14 / 37
第14話 王太子の視点から見たウイリアムの結婚
しおりを挟む
「きらめく弟と、不安げな花嫁」
王宮の高窓から、静かに外を眺めていた。
澄み渡る空、眩しい日差し、そして教会に向かう馬車の列。
弟、ウイリアム。
あの自由奔放なきらめきの塊が、今日、正式に婚姻を結ぶ。
「まさか、ウイリアムが、ね……」
私は、ひとり呟いた。
自ら望み、求め、そして即決した結婚だという。
相手は、伯爵家バンダーム家の令嬢、エリーゼ嬢。
何度か晩餐会などで見かけたことはある。
派手な家柄でもなければ、特筆すべき功績があるわけでもない。
だが、彼女の柔らかい微笑みと、肩まで伸びる淡いピンク色の髪は、静かに周囲を和ませる不思議な力を持っていた。
ウイリアムが一目で気に入った、というのも、分からなくはない。
しかし——。
「早すぎる」
私は思う。
結婚とは、政治だ。
特に、王族に生まれた者にとって、それは避けられない宿命だった。
個人の感情よりも、国益を優先しなければならない場面が、必ず訪れる。
だというのに。
ウイリアムは、そうした重圧を、まるで感じていないかのようだった。
私は机に置かれた一通の書状に視線を落とした。
「バンダーム家との縁組を心より喜びます」と書かれた、多くの貴族たちからの祝辞。
表向きは祝福の嵐だ。
だが、心の奥底では——不安も渦巻いているのだろう。
「ウイリアムが、国を背負うことはない」
それが、彼らの本音だ。
第三王子。
王位継承権は低く、自由人としての立場に甘んじることが許される位置。
だからこそ、ウイリアムは、"好きにしてもいい"存在であり続けた。
しかし——。
「彼は、あまりにも無垢すぎる」
私は深く息を吐いた。
ウイリアムの周囲には、いつも人が集まる。
その明るさ、屈託のなさ、そして輝くような微笑み。
彼自身が意識しないまま、無数の人々を惹きつけてしまう。
だからこそ、心配だった。
彼の隣に立つエリーゼ嬢。
今日、彼女を初めて、正式な花嫁衣装で目にしたとき——私は、心の中に一抹の痛みを覚えた。
真っ白なドレスに身を包んだ彼女は、確かに美しかった。
しかし、その微笑みの奥には、隠しきれない不安と戸惑いが滲んでいた。
「……無理もない」
あの速度で、結婚を決められて。
王家の一員となる重圧を、いきなり背負わされて。
心が追いつくはずがない。
ウイリアムは、そのことに気づいているのだろうか。
いや、きっと——彼なりに気づいているのだ。
ただ、その「埋め方」を、知らないだけだ。
「何でも願いを叶えてあげる」
そんな言葉を、ウイリアムが彼女にかけていると聞いた。
らしい、と思う。
だが、間違っている。
エリーゼ嬢が求めているのは、贅沢でも、贈り物でもない。
ただ、普通の愛情——心からの「理解」だ。
私はそっと目を閉じた。
式は、滞りなく進んでいる。
神父の声、誓いの言葉、指輪の交換。
ウイリアムの、「ボクの姫になってくれてありがとう」という声が、遠くから聞こえた気がした。
完璧だ。
完璧すぎる。
なのに、何故か胸に、ひやりとしたものが残る。
***
披露宴の場。
煌びやかな宮殿の大広間で、ウイリアムとエリーゼは並んで座っていた。
賓客たちが次々と祝辞を述べ、贈り物を差し出していく。
エリーゼ嬢は、健気に笑顔を保っていた。
ウイリアムは、隣で誇らしげに、彼女を見つめていた。
「……ウイリアム」
私は心の中で弟の名を呼んだ。
彼は、まだ知らない。
結婚はゴールではない。
ここからが、本当の始まりなのだ。
そして、王家に連なる者の人生には、必ず「試練」が訪れる。
——愛する者を、試される瞬間が。
エリーゼ嬢は、きっと耐えられる。
彼女は強い。
しかし、問題はウイリアムの方だ。
彼は、彼女の「普通でいたい」という願いを、守れるのだろうか。
彼女の涙に、ちゃんと気づけるのだろうか。
私は静かに、祝杯のワインを口に含んだ。
——そして、決めた。
「何かあったら、オレが守ろう」
弟が選んだ未来だ。
ならば、私もまた、見届ける義務がある。
ウイリアムを、エリーゼを——守らなければならない。
華やかな祝宴の中、ふたりだけが小さな島のように、孤独に見えた。
私は、そっと目を細めた。
きらきらと輝くウイリアム。
それを見上げる、ピンクの髪のエリーゼ。
ふたりの未来は、きっと——。
いや、願わくば、幸せであれ。
そう心から願いながら、私は、ふたりの姿をじっと見守り続けた。
王宮の高窓から、静かに外を眺めていた。
澄み渡る空、眩しい日差し、そして教会に向かう馬車の列。
弟、ウイリアム。
あの自由奔放なきらめきの塊が、今日、正式に婚姻を結ぶ。
「まさか、ウイリアムが、ね……」
私は、ひとり呟いた。
自ら望み、求め、そして即決した結婚だという。
相手は、伯爵家バンダーム家の令嬢、エリーゼ嬢。
何度か晩餐会などで見かけたことはある。
派手な家柄でもなければ、特筆すべき功績があるわけでもない。
だが、彼女の柔らかい微笑みと、肩まで伸びる淡いピンク色の髪は、静かに周囲を和ませる不思議な力を持っていた。
ウイリアムが一目で気に入った、というのも、分からなくはない。
しかし——。
「早すぎる」
私は思う。
結婚とは、政治だ。
特に、王族に生まれた者にとって、それは避けられない宿命だった。
個人の感情よりも、国益を優先しなければならない場面が、必ず訪れる。
だというのに。
ウイリアムは、そうした重圧を、まるで感じていないかのようだった。
私は机に置かれた一通の書状に視線を落とした。
「バンダーム家との縁組を心より喜びます」と書かれた、多くの貴族たちからの祝辞。
表向きは祝福の嵐だ。
だが、心の奥底では——不安も渦巻いているのだろう。
「ウイリアムが、国を背負うことはない」
それが、彼らの本音だ。
第三王子。
