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★ピタラス諸島第二、コトコ島編★
293:この先に何が?
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スタスタスタスタ
スタスタスタスタ
テテテテテテテテッ!
前を行く野草と砂里の後を、俺は必死で追う。
二人とも、とっても足が速いのだ。
あっちが早足なら、こっちは駆け足なのである。
ちょっ、マジで……、俺の足の長さを考えてっ!
君たちの一歩は、俺の三歩なんですよぉっ!?
暗い屋敷の中は、シーンと静まり返っている。
壁には例によって、いろんなお札が貼られていて、不気味極まりない。
たまに現れる別の部屋へと続く引き戸には、必ずといっていいほど、その取っ手部分に小さな鈴がぶら下げられている。
廊下には飾り物なのであろう、よくわからん絵や壺が置かれていたりするのだが……
それらが更に俺の恐怖心を煽ってくる。
お願いだから、絵とか壺から何も出てきませんよぉ~にっ!!!
しばらく歩いて行くと、一際頑丈そうな岩の扉の前についた。
木造の建物の中にいるというのに、何故ここだけは岩なんだ?
見るからに怪しいその扉は、何かの魔法陣のようなものが全面に描かれており、奇妙な水色の光を放っている。
……あれ? この魔法陣、どっかで見たような気がする。
どこだ?? どこで見たっけ???
歩みを止めた野草は、その扉に手のひらを向けて、静かに目を閉じた。
「信心道導……、解錠」
野草がそう呟くと、扉の魔法陣はスッと光を失った。
それを確認した野草が、くるりと俺たちに向き直る。
「よし。扉の封印は解いた。しかし、私はこの先には行けぬ。砂里、モッモ、そなたらだけで進め」
お、おう……
てか、この先に何が?
「ありがとうございます、野草様」
ぺこりと頭を下げる砂里。
そんな砂里を見て、野草の怖いお顔が一瞬緩んだことを、俺は見逃さなかった。
「葉津が亡くなり、更には義太まで亡くなって、それでも姉妹は村へ帰って来ぬと風の噂で聞いた時には、何を馬鹿な事をと思ったが……。どうやら、立派に成長したようだな」
まるで独り言のように、ポツリと零す野草。
砂里は、何か言葉を返そうとしたようだが……
「……行って参ります」
それだけ言って、目の前の岩の扉を力一杯押し開けた。
開かれた扉の先から、スーッと冷たい空気が流れ出る。
扉の向こう側は建物ではなく、洞窟のようだ。
ゴツゴツとした黒い岩の床と壁、そして空中を漂う無数の青い光の粒が、俺の目に映った。
「ここは……?」
「この先に、姫巫女様と志垣様がいらっしゃる神癒の間があるの。けど、そこまで行くには、この試練の洞窟を通らなきゃならない」
「しっ!? 試練の洞窟ぅっ!??」
何それっ!? 聞いてないしっ!!!
ここへ来ていきなりダンジョンっすかっ!?!?
戸惑う俺に対し、野草が説明する。
「案ずるなモッモ。この洞窟は一本道故、迷ったりはせぬ。しかし……。神癒の間は、選ばれし者しか入る事の出来ぬ聖域。そこへと続くこの洞窟もまた然り。故に、私はこの先へは行けぬ。しかしながらモッモよ、時の神の使者であるそなたは別だ。おそらく、この試練の洞窟も、そなたであれば認められようぞ」
ほうっ!? 本当だねそれはっ!??
「と、通してくれなかったら? 認められなかったら、どっ、どうなるのっ!?」
「……私の経験では、酷い頭痛と吐き気に襲われ、立っているのもやっとな状態になる。それでも進み続ければ、今度は四肢が全く動かなくなる。だが不思議な事に、もう無理だ、引き返そうと思った瞬間に、私の体は動いたのだ。そして、意識が朦朧としたまま、なんとかこの入り口まで戻る事が出来た。しかし……。その後五日間、私は床から起き上がる事すら出来なかった」
なんっ!? なんちゅう恐ろしいっ!??
