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第二章 工業都市ボルドー
2-54 眷属の外出
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ボルドー生活十一日目。ようやくここでの生活に慣れてきた、そんなタイミングで隣国に行くことに決まった日の翌日。
今日はボルドー北門から少し離れたところにあるセサリア修道院に、ヴィクターたちのお見舞いへとやってきた。無論、顔を見られると不味いセルケトは異空間に放り込んである。
時刻はお昼時。アーリア商店にあった珍しい甘味を持参している。やはり見舞いと言えば手土産は欠かせないだろう。
(甘味ですか。いずれは私も食べてみたいのです)
いつもは涼しげな黒刀の声にも僅かに羨望の色が滲む。無機物なれど女性であれば甘味を欲するものらしい。むべなるかな。
人化した暁には高級な甘味で祝ってやるかとぼんやり考えながら、修道院の内部を巡る。
この修道院で暮らす教徒たちは親切で、土産をもって見舞いに来たと伝えれば微笑みと共に治療施設の場所を教えてくれる。実に平和だ。
(お前さん、自分では忘れてるかもしれないが、外見はまごうことなき子供だからな? そりゃ微笑ましい気にもなるだろうさ)
そういえばそうでした。我がことながらすっぱり忘れていたよ。
「──おや、ロウ君ですか」
「ベルティエさん。ヴィクターたちがお世話になってます」
夏の陽気にあてられのほほんと歩いて件の建物へと入ると、白髪熊男ことベルティエに遭遇する。
大きく盛り上がった胸板、岩を掘り出したかのような腹筋、背筋。ゆったりとした濃紺の神官服からも分かる筋肉群は、相も変わらず重厚である。
「彼らは高位の冒険者だけあって、治癒速度も速いですからね。まだ激しい運動は難しいですが、歩いて回るくらいは可能ですよ。君が顔を見せれば、きっと喜ぶことでしょう」
「これから会ってきます。甘味を持ってきたんですけど、よろしければどうぞ。数が無いので、治療にあたって頂いた方の分くらいしかないですけども」
「甘味ですか。フフ、有難く頂戴しますね。ああでも、ヴィクター殿は口内を切られているので食べたがらないかもしれません」
特徴的な黒い円柱状の帽子を被るベルティエと話しながら廊下を歩いている内に、目的地である病室へ到着。彼と別れて入室する。
室内を見渡せば、中々の広さ。十畳以上はあるだろうか?
そんな室内にベッドが二つにカーテンレールも二つ。こういった場所では意外なことだが、プライベートは保証されているようだ。
「どうもどうも。お元気ですか?」
「──ロウか!?」「!」
軽く挨拶を行うと両側のカーテンが素早くスライド。簡素な麻の上下服を着たヴィクターとレルミナが姿を現した。
「意外と元気そうですね。レルミナさんも腕がくっついたみたいでなによりです」
「……ありがとう。ロウは相変わらずだね」
「逃げた俺たちよりお前の方が軽傷ってどういうことだよ。全く」
「いやいや、あの後槍でぶっ刺されたり電撃で焼かれたり大変だったんですって」
奇跡の治療が順調なのか、二人の経過は良好だった。
そんな彼らに安堵しつつセルケト討伐の武勇伝を語ったり、新たに隣国までの護衛依頼を受けたことを話したり、砂糖を使った焼き菓子を振る舞ったりすること一時間。
「──そろそろ失礼しますね。お大事に~」
「おう。わざわざありがとな」
「しばらく会えないのは寂しいけど、こっちに帰ってきた時は組合に顔を見せに来て欲しいな」
レルミナのストレートな言葉にドキッとしながら病室を出る。美人にああいうこと言われると、他意は無いと分かっていても嬉しくなってしまう。
(ロウは女性が大好きですからね……はぁ)
(ロウに限らず、男なら大なり小なりこんなものなんじゃないか?)
脳内で繰り広げられる曲刀たちの男女観を聞き流しつつ、修道院を後にする。ついでに異空間の門を開きセルケトを召喚だ。
「用事は終わったか? ロウよ、シアンも自分用の服が欲しいと言っておったぞ。その内商店に連れて行くと良い」
「あいつ自分の魔力で服創れるだろ……」
開口一番シアンの陳情を訴えるセルケト。君ら本当に仲がいいな。
普段は異空間で退屈している分、たまにはウィンドウショッピングを楽しみたいのかもしれないし、仕方なしとシアンも異空間より召喚。
あっという間に両手に花だ。ただしどちらも人外。
「ふむ。ロウも中々話が分かる奴よな」
[──]
「はしゃぐまでは許すけど、勝手に変身したり変身解いたりするなよ? 俺やセルケトから離れるのもなしだぞ」
興味津々と言った様子で辺りの森を見回すシアンに注意を促す。
人型に変身するゴーレムなんぞ明らかに精霊使いの領分を超えているだろう。流石の俺でも不味いと分かる。
(娘に注意する父親みたいだな)
サルガスの何気ない言葉が俺の心を抉る。せめて兄にしてくれ。何で十歳で子持ちにならにゃいかんのだ。
シアンはセルケトの友達で田舎から遊びに来たという設定にして、ボルドー商業区へと戻る。予め口裏合わせしておかないと、どうなるか分かったもんじゃない。
[──♪]
街を歩く中、上機嫌で観察していくシアン。
異国情緒香る美しい顔立ちに、風変わりに映るであろう彼女の纏う現代日本の衣服。そこへ同様に美しいセルケトも合わされば、目立つことこの上なし、だ。
現に彼女たちを見た者の多くは足を止めて見入り、彼女たちが通り過ぎた後も追うように視線を向けていた。
「ふふん。聞くがよいシアンよ、あれは露店と言ってだな──」
[──]
そうやって興味深そうに街並みを見ているシアンに対して、得意気に覚えたての知識を披露していくセルケトだが……。服飾知識やら戦闘技術から考えるに、シアンは俺の持つ知識をほとんど網羅しているはずだ。
それどころか、俺が覚えていないような知識も引き出している節さえある。俺には裁縫なんてできないし。
つまりは、饒舌に語っているセルケトの言葉の多くは、シアンにとって既知の事実のはずなのだ。うんうんと頷き感心している風を装っているが、俺にはお見通しだぜシアンよ。水を差すような野暮な真似はしないけども。
(完全に娘たちを温かく見守る父親状態だぞ、お前さん)
(セルケトはともかく、シアンは実際娘のようなものですから、ロウの態度も頷けようものなのです)
文字通りの生みの親だし、曲刀たちの語る言葉もそうおかしなものでもないか。
──ここにあるは褐色の美少年。
ただし子持ち。
更に人外。
その上凶悪犯罪者。
これは属性過多ですわー。
益体も無いこと考えながら大通りを進み、目的地であるアーリア商店に到着。曲刀たちを店員に預けて入店する。
セルケトに大目の金貨を渡してシアン共々婦人服売り場に放り込み、紳士服売り場へ赴く。
隣国や帝国に行くともなれば長旅になるし、途中で服がボロボロになることだってあるかもしれない。服は余分に買っておくくらいが丁度いいだろう。異空間に保管すれば収納要らずだし。
「──あら、ロウ様! いらっしゃいませ」
「こんにちはアイシャさん。今日は旅に適していそうな服を見繕ってもらえたらなと思ってます」
売り場を物色していると、金色のポニーテールが眩しい女性店員に遭遇した。
彼女も俺がヤームルの護衛として隣国へ行くことは知っているらしく、快く了承の返事を返し、瞬時に売り場へと消えていった。
