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第53話 スプレーマムの活躍
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ラフィーナ嬢の証言をもとに、王都からの調査隊が編成されたのは、その翌週のことだった。
貴族たちの動きは遅いと思われがちだが、今回は違った。ラフィーナ=メルテンスの報告は、
封印という言葉を含んでいた。
それだけで、聖教国や隣国との政治的火種になりかねないほどの重要性を孕んでいたのだ。
調査隊には、スプレーマムも同行を求められた。
「……拙者、できれば遠慮したいところでござるが……この直感は、見逃すなと申しておる……」
青髪を風に揺らし、ダリルは重苦しい顔で空を見上げていた。
ギルド前の広場で集結した一行の中、ただ一人陰気な空気を漂わせている。
「また嫌な気配でも感じたのかい?」
エリーゼが肩を叩くと、ダリルは眼鏡を押し上げながらうなずいた。
「封印という言葉を聞いて以来、胸騒ぎが収まらぬのだ……。
わたしが……いや、拙者が聖教国で目にした聖女の“奇跡”……あれと、何かが似ている……」
「冤罪で追放されたアンタのこと、私たちは信じてるよ」
そう微笑むエリーゼの金に輝く右腕が陽光を受け、淡く光る。
転生者としての記憶と、神話の精霊から授かったこの力は、彼女が異なる世界の真実に近づいている 証でもあった。
「おいおい、湿っぽい話はよそうぜ」
マスキュラーが気楽な調子で両腕を組むと、背中の大剣がごとりと鳴る。
「俺たちは“偶然”あの祭壇にたどり着いて、そこで“何か”を見た。偶然じゃねぇだろ、こうなったら腹くくってやるだけさ」
「うん、ボクもそう思う」
アリスターが手鏡代わりのスプーンで顔を見ながら、さらりと答える。
「第一王子としての名誉を取り戻すには、これ以上の舞台はないよ。……この事件の背後に、王国を追放された理由の鍵がある気がするんだ」
そして、一行はふたたび、あの神殿へと向かった。
◇ ◇
ダンジョン最奥、三階層の“空の祭壇”――そこは以前とは様子が違っていた。
文様が刻まれた床はかすかに赤黒く変色し、天井からは光ではなく、霧のような瘴気が降りていた。祭壇の中心には、ラフィーナの手配で運び込まれた調査器具が整然と並ぶ。
「……封印の力が……弱まってる?」
エリーゼが声を潜めて言う。彼女の金の右腕が震えていた。
「そうだな。ボクの魔力感知でも、前回より魔族的な波長が強くなっている。封印が不安定になっていると見るべきだろう」
アリスターの指先が光を帯び、空間をなぞる。
「むむ、これは――封呪式ではござらぬか?」
ダリルが低く呻くように言った。
「聖教国に伝わる、もっとも古い封印術式……神と契約し、空間そのものを閉じる儀式だ。しかし……何者かがそれを、内部から壊そうとしている……そんな痕跡が……」
「ってことは、封印の中にまだ“何か”が……?」
マスキュラーが眉をひそめ、剣に手をかける。
そのとき――。
「――ッ、来ます!」
エリーゼが叫ぶと同時に、祭壇の中央が炸裂した。石の破片とともに、黒い霧が噴き上がる。そこから現れたのは、半透明の獣のような魔族だった。眼窩のない頭部、鋭く長い四肢、空間をゆがめるような存在。
「結界展開――《聖障結界(サンクチュアリ・シェル)》!」
ダリルが詠唱し、青白い光の膜が一行を守る。
「我が力、いまこそ煌めけ――《雷槍(ライジング・スピア)》!」
アリスターが放った雷の槍が、魔族を直撃するも、完全には消えない。
「……再封印は……可能なの?」
「拙者の力では不完全でござる。けれど、あの“歪み”の源を絶てば、結界を立て直せるかもしれぬ」
「よし、行くわよ! わたしが道を切り開く!」
エリーゼの剣が抜かれた。右腕の金龍が咆哮し、左足のフェンリルが疾風を巻き起こす。
「《神閃剣舞・陽光斬(エターナル・サンシャイン)》!」
光の刃が祭壇の中心を切り裂いた。魔族は悲鳴をあげ、黒い霧とともに消えていく。
「……収まった、か?」
マスキュラーが汗を拭いながら辺りを見回す。
「封印の“ゆらぎ”は一時的に止まった。だが、これで終わりじゃない」
アリスターが厳しい顔で呟く。
「そもそも、誰がこの封印を緩めようとしている? なぜ魔族がこの場所に……?」
「うぅむ、拙者、思うに……この封印、内部ではなく、外部から“呼応”して動き出している気がするのだ。つまり……まだ別の場所に“鍵”があるのではないかと」
「なるほどな。じゃあ次は、その鍵を探す旅ってわけか……」
マスキュラーが肩を鳴らす。
「やれやれ、王国も、聖教国も、冤罪で追い出したくせに、ボクたちの力が必要になるとはね」
アリスターが皮肉を口にするが、すぐに笑みに変える。
「でも、悪くないな。こっちの方が、よほど自由で、面白い」
「うん。わたしは信じてるよ、この仲間と、自分の力を」
エリーゼの剣が、静かに鞘に収まった。
スプレーマムの冒険は、ただの依頼を超え、世界の真実に近づこうとしていた。
神代の封印――それは、今、確かに揺らぎ始めていたのだ。
【エリーゼ=アルセリア】
レベル:38
HP:627
MP:358
攻撃:714【489+剣225】
防御:895【470+上下425】
早さ:896【686+脚210】
幸運:100MAX
スキル:──剣聖──フェンリルの加護 金龍の加護
装備:武器 テオドリック帝国 王家の剣
