婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第34話 ドワーフ村の少年トルのお話

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村の片隅、木工細工の道具が並ぶ作業小屋の軒先で、小さなドワーフの少年が目を輝かせていた。名前はトル。まだ十歳にも満たないが、父親譲りの器用な手先を持ち、よく村の大人たちの仕事を眺めていた。

 けれどこの日ばかりは、トルの視線はサーペントと、それを持ち帰った三人の旅人に釘付けだった。

「すっげぇ……ほんとに倒しちまったんだ……」

 トルの言葉に、隣の友達も大きくうなずいた。
「あのお姉ちゃん、ピカピカの腕と足してたな」
「それに、あの金髪のお兄ちゃん、めっちゃかっこつけてた!」
「眼鏡のおじちゃんは……ちょっと元気なかった?」

 村の広場では、既にお祭りが始まっていたが、トルは興奮冷めやらぬまま、小さな心の中で三人の印象を反芻していた。

 まず、エリーゼ。
 彼女が魔法の袋から取り出したサーペントは、まるで岩山の化け物のようだった。それを軽々と持ち上げたエリーゼの金色の右腕と、銀色の左足が陽光を反射して光り輝いた瞬間、トルは思わず息を呑んだ。

(……かっこいい。あんなふうになりたい)

 エリーゼの柔らかな笑顔と、子供にも優しく接する態度は、トルの心に強く焼きついた。彼女が串焼きを美味しそうに食べながら、村の若者に剣術の心得を語っている姿は、まるで物語の中の剣聖そのものだった。

 次に、アリスター。
 金髪をなびかせ、貴族のような物腰で葡萄酒を嗜むその姿は、まさしく「おとぎ話のお兄さん」だった。最初はナルシストにしか見えなかったけれど、火を操る魔法で料理を仕上げたり、村の子供たちに光の魔法で小さな花火を見せてくれたりするたびに、トルはその凄さに舌を巻いた。

「ボクの美学は、いつだって華やかさと実用性の両立さ」

 そんな言葉も、トルには不思議と嫌味には聞こえなかった。

 そして、ダリル。
 最初は「暗そうなおじさん」だと思った。けれど、宴の後、怪我をした子供にやさしく回復魔法をかけたり、村の年寄りと静かに話している姿を見て、トルは印象を改めた。

「……拙者などより、もっと相応しい者が……」

 そんなふうに自分を卑下する言葉を口にしながらも、誰よりも周囲を気にかけ、そっと支えている姿が、じんわりと胸に残った。

 夜、トルは家の縁側に座り、夜空を見上げながら父に話した。

「父ちゃん。オイラ、大きくなったら、あんな旅人になりたい」

 父親は笑いながら、トルの頭を撫でた。

「剣の姉ちゃんか? 魔法の兄ちゃんか? それとも……あの眼鏡の神官か?」

 トルは少し悩んで、にかっと笑った。

「ぜんぶ、だよ!」

 父親は驚いたように目を丸くしたが、やがてゆっくりと頷いた。

「それなら、よく見て、よく学べ。あの三人は、きっと過去に傷を持ってる。けど、それを抱えたまま、前に進もうとしてる。お前も、そんなふうに生きられたら、立派なもんだ」

 ドワーフの村に、一つの物語が根付いた日。
 それは、少年の夢となり、未来の希望となった。

 いつかトルが旅に出る日が来たならば、その背中には、金の光、銀の誓い、そして静かな祈りが宿っているだろう。
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