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第二章 工業都市ボルドー
2-40 魔物討伐決行日
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ボルドー生活八日目の朝、異形の魔物討伐の決行日。
魔法の調整がひと段落し、一風呂浴びてすっきりするかと異空間から這い出てみると、窓の外は雨模様。何とも雲行きが怪しいではないか。嫌な感じだね。
不吉な予感を抱きながらも風呂と朝食を済ませて準備完了。ディエラから貰った鉄紺色のローブを羽織り宿を後にする。
氷の大傘をさして進むこと十数分、時折奇異の目を向けられながらも冒険者組合へと到着した。
氷を水へと相転移させ街路に打ち捨てる。ビニール傘もビックリな簡易傘である。
使う分には便利なことこの上ないが、相転移させたときに周りの人からギョッとされるのが玉に瑕か。
「おはよう、ロウ君」
「おはようございますダリアさん。支部長と面会する予定なんですが、伺ってますか?」
「うん、聞いてるよ。『征服者』と『血風』の二人はもう来てるから、ロウ君も急いだほうがいいかも?」
「わかりました、ありがとうございます」
受付に向かいダリアに用件を伝えると、既に両名ともに揃い待っているらしいとのこと。
この世界では未だに時計と会えていないため、城門の開閉時や昼時を告げる時に鳴らされる鐘を基準として行動しているが、今回はその基準だと遅すぎたようだ。
ダリアに礼を述べて足早に支部長室へと向かう。連日ヴィクターたちと訓練をしているからか、子供一人であっても絡まれるようなことは無い。流石強面ヴィクター、影響力ばっちりだな。
(ロウ自身の異常さが知れ渡ったことも大いに影響していると思うのです)
最初の模擬戦の時に近接戦闘の実力見せたからなあ……っと、よくよく考えたら、もう実力を隠す必要もないのか?
まだ本人に謝罪はしていないけど、エスリウ誘拐の件は決着したようなもんだし。
(お前さんの場合は何かと加減を誤る傾向があるから、普段から抑えておく今くらいの状況が丁度いいと思うぞ)
サルガスの言葉に我がことながら納得してしまう。
自分の行いを省みれば自明だけど、ただでさえ人外なんだから慎ましく生きていく方が良いな、うん。
脳内会議で今後の活動方針を固めていると支部長室に到着、ノックを行い入室。三人+双龍に出迎えられた。
「おはようございます皆さん。お待たせしてしまい申し訳ありません」
「おう」「おはよう」
「おはよう。君が組合へ近づくと室内にいるこのゴーレムたちが活気づくから分かりやすい。……さて、それでは今日の依頼内容を改めて確認する」
挨拶もそこそこに、ベルナールが本題を切り出す。
「前もって詳細は資料でまとめてあるし、話すことはごく単純だ。ガイヤルド山脈麓の危険地帯に出向き、異形の魔物セルケトを討ち取る。周囲被害は気にしなくても良い。存分にやってくれ」
「つっても、雨だからな。例の魔物は知能があるし、悪天候の中を出歩くかどうか分からんぜ?」
「そこを含めての調査という側面もある。空が暗くなりだしても遭遇しない場合は日を改めることになる。その時去り際に油断することが無いようにな。では、よろしく頼む」
「了解」「当然だ」「はい、了解しました」
三者三様に答え、支部長室を出て組合を後にする。
いざ、魔物退治~ってね。
◇◆◇◆
氷の大傘を差しながら進軍すること約二時間、件の危険地帯へと到着する。
雨により足場が悪くなっているがそこは冒険者。軽く身体強化を施すだけで難なく悪路を踏破する。頼もしきことかな。
「──着いた。領域の奥へ進む前に最終確認しておこう」
「はい。見敵必殺。ヴィクターさんが凌いで、俺が相手の体勢や守りを崩し、レルミナさんが斬る」
「ハッ。この連携、急造にしては上出来だと思うぜ?」
「同感。人と組むのも悪くないかなとは思えた。……確認するまでもなかったね。じゃあ、行こうか」
彼女の言葉に頷き、再び三人で進行を再開。
危険地帯の中心であるピレネー山を目指し疾走する。
そこから、およそ十分。
「──止まってください」
「いたか?」
「いえ……肉を焼いたような匂いがします」
「肉? こんなところで?」
そう、こんな森の奥深く、人里離れたところで。
「この危険地帯で活動する人がいるとは思えないのですが、二人は思い当たりますか?」
