婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第54話 書記官レネ=グロスフェルドの手記

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あの者たちが――スプレーマムが、今回の鍵を握るのは間違いない。
 だが、王都の正規調査団の一員としては、どうしても納得がいかなかった。

「これが……噂のスプレーマムか……」

 私は手帳を閉じながら、神殿前で集結している四人の姿を眺めた。王都から派遣された調査団の補佐として、この地方まで同行してきた私、書記官レネ=グロスフェルドは、その場違いな集団に目を細める。

「冒険者パーティーとはいえ、少し雑然としすぎていないか?」

 まず目に飛び込んできたのは、金の髪をなびかせて鏡を覗いている青年。王都の情報で知ってはいたが、テオドリック王国の元王子アリスター=テオドリックその人だった。

「ボクは顔も力も生まれも完璧。冤罪で追放されるような器じゃないのに、まったく困ったものだよ」

 堂々と言い放つその姿に、同じ王都の人間である私ですら思わず眉をしかめる。

 隣で、黒髪の筋骨隆々とした大男が背中の剣を気楽に担いでいた。

「まあまあ、アリ公。何事も笑って受け流すのが一番さ。どーせ王都の奴らは、俺たちが怪物ぶった斬ってくるまで信じないだろ?」

 この男が、C級冒険者を追放されたマスキュラー。異様な肉体と陽気さで場を引っ張る剣士らしいが、まるで軽業師のような言動に、隊長のリチャードすら目を白黒させていた。

「しかし、戦力としては確かに申し分ない……それが問題だ」

 私は再び手帳を開き、メモを取った。次に目に入ったのは、青い髪の細身の神官だった。

「……拙者のような、陰気な者を召集してくださるなど、感謝と不安で胃が……。いや、これは腹痛ではなく、封印の波動でござる、きっと……」

 ダリル=ベルトレイン。聖教国から追放された神官。しかも聖女に対する冤罪を訴えたという。教義に染まりきった神官とは異なり、常に疑念と慎重さを携えたその態度は、ある意味、調査官としての素養を備えていた。

「この者が一番厄介かもしれないな……」

 私はダリルの挙動を注視した。封印の異変を“波動”として捉える感受性は、決して凡庸な者のものではない。だが、それだけに、彼の不安定さが集団に及ぼす影響は計り知れない。

 そして――最後の一人が、私の視線に入ってきた。

「うんっ。今日もみんな元気そうでよかった。わたし、がんばっちゃうよ!」

 桃色の髪をふわりと揺らし、まばゆい笑顔を浮かべていたのは、エリーゼ=アルセリア。レインハルト王国の王子の元婚約者であり、今や剣聖を名乗る存在。金龍の加護を受けた右腕、銀狼の加護を受けた左足――精霊の力と神話の血を宿す、規格外の人物だ。

 彼女が一歩前に出るだけで、周囲の空気が変わる。

「彼女だけは、まるで王都の騎士団筆頭と肩を並べるような威圧感を持っているな……」

 私は思わず手帳を握りしめる。彼女のことは前々から報告書で読んでいた。剣聖カール=キリトの孫という仮説は、半ば信じ難いものであったが――実物を見てしまえば、納得せざるを得ない。

 王都の騎士団長補佐である私の上司、セドリック殿が「彼女を敵に回すべきではない」と記した意味が、今ならわかる。

「これが、王都の……いや、この時代の“はぐれ者”たちか」

 私は一歩、後ずさるように息を整えた。

 スプレーマムは寄せ集めに見える。王族の堕ちた者、神官を追放された者、C級から蹴落とされた剣士、そして過去を持ちすぎた少女剣聖――

 だが、その誰もが、あらゆる常識を凌駕する実力と、なにより“自分の信念”を胸に秘めていた。

「彼らは、組織の規律に従う人材ではない。だが……理想の調査団を作るとしたら、必要なのは規律ではなく、真実を求める意志だ」

 私は静かに手帳を閉じた。

 この調査は、ただの封印の確認作業では終わらない。歴史の深層、精霊の意思、そして――国を揺るがす何かが、ここにある。

 そしてその全ての中心に、スプレーマムはいる。

「……正規の記録では、彼らのことを“支援冒険者”とだけ記しておこう」

 そう呟いた私の声は、誰にも聞かれていなかった。

 だがこの先、王都はきっと――スプレーマムという“異端”を、無視できなくなるだろう。
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