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4月
会話
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「ね?さっき誰かとバレー、久しぶりにできて楽しかった?」
ふふ、とあの頃の姿のままで多喜はそういった。中性的で綺麗な顔立ちが俺を見て蠱惑的に歪められる。
「ざんねーん!あれ?もしかして一瞬でも戻れるって思っちゃった?」
ゆっくりと近づいてきて俺の顔の目の前…ほんとにキスするんじゃないかくらいで立ち止まる。
「汚れたお前にバレーは応えないよ、ほらお前の居場所はもうあっち」
そう言って俺の背後を指さす。見たくないのに俺の意思とは関係なしに身体は後ろを振り返る。いつの間にいたのか…見知らぬ大勢の裸体の男達が俺を見てニヤニヤと笑っている。反射的に身体があの頃を思い出しカタカタと震え始める。少しでも離れたくなくて後ずさった時、
「大丈夫だよ。お前はあっちでもオールラウンダーになれるよ」
そうやって多喜が優しく微笑んで俺を突き飛ばした。
「やめろっ!嫌だっ!!……」
叫んだ瞬間、意識が覚醒して一気に現実に引き戻された。気分は最悪。でも現実じゃなくて、夢でほんとに良かったと安堵した。
「おい、大丈夫かよ」
「へ?」
いきなり聞こえてきた声。うえっと思って声の先を見つめるとそこには松葉慧の姿があった。
そこでふと気づく。あれ、俺さっきまでこの人と勝負してて。2本目でボールがいつも通り見えなくて顔面レシーブしたんだっけ。それでその後…え、どうしたっけ?。今気づいたらここにいて。
…あれ、自分の部屋じゃねぇ。周りを見渡してみて初めてここが自分の部屋じゃないことに気づいた。部屋の内装がそっくりだったし、ベッドも似てて全然気づかなかった。
「ここ、どこですか?てか、俺あのあとどうなりましたっけ」
「俺んち。お前はあの後ぶっ倒れて意識とばしてるから驚いたけどすぐに寝息が聞こえてきたから大丈夫だろうなと思って。部活中断してとりあえず連れてきた」
「あー、すみません。」
うーん、流石にちょっと申し訳ない。俺が先にぶつけたとはいえ部活の練習もストップさせて勝負して。結局俺ぶっ倒れて部活やめさせてるし、しかも家まで運んでもらってるし。
「別にここまで連れてきたことそこまで考えなくていー。それよりも」
松葉がぐいっと顔を近づけて俺の瞳を覗き込んだ。始めてこんな近くで見たものだからつい、まじまじと見てしまう。
目はアーモンド型でくっきり二重。カタチのいい鼻はすーっと筋が通ってて、唇は少し薄め?かな。全体的にはっきりとした顔立ちでいかにも夏のイケメンって感じ。そこでああ、そういえばこいつ高校バレー界の国宝級イケメンとか言われてたよなぁと思い出した。
「何で2本目手ぇ抜いたんだよ」
松葉の顔面事情を考えていたら、ふと声がして。慌ててその会話に集中する。こんな近くでしかも男の顔をかっこいいな、って思ってたなんてバレたら気持ち悪すぎる。いやイケメンだったら男でもかっこいいなくらい思うよね?。
と、その思考は置いといて。俺は自分が手を抜いたと思われていることに驚いた。
「手を抜いたというか、取れなかったんですけど」
「一本目と二本目だったら一本目のほうが上。それにあの程度お前が取れないわけがない。」
と即答。あの程度なんて簡単に言わないでほしい。全国トップのサーブなのに。
「買いかぶりすぎですよ。ほんとに取れなかったんです。ほら、わかりました?俺、ほんとにバレーやめたんですよ。今日公園にいたのはたまたま…アソビみたいなもんです」
アソビ…って自分で言ったくせに。自分でダメージ受けてて苦笑する。
その時、襟元を突然掴まれ揺さぶられた。
「ふざけんな!!!」