「無いな。猟師も冒険者もこの辺りは手を出さないし、何よりこの天候だぜ?」
「この森に生息する魔物の中にも火を吐く種類がいるけど、火の効果が弱まる雨の中行動するとは考えづらい。……アタリかな」
「俺もそう考えます。資料の中にも、肉を調理することを教えたという記載がありましたし」
アルベルトがセルケトに見逃されたのは、調理を教えたことに対して恩義を感じているからだ、ということだったが……。
俺個人の感想としては、セルケトが滅ぼすべき存在だと断ずることは出来ない。
知恵を持ち言葉を解する存在で、しかも人族の恩という概念を理解しているのならば、歩み寄ることも十分可能だと思うからだ。
殺された冒険者らもセルケトの領域を侵犯したからだと考えれば、理不尽とまではいかないだろう。殺された側やその家族らからすれば堪ったものではないが、それは魔物も同じことだ。
森の恵みを得に行くにも、魔物を狩りに出向くにも。己の命もまた森や魔物に奪われることがあるということは覚悟しておかねばならない。生きるための営みとはそういうものだ。
しかしここで問題となるのが、人族と魔物が既に対立構造を持つ関係であるということ。
人族にとって魔物は一部共生関係にある例外を除いて敵であり、知能を持つ魔物など正に脅威の一言。歩み寄るというより恐怖が先行し、共生ではなく排除へと感情が傾いてしまうのだ。
俺は人族じゃなくて魔神だし、向かってくるなら打ち倒し、話し合おうというなら応じるのだが……そんなことを周りに伝えるわけにもいかない。
俺個人がどう思っていようとも、セルケトは滅ぼさなければならないのだろう。人族社会で生きていくためには。
(随分悩んでるな? 人族社会のために殺す、で良いと思うけどな)
シンプル過ぎるだろ! 言わんとすることはまんまそれなんだけども。
俺が懊悩としている間も歩みは止まらず、ついに匂いの発生源周辺へと辿り着く。
発生源と思わしきは森の中に佇む石造建築物。
完全石造り、巨岩をそのまま切り出したような外観にもかかわらず、妙な歪みや上部が凹んで水溜まりのある、奇妙な住居だ。
「中々斬新な住居ですね。住んでいて落ち着くことが無さそうです」
「巨岩を切り出したか? わざわざ相手の家に上がり込む必要もないし、魔術で吹き飛ばすか」
「賛成。準備するよ」
えげつねえ真似しやがる……。俺も似たようなこと考えていたけども。
「魔力で感知されたら意味がないですし、一斉に放ちますか」
揃って頷き合い、片や術式構築、片や精神統一。しばし無言の時間が続く。
「お待たせ。それじゃあ三つ数えたら行くよ。いい?」
「おう」「はい、大丈夫です」
「一、二、三、攻撃」
岩を融解させるほどの熱線放射。岩を紙きれの如く両断する烈風一閃。そして、地面から生え出た岩の巨腕による鉄槌打ち。
容赦一切なしの一斉攻撃が、雨と建物を吹き飛ばす!
──されども。蒸気が立ち込める中から感じる、強烈な魔力の気配。
魔術や魔法によって乱れた気配の中でも感じ取れるほどの、巨大な圧力。これで終わるならアルベルトたちも倒せてるだろうし、想定内ではある。
「随分と丈夫みたいだな? だからといってやることは変わらねえけどな」
「そうだね。バラバラにしてやろう」
「なんかアレですね。お二人ともすんげー悪役っぽいです──」
嗜虐的ともとれる発言に言及したところで、俺の創り出した巨腕が砕かれ──奇妙なシルエットが蒸気の中に浮かび上がる。
体高二メートルほど、細い上半身と対照的な太い下半身。幾本も見える腕、脚。ゆらゆらと動く尾? 羽?
「蒸気が晴れる前にもう一発いっときますか?」
「姿を見失っても厄介だし、機を見計らって、だね」
「せっかちだな、ロウ。まずは顔を拝んでやるとしようぜ」
「……くくく。我の食事を邪魔立てするとは、貴様らも死にたがりのようだな」
「「「っッ!」」」
ゆったりとした女の声がしたかと思うと柏手を打ったような音が響き、蒸気が霧散する。
そこに居たのは全裸の美女。
金色のメッシュが入る、竜胆のような薄い青紫色の艶やかな長髪。柴染色の瞳、切れ長の目尻。細く高い鼻梁に、血色の良い桜色の唇。美しいとしか形容できないほど目鼻立ちである。
白い裸体は優美な曲線を描き、人のそれよりもやや大きい肩口から二対の腕が突き出している。鎖骨辺りから緩やかな膨らみを造る胸元には残念ながら、誠に残念ながら竜胆色の髪の毛がかかり、頂点を拝むことができない。ふざけんなッ!
((……))
女体のへその下──丁度骨盤の上辺りからは櫛のような金色の棘が生え、そこが人体と異形の境目のようだ。白い人体とは対照的な赤黒い外殻で覆われた下半身、脚部、尾。胴体部はやや平たく、シルエットで太く見えたのは幅の勘違いだったらしい。
胴体部から突き出す脚は成人男性の太腿程度と、巨体を支えるにはやや細い。だが、光沢を放つその外殻は、一見しただけでも尋常ではない硬さが窺い知れるというものだ。
「──聞いてた通りだが……聞くと見るとじゃ大違いだな。ククッ、全裸とは恐れ入ったぜ」
「魔力の圧が凄いね。これは、本当に死力を尽くさないといけない」
「あの髪の毛どうにかなりませんかね? もうちょっと、あとちょっとで先っちょ見えそうなんですけど」
(馬鹿なこと言ってないで集中してください)
馬鹿ッ! 先端チェックより大切なことがあるか!
((……))
すみません、適当言いました。
秒で前言撤回。体外へ魔力が漏れ出ぬ範囲で全力強化を維持したまま、内で更に魔力を練り上げ奇襲の準備を整える。
「ふん、今更怖気づいても遅い──む……貴様はっ!?」
様子を窺うこちらへ多脚を踏み鳴らしながら寄ってきたセルケトは、突如として目を見開き声を張り上げた。俺の方を見て。
「ん? 俺?」
「貴様、しらばくれるか! 我の舌や脚を叩き斬ったこと、忘れたとは言わせんぞ!」
「お前みたいな美人は知ら──ん? 舌? 脚……あ」
──おめーあの時の、気色悪い魔物かよ!? イメチェンし過ぎだろうがッ!
「何だ、一度叩き潰してやがったのか? ロウ」
「斬られた痕がないし、再生能力があると考えた方が良い。一気に仕留めよう」
俺が混乱している間にヴィクターとレルミナが話しを進めていく。
不味い、俺が戦った時より強くなっているであろうことを、早く伝えなければ──。
「もはや問答は無用! 行くぞ!」
「「「っッ!?」」」
──伝えられませんでしたァ!
戦っていれば分かるだろうし、捨て置こう、そうしよう。とにもかくにも戦闘開始!
魔法の調整がひと段落し、一風呂浴びてすっきりするかと異空間から這い出てみると、窓の外は雨模様。何とも雲行きが怪しいではないか。嫌な感じだね。
不吉な予感を抱きながらも風呂と朝食を済ませて準備完了。ディエラから貰った鉄紺色のローブを羽織り宿を後にする。
氷の大傘をさして進むこと十数分、時折奇異の目を向けられながらも冒険者組合へと到着した。
氷を水へと相転移させ街路に打ち捨てる。ビニール傘もビックリな簡易傘である。
使う分には便利なことこの上ないが、相転移させたときに周りの人からギョッとされるのが玉に瑕か。
「おはよう、ロウ君」
「おはようございますダリアさん。支部長と面会する予定なんですが、伺ってますか?」
「うん、聞いてるよ。『征服者』と『血風』の二人はもう来てるから、ロウ君も急いだほうがいいかも?」
「わかりました、ありがとうございます」
受付に向かいダリアに用件を伝えると、既に両名ともに揃い待っているらしいとのこと。
この世界では未だに時計と会えていないため、城門の開閉時や昼時を告げる時に鳴らされる鐘を基準として行動しているが、今回はその基準だと遅すぎたようだ。
ダリアに礼を述べて足早に支部長室へと向かう。連日ヴィクターたちと訓練をしているからか、子供一人であっても絡まれるようなことは無い。流石強面ヴィクター、影響力ばっちりだな。
(ロウ自身の異常さが知れ渡ったことも大いに影響していると思うのです)
最初の模擬戦の時に近接戦闘の実力見せたからなあ……っと、よくよく考えたら、もう実力を隠す必要もないのか?
まだ本人に謝罪はしていないけど、エスリウ誘拐の件は決着したようなもんだし。
(お前さんの場合は何かと加減を誤る傾向があるから、普段から抑えておく今くらいの状況が丁度いいと思うぞ)
サルガスの言葉に我がことながら納得してしまう。
自分の行いを省みれば自明だけど、ただでさえ人外なんだから慎ましく生きていく方が良いな、うん。
脳内会議で今後の活動方針を固めていると支部長室に到着、ノックを行い入室。三人+双龍に出迎えられた。
「おはようございます皆さん。お待たせしてしまい申し訳ありません」
「おう」「おはよう」
「おはよう。君が組合へ近づくと室内にいるこのゴーレムたちが活気づくから分かりやすい。……さて、それでは今日の依頼内容を改めて確認する」
挨拶もそこそこに、ベルナールが本題を切り出す。
「前もって詳細は資料でまとめてあるし、話すことはごく単純だ。ガイヤルド山脈麓の危険地帯に出向き、異形の魔物セルケトを討ち取る。周囲被害は気にしなくても良い。存分にやってくれ」
「つっても、雨だからな。例の魔物は知能があるし、悪天候の中を出歩くかどうか分からんぜ?」
「そこを含めての調査という側面もある。空が暗くなりだしても遭遇しない場合は日を改めることになる。その時去り際に油断することが無いようにな。では、よろしく頼む」
「了解」「当然だ」「はい、了解しました」
三者三様に答え、支部長室を出て組合を後にする。
いざ、魔物退治~ってね。
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雨により足場が悪くなっているがそこは冒険者。軽く身体強化を施すだけで難なく悪路を踏破する。頼もしきことかな。
「──着いた。領域の奥へ進む前に最終確認しておこう」
「はい。見敵必殺。ヴィクターさんが凌いで、俺が相手の体勢や守りを崩し、レルミナさんが斬る」
「ハッ。この連携、急造にしては上出来だと思うぜ?」
「同感。人と組むのも悪くないかなとは思えた。……確認するまでもなかったね。じゃあ、行こうか」
彼女の言葉に頷き、再び三人で進行を再開。
危険地帯の中心であるピレネー山を目指し疾走する。
そこから、およそ十分。
「──止まってください」
「いたか?」
「いえ……肉を焼いたような匂いがします」
「肉? こんなところで?」
そう、こんな森の奥深く、人里離れたところで。
「この危険地帯で活動する人がいるとは思えないのですが、二人は思い当たりますか?」
「無いな。猟師も冒険者もこの辺りは手を出さないし、何よりこの天候だぜ?」
「この森に生息する魔物の中にも火を吐く種類がいるけど、火の効果が弱まる雨の中行動するとは考えづらい。……アタリかな」
「俺もそう考えます。資料の中にも、肉を調理することを教えたという記載がありましたし」
アルベルトがセルケトに見逃されたのは、調理を教えたことに対して恩義を感じているからだ、ということだったが……。
俺個人の感想としては、セルケトが滅ぼすべき存在だと断ずることは出来ない。
知恵を持ち言葉を解する存在で、しかも人族の恩という概念を理解しているのならば、歩み寄ることも十分可能だと思うからだ。
殺された冒険者らもセルケトの領域を侵犯したからだと考えれば、理不尽とまではいかないだろう。殺された側やその家族らからすれば堪ったものではないが、それは魔物も同じことだ。
森の恵みを得に行くにも、魔物を狩りに出向くにも。己の命もまた森や魔物に奪われることがあるということは覚悟しておかねばならない。生きるための営みとはそういうものだ。
しかしここで問題となるのが、人族と魔物が既に対立構造を持つ関係であるということ。
人族にとって魔物は一部共生関係にある例外を除いて敵であり、知能を持つ魔物など正に脅威の一言。歩み寄るというより恐怖が先行し、共生ではなく排除へと感情が傾いてしまうのだ。
俺は人族じゃなくて魔神だし、向かってくるなら打ち倒し、話し合おうというなら応じるのだが……そんなことを周りに伝えるわけにもいかない。
俺個人がどう思っていようとも、セルケトは滅ぼさなければならないのだろう。人族社会で生きていくためには。
(随分悩んでるな? 人族社会のために殺す、で良いと思うけどな)
シンプル過ぎるだろ! 言わんとすることはまんまそれなんだけども。
俺が懊悩としている間も歩みは止まらず、ついに匂いの発生源周辺へと辿り着く。
発生源と思わしきは森の中に佇む石造建築物。
完全石造り、巨岩をそのまま切り出したような外観にもかかわらず、妙な歪みや上部が凹んで水溜まりのある、奇妙な住居だ。
「中々斬新な住居ですね。住んでいて落ち着くことが無さそうです」
「巨岩を切り出したか? わざわざ相手の家に上がり込む必要もないし、魔術で吹き飛ばすか」
「賛成。準備するよ」
えげつねえ真似しやがる……。俺も似たようなこと考えていたけども。
「魔力で感知されたら意味がないですし、一斉に放ちますか」
揃って頷き合い、片や術式構築、片や精神統一。しばし無言の時間が続く。
「お待たせ。それじゃあ三つ数えたら行くよ。いい?」
「おう」「はい、大丈夫です」
「一、二、三、攻撃」
岩を融解させるほどの熱線放射。岩を紙きれの如く両断する烈風一閃。そして、地面から生え出た岩の巨腕による鉄槌打ち。
容赦一切なしの一斉攻撃が、雨と建物を吹き飛ばす!