防具 上半身 剣聖のドレスチェスト
下半身 剣聖のレッドプリーツ
脚 剣聖のブレイズブーツ
貴族たちの動きは遅いと思われがちだが、今回は違った。ラフィーナ=メルテンスの報告は、
封印という言葉を含んでいた。
それだけで、聖教国や隣国との政治的火種になりかねないほどの重要性を孕んでいたのだ。
調査隊には、スプレーマムも同行を求められた。
「……拙者、できれば遠慮したいところでござるが……この直感は、見逃すなと申しておる……」
青髪を風に揺らし、ダリルは重苦しい顔で空を見上げていた。
ギルド前の広場で集結した一行の中、ただ一人陰気な空気を漂わせている。
「また嫌な気配でも感じたのかい?」
エリーゼが肩を叩くと、ダリルは眼鏡を押し上げながらうなずいた。
「封印という言葉を聞いて以来、胸騒ぎが収まらぬのだ……。
わたしが……いや、拙者が聖教国で目にした聖女の“奇跡”……あれと、何かが似ている……」
「冤罪で追放されたアンタのこと、私たちは信じてるよ」
そう微笑むエリーゼの金に輝く右腕が陽光を受け、淡く光る。
転生者としての記憶と、神話の精霊から授かったこの力は、彼女が異なる世界の真実に近づいている 証でもあった。
「おいおい、湿っぽい話はよそうぜ」
マスキュラーが気楽な調子で両腕を組むと、背中の大剣がごとりと鳴る。
「俺たちは“偶然”あの祭壇にたどり着いて、そこで“何か”を見た。偶然じゃねぇだろ、こうなったら腹くくってやるだけさ」
「うん、ボクもそう思う」
アリスターが手鏡代わりのスプーンで顔を見ながら、さらりと答える。
「第一王子としての名誉を取り戻すには、これ以上の舞台はないよ。……この事件の背後に、王国を追放された理由の鍵がある気がするんだ」
そして、一行はふたたび、あの神殿へと向かった。
◇ ◇
ダンジョン最奥、三階層の“空の祭壇”――そこは以前とは様子が違っていた。
文様が刻まれた床はかすかに赤黒く変色し、天井からは光ではなく、霧のような瘴気が降りていた。祭壇の中心には、ラフィーナの手配で運び込まれた調査器具が整然と並ぶ。
「……封印の力が……弱まってる?」
エリーゼが声を潜めて言う。彼女の金の右腕が震えていた。
「そうだな。ボクの魔力感知でも、前回より魔族的な波長が強くなっている。封印が不安定になっていると見るべきだろう」
アリスターの指先が光を帯び、空間をなぞる。
「むむ、これは――封呪式ではござらぬか?」
ダリルが低く呻くように言った。
「聖教国に伝わる、もっとも古い封印術式……神と契約し、空間そのものを閉じる儀式だ。しかし……何者かがそれを、内部から壊そうとしている……そんな痕跡が……」
「ってことは、封印の中にまだ“何か”が……?」
マスキュラーが眉をひそめ、剣に手をかける。
そのとき――。
「――ッ、来ます!」
エリーゼが叫ぶと同時に、祭壇の中央が炸裂した。石の破片とともに、黒い霧が噴き上がる。そこから現れたのは、半透明の獣のような魔族だった。眼窩のない頭部、鋭く長い四肢、空間をゆがめるような存在。
「結界展開――《聖障結界(サンクチュアリ・シェル)》!」
ダリルが詠唱し、青白い光の膜が一行を守る。
「我が力、いまこそ煌めけ――《雷槍(ライジング・スピア)》!」
アリスターが放った雷の槍が、魔族を直撃するも、完全には消えない。
「……再封印は……可能なの?」
「拙者の力では不完全でござる。けれど、あの“歪み”の源を絶てば、結界を立て直せるかもしれぬ」
「よし、行くわよ! わたしが道を切り開く!」
エリーゼの剣が抜かれた。右腕の金龍が咆哮し、左足のフェンリルが疾風を巻き起こす。
「《神閃剣舞・陽光斬(エターナル・サンシャイン)》!」
光の刃が祭壇の中心を切り裂いた。魔族は悲鳴をあげ、黒い霧とともに消えていく。
「……収まった、か?」
マスキュラーが汗を拭いながら辺りを見回す。
「封印の“ゆらぎ”は一時的に止まった。だが、これで終わりじゃない」
アリスターが厳しい顔で呟く。
「そもそも、誰がこの封印を緩めようとしている? なぜ魔族がこの場所に……?」
「うぅむ、拙者、思うに……この封印、内部ではなく、外部から“呼応”して動き出している気がするのだ。つまり……まだ別の場所に“鍵”があるのではないかと」
「なるほどな。じゃあ次は、その鍵を探す旅ってわけか……」
マスキュラーが肩を鳴らす。
「やれやれ、王国も、聖教国も、冤罪で追い出したくせに、ボクたちの力が必要になるとはね」
アリスターが皮肉を口にするが、すぐに笑みに変える。
「でも、悪くないな。こっちの方が、よほど自由で、面白い」
「うん。わたしは信じてるよ、この仲間と、自分の力を」
エリーゼの剣が、静かに鞘に収まった。
スプレーマムの冒険は、ただの依頼を超え、世界の真実に近づこうとしていた。
神代の封印――それは、今、確かに揺らぎ始めていたのだ。
【エリーゼ=アルセリア】
レベル:38
HP:627
MP:358
攻撃:714【489+剣225】
防御:895【470+上下425】
早さ:896【686+脚210】
幸運:100MAX
スキル:──剣聖──フェンリルの加護 金龍の加護
装備:武器 テオドリック帝国 王家の剣
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脚 剣聖のブレイズブーツ
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