耳元で容赦なく怒鳴られる。正直この人が何を聞きたくて俺を問い詰めるのかわからない。俺に何を言わせたいんだよ。
「何に対して俺がふざけてると思うんですか」
「全部だ。今日たまたま公園にいた?嘘つけ。毎日毎日誰よりも早く来て一人でバレーしてる癖に。遊びって言う割にランニングからフットワーク、練習終わりのストレッチまで入念にする癖に。才能もそれについていく精神も体格も何もかも持ってるくせに何してんだよ!!」
またそのセリフ。才能も体格も全て持ってるのに、て。
「じゃあ聞きますか?俺がなんでバレーできないか」
自分でもこの話をするのは嫌なのに、驚くほど冷静に声が出た。松葉はそれに怯むことなく俺を掴む手は緩まない。
「俺が去年の全中、出れなかったのは知ってますか?」
「ああ」
「理由は?」
「スポーツマンシップに触れたから、だろ」
「そうです。俺が大会一週間前に練習サボって男と乱交してたからです。」
乱交、という言葉が予想外だったのか。松葉はその形の良い目を大きく見開いて固まった。
「それがチームメイトにバレて選手登録解除されました。これが事実です。俺にとってバレーは…そういうことの二の次になるような…そんなもんなんです。」
あー、終わったなと、そう思う。自分で言ったけどそれでも松葉のようないつか戦ってみたいと思っていた選手から幻滅されるのはすごい辛い。
松葉から来る非難の声を真っ向から受け止める自信がなくて下を向く。彼の鋭い目を見ていられない。
「それがバレーできない理由となんの関係があンの?」
「へ?」
「大会出れなかったのはそういう事ね、それはわかったよ。それで?なんでバレーしねぇの?…俺はさお前と選抜の時期被ったことないし地元も全然違うから知らねーけど、初めてお前のプレー見たときすげえなって純粋に思ったよ。なんか自由だなって。どんなに戦況が悪くてもお前一人だけ絶対諦めてなくて、チームメイトもそれに引っ張られて勢い取り戻してさ。お前みてると応援したくなって…凄い選手だなって思った、素直に」
「……」
「それなのに、なんでバレーしねぇの?」
つらつらとセリフを並べられて訳がわからなくなってくる。だけど、こんな真剣に俺を見てくれてた人なんだって分かって嬉しかった。乱れたことして汚れたことをしてたのにそれを抜きで考えくれたのは…なんかすっごい嬉しかったかも。だからこの人にならできない理由言ってもいいかなと思った。この短時間でどういう人かまではわからないけど、なんとなく。
「見えないんです、ボールが。」
「は?」
そりゃその反応だよなと、軽く笑ってしまう。俺は具体的にイメージしやすいように説明を付け足した。
「コートに入ってバレーしようとするとボールだけがくっきり見えなくなるんです。だからサーブもレシーブもスパイクもトスの時全てボールがふっと消えてしまうんです。」
「何いって…」
「病気じゃないです。去年のちょうど大会出れなかったときくらいから急に。医者からは精神的なものだからいつ治るかはわからないって言われました。」
「俺のサーブのとき一本目…見えてたじゃん」
「…一本目は見えてましたけど。二本目は普通に見えなかったです。あ、一人で練習するときとかは見えますけどね。」
俺がバレーできない理由…それ聞いて松葉先輩は黙ってしまった。これで引いてくれるといい。
「だから、先輩ももう俺に関わる理由なくなったでしょ?」
そう言って、先輩の手を力強く振り払った。ありがとうございましたと最後に行って出口へと向かう。靴を履いてガチャリと扉を開けたとき見覚えのある風景がめに入った。そして同時に嫌な予感が全身を覆う。
まさか、まさか違うよな。なんて思いながら先輩の部屋の隣の扉の標識を見た。
301じゃありませんように。って合格発表を待つ受験生みたいに数字をゆっくりと視線をスライドしながら見つめる。
