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第14話 茜と青葉

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「ルシエル・グラトニス……!」

 強い恨みを込めて、その名前を口にした。

 この男に俺たちは殺された。

 ミラも恨みを込めた視線で、ルシエルを見ている。彼女もまたルシエルに殺されたものの一人だ。

「隙だらけだな」
「ええ……ただ、近づいたのが生身の人間なら、100m以内に入り込むと、気配を察知して目を覚ますと言いますが」

 何だそれ。
 ハンター○ンターで言うところの、円みたいな能力でも持っているのかこの男は。

 でも実際、この部屋には皇帝以外誰もいない。
 そして、最上階はこの部屋しかない。

 寝ている時は、徹底的に一人になってるのか。
 皇帝であると考えると当然だろうがな。

「無防備と言っても、今の我々では何もできませんが……」
「……それもそうだな」

 どれだけ無警戒の相手でも、今の俺たちはゴースト、触ることすらできない。

 怨敵を前にして、何もできずに帰ると言うのは悔しいが、こればかりはどうしようもない。

「次は絶対に実体を持った状態で、お前に会いに来る。覚悟しておけ」

 ルシエルの耳に届くはずもなかったが、何も言わずにはおれずにそう言った。

「行きましょう」
「……ああ」

 いつまでもここにいるわけにはいかない。

 寝室をあとにした。

 城の中でもう探してない場所はなかったが、もしかすると見落としがあるかもしれないと思い、再び城の中を探したが、青葉と茜は見つからなかった。

「城にはいないようだな。街を探すか」
「……そうですね」

 ミラは何か言いたげだったが、頷いた。
 城を出て、今度は街中で青葉と茜の捜索を開始した。


 ○

 数日前。
 信二たちが殺された直後のことだった。

「やめて! お兄ちゃんを食べないで!」

 茜は必死な表情で兄を食べている人喰い蜂に向かって叫んだ。

 人喰い蜂は茜の声など聞こえていないように、無視して信二の遺体を貪る。

 実際茜の声は人喰い蜂には届いていなかった。
 今の茜はすでに死して、ゴーストとなっていたからである。

「僕たちの死体も全部食べられちゃったし、兄さんもそうなるのかな」

 茜の双子の弟、青葉がそう言った。
 残酷すぎる光景を目の前にしているが、割と冷静そうだった。

「ちょ、ちょっとなんでそんなに冷静なのよ! お兄ちゃんが食べられちゃうんだよ」
「だって触れないんだし、騒いでもしょうがないでしょ。そもそも、僕たちも多分食べられっちゃったんだしな……」
「う……そ、そうだ……食べられちゃったんだ私たちも……」

 茜は青ざめた表情を浮かべる。
 青葉が多分と言ったのは、二人のは遺体はもはや骨も残さず無くなっていたので、確実に食べられたとは言い切れなkった。ただ、状況的には9割9分、食べられたと思って良いだろうが。

 兄が食べられる姿を見たくなかった茜は、後ろを向いて見えないようにする。
 青葉も同じようにした。

「そもそも僕たちはどう言う状況なんだろうか? 死んだから幽霊になったのかな?」
「分かんないよ~。死んだことなんてないんだもん」
「そりゃそうだね」
「こんな年齢で死んじゃうなんて……何でこんな世界に転移させられたのよ……」

 茜は悲しげな表情を浮かべる。
 落ち込んでいるようだが、涙は流れていなかった。

「悲しんでいても仕方ないよ。まだ意識があるだけマシさ。普通は死んだら、何も残らないからね。意識があるなら、まだやれることはあるはず」
「前向きだね青葉は」
「現実を見てるだけさ」

 冷静な青葉の様子に、茜も気を持ち直してきた。

「でも、死んじゃうちょっと前に、霊剣ゴーストソードってスキルを獲得したとか言ってたけど……って、わっ!」

 霊剣ゴーストソードと言った瞬間、茜の手に淡く光っている剣がいきなり現れた。

「な、何これ!? 剣?」
「スキル……そう言えば僕も獲得した。僕は霊盾ゴーストシールド

 青葉が霊盾霊盾ゴーストシールドと言った瞬間、淡く光っている盾が出現した。

「僕も出た」
「うわーほんとだー! スキルってなんなの?」
「異世界物にはよくある、特別な力のことだね。死んでから獲得したんだよ」
「何で死んだら獲得できるの?」
「さぁ……?」

 青葉は首をかしげる。

「獲得した理由は別にどうでもいいでしょ。でも、何で僕が盾で茜が剣なんだ。納得いかないな」
「盾は嫌なの?」
「そりゃそうでしょ。剣のほうがかっこいい。盾なんて守るだけで攻撃できないからね」
「ま、守るのも大事でしょ。てか、私攻撃するの怖いから、盾の方がいいだけど」
「ちょうどいい。じゃあ、取り替えよう」
「どうやって?」
「……さぁ?」
「方法が分からないなら、取り替えられないでしょ!」 
「しばらくはこのままでくしかないか……」

 がっかりする青葉。

「でもこのスキルって戦うのに使えそうだけど……もしかすると、この剣であの蜂を斬れるかも?」
「そ、そうか! えい!! 私たちとお兄ちゃんの敵!!」

 青葉の言葉を聞いて早速、茜は剣を持ち人喰い蜂に斬りかかった。
 しかし、人喰い蜂には当たらず、空振るだけだった。

「当たんないよ~」
「意味ないじゃん。そもそも、人喰い蜂たちは僕たちに気付きすらしないんだから、盾の意味もない」
「ねぇねぇ、もしかして人喰い蜂だけじゃなくて、ほかの生き物たちも同じ感じなんじゃないの?」
「……可能性はあるね。それなら尚更意味ないけど」

 そう思っていると、

「あああああ!!」

 と人の雄叫びのような声が聞こえてきた。

 目が虚な男が、茜と青葉の近くにいた。

「えええ!? だ、誰!? さっきまでなかったよね!?」
「……この人も人喰い蜂に気付かれてない……そうか、僕たちと同じく幽霊になったんだ」
「お、お仲間さん? じゃあ、色々お話が聞けるかも……」

 茜はそう思ったが、その男は雄叫びを上げながら、茜と青葉に襲いかかってきた。
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