異世界を中国拳法でぶん殴る! ~転生したら褐色ショタで人外で、おまけに凶悪犯罪者だったけど、前世で鍛えた中国拳法で真っ当な人生を目指します~

犬童 貞之助

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第三章 波乱の道中

3-14 三眼四手の魔神、エスリウ

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 視界が焼け付くほどの光量を放つ大火球が周囲を埋め尽くし、闇に閉ざされた氷原が光に溢れる。

 季節は秋口、場所は氷原。されど肌に感じる温度は灼熱地獄。

 皆様いかがお過ごしでしょうか? こんばんは、ロウです。

〈はああぁぁっ!〉

 やや野太くなってしまったエスリウの気合の一声で、一挙にこちらに殺到する火球群。

 氷原に大穴を穿つ程の熱量を持った灼熱魔法が、数十個。あのムキムキマッチョウーマンも中々やるようだ。

「──当たらないけどな」

(お前さん、魔神を前にして結構余裕だな。竜を前にして余裕だったから今更でもあるが)

 呆れを隠そうともしないサルガスの呟きを受信したところで、俺のいた一点で火球が炸裂し、爆発音を轟かせた。

 その熱波は現在俺のいる上空にまで届き、凍結していた衣服を一瞬で溶かし、瞬く間に乾燥させるほどの熱をはらんでいる。当たれば身体強化を全開にしても危ういかもしれない。当たればな。

〈……耐えられるとは思えないけれど、死んでいるとも思えないのよね〉

 氷が吹き飛び焦土となった地上よりそんな呟きを拾いつつ、魔力を身体の内で練り上げる。

 竜の感知能力であれば俺が空間魔法で逃げ延びていることは看破されるが、魔神には難しいようだ。

 案外大したことねーなァ? 魔神様よう!

 思考を横道に逸らしつつ練り上げた魔力で思い描くは、ウィルムが操った身の毛のよだつような氷の塵旋風じんせんぷう

 塵旋風たるダストデビルを百倍凶悪にしたようなあの魔法は、言うなれば極風の悪魔。氷片で切り刻み、吹雪で凍結させ、烈風で粉砕する。そんな白き悪夢だ。

〈──魔力の集束っ!? 嘘、上っ!?〉

「発動前だと流石に気づくか。そんじゃ『しもの悪魔』いってみよう!」
(意外にまともなネーミングだ)

 新魔法に命名するは、サルガスのお墨付きとなるフロストデビル。
 風の暴威と氷の悪夢のコラボレーション、余すことなく堪能してくれよな。

「砕け、散れッ!」

 白き悪夢が天より降り、熱風残火をむさぼり尽くす。

〈っ!〉

 対するエスリウは、魔術か魔法か、あるいは神固有の力だろうか。何らかの力によって氷の旋風を防いでいる。

 そんな彼女に向けて左腕に溜めていた魔力を解き放ち、「霜の悪夢」をもう一発放り込んだ。

〈──っ!?〉

 白い塵旋風にさえぎられ相手の姿を拝むことは叶わないが、きっと驚いてくれていることだろう。

 まだまだあるよと三本、四本と追加していき、計五本の悪夢が地上を舐めるように蹂躙じゅうりんする。

 気分はサイクロン式の掃除機である。
 あーっはっはっは! 汚物は吸引だァ!

「反撃は無し、か。さてさて……」

 地上に残っていた俺の石柱やウィルムが創り出した氷柱をきれいさっぱり削り取り、大地がすっかりなだらかになったところで──魔力を込めし石柱生成。

 適当に地上へ投下しながら、俺自身も再び凍結した地上へ降下していく。

「──!」

 直後に、茜色あかねいろの魔力の集束。
 一秒と経たず幾本もの熱線が対空砲の如く放たれる!

 周囲にある柱を蹴って熱線を躱していき、石柱と共に地上へ到達。

 着地と同時に石柱の魔力を解き放ち、形状変形。

 流体と化した柱から生まれいずるは、何時ぞやの蜘蛛くも型石像たち。

 以前よりも一回り小さい蜘蛛たちだが、その能力はまして高い。魔力操作技術が上昇したこともあるが、物体を魔力に還元する技術によって一体あたりの魔力量が飛躍的に増えているのだ。増えた魔力でその体を強化すれば、当然硬度や運動能力も大きく上昇する。

 我が石柱より次々と生れ落ちる大型犬ほどの石像たちに下す命令は、単純極まる我が心情。

「戦いは数だぜ、エスリウ──野郎ども、ぶち殺せ!」

[[[──!]]]