待っている間にボルドーの流行をチェックすること十分。アイシャがこちらへ戻ってきた。またも女性店員たちを引き連れて。
「それではロウ様、まずはこちらを!」
「……はい」
額に汗し鼻息荒く、子供服片手に壁を形成する女性店員ズ。見繕ってもらえるなら問題なかろうだ。こうも迫られるとちょっと恐怖を覚えるけど。
しっちゃかめっちゃかにされること、一時間。
五着ほど上下を買い揃え、連れを迎えに行くという名目で、店員たちの魔の手から逃れることに成功する。
他の店員に見つからぬようスニーキングを行って婦人服売り場へ突入。場違いな雰囲気に肩身を狭くしながらセルケトたちを探していく。
「……ん? 居ないか?」
婦人服売り場を一周してみたが、彼女たちの姿はない。
好奇心旺盛なセルケトがいるし、あいつが心の赴くままに行動した可能性はある。何か面倒事に巻き込まれたと判断するには早いが……。
事が起こればまずは聞き込み、これ調査の常道也。
「──紫の長髪の女性と青の長髪の女性ですか? ああ、ロウ様のお知り合いでいらしたんですね? 少し前に紳士服売り場の方へ向かわれましたよ」
「そうでしたか、ありがとうございます」
売り場に居た女性店員に聞いてみると、そう返ってきた。運悪く入れ違いになっていたようだ。
「って、いたいた」
店員の情報をもとに紳士服売り場の方へ戻る途中、セルケトたちを発見する。あっさり見つかったことに胸をなでおろし、声を掛けようとしたが──。
「──そういうことでしたか。ワタクシたちも長旅の前に一通り買い揃えようとここへ来ていたのですよ。うふふ」
「そうであったか。考えることは似通うものだな」
──などという会話が耳に入ってくる。
こっそりと様子を窺えば、象牙色の美少女と若葉色の美女、俺が苦手としている主従を発見した。
選りにも選って関係性が微妙なエスリウたち。嫌なタイミングで遭遇したものだ。
「お嬢様。どうやら彼は少し前に紳士売り場を離れたようです。セルケトさんたちと入れ違いになったのかもしれません」
「ふむ? ならばここで待っておればあやつも戻ってこよう。どこへ行くというのだ?」
「立ち話もなんですから、三階にある喫茶店でお話というのは如何でしょう? 折角こうして機会に恵まれたものですから、セルケトさんやシアンさんのことをもう少しお聞きしたいですし……。ロウさんのことは店員の方に伝えておけば大丈夫ですよ」
口元に指を当て華やかな笑みを浮かべながら提案するエスリウ。喫茶店という言葉に心惹かれたのか、その提案に乗ってしまうセルケト。
その様、蜘蛛の巣に絡め捕られた獲物の如し。
エスリウに先導されて、のこのこ歩いていくセルケトとシアン。彼女たちのカラフルな後姿を眺めて頭を捻る。さて、どう動くか。
・女子会に乱入しキャッキャウフフする。
・ある程度時間が経ったところでセルケトたちを回収しに行く。
・喫茶店到着前に合流しセルケトたちを回収する。
こんなところだろうか。
一応候補に挙げはしたが、一つ目は無いな。
女子会に乗り込むなんて童貞には難易度が高すぎるし、孤立無援の状態でエスリウに尋問されるとか拷問でしかない。無理無理ムーリのカタツムリーってやつだ。
消去法で残る選択肢は二つ……だが、時間を空けるとセルケトが何を喋るか分からないし、行動するなら早い方が良い。拙速は巧遅になんとやら、だ。
となれば、三つ目の到着前に強制奪取あるのみ。
そうと決まれば即行動! 適当に理由をでっちあげて捲し立てることで、よく分からないうちにその場を離脱するって寸法よ。
影から影へと素早く移動し標的補足! 任務開始ッ!
