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第7話 記憶

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 俺は女騎士の視点で記憶を追体験していた。

「汝、ミラ・ヘインケルをルクトシュア家の騎士に任命する」

 老人にそう言われるシーンから記憶は始まった。
 女騎士は跪き、老人を見上げている。
 名前はミラ・ヘインケルと言うようだ。
 彼女の視点で記憶を見ているので、顔はまだはっきりとは分からない。
 ゴースト状態だと炎に包まれていたので、その時も顔ははっきりと見えなかった。

 老人は高級そうなマントを身につけていた。
 恐らく貴族だろうか。

「我が剣、我が命をルクトシュア家に捧げます」

 ミラはそう宣言した。

 そこから目まぐるしく場面が変わっていく。
 彼女の記憶全てを追体験しているわけではない。
 あくまで追体験しているのは、記憶の一部分だけのようだ。

 それでもミラの状況がある程度分かっていく。

 ミラはルクトシュア家という貴族に代々仕えている騎士の娘。
 15歳になった日、ミラはルクトシュア家の騎士として剣を振るうことになったようだ。

 ルクトシュア家は、俺たちを呼び出して処刑したアスファトス帝国の弱小貴族で、あまり領地は広くはない。

 騎士になったミラは、戦に何度も繰り出されていた。
 どうやら、この時のアスファトス帝国は戦乱の時代で、戦が頻繁に起こっていたらしい。

 ミラには戦う才能があったようで、戦場に行っては大活躍していた。

 成人して2年ほど戦に明けくれる毎日を送った。

 そして、場面は円卓で会議をしている場面に映る。

 ルクトシュア家の当主とそれから、彼の息子たち、それから上位の家臣たちが集められていた。
 そこにミラもいた。
 戦で大活躍をして、出世したのか、会議に出席できるようになったようだ。

「リーベル様、ルシエル殿の実力は凄まじいものがありますよ? 敵対すれば痛い目に遭うかもしれません。それでもラビン様に着く気ですか?」

 家臣の一人が意見を言った。
 リーベルトは多分、領主の名だ。

 ルシエルは……皇帝の名前だが、同一人物なのか? 
 ラビンは初めて聞いた名前だ。

「お主の言う通り、ルシエル殿の実力は確かだ。勢いも凄まじい。しかし、端女の子で、卑しい血を継いでおる。一方、ラビン様は正統な血を引いておられる。貴族たちがどちらの味方をするかは明らかだ」

 領主は自信を持った表情で言った。

 どうやらこの時、アストファス帝国内で後継者争いの内乱が起こっており、そこでルシエル派とラビン派で分かれていたようだ。

 そしてルクトシュア家はラビン派に着いた。

 ミラは会議に出席したものの、発言はほとんどしていなかった。
 まだ10代なので、どうすればいいのか明確な答えを持てなかったからだろう。

 それから一年も経たずにルシエル派とラビン派で大きな戦が起こったようで、そこにミラは参加する。

 結果ルシエル派の圧勝。
 ラビンは処刑され、ラビンについた貴族たちも悉く処刑された。ルクトシュア家の領主も例外ではなかった。一族は皆処刑された。
 ルクトシュア家が治めていた領地は、ルシエルの領地となる。
 ただ、直線領地運営はせず、自分の家臣を派遣して、代官として領地運営を任せていた。

 その時、ルクトシュア家に仕えていた家臣たちも、大多数が処刑されたが、ミラは生き残った。
 能力の高さを買われたわけだ。

 ミラは領主を処刑した輩に仕えるべきか悩んだが、最終的に仕えるを選んだ。ルクトシュア家の領地をよそ者に好きにされるくらいなら、自分は残るべきだと決断した。

 領地を治めることになった代官は悪党だった。
 領民から搾取をしまくり、民を苦しめに苦しめていた。

 ミラはそんな現状を我慢できず、変えようと代官を説得したりもしたが、聞いて貰えない。

 憤ったミラは、領地を取り戻すと決意をする。

 領民たちを味方につけて反乱を起こし、一度は代官を退け、領地を取り戻すことに成功した。

 しかし、その動きが皇帝となったルシエルに知られる。

 小規模な領地の反乱を鎮圧するには、過ぎた数の兵士が送り込まれてきた。

 当然勝ち目などなかった。

 籠城したが捕らえられる。

「殺すのは自分だけにしてくれ!!」ミラは懇願した。

 しかし、その願いはかなわず、反乱を起こした領民たち全員の処刑が決まった。

 ミラは領民たちと一緒に大きな穴の中に入れられた。
 穴の上では、大勢の魔法使いたちが呪文を唱え待機している。

 処刑の場には、あのルシエルの姿もあった。
 あの憎き姿を忘れることはない。

 ルシエルは一言、

「放て」

 そう命じた。
 すると、穴に向かって魔法使いが炎の魔法を一斉に打ち始めた。

 瞬く間に穴の中は炎に包まれ、地獄と化した。

 自分についてきた仲間たちと一緒に、ミラも炎に焼かれる。

「ルシエル……ルシエル!!」

 ミラはルシエルを睨みながら、憎しみのこもった叫び声を上げた。
 その声はルシエルには届いているのかどうか分からなかったが、奴はゴミを見るかのような目で、ミラたちを見下ろしていた。

「ルシエルゥゥ!!!!」

 最後、そう叫んでミラは力尽きた。



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