301
俺の部屋も301、わぁ、偶然!、とはならない。
俺と先輩の部屋…隣だった。
ふふ、とあの頃の姿のままで多喜はそういった。中性的で綺麗な顔立ちが俺を見て蠱惑的に歪められる。
「ざんねーん!あれ?もしかして一瞬でも戻れるって思っちゃった?」
ゆっくりと近づいてきて俺の顔の目の前…ほんとにキスするんじゃないかくらいで立ち止まる。
「汚れたお前にバレーは応えないよ、ほらお前の居場所はもうあっち」
そう言って俺の背後を指さす。見たくないのに俺の意思とは関係なしに身体は後ろを振り返る。いつの間にいたのか…見知らぬ大勢の裸体の男達が俺を見てニヤニヤと笑っている。反射的に身体があの頃を思い出しカタカタと震え始める。少しでも離れたくなくて後ずさった時、
「大丈夫だよ。お前はあっちでもオールラウンダーになれるよ」
そうやって多喜が優しく微笑んで俺を突き飛ばした。
「やめろっ!嫌だっ!!……」
叫んだ瞬間、意識が覚醒して一気に現実に引き戻された。気分は最悪。でも現実じゃなくて、夢でほんとに良かったと安堵した。
「おい、大丈夫かよ」
「へ?」
いきなり聞こえてきた声。うえっと思って声の先を見つめるとそこには松葉慧の姿があった。
そこでふと気づく。あれ、俺さっきまでこの人と勝負してて。2本目でボールがいつも通り見えなくて顔面レシーブしたんだっけ。それでその後…え、どうしたっけ?。今気づいたらここにいて。
…あれ、自分の部屋じゃねぇ。周りを見渡してみて初めてここが自分の部屋じゃないことに気づいた。部屋の内装がそっくりだったし、ベッドも似てて全然気づかなかった。
「ここ、どこですか?てか、俺あのあとどうなりましたっけ」
「俺んち。お前はあの後ぶっ倒れて意識とばしてるから驚いたけどすぐに寝息が聞こえてきたから大丈夫だろうなと思って。部活中断してとりあえず連れてきた」
「あー、すみません。」
うーん、流石にちょっと申し訳ない。俺が先にぶつけたとはいえ部活の練習もストップさせて勝負して。結局俺ぶっ倒れて部活やめさせてるし、しかも家まで運んでもらってるし。
「別にここまで連れてきたことそこまで考えなくていー。それよりも」
松葉がぐいっと顔を近づけて俺の瞳を覗き込んだ。始めてこんな近くで見たものだからつい、まじまじと見てしまう。
目はアーモンド型でくっきり二重。カタチのいい鼻はすーっと筋が通ってて、唇は少し薄め?かな。全体的にはっきりとした顔立ちでいかにも夏のイケメンって感じ。そこでああ、そういえばこいつ高校バレー界の国宝級イケメンとか言われてたよなぁと思い出した。
「何で2本目手ぇ抜いたんだよ」
松葉の顔面事情を考えていたら、ふと声がして。慌ててその会話に集中する。こんな近くでしかも男の顔をかっこいいな、って思ってたなんてバレたら気持ち悪すぎる。いやイケメンだったら男でもかっこいいなくらい思うよね?。
と、その思考は置いといて。俺は自分が手を抜いたと思われていることに驚いた。
「手を抜いたというか、取れなかったんですけど」
「一本目と二本目だったら一本目のほうが上。それにあの程度お前が取れないわけがない。」
と即答。あの程度なんて簡単に言わないでほしい。全国トップのサーブなのに。
「買いかぶりすぎですよ。ほんとに取れなかったんです。ほら、わかりました?俺、ほんとにバレーやめたんですよ。今日公園にいたのはたまたま…アソビみたいなもんです」
アソビ…って自分で言ったくせに。自分でダメージ受けてて苦笑する。
その時、襟元を突然掴まれ揺さぶられた。
「ふざけんな!!!」
耳元で容赦なく怒鳴られる。正直この人が何を聞きたくて俺を問い詰めるのかわからない。俺に何を言わせたいんだよ。
「何に対して俺がふざけてると思うんですか」
