結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス

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第18話 エマ、パワーストーン店の美人店員

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 エマ、パワーストーン店に美人店員


 その噂が、街の片隅からじわじわと広がり始めたのは、ほんの数日後のことだった。

「ねえ、聞いた?」
「何を?」
「例のパワーストーンの店員よ。綺麗な銀髪のメイド服の子がいるって」

 エマの店――工房併設のパワーストーン店は、人気だ。
 落ち着いた色合いの石を丁寧に並べ、相談に乗りながら一つずつ腕輪や護符を仕立てる。
 聖女エマの力により、付与魔法が掛けられ、能力値が上がるアイテムができる。
 冒険者を中心に流行っていた。

 そこに、突如として現れた“噂”。

「笑うと天使みたいなんだって」
「接客がですわ口調で、すごく可愛い」
「どこか育ちの良さが隠しきれてないって……」

 そう。

 噂の銀髪のメイド服のスタッフ――
 その正体は、身分を隠して働く皇女ペネロペその人だった。

 もちろん、本人は至って真面目である。

「いらっしゃいませ、ですわ」
「こちらの石は、心を落ち着かせる効果がございますの、ですわ」

 お嬢様なですわ口調に、ふわりとした微笑み。
 メイド服はメアリーが仕立てたもので、上品さを残しつつも店に溶け込むデザインだった。

 その横では、

「こちらでお会計を承ります、ありがとうございました」

 紫髪に茶の瞳の侍女メアリーが、完璧な所作で立ち働いている。

 ――当然のように。

 誰もが疑わなかった。
 まさか、皇女とその侍女が揃って店員をしているなど。

 ◇

 だが、世の中には節度というものを知らない者もいる。

「ねえ、君、可愛いね。手、冷えてそうだね、温めてあげる?」

 そう言って、ペネロペの手を握ろうとした男がいた。

「……!」

 瞬間。

 かちり、と空気が凍る。

「その汚い手を、放せ」

 低く、鋭い声。

 短い青髪の護衛、オサスナ=ビジャレナルが、男の首元に剣先を突きつけていた。

「次は、斬る」

「ひ、ひぃっ……!」

 男は真っ青になり、転げるように逃げ出す。

「オサスナさん! やりすぎです!」

 エマが慌てて止めに入る。

「そんなことをしたら、お店に誰も来なくなります」

「構わない」
 オサスナは真顔だった。
「近づく男は、すべて斬るべきだ」

「それは極論です」

 そこへ、

「さすがに、やりすぎだぞ」

 黒髪のロドリゲスが、深いため息をつきながら割って入る。

「警備は大事だが、騒ぎを大きくするな」

「しかし……」
「しかしも何もない」

 ぴしり。

 オサスナは不満そうに剣を納めた。

「……今日もペネロペ様は可愛い」
「それは同意しますが」

 メアリーが即座に返す。

「護衛が切り捨て御免を連発しては、いけません」

「む」
「む、ではありません」

 二人のやり取りに、エマは思わず苦笑した。

 ◇

 ――なぜ、こうなったのか。

 それには、経緯がある。

 ペネロペがお店に来た翌日。

「帝都への正式な報告が必要です」

 そう言われ、彼女は一度、護衛のオサスナに半ば強引に連れられて帝都へ戻った。

 だが。

 二週間後。

「……静養が必要、と診断されましたの、ですわ」

 そう言って、何食わぬ顔で戻ってきたのである。

「静養……?」
「はい、ですわ」

 その“静養先”が、なぜかエマの店だった。

 そして、お姉さまのお店を手伝いです。
 と半ば強引に押しかけスタッフになったのだ。

 今では、店の裏にある工房の二階で、メアリーと共に寝泊まりしている。

 ◇

 工房の横には、小さなダイニングエリアが増設された。

 理由は単純だ。

 皇女を外食させるとなると、警備が大変すぎる。

 それに。

「……実は、料理が得意なんです」

 エマは、照れるように言った。

 前世の記憶を利用し、実家ではよく料理をしていた。
 だが、モナコラ家に嫁いでからは、

 ――伯爵夫人が料理を作るなど、品がない。

 そう言われ、キッチンに立つことを禁じられた。

 領地改革で忙殺されていた当時は、それどころではなかったが、
 今は、違う。

 ◇

 仕事を終え、夕食の時間。

 今日の担当は、エマ。

「今日は、パスタです」

 テーブルを囲むのは、

 桃髪の二十五歳、エマ。
 紫髪の二十二歳、メアリー。
 銀髪の十八歳、ペネロペ。
 黒髪の三十歳、ロドリゲス。
 短い青髪の二十五歳、オサスナ。

「まあ……」
 ペネロペの目が輝く。
「今日のお姉さまの料理、美味ですわ」

「口に合ってよかったです」

「毎日これで良いですわ」

「却下だ」
 ロドリゲスが即答する。
「俺は、肉料理も食べたい」

「……厳しいですわ」

「当然だ」

「ペネロペ様は今日も可愛い」
 オサスナが真顔で言う。

「だからといって、斬るのはダメです」
 メアリーがぴしり。

「だが――」
「だが、ではありません」

 二人は顔を見合わせ、同時にふいっとそっぽを向いた。

「……仲良しですね」
 エマが言うと、

「別に」
「仲良くありません」

 声が重なった。

「ふふ」
 ペネロペが微笑む。
「ここは、とても温かい場所ですわ」

 エマは、そっと笑った。

 皇女ではなく、妹として。
 姉として。

 そんな時間が、今夜も静かに流れていた。
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