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第1章
第七話 覚醒
しおりを挟む「死ねぇぇええ!!」
「ディーン! 避けて!!」
ディーンに殺意を向ける者と、生きて欲しいと願う者。二人の声が同時に響き、ディーンはメルとは離れた方向へと横っ飛びする。
かろうじて剣を避けたディーンを、ジャックはすかさず追撃する。
やはりジャックという男は、最初に見込んだ通り剣捌きも足捌も相当なもので、一切無駄の無い動きでディーンを追い詰める。
それに対して、意外な事にディーンも華麗な身のこなしで避け続ける。弱っているその体の何処にこんな活力があるのか。月に照らされて白銀に輝く髪を揺らしながら立ち回るその姿はさながら踊り子のよう。
これまでに見た中で最も情熱的で猛々しく、鬼気迫る二人の舞に思わず魅入ってしまう。
それは女頭も同じだったようで、ぼーと二人を見ている。
今なら、縄の拘束を解けるかもしれない。気付かれないように未だ倒れたままの体を上手く使い、様子を伺いながらナイフに近づこうとする。
しかし、メルがナイフを取るよりも早く、やはりと言うべきか、ディーンの動きが鈍くなり、遂にジャックに肩口を斬られてしまった。
「ディーン!」
そうメルが叫ぶと同時に、ディーンもジャックの腹に足をめり込ませ、一瞬怯んだすきに距離を取り、態勢を建て直す。
そして、再び二人は接近する。
もう舞は、先ほどまでの美しさはなく、ディーンはかろうじて剣を避けているという印象だった。浅い傷ならいくつも負っているだろう。
女頭が勝ち誇ったような笑みを浮かべるのが見えた。
急いで助けなくてはならない。
やっとナイフを手にするが、上手く縄に刃を立てられない。力も上手く入らず、焦れば焦るほど切れなくなると分かって居ても、焦らずにはいられない。
ディーンが戦っているのは、誰のためだ? おそらく本当にメルの為なのだ。世界から嫌われていると知っても、彼は私の為に戦ってくれている。そんな彼を絶対に死なせる訳には行かなかった。涙が滲みながらも、ディーンを応援しながら、縄を切り続ける。
しかし応援もむなしく、またもやディーンが斬られ、小さくうめき声をあげながら間を取った。
ジャックは勝ち誇ったような余裕を見せ、剣を振り回しながら、ゆっくりと近づく。
それでもディーンが下手に動けば何時でも息の根を止められるようにしているのが分かる。
もう、無理だ。
「あっはっは! さっきの威勢の良さは何処いったんだよぉ!? おらぁ! 兄貴を殺しといて、ただで死ねると思うなよぉ?」
ジャックの嫌な声が聞こえてくる。
「ディーン! あなただけでも逃げて!! 私がそいつを足止めするから! 私は本当に世界中から嫌われてるの! そんな私の為に死ぬ必要なんかない!! 恩返しはさっきので十分だからぁ!」
それが最善だと思う心がメルの口を動かす。絶望的な状況の中メルの為に戦ってくれた事、それだけでこんなにも幸せになれたのだ。もう悔いなどない。
そんなディーンを死なせたくない。生きてほしい。
両手がふさがっていようとも、少しの間の足止めぐらいはできるだろう。
だから――――――
「メル……それ何度目だよ?」
ディーンは荒い息を吐きながら、まるでメルの心を読んだかのようにそう問いかける。
「自己否定して、すぐ自分を犠牲にしてるんだろ? そんなの、全然嬉しくないんだよ……。俺が助かる為に大切な誰かが進んで死ぬなんて、そんな辛い事ないよ……」
どうして、彼が辛いのか。私なんかが死んで何が辛いのか。
どうして、彼は私なんかの為に傷だらけの体で戦うのか。恩なんて本当は無意味なのに。
いや、理由は今言っていたじゃないか。だが、頭で理解しかけているのに、長年虐げられた心が最後の最後で否定し続ける。
「もう、そんな思いはしたくない……。絶対に――」
「どうして! どうして!? どうして私の為にそこまでするの!!」
あぁ、卑怯だな。言って欲しい言葉を思い浮かべて質問している。
ディーンが何を言うか、どこか分かりながら言葉を投げかけている。
「だから、あんたが大切な人だからだ!!」
ああ……やっぱり……。彼はメルを普通以上に思っていてくれているのだ。相手を信用していなかったのはメルの方だった。
今更卑怯ではあるが、ディーンの思いに応えずにはいられない。これまでのメルならば、恐ろしくて絶対に言えなかった言葉……。
「わ、私もあなたの事が……好き!! だから……お願い……負けないで、ディーン……!!」
嗚咽を堪えた静かな叫びはディーンの耳に確かに届いた。
その瞬間。
ディーンの回りを、蒼白いオーラが漂い始める。
