40 / 179
第40話 ギルド職員リーザは見た!
しおりを挟む
【ギルド職員リーザの視点】
この仕事も、もう十年以上になる。
命知らずの冒険者たちと日々顔を合わせるなかで、私は“当たり”と“地雷”を嗅ぎ分ける程度の鼻は持ち合わせているつもりだった。
——だからこそ、あの四人を見た瞬間、私は直感的に思ったのだ。
「これは、ただの若造じゃない」と。
金髪碧眼の剣士、アリスター。柔らかな物腰、品のある笑み、受け答えの端々に育ちの良さが滲み出ている。間違いなくどこかの貴族出身。
だが、そのわりには驕り高ぶったところがなく、自分の言葉に責任を持とうとする誠実さがあった。
リーダー気質なのは見て取れるけど、それ以上に「守ろう」とする意志が強い。
仲間を導く王道の剣士タイプだ。
次に目を引いたのは、桃色の髪を揺らしていた少女——エリーゼ・アルセリア。
軽快な足取りと笑顔が印象的な子だったけれど、彼女の双眸には侮れない光が宿っていた。あれは、死地をくぐり抜けてきた目をしている。
帳簿に名前を書くとき、わずかに迷いがあったことにも気づいた。多分、いろいろあったんだろう。心の傷を隠すのが上手いタイプだ。
妙に浮かない名前の提案——「剣道三段」なんて——あれも、おそらく彼女なりの現実をどこか斜めから見ているような距離感がある。
マスキュラ―。あれは……正直、ギルド職員としては「手のかかるタイプ」と分類される。筋肉、筋肉、また筋肉。第一声が「筋肉の密度がいい」ってあたり、脳筋の典型じゃないかと思った。
でも、言葉の端々から仲間への信頼と愛情が伝わってくる。自分がどう思われるかを気にしない分、真っ直ぐな信念で動くタイプ。ああいうのがいると、パーティーは意外と壊れにくい。破壊的だけど、壊さない。難儀だけど、貴重だ。
そして最後のひとり、ダリル。
彼が一番、読みにくい。物静かで、周囲をよく見ている。時折交わす言葉は的を射ていて、どこか人の心の奥を見透かすような視線を持っていた。
表向きは忍び装束に身を包んでいるけれど、その“静”の中にある“動”が不気味なほど鋭い。戦場で彼が本気を出したら、恐ろしいことになりそうだ。
でも、不思議と人を安心させる空気もある。意外とお人好しなのかもしれない。
彼らが口論しながらパーティー名を決めているとき、私は密かにそのやり取りを楽しんでいた。
くだらない冗談の応酬も、互いに即座に突っ込みを入れるテンポも、根底には信頼がある証だ。仲間に対して気を抜ける空気——それが、パーティーとしての成熟を物語っていた。
最終的に決まった“スプレーマム”。由来を聞いたときは驚いたけれど、あの忍び青年が出したにしては情緒的な言葉だった。
“高潔なる者たち”。……気障だけれど、悪くない。
正直、こういう若者たちは、何かしら問題を起こして別の地から流れてきたケースが多い。冒険者ギルドは、そういう“過去を持った者”が集う場所だ。
でも、彼らには過去を断ち切るのではなく、「過去を背負って前に進もう」とする意志があるように見えた。
特に、あの桃髪の少女——エリーゼの中には、今も何かを押し殺すような影があった。
でもそれでも、前を向いて笑っていた。強い子だと思う。おそらく、剣聖と呼ばれるだけの才覚があるのだろう。剣を構える姿をまだ見ていないけれど、あの気配と立ち方……間違いなく、一流のそれだ。
ギルドマスター、エルシア様の元に向かっていった彼らの背を見送りながら、私は思わずつぶやいた。
「……さて。未来の英雄たちになるか、それとも……嵐を呼ぶ厄介者か」
冒険者ギルドとは、ダンジョンの手前にある最前線だ。
腕も、心も、時に命さえも試される場所。その中で、彼らがどんな伝説を刻んでいくのか——それを見るのが、今から少しだけ楽しみになった。
この仕事も、もう十年以上になる。
命知らずの冒険者たちと日々顔を合わせるなかで、私は“当たり”と“地雷”を嗅ぎ分ける程度の鼻は持ち合わせているつもりだった。
——だからこそ、あの四人を見た瞬間、私は直感的に思ったのだ。
「これは、ただの若造じゃない」と。
金髪碧眼の剣士、アリスター。柔らかな物腰、品のある笑み、受け答えの端々に育ちの良さが滲み出ている。間違いなくどこかの貴族出身。
だが、そのわりには驕り高ぶったところがなく、自分の言葉に責任を持とうとする誠実さがあった。
リーダー気質なのは見て取れるけど、それ以上に「守ろう」とする意志が強い。
仲間を導く王道の剣士タイプだ。
次に目を引いたのは、桃色の髪を揺らしていた少女——エリーゼ・アルセリア。
軽快な足取りと笑顔が印象的な子だったけれど、彼女の双眸には侮れない光が宿っていた。あれは、死地をくぐり抜けてきた目をしている。
帳簿に名前を書くとき、わずかに迷いがあったことにも気づいた。多分、いろいろあったんだろう。心の傷を隠すのが上手いタイプだ。
妙に浮かない名前の提案——「剣道三段」なんて——あれも、おそらく彼女なりの現実をどこか斜めから見ているような距離感がある。
マスキュラ―。あれは……正直、ギルド職員としては「手のかかるタイプ」と分類される。筋肉、筋肉、また筋肉。第一声が「筋肉の密度がいい」ってあたり、脳筋の典型じゃないかと思った。
でも、言葉の端々から仲間への信頼と愛情が伝わってくる。自分がどう思われるかを気にしない分、真っ直ぐな信念で動くタイプ。ああいうのがいると、パーティーは意外と壊れにくい。破壊的だけど、壊さない。難儀だけど、貴重だ。
そして最後のひとり、ダリル。
彼が一番、読みにくい。物静かで、周囲をよく見ている。時折交わす言葉は的を射ていて、どこか人の心の奥を見透かすような視線を持っていた。
表向きは忍び装束に身を包んでいるけれど、その“静”の中にある“動”が不気味なほど鋭い。戦場で彼が本気を出したら、恐ろしいことになりそうだ。
でも、不思議と人を安心させる空気もある。意外とお人好しなのかもしれない。
彼らが口論しながらパーティー名を決めているとき、私は密かにそのやり取りを楽しんでいた。
くだらない冗談の応酬も、互いに即座に突っ込みを入れるテンポも、根底には信頼がある証だ。仲間に対して気を抜ける空気——それが、パーティーとしての成熟を物語っていた。
最終的に決まった“スプレーマム”。由来を聞いたときは驚いたけれど、あの忍び青年が出したにしては情緒的な言葉だった。
“高潔なる者たち”。……気障だけれど、悪くない。
正直、こういう若者たちは、何かしら問題を起こして別の地から流れてきたケースが多い。冒険者ギルドは、そういう“過去を持った者”が集う場所だ。
でも、彼らには過去を断ち切るのではなく、「過去を背負って前に進もう」とする意志があるように見えた。
特に、あの桃髪の少女——エリーゼの中には、今も何かを押し殺すような影があった。
でもそれでも、前を向いて笑っていた。強い子だと思う。おそらく、剣聖と呼ばれるだけの才覚があるのだろう。剣を構える姿をまだ見ていないけれど、あの気配と立ち方……間違いなく、一流のそれだ。
ギルドマスター、エルシア様の元に向かっていった彼らの背を見送りながら、私は思わずつぶやいた。
「……さて。未来の英雄たちになるか、それとも……嵐を呼ぶ厄介者か」
冒険者ギルドとは、ダンジョンの手前にある最前線だ。
腕も、心も、時に命さえも試される場所。その中で、彼らがどんな伝説を刻んでいくのか——それを見るのが、今から少しだけ楽しみになった。
47
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?
向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。
というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。
私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。
だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。
戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる