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第1話 巻き込まれる
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早朝。
誠司は高校に行く準備を終えて家を出た。
高校から親元を離れ一人暮らしをしていた。
特に何も言わずに家を出る。
住んでいるのは、マンションの二階。
階段を降りて道路に出る。
(眠い……昨日アニメ見すぎたな)
誠司は歩きながらあくびをした。
アニメや漫画などが彼の趣味だ。
読みすぎて夜更かしすることは良くあった。
それ以外には特に趣味はない。
成績はそこそこ良い。
運動神経も悪くはないが、部活には入っていない。
顔は普通だが、コミュ力がないのであまりモテない。
何かで一位になることもなければ、最下位になることもない。
全く目立つことはなく17年間過ごしてきた。
それが新谷誠司という男だった。
その日も、何も起こることなく、高校に行き、帰った後アニメや漫画を見る。
そのはずだった。
通学中、同じ高校に通うの四人の男女グループを見かけた。
美男美女で、いかにもカースト上位という感じの風貌。
(えーと、確か隣のクラスの……なんだったけ?)
あまり交友関係の広くない誠司は、四人の名前を知らなかった。
「恋子! お前さぁ四組の倉田に告られったって? どうしたの?」
「ん? あー、あれね。断るに決まってんじゃん」
「えー? なんで~? 倉田くんって結構かっこよくない?」
「顔はまあまあだけど、馬鹿でしょあいつ。バカは嫌い」
「確かに倉田は馬鹿だけど、良いやつだぜ?」
会話声がうるさいなと、誠司は思ったが、咎めるほどではない。
どれだけうるさくても、注意したりする度胸は誠司にはなかった。
何も言わず四人の横を通り過ぎて高校に向かった。
すると、四人グループの男が、もう一人の男を軽く押す。
押された男がバランスを崩して、誠司に激突した。
「うおっ!!」
不意打ちを受けた誠司はよろめき転倒する。
「ご、ごめん!!」
心底申し訳なさそうな表情でぶつかった男子生徒が謝って、手を差し伸べてきた。
ぶつかられたことに多少腹は立ったものの、すぐに謝られたので怒り消え失せた。
誠司はその手を取る。
その直後、強い光が誠司たちの足元から発生した。
「へ?」
目が開けられないほどの強い光だった。
反射的に誠司は目を閉じる。
目を開けた時、景色が一変していた。
中世ヨーロッパの城の大広間のような場所。
大勢の異国人たち。
「は……?」
あまりの光景の変化に誠司は事態を飲み込めないでいた。
ここに来たのは誠司だけでなく、四人グループも一緒だったようだ。
同じく状況が飲み込めず困惑している。
「ようこそおいでいただきました! 救世主の皆様!!」
ローブを着た女性が嬉しそうな表情を浮かべそう言った。
明らかに外国人に見える風貌だが、日本語を喋っていた。
「すみません、困惑していらっしゃるご様子ですね」
困惑する誠司たちに、ローブの女がそう言い、状況の説明を始めた。
「あなたたちは、この世界の救世主になっていただくため、私たちが召喚させていただきました」
ローブの女はそんなことを言った。
(しょ、召喚? 救世主?)
誠司の頭には余計に疑問が増えていく。
「これだけではよく分かりませんか。詳しく説明しましょう」
その説明の内容をまとめるとこうだ。
・ここは日本とは違う別の異世界。
・邪神の復活、魔王の台頭、堕天使の降臨、古代文明の遺産の暴走など様々な問題が異世界には起こっている。
・既存の戦力では勝ち目がない。召喚魔法を使い、異世界から救世主を召喚しよう、という話になった。
(それで召喚されたのが俺たち……まさか……い、異世界転移って奴か?)
