り……、とかではないよね??
……ははは、まさかね、まさかまさか。
「さっき、シゾクって言ったかしら? ネフェとサリは、鬼族ではないの??」
「いや、その鬼族とやらで間違いないだろう。外界の者は我らをそう呼ぶ。しかし私たち自身は、自らを紫族と呼ぶのだ。鬼にも様々に種類がある故な」
「あ、そうなのね~」
グレコとネフェは、大層親しげに言葉を交わす。
まるで、昔っから友達だったかのように、二人とも穏やかな表情で、先ほどからずっと会話が弾んでいる。
ネフェの話では、ノリリアが言っていたように、鬼族は島の中央に位置するコニーデ火山より北の地に、その村を築いているそうだ。
西と東に分かれて二つある村は、それぞれの首長によって治められているとかなんとか……
しかし、当のネフェとサリはというと、父親の代からどちらの村にも住む事なく、島の最北端に位置する浜辺に小さな家を建てて暮らしているそうだ。
なぜそのような事を? と問いたかったが……、聞いてはいけない事かも知れないし、ネフェはグレコと話をしているのに俺が横やりを入れるのもあれなので、やめておいた。
今日、ネフェとサリが俺たちに出会ったのは、近くの小島まで買い物に出かけた帰りだったとか。
大時化を避けて迂回している際に、海の上に奇妙な黄色い物体(俺たちの乗ったガーガーちゃんですね)を見つけて、不審に思い近付いてきたそうだ。
普通、不審な物が海の上にあったら、近付かないようにするもんじゃないのか? とも思ったが……
相手はめっぽう強そうな鬼族のお二人なので、無用な心配だなと俺は思い直した。
二人が乗っている見た事のない生き物は、海馬と呼ばれる海獣だそうだ。
顔は馬に似ているのに、その胴体から下にあるのは足ではなく鰭だった。
なんていうかこう……、顔がお馬さんバージョンのネッシー、……みたいな?
とても力持ちらしく、ネフェやサリが跨っているその背には、荷物を載せる為の大きな箱型の鞍がつけられており、中には沢山の物が入っていた。
「コトコ島は、食物こそ豊富だが、便利な道具などはなくてな。我らはさほど物を作る事に長けておらぬ故、生活に必要な物はこうして近くの島まで買い出しに行くのだ」
「じゃあ、鬼族には貨幣を扱う文化があるのね?」
「あぁ。しかし、貨幣を使うようになったのはごく最近の話だ。それまでは……、あ~、誤解を招く言い方かも知れぬが……。コトコ島の南にある港町から、無理矢理に物資を頂戴していたと聞く」
無理矢理に、物資を頂戴?
そ、それは~……、つ、つまり~……
町を襲って物を奪っていた、と解釈してよろしくて??
「あぁ……、まぁ、昔の事でしょ?」
「そうだな。私が生まれる前の話だ」
「そっか……。いろいろあるよね、生きていこうと思えばさ」
「そういう事だ」
互いに、納得したように頷くグレコとネフェ。
……なるほど、二人の共通点がわかったぞ。
グレコは、おそらくネフェもだが、弱肉強食主義なのだ。
お互い、自分が生きていくためには、多少なりとも他者に犠牲が出ても仕方がない、と考えているわけだな、うんうん。
……くぅ、くそぉ~強者どもめぇ~!
襲われる側の気持ちにもなれってんだよぅっ!!
弱い者いじめ反対っ!!!
「まぁでも、ちゃんと話が通じる相手で良かったわ。私たち、てっきり鬼族はもっと野蛮で、会話すらまともに出来ないと思っていたから」
おおうっ!? グレコよっ!??
当の鬼族を前に、その発言はどうかと思うぞっ!???
