婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第56話 魔族国の王子ガーラン

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ダンジョンでの戦いから一夜が明けた。

 スプレーマムの四人は、いつもの宿――陽だまり亭に戻っていた。古びた木造の建物は、変わらず温かい光を灯しており、騒がしい酒場の声が階下から聞こえてくる。疲れ切った身体を休めようと各々の部屋へ向かおうとしたところ、宿の女将が声をかけた。

「エリーゼさん、あんたにお客さんだよ。食堂で待ってる」

「えっ、わたしに?」

 驚くエリーゼをよそに、女将は意味深な笑みを浮かべて階段を下っていく。

 エリーゼは一瞬戸惑いながらも、金に輝く右腕をマントで覆い、階下の食堂へ向かった。

 そこには、帽子を深く被った一人の男が座っていた。旅装に身を包み、顔の半分を隠すような影の中から、男は静かに彼女を見た。

「……カールの孫なのに、銀髪ではないのだね」

 その一言に、エリーゼの背筋がぞわりとした。

「……誰、あんた。何が目的?」

 警戒心を隠さず、彼女は剣の柄に手をかけた。男はそれに気づいても動じることなく、静かに首を振った。

「安心していい。我々の目的は同じだよ。封印を解こうとしている魔族を捕らえたい――そうだろう?」

「どうして、それを……」

 男は帽子を少し上げ、整った顔立ちと、わずかに紅を帯びた瞳を覗かせた。

「名はガーラン。魔族の王族だ。祖母が昔、君たち人族の英雄カールと共に“魔王国選別大会”に出場し、王座に就いた。……その孫が、今の私というわけだ」

 エリーゼは目を見開いた。

「魔族の……王族?」

「信じがたいかもしれないが、事実だ。そして今、再び“選別大会”の季節が巡ってくる」

 彼は懐から古びた金属のメダルのようなものを取り出した。中央に刻まれた双頭の蛇の紋章が、不穏な気配を放っている。

「その大会が、今回の事件のカギを握っている。来年、魔王国にて開催される。三人一組で戦い、優勝した者が次の魔王となる。そして必ず、一人以上の魔族がチームに入るのが、伝統のルールだ」

「それが……封印と何の関係があるの?」

「強力な魔族を仲間にするため、ある者が“封印を解こうとしている”。大会に勝つためにね」

 ガーランは目を伏せて言った。

「その者は、手段を選ばない。もし封印されし“あれ”を解き放てば、王国どころか、世界が滅ぶ」

「……それは、本当に可能なの? そんな悪魔が封印されてるって……」

 問いかけに、ガーランは首を横に振った。

「不可能だ。解き放った時点で、制御できない。彼らはそれを理解していない。あるいは……理解していても止まらないのかもしれない」

 エリーゼは黙って彼の瞳を見つめていた。そこには確かに、恐怖と覚悟の色が見えた。

「お願いだ。協力して欲しい。私たちは、封印を破ろうとする者たちを止めなければならない。その“鍵”――封印を安定させる核が存在する。それがある場所は……マケドニア聖教国だ」

 その名に、エリーゼの眉がわずかに動いた。ダリルの過去に関わる国。そして、聖女の奇跡とやらが始まった場所でもある。

「それだけ伝えに来た」

 そう言うと、ガーランは椅子から立ち上がった。

「一つ、忠告しておこう。この先、おそらく君たちは試される。信じる者、失う者、裏切る者……それでも、進まねばならない」

「……あんたはどうなの? 本当に私たちと“同じ目的”なの?」

 問いに対し、ガーランはわずかに口元をほころばせた。

「我々魔族にとっても、“魔王”は象徴だ。だが、今はその象徴を求めて魔族たちが暴走しかけている。だから、私は――止めたい。祖母のように、誇りある王国を残したいんだ」

 それだけを言い残し、彼は静かに陽だまり亭を去った。

 食堂の扉が閉まる音がやけに重く響き、エリーゼはしばらくその場から動けなかった。

 ――マケドニア聖教国。ダリルが冤罪で追われた国。あの“奇跡”の真実。

 エリーゼは拳を握りしめた。仲間の元へ戻り、ガーランの話を伝えなければならない。戦いは、すでに始まっているのだ。
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