──されども。蒸気が立ち込める中から感じる、強烈な魔力の気配。
魔術や魔法によって乱れた気配の中でも感じ取れるほどの、巨大な圧力。これで終わるならアルベルトたちも倒せてるだろうし、想定内ではある。
「随分と丈夫みたいだな? だからといってやることは変わらねえけどな」
「そうだね。バラバラにしてやろう」
「なんかアレですね。お二人ともすんげー悪役っぽいです──」
嗜虐的ともとれる発言に言及したところで、俺の創り出した巨腕が砕かれ──奇妙なシルエットが蒸気の中に浮かび上がる。
体高二メートルほど、細い上半身と対照的な太い下半身。幾本も見える腕、脚。ゆらゆらと動く尾? 羽?
「蒸気が晴れる前にもう一発いっときますか?」
「姿を見失っても厄介だし、機を見計らって、だね」
「せっかちだな、ロウ。まずは顔を拝んでやるとしようぜ」
「……くくく。我の食事を邪魔立てするとは、貴様らも死にたがりのようだな」
「「「っッ!」」」
ゆったりとした女の声がしたかと思うと柏手を打ったような音が響き、蒸気が霧散する。
そこに居たのは全裸の美女。
金色のメッシュが入る、竜胆のような薄い青紫色の艶やかな長髪。柴染色の瞳、切れ長の目尻。細く高い鼻梁に、血色の良い桜色の唇。美しいとしか形容できないほど目鼻立ちである。
白い裸体は優美な曲線を描き、人のそれよりもやや大きい肩口から二対の腕が突き出している。鎖骨辺りから緩やかな膨らみを造る胸元には残念ながら、誠に残念ながら竜胆色の髪の毛がかかり、頂点を拝むことができない。ふざけんなッ!
((……))
女体のへその下──丁度骨盤の上辺りからは櫛のような金色の棘が生え、そこが人体と異形の境目のようだ。白い人体とは対照的な赤黒い外殻で覆われた下半身、脚部、尾。胴体部はやや平たく、シルエットで太く見えたのは幅の勘違いだったらしい。
胴体部から突き出す脚は成人男性の太腿程度と、巨体を支えるにはやや細い。だが、光沢を放つその外殻は、一見しただけでも尋常ではない硬さが窺い知れるというものだ。
「──聞いてた通りだが……聞くと見るとじゃ大違いだな。ククッ、全裸とは恐れ入ったぜ」
「魔力の圧が凄いね。これは、本当に死力を尽くさないといけない」
「あの髪の毛どうにかなりませんかね? もうちょっと、あとちょっとで先っちょ見えそうなんですけど」
(馬鹿なこと言ってないで集中してください)
馬鹿ッ! 先端チェックより大切なことがあるか!
((……))
すみません、適当言いました。
秒で前言撤回。体外へ魔力が漏れ出ぬ範囲で全力強化を維持したまま、内で更に魔力を練り上げ奇襲の準備を整える。
「ふん、今更怖気づいても遅い──む……貴様はっ!?」
様子を窺うこちらへ多脚を踏み鳴らしながら寄ってきたセルケトは、突如として目を見開き声を張り上げた。俺の方を見て。
「ん? 俺?」
「貴様、しらばくれるか! 我の舌や脚を叩き斬ったこと、忘れたとは言わせんぞ!」
「お前みたいな美人は知ら──ん? 舌? 脚……あ」
──おめーあの時の、気色悪い魔物かよ!? イメチェンし過ぎだろうがッ!
「何だ、一度叩き潰してやがったのか? ロウ」
「斬られた痕がないし、再生能力があると考えた方が良い。一気に仕留めよう」
俺が混乱している間にヴィクターとレルミナが話しを進めていく。
不味い、俺が戦った時より強くなっているであろうことを、早く伝えなければ──。
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