と、実は内心ビビりまくりの俺を他所に、ネフェは……
「なっ……、ふっ、はっはっはっはっ! なかなかに肝が座っておる。グレコ、私はそなたが気に入ったぞ!! 今夜は私の家でゆっくりしてくれ!!!」
「あら、勿論そのつもりだったわよ? ふふふ♪」
何故だが上機嫌になったネフェは、大口開けて豪快に笑い、グレコもにっこりと微笑んだ。
……なんだかよく分からないけど、ここにグレコがいてくれて心底良かったと思う。
俺一人だったら、たとえ助けて貰えたとしても、こんな風に親しくなれたか怪しいからな。
恐るべし、グレコのコミュ力。
「あ、見えてきましたよ。あそこがコトコ島。我ら紫族の住まう島です」
サリの言葉に、俺とグレコは視線を前方に向ける。
「うっわ~……、本当に火山だ」
「あれが、火山……? 凄い、初めて見るわ」
その目に映る景色に、共に息を飲んだ。
太陽が西の地平線へと沈み始めたオレンジ色の空の下、悠然たる自然が、そこには広がっていた。
岩石の塊のような黒い島には、ところどころに木々が生えており、ノリリアが言っていたような、全く緑のない岩石地帯ではなさそうだ。
そして、小高い山の様な森の中に、一際目立つ存在が一つ……
島の中央に位置する場所にあるのは、頂上付近からモクモクと白い煙を上げている、巨大なコニーデ火山。
「ようこそ。火の山の島、コトコへ」
ネフェの言葉に、俺とグレコはごくりと生唾を飲んだ。
こうして、ピタラス諸島第二の島、コトコ島の冒険が今、始まったのであった!
「お二人とも、とても素敵ね、姉様」
ネフェとサリは、俺たちの服装が変わっているというが、こちらからすれば、ネフェとサリの格好の方がとても変わって見える、……当たり前だが。
藍染のような濃い藍色の布地の衣服を身に纏い、薄い黄色の細い布でウエスト部分を縛っている、かなり簡単な作りの服装だ。
暑さの為か露出はやや多めで、にゅっと伸びた長く逞しい足と腕が、少々視線に困る悩ましい恰好ではあるが……
二人とも、丸みを帯びた白い石が連なった首飾りや耳飾り、ブレスレットなどをしていて、とてもお洒落さんである。
……だがしかし、背に背負っている巨大な鉈のような、白く鋭利な武器が、鬼族のなんたるかを全て物語っている気がする。
なんだかちょっと、刃は部分的に茶色くなっていて、血が乾いたような、鉄っぽい臭いがするしね。
「その特徴故、そなたがエルフ族である事は一目見てわかったが……、ピグモルという種族は初めて聞く」
穏やかな海を進みながら、ジロジロと俺を観察するネフェ。
美しいお顔が、俺をジーっと見ているもんだから、ドギマギドギマギ、モジモジモジ……
そ、そんなに、見ないで……、緊張しちゃう。
「姉様、モッモ様が怯えておいでよ」
「ん? そうか、すまぬ」
サリの言葉に、視線を前方へと戻すネフェ。
グレコは、俺たちがワコーディーン大陸から商船に乗ってここまで来た事や、自分がブラッドエルフという種族である事、俺がピグモルという種族である事などを、簡潔に、分かりやすく、二人に説明した。
ネフェたち鬼族の間には、どうやらピグモルの存在は知られてないらしい……
「私たちが住まうコトコ島の隣に、ニベルー島という大きな島がある。大昔は無人島だったと聞くが……、いつしか外界より様々な種族が島を訪れ、現在は賑やかな港町が形成されている。そして、その島の中でも、奥地に住まうエルフ族の者達は皆、そなたのような小さき獣を連れ歩いて居ると聞いた事があったのでな。……先ほどは済まなかった、そなたの事を、ペットなどと言ってしまって」
「あ、うん、いえ……、大丈夫です」
ネフェの謝罪に、俺は小さく会釈する。
非常食だと思っていた事の方を謝って欲しいが、まぁいいよ、美しいから。
それにしても……
ニベルー島にはエルフ族がいて、ピグモルとよく似た小さな獣を連れ歩いている、とな?
まさかそれ、本当にピグモルで、奴隷にされていた奴らの生き残り……、とかではないよね??