「あれ、奇遇で──」
「──あら、ロウさん。ようやく出てきてくれたんですね?」
「──ギヤアアア!」
背後から声を掛けようとした瞬間、ぐりんとこちらに笑顔を向けるエスリウ。
ホラー映画さながらの動きに思わず声が出た。ついでにちびるかと思った。
「まあっ。ロウさんったら。女性に声を掛けられてそんな怯えた顔をするなんて、いけませんよ? ワタクシはそういった表情も好きですけれど。うふふ……」
「む? ロウか。何を大声を上げているのだ? そんなにエスリウに会えて嬉しかったのか?」
「……」
目を細め妖艶というに相応しい笑みを浮かべるエスリウに、見当違いな推測をするセルケト、無表情で額に手をやるマルト。シアンは興味がなさそうに髪の毛を弄っている。
不味いぞ、このままでは女郎蜘蛛ことエスリウに絡め捕られてしまう。
「いやあ奇遇ですねエスリウ様。こうして会えたことは誠に光栄なのですが実は私どもは少し急ぎの用がございまして──」
「ふむ? ロウよ、この買い物の後は挨拶回りと訓練くらいしか用事はないのではなかったか? 我は聞いておらぬぞ」
──あああぁぁぁッ!
何本当のこと言っちゃってんだよ! 素直かッ!? 台無しだよ馬鹿野郎!
「うふふふ、そうでしたか。では、ロウさんも一緒に喫茶店へ如何ですか? 貴方とは一度、じっくりお話しをしてみたいと思っていましたから、ね?」
がっちりロックオンされておててをホールドされました。握られた右手がひんやりして気持ちいいです。
そのままずるずるとエスリウに連行されていると、視界の端でシアンがやれやれと肩をすくめている姿が目に入る。自分が話せないからって他人事みたいな態度しやがって。
まあ護衛依頼の道中で行動を共にするわけだし、今のうちに話す時間を作っておくのも悪いことじゃないか。ここらでエスリウがどういった疑惑を俺に向けているのか、それを測っておくのも良いだろう。
魔族バレしたときは国外逃亡するかなあと考えながら、俺はエスリウたちと喫茶店へ入ったのだった。
今日はボルドー北門から少し離れたところにあるセサリア修道院に、ヴィクターたちのお見舞いへとやってきた。無論、顔を見られると不味いセルケトは異空間に放り込んである。
時刻はお昼時。アーリア商店にあった珍しい甘味を持参している。やはり見舞いと言えば手土産は欠かせないだろう。
(甘味ですか。いずれは私も食べてみたいのです)
いつもは涼しげな黒刀の声にも僅かに羨望の色が滲む。無機物なれど女性であれば甘味を欲するものらしい。むべなるかな。
人化した暁には高級な甘味で祝ってやるかとぼんやり考えながら、修道院の内部を巡る。
この修道院で暮らす教徒たちは親切で、土産をもって見舞いに来たと伝えれば微笑みと共に治療施設の場所を教えてくれる。実に平和だ。
(お前さん、自分では忘れてるかもしれないが、外見はまごうことなき子供だからな? そりゃ微笑ましい気にもなるだろうさ)
そういえばそうでした。我がことながらすっぱり忘れていたよ。
「──おや、ロウ君ですか」
「ベルティエさん。ヴィクターたちがお世話になってます」
夏の陽気にあてられのほほんと歩いて件の建物へと入ると、白髪熊男ことベルティエに遭遇する。
大きく盛り上がった胸板、岩を掘り出したかのような腹筋、背筋。ゆったりとした濃紺の神官服からも分かる筋肉群は、相も変わらず重厚である。
「彼らは高位の冒険者だけあって、治癒速度も速いですからね。まだ激しい運動は難しいですが、歩いて回るくらいは可能ですよ。君が顔を見せれば、きっと喜ぶことでしょう」
「これから会ってきます。甘味を持ってきたんですけど、よろしければどうぞ。数が無いので、治療にあたって頂いた方の分くらいしかないですけども」
「甘味ですか。フフ、有難く頂戴しますね。ああでも、ヴィクター殿は口内を切られているので食べたがらないかもしれません」
特徴的な黒い円柱状の帽子を被るベルティエと話しながら廊下を歩いている内に、目的地である病室へ到着。彼と別れて入室する。
室内を見渡せば、中々の広さ。十畳以上はあるだろうか?