王位継承権は低く、自由人としての立場に甘んじることが許される位置。
だからこそ、ウイリアムは、"好きにしてもいい"存在であり続けた。
しかし——。
「彼は、あまりにも無垢すぎる」
私は深く息を吐いた。
ウイリアムの周囲には、いつも人が集まる。
その明るさ、屈託のなさ、そして輝くような微笑み。
彼自身が意識しないまま、無数の人々を惹きつけてしまう。
だからこそ、心配だった。
彼の隣に立つエリーゼ嬢。
今日、彼女を初めて、正式な花嫁衣装で目にしたとき——私は、心の中に一抹の痛みを覚えた。
真っ白なドレスに身を包んだ彼女は、確かに美しかった。
しかし、その微笑みの奥には、隠しきれない不安と戸惑いが滲んでいた。
「……無理もない」
あの速度で、結婚を決められて。
王家の一員となる重圧を、いきなり背負わされて。
心が追いつくはずがない。
ウイリアムは、そのことに気づいているのだろうか。
いや、きっと——彼なりに気づいているのだ。
ただ、その「埋め方」を、知らないだけだ。
「何でも願いを叶えてあげる」
そんな言葉を、ウイリアムが彼女にかけていると聞いた。
らしい、と思う。
だが、間違っている。
エリーゼ嬢が求めているのは、贅沢でも、贈り物でもない。
ただ、普通の愛情——心からの「理解」だ。
私はそっと目を閉じた。
式は、滞りなく進んでいる。
神父の声、誓いの言葉、指輪の交換。
ウイリアムの、「ボクの姫になってくれてありがとう」という声が、遠くから聞こえた気がした。
完璧だ。
完璧すぎる。
なのに、何故か胸に、ひやりとしたものが残る。
***
披露宴の場。
煌びやかな宮殿の大広間で、ウイリアムとエリーゼは並んで座っていた。
賓客たちが次々と祝辞を述べ、贈り物を差し出していく。
エリーゼ嬢は、健気に笑顔を保っていた。
ウイリアムは、隣で誇らしげに、彼女を見つめていた。
「……ウイリアム」
私は心の中で弟の名を呼んだ。
彼は、まだ知らない。
結婚はゴールではない。
ここからが、本当の始まりなのだ。
そして、王家に連なる者の人生には、必ず「試練」が訪れる。
——愛する者を、試される瞬間が。
エリーゼ嬢は、きっと耐えられる。
彼女は強い。
しかし、問題はウイリアムの方だ。
彼は、彼女の「普通でいたい」という願いを、守れるのだろうか。
彼女の涙に、ちゃんと気づけるのだろうか。
私は静かに、祝杯のワインを口に含んだ。
——そして、決めた。
「何かあったら、オレが守ろう」
弟が選んだ未来だ。
ならば、私もまた、見届ける義務がある。
ウイリアムを、エリーゼを——守らなければならない。
華やかな祝宴の中、ふたりだけが小さな島のように、孤独に見えた。
私は、そっと目を細めた。
きらきらと輝くウイリアム。
それを見上げる、ピンクの髪のエリーゼ。
ふたりの未来は、きっと——。
いや、願わくば、幸せであれ。
そう心から願いながら、私は、ふたりの姿をじっと見守り続けた。
83
あなたにおすすめの小説
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します
佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚
不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。
私はきっとまた、二十歳を越えられないーー
一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。
二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。
三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――?
*ムーンライトノベルズにも掲載
偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~
咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】
あらすじ
「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」
聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。
彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。
しかし、エリーナはめげなかった。
実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ!
北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。
すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。
「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」
とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。
以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。
最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。
だが彼に溺愛され家は再興。
見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。
余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる