結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス

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第19話 エマ、手作りパワーストーン教室

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 エマ、手作りパワーストーン教室
 

 翌朝。

 エマの店の扉には、少し手書き風の札が掛けられていた。

《本日午前中 手作りパワーストーン教室
 ――お子様向け・お試し開催》

 思いつきのようでいて、実は前夜から準備は万端だった。
 小さな机を二つ並べ、丸みのある角のトレイを置き、誤飲の心配がないよう、大きめに削られた石だけを用意している。

「……緊張してきたわ」

 エマが言うと、

「大丈夫ですわ。お姉さまは、子供に好かれる顔をしているの、ですわ」

 メイド服姿のペネロペが、にこりと微笑んだ。

「子供に好かれる顔って……それでうまく行くの?」

「もちろんですわ」

 ◇

 一番最初に現れたのは、猫耳亭のアンナだった。

「おはようございます、エマさん」

 その横で、ちょこちょこと落ち着きなく歩く小さな影。

 青い髪に、大きな瞳。
 五歳ほどの少女――ユキナだ。

「わあ……きらきら!」

 店内に一歩入った瞬間、声が弾む。

「全部、石ですか?」

「そうですよ」

 エマがしゃがんで視線を合わせる。

「今日は、自分で選んで、自分で作ります」

「ほんと!?」

 ユキナの瞳がきらきらと光る。

 アンナはその様子に苦笑いしつつ、

「お世話になります。落ち着きがなくて……」

「大丈夫です。むしろ、元気な方が楽しいですから」

 ◇

 しばらくして、もう一組が店の前に立った。

 金髪の男性と、抱き上げられた小さな女の子。

「……ここで、間違いないな」

 低く落ち着いた声。

 ディアス=ランス伯爵だった。

 腕の中の少女は、桃色の髪がふわりと揺れ、光を受けて淡く輝く紫水晶のような瞳をしていた。

「こんにちは」

 エマが自然に微笑む。

「お越しいただいて、ありがとうございます」

「……こちらこそ」

 一瞬、視線が交錯する。
 だが、そこに過去を引きずる重さはなかった。

 ディアスは、そっと娘を下ろす。

「アメジスト。ご挨拶は?」

「……ママ、あいたい」

 アメジストはトコトコと駆け出し、エマの膝に抱き着く。

 エマは、そっと優しく抱きあげる。

「あら、大きくなったわね」

「最近、三歳になったばかりだ」

「子供の成長は速いわね。では、今日は誕生日プレゼントもあげるわね」

 エマは優しく微笑んだ。

「今日は、楽しんでくださいね」

 ◇

「ねえ! いっしょにつくろう!」

 ユキナが、真っ先に声をかけた。

「つくる……?」

 アメジストが首を傾げる。

「うでわ!」

 ユキナは自分の腕を指差し、満面の笑み。

 一瞬の沈黙のあと。

「……うでわ」

 ぽつり。

 二人は、あっという間に机を並べて座っていた。

 その光景に、アンナは目を丸くする。

「え、もう……?」

「子供同士は早いですね」

 エマが微笑む。

 ◇

 そして、ディアスは――気づいた。

 店の奥。
 メイド服姿で、子供たちに石を並べている銀髪の少女。

 その立ち姿、仕草、気配。

「……?」

 違和感が、確信に変わる。

「……エマ」

 小声で呼ぶ。

「ま、まさかだと思うのだが……あれは……?」

 エマは、一拍置いてから、にこりと笑った。

「はい。そうですね」

 そして、声を潜める。

「他言無用です。首が飛びますよ?」

 冗談めかした口調だが、目は真剣だった。

「……了解した」

 ディアスは即答した。

 背後に、短い青髪の護衛オサスナ=ビジャレナルの姿を確認した。

 背筋に冷たいものが走ったのは、きっと気のせいではない。

 ◇

「では、まずは石を選びましょう」

 エマの声に全員の意識が戻る。

「これは、心を落ち着かせる石。これは、元気になる石です」

 アメジストは、ユキナの手元をじっと見つめる。

「これ、きれい」

「それはね、ピンク。かわいい!」

「……かわいい」

 同じ石を、二人で握る。

 小さな指が、重なった。

 くすくす、くす。

 笑い声が弾む。

 その様子を見て――

 ディアスは、息を呑んだ。

 娘が、こんなふうに無邪気に笑っているのを、初めて見た気がした。

 屋敷では、泣いていることが多かった気がした。
 笑っても、どこか遠慮があった。

「……アメジスト」

 呼びかけると、

「パパ、みて!」

 満面の笑顔が返ってきた。

 胸の奥が、じんと熱くなる。

 ◇

 完成した腕輪を前に、エマはそっと手をかざした。

「では、付与魔法を」

 淡い光が、腕輪を包む。

 優しく、温かい光。

「これで、完成です」

「わあ……!」

「ひかってる……!」

 二人は顔を見合わせ、同時に笑った。

 アンナは、胸に手を当ててほっと息をつく。

「……無事で、よかった……」

 ペネロペは、少し離れたところから、その光景を見つめていた。

「……素敵ですわ」

 皇女ではなく、ただの少女として。

 この小さな教室には、確かに――
 優しい時間が流れていた。

 ◇

 アメジストを抱っこしていたエマは、
 帰り際にディアスに手渡そうとするが、アメジストは駄々をこねる。

「ママといる、かえらない」
「アメジスト、わがまま言うな」

 そこでディアスの代わりに、世話係の侍女に手渡そうとするのだった。
「お嬢様、エマ様が困ってますよ」
「まま、こまる?」

 その瞬間、侍女は手慣れな動きでアメジストを受け取る。
「まま、ばいばい」
「はい、アメジストも元気でね」

 そして、帰り際のディアスの言葉がエマに衝撃を与えた。

「モナコラ伯爵がスペイラ帝国の関所を越えたらしい。
 用心した方がいい」

 エマは、胸騒ぎを覚えながら、ディアスとアメジストが乗った馬車を見送るのだった。
 元夫が一体、何しにスペイラ帝国に来るのか?
 嫌な予感が頭を駆け巡っていた。

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