そんな室内にベッドが二つにカーテンレールも二つ。こういった場所では意外なことだが、プライベートは保証されているようだ。
「どうもどうも。お元気ですか?」
「──ロウか!?」「!」
軽く挨拶を行うと両側のカーテンが素早くスライド。簡素な麻の上下服を着たヴィクターとレルミナが姿を現した。
「意外と元気そうですね。レルミナさんも腕がくっついたみたいでなによりです」
「……ありがとう。ロウは相変わらずだね」
「逃げた俺たちよりお前の方が軽傷ってどういうことだよ。全く」
「いやいや、あの後槍でぶっ刺されたり電撃で焼かれたり大変だったんですって」
奇跡の治療が順調なのか、二人の経過は良好だった。
そんな彼らに安堵しつつセルケト討伐の武勇伝を語ったり、新たに隣国までの護衛依頼を受けたことを話したり、砂糖を使った焼き菓子を振る舞ったりすること一時間。
「──そろそろ失礼しますね。お大事に~」
「おう。わざわざありがとな」
「しばらく会えないのは寂しいけど、こっちに帰ってきた時は組合に顔を見せに来て欲しいな」
レルミナのストレートな言葉にドキッとしながら病室を出る。美人にああいうこと言われると、他意は無いと分かっていても嬉しくなってしまう。
(ロウは女性が大好きですからね……はぁ)
(ロウに限らず、男なら大なり小なりこんなものなんじゃないか?)
脳内で繰り広げられる曲刀たちの男女観を聞き流しつつ、修道院を後にする。ついでに異空間の門を開きセルケトを召喚だ。
「用事は終わったか? ロウよ、シアンも自分用の服が欲しいと言っておったぞ。その内商店に連れて行くと良い」
「あいつ自分の魔力で服創れるだろ……」
開口一番シアンの陳情を訴えるセルケト。君ら本当に仲がいいな。
普段は異空間で退屈している分、たまにはウィンドウショッピングを楽しみたいのかもしれないし、仕方なしとシアンも異空間より召喚。
あっという間に両手に花だ。ただしどちらも人外。
「ふむ。ロウも中々話が分かる奴よな」
[──]
「はしゃぐまでは許すけど、勝手に変身したり変身解いたりするなよ? 俺やセルケトから離れるのもなしだぞ」
興味津々と言った様子で辺りの森を見回すシアンに注意を促す。
人型に変身するゴーレムなんぞ明らかに精霊使いの領分を超えているだろう。流石の俺でも不味いと分かる。
(娘に注意する父親みたいだな)
サルガスの何気ない言葉が俺の心を抉る。せめて兄にしてくれ。何で十歳で子持ちにならにゃいかんのだ。
シアンはセルケトの友達で田舎から遊びに来たという設定にして、ボルドー商業区へと戻る。予め口裏合わせしておかないと、どうなるか分かったもんじゃない。
[──♪]
街を歩く中、上機嫌で観察していくシアン。
異国情緒香る美しい顔立ちに、風変わりに映るであろう彼女の纏う現代日本の衣服。そこへ同様に美しいセルケトも合わされば、目立つことこの上なし、だ。
現に彼女たちを見た者の多くは足を止めて見入り、彼女たちが通り過ぎた後も追うように視線を向けていた。
「ふふん。聞くがよいシアンよ、あれは露店と言ってだな──」
[──]
そうやって興味深そうに街並みを見ているシアンに対して、得意気に覚えたての知識を披露していくセルケトだが……。服飾知識やら戦闘技術から考えるに、シアンは俺の持つ知識をほとんど網羅しているはずだ。
それどころか、俺が覚えていないような知識も引き出している節さえある。俺には裁縫なんてできないし。
つまりは、饒舌に語っているセルケトの言葉の多くは、シアンにとって既知の事実のはずなのだ。うんうんと頷き感心している風を装っているが、俺にはお見通しだぜシアンよ。水を差すような野暮な真似はしないけども。
(完全に娘たちを温かく見守る父親状態だぞ、お前さん)