状況を説明されて誠司はそう思った。
アニメや漫画については詳しいので、説明を理解するのは早かった。
一緒に召喚された四人グループは、詳しくないのか、説明されても全くピンと来ていない様子だった。
(マ、マジ? ドッキリとかじゃないのか? 日本語喋ってるし。でも、明らかに別の場所に来てるし、瞬間移動したとしか思えない。そんなの魔法でも使わないと無理……)
改めて周囲の光景を見て、ドッキリか何かだという線は薄く、召喚されたということは本当である可能性が高いと誠司は思った。
「この場に召喚された皆様には、救世主様として素晴らしい能力が備わっているはずです。ぜひ我々に力を貸してください!」
物語としては楽しんでいた異世界召喚だが、自分が巻き込まれるとなると話は別。
戦って痛い目に遭うかもしれない。
そんなのはごめんだった。
元の世界に帰して欲しいと頼みたかったが、根が陰キャでビビりな誠司。
大勢の大人に囲まれた状況でまともに口を開くことはできず、黙って聞くことしかできなかった。
「いや、あの……よく分かんないんですけど、俺たち普通の高校生で……人違いじゃないんですか?」
おっかなびっくりという様子で、四人グループの男の一人がそう言った。
背の高いイケメンで、髪はショートカット。
いかにもスポーツが出来そうな見た目の男だ。
「召喚魔法に間違いはないはずです。元の世界では凡人だったということは、恐らく元の世界では能力の発芽ができない状態だったのでしょうが……一応、調べておきましょう」
質問を聞きローブの女はそう返答した。
その直後、ローブを着た若い男が女に近づき、何やら耳打ちする。
ローブの女が驚いたような表情を浮かべた。
何やら二人で話し合う。
しばらく会話したのち、男の方が後ろに下がった。
「どうやら手違いが発生したようです。召喚した救世主様は四人のはずなのに、ここには五人いらっしゃる。巻き込んで召喚してしまった方がいるようです……」
ローブの女は、かなりばつの悪そうな表情でそう言った。
その言葉を聞いた誠司は、
(……それって俺じゃないのか? この四人はグループで友達なんだろうけど、俺は知り合いですらないんだし)
と思った。
(もしかして、巻き込まれただけならすぐに帰れるのか?)
このまま戦うことなくすぐに帰れるかもしれないと、誠司は希望を持つ。
ローブの女が眼鏡を取り出し、それをかける。
誠司の目をじっくりと見つめた後、
「……あなただけ職業が救世主ではなく、生産魔術士……珍しい職業ではありますが、救世主ではない……どうやらあなたを巻き込んでしまったようですね」
と悲痛の表情を浮かべて呟いた。
「申し訳ありません。あなただけ少々こちらに来ていただきませんか? 事情は必ずあとで説明いたしますので」
「わ、分かりました」
あまり女性と喋るのに慣れていない誠司は、きょどりながらそう返答した。
「あの……俺だけ人違いだったって事ですよね? じゃあ、すぐに帰れるんですか?」
「いえ……」
女は首を横に振った。
「ここに召喚されたら最後、もう元の世界に戻ることは決して出来ません」
無情にも女はそう告げた。
「……え?」
蒼白な表情を誠司は浮かべた。
「帰れないって……じょ、冗談ですよね?」
「残念ながら冗談ではありません……詳しい説明はのちほど行うますので、しばらくこちらにいてください」
誠司は大広間の隅の方へと連れて行かれた。その場所でしばらく放置されることに。
その後、何やら髭を蓄えた偉そうな人が四人グループの前で演説をしたり、剣や弓などの贈り物をもらって困惑している様子などを、部屋の隅から黙ってみていることしか出来なかった。
(帰れないってのはマジなのか? しかも、手違いで連れてこられた。……まさか、見知らぬ土地で一人で生きて行けとか言われないよな?)
誠司は嫌な予感を感じていた。
巻き込まれて転移した後、理不尽にも追い出される、みたいな流れになりかねない。
異世界物のお話では、それでもチートスキルに目覚め無双、みたいなのがお決まりのパターンだ。
だが、これは現実。
都合よく物事が運ぶとは、誠司は思えなかった。
これからどうなるのか、不安な気持ちで誠司はいっぱいだった。
戦わされるのも嫌だが、見知らぬ土地で野垂れ死ぬ寄りかは、全然マシだ。
考えていると、先ほどのローブの女に話しかけられた。
「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。お約束通り説明いたしますが、先に行っておきますと、あなたを元の世界に帰せないというのは、本当の話です。あなたを別の世界に送るということは可能なのですが、元の世界をピンポイントで選んで戻すことは不可能なのです」
やはり元の世界に帰れないというのは間違いないようだ。
誠司はがっくりと肩を落とす。
「俺はこれからどうなるんですか?」
「それは現在協議中です。明日には決定すると思われます。決まるまでこの城にてお過ごしいただきます」
「そ、そうですか……」
「他に質問はありますか?」
「ありません」
誠司は力なく首を横に振った。
本当はローブ女の名前とか、この世界には魔法とかがあるのかとか、さっき言ってた職業って何なのかとか、色々聞きたいことはあった。
だが、今は聞く気力がなかった。
一人になって、心を落ち着ける時間が欲しいと思った。
「かしこまりました。それではお過ごしいただくお部屋へとご案内いたします」
○
翌日。
誠司はふかふかのベッドで目を覚ました。
泊まることになった部屋は質が良かった。広くてベッドの質もいい。枕もふわふわ。精神状態は最悪だが、眠ることはできた。
このまま城で過ごし続けるのもありかもしれない。誠司がそんなことを思っていると、コンコンと部屋がノックされた。
「入っていいですよ」と誠司が言うと、「失礼します」と言って執事が部屋に入ってきた。
「国王陛下がお呼びです。ご案内いたします」
そう言った。
(こ、国王陛下? 俺の処遇が決まったから、国王が直々に言ってくるのか? それともほかに何か言うことでも出来たのか?)
誠司は不安な気持ちを抱えながら、執事についていく。
連れていかれたのは、昨日の大広間ではなく別の場所。
金の王座が置かれた部屋だった。
そこに立派な髭を蓄えた男がいる。
王冠をかぶっていた。国王だろう。
その隣にローブを着た女もいた。
「申し訳ない」
開口一番、国王は頭を下げてそう言った。
「わしはここファームート王国、第5代国王、プライス・ファームート5世である。此度救世主召喚の儀を行うよう命じたのは、このわしだ。全ての責はこのわしにある」
真剣に謝られて誠司は少し困惑した。
冷静に考えると謝られて当然の立場ではある。だが、まさか国王が謝ってくるとは想定していなかった。
「シータから説明があった通り、そなたを元の世界に戻すことは困難だ。そなたを別の世界に送ることは可能だが、どこか特定の世界に送るのは、技術的に困難なのだ」
シータとはローブの女の名だろうと誠司は判断する。
プライスの説明が本当であるかどうかはわからない。
ただ、嘘をつくと言うことは、元の世界に帰す気はないと言うことだ。
彼らを従わせる力がない以上、元の世界に戻ることはどっちにしろ不可能だった。
(戻れないなら……もう成り行きに身を任せるしかないってのか……)
そう思った誠司は、
「俺はこれから……どうなるんですか?」
恐る恐ると言う様子でそう尋ねた。
「昨日緊急で家臣たちと協議を重ねた。その結果」
プライスは少しだけ間を開けて、
「お詫びにそなたには領地を与えることとする」
と言った。
誠司は高校に行く準備を終えて家を出た。
高校から親元を離れ一人暮らしをしていた。
特に何も言わずに家を出る。
住んでいるのは、マンションの二階。
階段を降りて道路に出る。
(眠い……昨日アニメ見すぎたな)
誠司は歩きながらあくびをした。
アニメや漫画などが彼の趣味だ。
読みすぎて夜更かしすることは良くあった。
それ以外には特に趣味はない。
成績はそこそこ良い。
運動神経も悪くはないが、部活には入っていない。
顔は普通だが、コミュ力がないのであまりモテない。
何かで一位になることもなければ、最下位になることもない。
全く目立つことはなく17年間過ごしてきた。
それが新谷誠司という男だった。
その日も、何も起こることなく、高校に行き、帰った後アニメや漫画を見る。
そのはずだった。
通学中、同じ高校に通うの四人の男女グループを見かけた。
美男美女で、いかにもカースト上位という感じの風貌。
(えーと、確か隣のクラスの……なんだったけ?)
あまり交友関係の広くない誠司は、四人の名前を知らなかった。
「恋子! お前さぁ四組の倉田に告られったって? どうしたの?」
「ん? あー、あれね。断るに決まってんじゃん」
「えー? なんで~? 倉田くんって結構かっこよくない?」
「顔はまあまあだけど、馬鹿でしょあいつ。バカは嫌い」
「確かに倉田は馬鹿だけど、良いやつだぜ?」
会話声がうるさいなと、誠司は思ったが、咎めるほどではない。
どれだけうるさくても、注意したりする度胸は誠司にはなかった。
何も言わず四人の横を通り過ぎて高校に向かった。
すると、四人グループの男が、もう一人の男を軽く押す。
押された男がバランスを崩して、誠司に激突した。
「うおっ!!」
不意打ちを受けた誠司はよろめき転倒する。
「ご、ごめん!!」
心底申し訳なさそうな表情でぶつかった男子生徒が謝って、手を差し伸べてきた。
ぶつかられたことに多少腹は立ったものの、すぐに謝られたので怒り消え失せた。
誠司はその手を取る。
その直後、強い光が誠司たちの足元から発生した。
「へ?」
目が開けられないほどの強い光だった。
反射的に誠司は目を閉じる。
目を開けた時、景色が一変していた。
中世ヨーロッパの城の大広間のような場所。
大勢の異国人たち。
「は……?」
あまりの光景の変化に誠司は事態を飲み込めないでいた。
ここに来たのは誠司だけでなく、四人グループも一緒だったようだ。
同じく状況が飲み込めず困惑している。
「ようこそおいでいただきました! 救世主の皆様!!」
ローブを着た女性が嬉しそうな表情を浮かべそう言った。
明らかに外国人に見える風貌だが、日本語を喋っていた。
「すみません、困惑していらっしゃるご様子ですね」
困惑する誠司たちに、ローブの女がそう言い、状況の説明を始めた。
「あなたたちは、この世界の救世主になっていただくため、私たちが召喚させていただきました」
ローブの女はそんなことを言った。
(しょ、召喚? 救世主?)
誠司の頭には余計に疑問が増えていく。
「これだけではよく分かりませんか。詳しく説明しましょう」
その説明の内容をまとめるとこうだ。
・ここは日本とは違う別の異世界。
・邪神の復活、魔王の台頭、堕天使の降臨、古代文明の遺産の暴走など様々な問題が異世界には起こっている。
・既存の戦力では勝ち目がない。召喚魔法を使い、異世界から救世主を召喚しよう、という話になった。
(それで召喚されたのが俺たち……まさか……い、異世界転移って奴か?)
状況を説明されて誠司はそう思った。
アニメや漫画については詳しいので、説明を理解するのは早かった。
一緒に召喚された四人グループは、詳しくないのか、説明されても全くピンと来ていない様子だった。
(マ、マジ? ドッキリとかじゃないのか? 日本語喋ってるし。でも、明らかに別の場所に来てるし、瞬間移動したとしか思えない。そんなの魔法でも使わないと無理……)
改めて周囲の光景を見て、ドッキリか何かだという線は薄く、召喚されたということは本当である可能性が高いと誠司は思った。
「この場に召喚された皆様には、救世主様として素晴らしい能力が備わっているはずです。ぜひ我々に力を貸してください!」
物語としては楽しんでいた異世界召喚だが、自分が巻き込まれるとなると話は別。
戦って痛い目に遭うかもしれない。
そんなのはごめんだった。
元の世界に帰して欲しいと頼みたかったが、根が陰キャでビビりな誠司。
大勢の大人に囲まれた状況でまともに口を開くことはできず、黙って聞くことしかできなかった。
「いや、あの……よく分かんないんですけど、俺たち普通の高校生で……人違いじゃないんですか?」
おっかなびっくりという様子で、四人グループの男の一人がそう言った。
背の高いイケメンで、髪はショートカット。
いかにもスポーツが出来そうな見た目の男だ。
「召喚魔法に間違いはないはずです。元の世界では凡人だったということは、恐らく元の世界では能力の発芽ができない状態だったのでしょうが……一応、調べておきましょう」
質問を聞きローブの女はそう返答した。
その直後、ローブを着た若い男が女に近づき、何やら耳打ちする。
ローブの女が驚いたような表情を浮かべた。
何やら二人で話し合う。
しばらく会話したのち、男の方が後ろに下がった。
「どうやら手違いが発生したようです。召喚した救世主様は四人のはずなのに、ここには五人いらっしゃる。巻き込んで召喚してしまった方がいるようです……」
ローブの女は、かなりばつの悪そうな表情でそう言った。
その言葉を聞いた誠司は、
(……それって俺じゃないのか? この四人はグループで友達なんだろうけど、俺は知り合いですらないんだし)
と思った。
(もしかして、巻き込まれただけならすぐに帰れるのか?)