比喩ではなく、文字通り蒼白い、冷気のようなもの。
髪の毛も本物に銀のように輝いている。
「な、なんだぁ!? そりゃあ?」
ジャックは目の前の異様な光景に、素っ頓狂な声を上げて驚きながらも、万が一にも形勢が逆転しないよう、地面を蹴り、剣を振りかぶってディーンにとどめを刺そうととした。
しかし、それは既に遅すぎた。
ディーンが右手を前にかざすと冷気が収束していき、握りこむと白銀の短い棒のようなものが手の中に形成された。更に、その手の回りを大きく囲む白銀のアームガードも。
そこまでを僅かな時間で完了させると、アームガードでジャックの剣を弾く。
そして、不意に剣を弾かれ無防備となったジャックの胸にめがけて棒をつきだすと、いつの間にか棒の先端に現れた刃がジャックの心臓を貫いていた。
五感に非常に長けたメルからしても、何が起こったのか、はっきりとは分からなかった。
とりあえず、最初に出てきた棒は剣の柄だったようだ。
ガシャン、と音を立ててジャックは剣を地面に落とした。
「は、はぁ?? ……そんなん……反則でしょぉ……」
ディーンが剣をジャックの胸から引き抜くと、ジャックは血を胸から噴出させながら見事に仰向けに倒れ、絶命した。
もう、残るは女頭だけ。ディーンが女頭の方を向くと、女頭は慌てて命乞いを始めた。
恐怖に歪むその顔は見てて愉快だった。もう、頭などではない。猛獣の前で怯える獲物同然だった。
「お、おい!! 私を殺すのはやめとけよ! もう抵抗はしないからさ! もうどっか行くから! な、なぁ?」
ディーンは、何も言わずに声の主へと近づいていく。
「そ、そうだ! あたしがあんたの仲間になってやるよ! あんたと結婚してやっても良い! こ、こんなに可愛いあたしが妻になるんだぞ? あ、あたしとヤれるんだぞ? そんなモンスターと一緒に居るより何百倍もマシだろう?」
女頭は自分がどんどん墓穴を掘っていることに全く気づかないようで、必死に後ずさりながら、どんどん穴を深くしていく。才能に溢れているようだ。
「……もっとましな命乞いをしていれば、助けてやったかもな……」
ディーンは獲物に追い付くと、そう言い捨て剣を構える。
「い、いやだぁ……やめてくれ……死にたくない゛い゛……いあぁ」
獲物はあまりの恐怖に失禁してしまったようだ。股間の辺りの地面に染みができていた。
「言っておくが、お前らみたいな豚女より、お前らの言う『モンスター』の方が何憶倍も美しいぞ」
「は、はぁ゛!? ふざけんじゃねえ! あたしがあんな――「死ね」――ァガァ゛!?」
ディーンは言葉を遮って、女の喉に剣を突き刺した。
「イァ……ァ……ァ……ギ……ァ……」
女の喉から血が勢いよく吹き出し、顔は苦痛に歪んでいる。
だがその表情もすぐに消えた。
ドスッ、バゴッ、グギッ、グシャ、グチャッ,グチャ
そんな無惨な音と共に、女の顔が『消えて』しまったのだ。
「良かったなー。綺麗になれたじゃないか」
何度も何度も突き刺して、血や体液、肉片で汚れた剣を見て、ディーンは嗤った。それはそれは愉快そうに。白銀の髪の毛一本一本が煌めいて踊り出しそうなほどに。
ディーンはひとしきり笑い終えると、すぐさま興味を失ったとでも言うように、踵を返し、こちらに向かってくる。
途中、剣の表面に氷が形成されてそれが剥がれる事で汚れがなくなった。まるで、剣に生命が宿っているかのようだった。
何かにとりつかれたような、まるで別人のディーンの姿に、メルは思わず後ずさる。別に恐ろしかった訳ではない。あまりに神々しかったのだ。
「ディーン……」
ディーンはメルに辿り着くと、剣で優しく縄を切り、体を起こしてくれた。
そして、無言で涙を拭ってくれる。そこで初めて自分が泣きっぱなしだった事に気づいた。
なんだか恥ずかしくて、照れ隠しに笑った。
「今度こそ……あなたを……助けられた……」
ディーンは恍惚とした表情を浮かべ、絞り出すような声を出した。
メルがその言葉の意味を問う前にディーンは身に纏う冷気を霧散させ、倒れこんだ。
「ディーン!!」
ここまできて、どうして。出血多量になったのか。それとも致命傷を負っていたのか? どうしたら良い?
メルは慌てふためき、必死に頭を働かせようとした。
だが、ディーンに触ると血だらけの服は傷だらけだが、体には傷が見当たらない。どういう事なのか。さっきの冷気が関係しているのだろうか。
ディーンに何が起きていたのかは、さっぱり分からないままだったが、とにかく安堵したメルは急激な眠気に襲われ、ディーンの横でズブズブと意識が泥の中へ沈んでいった。
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