「そっ!? そんなの……。さ、砂里は!?? 砂里は大丈夫なのっ!?!?」
「私は……。小さい頃に、何度か通った事があって……。一応、神癒の間まで行けていたの。だから……、たぶん、大丈夫」
おおぉっ!? えっ、砂里っていったい何者なんだっ!??
「じゃ、じゃあさっ! 砂里だけ行っておいでよ!! ここまで来ておいて無責任かも知れないけど、足手まといになったら悪いしさっ!!!」
この野草でさえも認めてもらえなくて、頭痛に吐き気に更には四肢の麻痺なんて……
そんな恐ろしい洞窟に、俺は入りたくないっ!
「それが……。この洞窟は、二人でないと駄目なの」
「えぇえっ!?」
何そのルール!?
「で、でも……。僕なんかじゃ……。え? じゃあ……、前は誰と一緒に入ってたの?? 袮笛???」
「それは……」
視線を落とし、黙る砂里。
砂里さんっ!? 君ちょっと、秘密が多過ぎやしないかいっ!??
「とにかく、この先に姫巫女様と志垣様はいらっしゃる。そして、この試練の洞窟は、選ばれし二人でしか通る事が出来ぬ。姫巫女様と志垣様がここから出てこられるのはいつになるやら分からぬ。志垣様に会う為には……。砂里と共に行くのは、モッモ、そなたしかおらぬ」
野草にピシャリと現実を突きつけられる俺。
そ……、そんな事言われても……
俺なんて……、認めてもらえない自信が120%もあるんですけど。
すると、躊躇する俺の耳に、思いもよらぬ声が聞こえた。
「モッモ~、モッモ聞こえるかぁ~?」
この場の雰囲気に全くそぐわない、間抜けな声。
耳元から聞こえるこれは……
「かっ!? カービィ!??」
突然大声を出した俺に対し、野草と砂里がビクッと体を震わせた。
「あ、すみません。ちょっと……」
二人に背を向けて、小声でコソコソと話す俺。
「何カービィ、今忙しいんだけどっ!?」
「いやぁ~。それがさ~、鬼達に捕まっちまって」
「知ってるよっ! 今助ける為に奮闘中!!」
「え? あ、そうだったのか! なははっ!! みんな捕まってるのに、おまいの姿が見当たらないってさっき気付いてさ。そっか、上手いこと逃げてんだな。さすがっ!!!」
……それ、褒めてる? 貶してる??
「じゃあ……。早く助けてくれ。グレコさんが危ない」
「え……、ぐっ、グレコがっ!?」
「うん。グレコさんも見当たらねぇな~って思って、周りの鬼達の話を盗み聞きしたんだが……。なんか、ネフェっていう鬼と一緒に、日の出と共に火炙りにされるそうなんだ。さすがにちょっと……、ヤバイかな~と」
出たな火炙りっ!?
てか、袮笛までっ!??
なんでっ!???
日の出って……、あとどれくらい時間あるのぉっ!?!??
「やっ!? それはヤバイよっ!!」
「だろ? いやまぁ、いざとなったらほら、みんなで魔力を」
「それもヤバイからやめてっ!」
村が無くなっちゃうっ!!
「え? お、おう……。でも、じゃあ……。おまい、なんとか出来るのか、モッモ?」
「うん。僕がなんとかするから……。だから、みんなでめちゃくちゃに魔力を放出するなんてクレイジーな事、絶対やっちゃ駄目だよっ!?」
「お、おうよ……。じゃあ……。任せたぞ、モッモ!」
「うん! みんな、必ず助けるからっ!!」
カービィとの交信を終えた俺は、フーンと大きく息を吐いた。
そして、野草と砂里に向き直って……
「行こう、砂里!」
先程までの恐怖心は何処へやら。
身体中からムクムクと、勇気がみなぎってくる。
グレコと袮笛を助けなきゃっ!
二人を助けられるのは俺だけだっ!!
試練の洞窟がなんだってんだ……、そんなもん、小走りで走り抜けてやりますよぉっ!!!