……ははは、まさかね、まさかまさか。
「さっき、シゾクって言ったかしら? ネフェとサリは、鬼族ではないの??」
「いや、その鬼族とやらで間違いないだろう。外界の者は我らをそう呼ぶ。しかし私たち自身は、自らを紫族と呼ぶのだ。鬼にも様々に種類がある故な」
「あ、そうなのね~」
グレコとネフェは、大層親しげに言葉を交わす。
まるで、昔っから友達だったかのように、二人とも穏やかな表情で、先ほどからずっと会話が弾んでいる。
ネフェの話では、ノリリアが言っていたように、鬼族は島の中央に位置するコニーデ火山より北の地に、その村を築いているそうだ。
西と東に分かれて二つある村は、それぞれの首長によって治められているとかなんとか……
しかし、当のネフェとサリはというと、父親の代からどちらの村にも住む事なく、島の最北端に位置する浜辺に小さな家を建てて暮らしているそうだ。
なぜそのような事を? と問いたかったが……、聞いてはいけない事かも知れないし、ネフェはグレコと話をしているのに俺が横やりを入れるのもあれなので、やめておいた。
今日、ネフェとサリが俺たちに出会ったのは、近くの小島まで買い物に出かけた帰りだったとか。
大時化を避けて迂回している際に、海の上に奇妙な黄色い物体(俺たちの乗ったガーガーちゃんですね)を見つけて、不審に思い近付いてきたそうだ。
普通、不審な物が海の上にあったら、近付かないようにするもんじゃないのか? とも思ったが……
相手はめっぽう強そうな鬼族のお二人なので、無用な心配だなと俺は思い直した。
二人が乗っている見た事のない生き物は、海馬と呼ばれる海獣だそうだ。
顔は馬に似ているのに、その胴体から下にあるのは足ではなく鰭だった。
なんていうかこう……、顔がお馬さんバージョンのネッシー、……みたいな?
とても力持ちらしく、ネフェやサリが跨っているその背には、荷物を載せる為の大きな箱型の鞍がつけられており、中には沢山の物が入っていた。
「コトコ島は、食物こそ豊富だが、便利な道具などはなくてな。我らはさほど物を作る事に長けておらぬ故、生活に必要な物はこうして近くの島まで買い出しに行くのだ」
「じゃあ、鬼族には貨幣を扱う文化があるのね?」
「あぁ。しかし、貨幣を使うようになったのはごく最近の話だ。それまでは……、あ~、誤解を招く言い方かも知れぬが……。コトコ島の南にある港町から、無理矢理に物資を頂戴していたと聞く」
無理矢理に、物資を頂戴?
そ、それは~……、つ、つまり~……
町を襲って物を奪っていた、と解釈してよろしくて??
「あぁ……、まぁ、昔の事でしょ?」
「そうだな。私が生まれる前の話だ」
「そっか……。いろいろあるよね、生きていこうと思えばさ」
「そういう事だ」
互いに、納得したように頷くグレコとネフェ。
……なるほど、二人の共通点がわかったぞ。
グレコは、おそらくネフェもだが、弱肉強食主義なのだ。
お互い、自分が生きていくためには、多少なりとも他者に犠牲が出ても仕方がない、と考えているわけだな、うんうん。
……くぅ、くそぉ~強者どもめぇ~!
襲われる側の気持ちにもなれってんだよぅっ!!
弱い者いじめ反対っ!!!
「まぁでも、ちゃんと話が通じる相手で良かったわ。私たち、てっきり鬼族はもっと野蛮で、会話すらまともに出来ないと思っていたから」
おおうっ!? グレコよっ!??
当の鬼族を前に、その発言はどうかと思うぞっ!???
と、実は内心ビビりまくりの俺を他所に、ネフェは……
「なっ……、ふっ、はっはっはっはっ! なかなかに肝が座っておる。グレコ、私はそなたが気に入ったぞ!! 今夜は私の家でゆっくりしてくれ!!!」
「あら、勿論そのつもりだったわよ? ふふふ♪」
何故だが上機嫌になったネフェは、大口開けて豪快に笑い、グレコもにっこりと微笑んだ。
……なんだかよく分からないけど、ここにグレコがいてくれて心底良かったと思う。
俺一人だったら、たとえ助けて貰えたとしても、こんな風に親しくなれたか怪しいからな。
恐るべし、グレコのコミュ力。
「あ、見えてきましたよ。あそこがコトコ島。我ら紫族の住まう島です」
サリの言葉に、俺とグレコは視線を前方に向ける。
「うっわ~……、本当に火山だ」
「あれが、火山……? 凄い、初めて見るわ」
その目に映る景色に、共に息を飲んだ。
太陽が西の地平線へと沈み始めたオレンジ色の空の下、悠然たる自然が、そこには広がっていた。
岩石の塊のような黒い島には、ところどころに木々が生えており、ノリリアが言っていたような、全く緑のない岩石地帯ではなさそうだ。
そして、小高い山の様な森の中に、一際目立つ存在が一つ……
島の中央に位置する場所にあるのは、頂上付近からモクモクと白い煙を上げている、巨大なコニーデ火山。
「ようこそ。火の山の島、コトコへ」
ネフェの言葉に、俺とグレコはごくりと生唾を飲んだ。
こうして、ピタラス諸島第二の島、コトコ島の冒険が今、始まったのであった!
応援ありがとうございます!
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