(セルケトはともかく、シアンは実際娘のようなものですから、ロウの態度も頷けようものなのです)
文字通りの生みの親だし、曲刀たちの語る言葉もそうおかしなものでもないか。
──ここにあるは褐色の美少年。
ただし子持ち。
更に人外。
その上凶悪犯罪者。
これは属性過多ですわー。
益体も無いこと考えながら大通りを進み、目的地であるアーリア商店に到着。曲刀たちを店員に預けて入店する。
セルケトに大目の金貨を渡してシアン共々婦人服売り場に放り込み、紳士服売り場へ赴く。
隣国や帝国に行くともなれば長旅になるし、途中で服がボロボロになることだってあるかもしれない。服は余分に買っておくくらいが丁度いいだろう。異空間に保管すれば収納要らずだし。
「──あら、ロウ様! いらっしゃいませ」
「こんにちはアイシャさん。今日は旅に適していそうな服を見繕ってもらえたらなと思ってます」
売り場を物色していると、金色のポニーテールが眩しい女性店員に遭遇した。
彼女も俺がヤームルの護衛として隣国へ行くことは知っているらしく、快く了承の返事を返し、瞬時に売り場へと消えていった。
待っている間にボルドーの流行をチェックすること十分。アイシャがこちらへ戻ってきた。またも女性店員たちを引き連れて。
「それではロウ様、まずはこちらを!」
「……はい」
額に汗し鼻息荒く、子供服片手に壁を形成する女性店員ズ。見繕ってもらえるなら問題なかろうだ。こうも迫られるとちょっと恐怖を覚えるけど。
しっちゃかめっちゃかにされること、一時間。
五着ほど上下を買い揃え、連れを迎えに行くという名目で、店員たちの魔の手から逃れることに成功する。
他の店員に見つからぬようスニーキングを行って婦人服売り場へ突入。場違いな雰囲気に肩身を狭くしながらセルケトたちを探していく。
「……ん? 居ないか?」
婦人服売り場を一周してみたが、彼女たちの姿はない。
好奇心旺盛なセルケトがいるし、あいつが心の赴くままに行動した可能性はある。何か面倒事に巻き込まれたと判断するには早いが……。
事が起こればまずは聞き込み、これ調査の常道也。
「──紫の長髪の女性と青の長髪の女性ですか? ああ、ロウ様のお知り合いでいらしたんですね? 少し前に紳士服売り場の方へ向かわれましたよ」
「そうでしたか、ありがとうございます」
売り場に居た女性店員に聞いてみると、そう返ってきた。運悪く入れ違いになっていたようだ。
「って、いたいた」
店員の情報をもとに紳士服売り場の方へ戻る途中、セルケトたちを発見する。あっさり見つかったことに胸をなでおろし、声を掛けようとしたが──。
「──そういうことでしたか。ワタクシたちも長旅の前に一通り買い揃えようとここへ来ていたのですよ。うふふ」
「そうであったか。考えることは似通うものだな」
──などという会話が耳に入ってくる。
こっそりと様子を窺えば、象牙色の美少女と若葉色の美女、俺が苦手としている主従を発見した。
選りにも選って関係性が微妙なエスリウたち。嫌なタイミングで遭遇したものだ。
「お嬢様。どうやら彼は少し前に紳士売り場を離れたようです。セルケトさんたちと入れ違いになったのかもしれません」
「ふむ? ならばここで待っておればあやつも戻ってこよう。どこへ行くというのだ?」
「立ち話もなんですから、三階にある喫茶店でお話というのは如何でしょう? 折角こうして機会に恵まれたものですから、セルケトさんやシアンさんのことをもう少しお聞きしたいですし……。ロウさんのことは店員の方に伝えておけば大丈夫ですよ」
口元に指を当て華やかな笑みを浮かべながら提案するエスリウ。喫茶店という言葉に心惹かれたのか、その提案に乗ってしまうセルケト。
その様、蜘蛛の巣に絡め捕られた獲物の如し。