急にヤル気を出した俺の言葉に砂里は、一瞬キョトンとした顔をしたけれど、すぐにニッコリと笑って頷いた。
スタスタスタスタ
テテテテテテテテッ!
前を行く野草と砂里の後を、俺は必死で追う。
二人とも、とっても足が速いのだ。
あっちが早足なら、こっちは駆け足なのである。
ちょっ、マジで……、俺の足の長さを考えてっ!
君たちの一歩は、俺の三歩なんですよぉっ!?
暗い屋敷の中は、シーンと静まり返っている。
壁には例によって、いろんなお札が貼られていて、不気味極まりない。
たまに現れる別の部屋へと続く引き戸には、必ずといっていいほど、その取っ手部分に小さな鈴がぶら下げられている。
廊下には飾り物なのであろう、よくわからん絵や壺が置かれていたりするのだが……
それらが更に俺の恐怖心を煽ってくる。
お願いだから、絵とか壺から何も出てきませんよぉ~にっ!!!
しばらく歩いて行くと、一際頑丈そうな岩の扉の前についた。
木造の建物の中にいるというのに、何故ここだけは岩なんだ?
見るからに怪しいその扉は、何かの魔法陣のようなものが全面に描かれており、奇妙な水色の光を放っている。
……あれ? この魔法陣、どっかで見たような気がする。
どこだ?? どこで見たっけ???
歩みを止めた野草は、その扉に手のひらを向けて、静かに目を閉じた。
「信心道導……、解錠」
野草がそう呟くと、扉の魔法陣はスッと光を失った。
それを確認した野草が、くるりと俺たちに向き直る。
「よし。扉の封印は解いた。しかし、私はこの先には行けぬ。砂里、モッモ、そなたらだけで進め」
お、おう……
てか、この先に何が?
「ありがとうございます、野草様」
ぺこりと頭を下げる砂里。
そんな砂里を見て、野草の怖いお顔が一瞬緩んだことを、俺は見逃さなかった。
「葉津が亡くなり、更には義太まで亡くなって、それでも姉妹は村へ帰って来ぬと風の噂で聞いた時には、何を馬鹿な事をと思ったが……。どうやら、立派に成長したようだな」
まるで独り言のように、ポツリと零す野草。
砂里は、何か言葉を返そうとしたようだが……
「……行って参ります」
それだけ言って、目の前の岩の扉を力一杯押し開けた。
開かれた扉の先から、スーッと冷たい空気が流れ出る。
扉の向こう側は建物ではなく、洞窟のようだ。
ゴツゴツとした黒い岩の床と壁、そして空中を漂う無数の青い光の粒が、俺の目に映った。
「ここは……?」
「この先に、姫巫女様と志垣様がいらっしゃる神癒の間があるの。けど、そこまで行くには、この試練の洞窟を通らなきゃならない」
「しっ!? 試練の洞窟ぅっ!??」
何それっ!? 聞いてないしっ!!!
ここへ来ていきなりダンジョンっすかっ!?!?
戸惑う俺に対し、野草が説明する。
「案ずるなモッモ。この洞窟は一本道故、迷ったりはせぬ。しかし……。神癒の間は、選ばれし者しか入る事の出来ぬ聖域。そこへと続くこの洞窟もまた然り。故に、私はこの先へは行けぬ。しかしながらモッモよ、時の神の使者であるそなたは別だ。おそらく、この試練の洞窟も、そなたであれば認められようぞ」
ほうっ!? 本当だねそれはっ!??
「と、通してくれなかったら? 認められなかったら、どっ、どうなるのっ!?」
「……私の経験では、酷い頭痛と吐き気に襲われ、立っているのもやっとな状態になる。それでも進み続ければ、今度は四肢が全く動かなくなる。だが不思議な事に、もう無理だ、引き返そうと思った瞬間に、私の体は動いたのだ。そして、意識が朦朧としたまま、なんとかこの入り口まで戻る事が出来た。しかし……。その後五日間、私は床から起き上がる事すら出来なかった」
なんっ!? なんちゅう恐ろしいっ!??