このまま戦うことなくすぐに帰れるかもしれないと、誠司は希望を持つ。
ローブの女が眼鏡を取り出し、それをかける。
誠司の目をじっくりと見つめた後、
「……あなただけ職業が救世主ではなく、生産魔術士……珍しい職業ではありますが、救世主ではない……どうやらあなたを巻き込んでしまったようですね」
と悲痛の表情を浮かべて呟いた。
「申し訳ありません。あなただけ少々こちらに来ていただきませんか? 事情は必ずあとで説明いたしますので」
「わ、分かりました」
あまり女性と喋るのに慣れていない誠司は、きょどりながらそう返答した。
「あの……俺だけ人違いだったって事ですよね? じゃあ、すぐに帰れるんですか?」
「いえ……」
女は首を横に振った。
「ここに召喚されたら最後、もう元の世界に戻ることは決して出来ません」
無情にも女はそう告げた。
「……え?」
蒼白な表情を誠司は浮かべた。
「帰れないって……じょ、冗談ですよね?」
「残念ながら冗談ではありません……詳しい説明はのちほど行うますので、しばらくこちらにいてください」
誠司は大広間の隅の方へと連れて行かれた。その場所でしばらく放置されることに。
その後、何やら髭を蓄えた偉そうな人が四人グループの前で演説をしたり、剣や弓などの贈り物をもらって困惑している様子などを、部屋の隅から黙ってみていることしか出来なかった。
(帰れないってのはマジなのか? しかも、手違いで連れてこられた。……まさか、見知らぬ土地で一人で生きて行けとか言われないよな?)
誠司は嫌な予感を感じていた。
巻き込まれて転移した後、理不尽にも追い出される、みたいな流れになりかねない。
異世界物のお話では、それでもチートスキルに目覚め無双、みたいなのがお決まりのパターンだ。
だが、これは現実。
都合よく物事が運ぶとは、誠司は思えなかった。
これからどうなるのか、不安な気持ちで誠司はいっぱいだった。
戦わされるのも嫌だが、見知らぬ土地で野垂れ死ぬ寄りかは、全然マシだ。
考えていると、先ほどのローブの女に話しかけられた。
「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。お約束通り説明いたしますが、先に行っておきますと、あなたを元の世界に帰せないというのは、本当の話です。あなたを別の世界に送るということは可能なのですが、元の世界をピンポイントで選んで戻すことは不可能なのです」
やはり元の世界に帰れないというのは間違いないようだ。
誠司はがっくりと肩を落とす。
「俺はこれからどうなるんですか?」
「それは現在協議中です。明日には決定すると思われます。決まるまでこの城にてお過ごしいただきます」
「そ、そうですか……」
「他に質問はありますか?」
「ありません」
誠司は力なく首を横に振った。
本当はローブ女の名前とか、この世界には魔法とかがあるのかとか、さっき言ってた職業って何なのかとか、色々聞きたいことはあった。
だが、今は聞く気力がなかった。
一人になって、心を落ち着ける時間が欲しいと思った。
「かしこまりました。それではお過ごしいただくお部屋へとご案内いたします」
○
翌日。
誠司はふかふかのベッドで目を覚ました。
泊まることになった部屋は質が良かった。広くてベッドの質もいい。枕もふわふわ。精神状態は最悪だが、眠ることはできた。
このまま城で過ごし続けるのもありかもしれない。誠司がそんなことを思っていると、コンコンと部屋がノックされた。
「入っていいですよ」と誠司が言うと、「失礼します」と言って執事が部屋に入ってきた。
「国王陛下がお呼びです。ご案内いたします」
そう言った。
(こ、国王陛下? 俺の処遇が決まったから、国王が直々に言ってくるのか? それともほかに何か言うことでも出来たのか?)
誠司は不安な気持ちを抱えながら、執事についていく。
連れていかれたのは、昨日の大広間ではなく別の場所。
金の王座が置かれた部屋だった。
そこに立派な髭を蓄えた男がいる。
王冠をかぶっていた。国王だろう。
その隣にローブを着た女もいた。
「申し訳ない」
開口一番、国王は頭を下げてそう言った。
「わしはここファームート王国、第5代国王、プライス・ファームート5世である。此度救世主召喚の儀を行うよう命じたのは、このわしだ。全ての責はこのわしにある」
真剣に謝られて誠司は少し困惑した。
冷静に考えると謝られて当然の立場ではある。だが、まさか国王が謝ってくるとは想定していなかった。
「シータから説明があった通り、そなたを元の世界に戻すことは困難だ。そなたを別の世界に送ることは可能だが、どこか特定の世界に送るのは、技術的に困難なのだ」
シータとはローブの女の名だろうと誠司は判断する。
プライスの説明が本当であるかどうかはわからない。
ただ、嘘をつくと言うことは、元の世界に帰す気はないと言うことだ。
彼らを従わせる力がない以上、元の世界に戻ることはどっちにしろ不可能だった。
(戻れないなら……もう成り行きに身を任せるしかないってのか……)
そう思った誠司は、
「俺はこれから……どうなるんですか?」
恐る恐ると言う様子でそう尋ねた。
「昨日緊急で家臣たちと協議を重ねた。その結果」
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