エスリウに先導されて、のこのこ歩いていくセルケトとシアン。彼女たちのカラフルな後姿を眺めて頭を捻る。さて、どう動くか。
・女子会に乱入しキャッキャウフフする。
・ある程度時間が経ったところでセルケトたちを回収しに行く。
・喫茶店到着前に合流しセルケトたちを回収する。
こんなところだろうか。
一応候補に挙げはしたが、一つ目は無いな。
女子会に乗り込むなんて童貞には難易度が高すぎるし、孤立無援の状態でエスリウに尋問されるとか拷問でしかない。無理無理ムーリのカタツムリーってやつだ。
消去法で残る選択肢は二つ……だが、時間を空けるとセルケトが何を喋るか分からないし、行動するなら早い方が良い。拙速は巧遅になんとやら、だ。
となれば、三つ目の到着前に強制奪取あるのみ。
そうと決まれば即行動! 適当に理由をでっちあげて捲し立てることで、よく分からないうちにその場を離脱するって寸法よ。
影から影へと素早く移動し標的補足! 任務開始ッ!
「あれ、奇遇で──」
「──あら、ロウさん。ようやく出てきてくれたんですね?」
「──ギヤアアア!」
背後から声を掛けようとした瞬間、ぐりんとこちらに笑顔を向けるエスリウ。
ホラー映画さながらの動きに思わず声が出た。ついでにちびるかと思った。
「まあっ。ロウさんったら。女性に声を掛けられてそんな怯えた顔をするなんて、いけませんよ? ワタクシはそういった表情も好きですけれど。うふふ……」
「む? ロウか。何を大声を上げているのだ? そんなにエスリウに会えて嬉しかったのか?」
「……」
目を細め妖艶というに相応しい笑みを浮かべるエスリウに、見当違いな推測をするセルケト、無表情で額に手をやるマルト。シアンは興味がなさそうに髪の毛を弄っている。
不味いぞ、このままでは女郎蜘蛛ことエスリウに絡め捕られてしまう。
「いやあ奇遇ですねエスリウ様。こうして会えたことは誠に光栄なのですが実は私どもは少し急ぎの用がございまして──」
「ふむ? ロウよ、この買い物の後は挨拶回りと訓練くらいしか用事はないのではなかったか? 我は聞いておらぬぞ」
──あああぁぁぁッ!
何本当のこと言っちゃってんだよ! 素直かッ!? 台無しだよ馬鹿野郎!
「うふふふ、そうでしたか。では、ロウさんも一緒に喫茶店へ如何ですか? 貴方とは一度、じっくりお話しをしてみたいと思っていましたから、ね?」
がっちりロックオンされておててをホールドされました。握られた右手がひんやりして気持ちいいです。
そのままずるずるとエスリウに連行されていると、視界の端でシアンがやれやれと肩をすくめている姿が目に入る。自分が話せないからって他人事みたいな態度しやがって。
まあ護衛依頼の道中で行動を共にするわけだし、今のうちに話す時間を作っておくのも悪いことじゃないか。ここらでエスリウがどういった疑惑を俺に向けているのか、それを測っておくのも良いだろう。
魔族バレしたときは国外逃亡するかなあと考えながら、俺はエスリウたちと喫茶店へ入ったのだった。
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万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました
Gaku
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平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない!
旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
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