「全部だ。今日たまたま公園にいた?嘘つけ。毎日毎日誰よりも早く来て一人でバレーしてる癖に。遊びって言う割にランニングからフットワーク、練習終わりのストレッチまで入念にする癖に。才能もそれについていく精神も体格も何もかも持ってるくせに何してんだよ!!」
またそのセリフ。才能も体格も全て持ってるのに、て。
「じゃあ聞きますか?俺がなんでバレーできないか」
自分でもこの話をするのは嫌なのに、驚くほど冷静に声が出た。松葉はそれに怯むことなく俺を掴む手は緩まない。
「俺が去年の全中、出れなかったのは知ってますか?」
「ああ」
「理由は?」
「スポーツマンシップに触れたから、だろ」
「そうです。俺が大会一週間前に練習サボって男と乱交してたからです。」
乱交、という言葉が予想外だったのか。松葉はその形の良い目を大きく見開いて固まった。
「それがチームメイトにバレて選手登録解除されました。これが事実です。俺にとってバレーは…そういうことの二の次になるような…そんなもんなんです。」
あー、終わったなと、そう思う。自分で言ったけどそれでも松葉のようないつか戦ってみたいと思っていた選手から幻滅されるのはすごい辛い。
松葉から来る非難の声を真っ向から受け止める自信がなくて下を向く。彼の鋭い目を見ていられない。
「それがバレーできない理由となんの関係があンの?」
「へ?」
「大会出れなかったのはそういう事ね、それはわかったよ。それで?なんでバレーしねぇの?…俺はさお前と選抜の時期被ったことないし地元も全然違うから知らねーけど、初めてお前のプレー見たときすげえなって純粋に思ったよ。なんか自由だなって。どんなに戦況が悪くてもお前一人だけ絶対諦めてなくて、チームメイトもそれに引っ張られて勢い取り戻してさ。お前みてると応援したくなって…凄い選手だなって思った、素直に」
「……」
「それなのに、なんでバレーしねぇの?」
つらつらとセリフを並べられて訳がわからなくなってくる。だけど、こんな真剣に俺を見てくれてた人なんだって分かって嬉しかった。乱れたことして汚れたことをしてたのにそれを抜きで考えくれたのは…なんかすっごい嬉しかったかも。だからこの人にならできない理由言ってもいいかなと思った。この短時間でどういう人かまではわからないけど、なんとなく。
「見えないんです、ボールが。」
「は?」
そりゃその反応だよなと、軽く笑ってしまう。俺は具体的にイメージしやすいように説明を付け足した。
「コートに入ってバレーしようとするとボールだけがくっきり見えなくなるんです。だからサーブもレシーブもスパイクもトスの時全てボールがふっと消えてしまうんです。」
「何いって…」
「病気じゃないです。去年のちょうど大会出れなかったときくらいから急に。医者からは精神的なものだからいつ治るかはわからないって言われました。」
「俺のサーブのとき一本目…見えてたじゃん」
「…一本目は見えてましたけど。二本目は普通に見えなかったです。あ、一人で練習するときとかは見えますけどね。」
俺がバレーできない理由…それ聞いて松葉先輩は黙ってしまった。これで引いてくれるといい。
「だから、先輩ももう俺に関わる理由なくなったでしょ?」
そう言って、先輩の手を力強く振り払った。ありがとうございましたと最後に行って出口へと向かう。靴を履いてガチャリと扉を開けたとき見覚えのある風景がめに入った。そして同時に嫌な予感が全身を覆う。
まさか、まさか違うよな。なんて思いながら先輩の部屋の隣の扉の標識を見た。
301じゃありませんように。って合格発表を待つ受験生みたいに数字をゆっくりと視線をスライドしながら見つめる。
301
俺の部屋も301、わぁ、偶然!、とはならない。
俺と先輩の部屋…隣だった。
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