「そっ!? そんなの……。さ、砂里は!?? 砂里は大丈夫なのっ!?!?」
「私は……。小さい頃に、何度か通った事があって……。一応、神癒の間まで行けていたの。だから……、たぶん、大丈夫」
おおぉっ!? えっ、砂里っていったい何者なんだっ!??
「じゃ、じゃあさっ! 砂里だけ行っておいでよ!! ここまで来ておいて無責任かも知れないけど、足手まといになったら悪いしさっ!!!」
この野草でさえも認めてもらえなくて、頭痛に吐き気に更には四肢の麻痺なんて……
そんな恐ろしい洞窟に、俺は入りたくないっ!
「それが……。この洞窟は、二人でないと駄目なの」
「えぇえっ!?」
何そのルール!?
「で、でも……。僕なんかじゃ……。え? じゃあ……、前は誰と一緒に入ってたの?? 袮笛???」
「それは……」
視線を落とし、黙る砂里。
砂里さんっ!? 君ちょっと、秘密が多過ぎやしないかいっ!??
「とにかく、この先に姫巫女様と志垣様はいらっしゃる。そして、この試練の洞窟は、選ばれし二人でしか通る事が出来ぬ。姫巫女様と志垣様がここから出てこられるのはいつになるやら分からぬ。志垣様に会う為には……。砂里と共に行くのは、モッモ、そなたしかおらぬ」
野草にピシャリと現実を突きつけられる俺。
そ……、そんな事言われても……
俺なんて……、認めてもらえない自信が120%もあるんですけど。
すると、躊躇する俺の耳に、思いもよらぬ声が聞こえた。
「モッモ~、モッモ聞こえるかぁ~?」
この場の雰囲気に全くそぐわない、間抜けな声。
耳元から聞こえるこれは……
「かっ!? カービィ!??」
突然大声を出した俺に対し、野草と砂里がビクッと体を震わせた。
「あ、すみません。ちょっと……」
二人に背を向けて、小声でコソコソと話す俺。
「何カービィ、今忙しいんだけどっ!?」
「いやぁ~。それがさ~、鬼達に捕まっちまって」
「知ってるよっ! 今助ける為に奮闘中!!」
「え? あ、そうだったのか! なははっ!! みんな捕まってるのに、おまいの姿が見当たらないってさっき気付いてさ。そっか、上手いこと逃げてんだな。さすがっ!!!」
……それ、褒めてる? 貶してる??
「じゃあ……。早く助けてくれ。グレコさんが危ない」
「え……、ぐっ、グレコがっ!?」
「うん。グレコさんも見当たらねぇな~って思って、周りの鬼達の話を盗み聞きしたんだが……。なんか、ネフェっていう鬼と一緒に、日の出と共に火炙りにされるそうなんだ。さすがにちょっと……、ヤバイかな~と」
出たな火炙りっ!?
てか、袮笛までっ!??
なんでっ!???
日の出って……、あとどれくらい時間あるのぉっ!?!??
「やっ!? それはヤバイよっ!!」
「だろ? いやまぁ、いざとなったらほら、みんなで魔力を」
「それもヤバイからやめてっ!」
村が無くなっちゃうっ!!
「え? お、おう……。でも、じゃあ……。おまい、なんとか出来るのか、モッモ?」
「うん。僕がなんとかするから……。だから、みんなでめちゃくちゃに魔力を放出するなんてクレイジーな事、絶対やっちゃ駄目だよっ!?」
「お、おうよ……。じゃあ……。任せたぞ、モッモ!」
「うん! みんな、必ず助けるからっ!!」
カービィとの交信を終えた俺は、フーンと大きく息を吐いた。
そして、野草と砂里に向き直って……
「行こう、砂里!」
先程までの恐怖心は何処へやら。
身体中からムクムクと、勇気がみなぎってくる。
グレコと袮笛を助けなきゃっ!
二人を助けられるのは俺だけだっ!!
試練の洞窟がなんだってんだ……、そんなもん、小走りで走り抜けてやりますよぉっ!!!
急にヤル気を出した俺の言葉に砂里は、一瞬キョトンとした顔をしたけれど、すぐにニッコリと笑って頷いた。
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