 俺の号令により、百にも迫る蜘蛛たちは一斉に駆ける。

 石柱の落下で舞い上がった粉塵を吹き飛ばし現れた魔神へ、一も二もなく殺到する大型犬ほどのゴーレムたち。正しく雲霞うんかの如しだ。

〈ゴーレムか……! その程度ならっ!〉

 対する彼女は四本腕のそれぞれに恒星のように輝く火球を生成し、それらを合成。

 そのまま飛び上がって合成された球体を氷原に投げつけ──群がる蜘蛛たちへ、炎の大魔法を解放した。

「──うぉッ!?」

 解放された大魔法は、夜空すら吹き飛ばすのではないかと思うほどの大爆発を巻き起こし、炎熱地獄を創り出す。

 俺が苦労して創った石像たちは爆風によって粉砕され、高熱により融解蒸発していった。

 瞬きする間の出来事である。

 蹂躙するつもりがされてしまうとは、やっぱり戦いは質のようだ。

 これが、魔神エスリウ。

 半端な小細工など文字通り吹き飛ばしてしまう怪物が、この女の本性か。美しい少女だった姿からは想像できぬほどの暴威である。

「なら、どうしたもんかね」

 魔力で強度を底上げした断絶空間で一人大魔法をやり過ごしながら、次なる一手を模索する。

 爆発前に見たエスリウの姿は裂傷まみれではあったが、到底致命傷とは言えないものだった。心臓すら再生させる力を持っている以上、あの程度の傷であれば回復されてしまうかもしれない。出来ることなら回復させる間もなく即死させるような攻撃が望ましい。

 しかし……相手も尋常の存在ではない。

 並大抵の魔法は通用しないし、得意の接近戦に持ち込もうにも大魔法の乱舞で妨害されてしまう。中々に難しい状況だ。

「一向に手が思い浮かばん──ッ!」

 どうやって殺したものかと頭を捻っている内に、魔力が乱れ切った空間においても感じ取れるほど、濃密なる魔力集束を感知。

 首筋に走る悪寒に従い速攻転移。

 間を置かず、強度の強化された断絶空間を焼き尽くすほどの極大熱線が通過する。

 強固な障壁を飲み込んだ白き熱線は、そのまま射線上の氷原を蒸発させ、遥か彼方まで焼き尽くしていった。

〈! ……空間魔法とは、厄介なものをっ!〉

「流石にバレたか」

 エスリウの正面から後方へと転移したが、平面での感知力は優れていたらしく、即座に移動先を特定されてしまう。

〈逃っ、げっ、るっ、な!〉
「そりゃあ無理ってもんですよ」

 三度みたびこちらへと照射される熱線を、横っ飛びで回避して。
 回り込むように迫りくる炎の壁を、転移で退避して。
 転移先に仕掛けられる爆発魔法を、転移によって遠方に隔離する。

 空間魔法を存分に使って逃げ惑いながらも、時に石弾氷槍を撃ちまくり、時に岩と氷塊の巨腕による拘束を狙い反撃の機を窺う。

 ……今のところ空間魔法のおかげで無傷でやり過ごせているが。

 こちらの攻撃や拘束も火球や炎壁で防がれ、「霜の悪魔」で与えたエスリウの傷も再生しつつあるように見える。

 やはり大技でもない限り、彼女へ致命傷を与えるのは難しいようだ。

 ひるがえって、こちらは二度の回復魔法で魔力が総量の半分以下となっている。

 今のペースで魔法を使っても一時間は持つだろうが、裏を返せばそれがリミットだ。完全に奴の傷が治ってしまう前に、こちらが仕掛けるべきなのかもしれない。

 とはいうものの、気がかりな点もある。首を斬り落とされた時やマルトと鍔迫つばぜり合いをした時に感じた、不自然な身体の硬直である。

 二度目の硬直はごく短い時間だったが、あれを任意のタイミングで作用させることが出来るなら、これほど厄介なものはない。こちらが避けようとする瞬間にでも発動されたら致命打にもなりうる。

(……これ程の火の魔法を操る、三眼四つ腕の魔神。狂神カーリーか……? いや、あの魔神は伝承によると、姿がもっと女性らしかったはず……)

 野球場がすっぽりと入りそうな途轍とてつもない巨大火球を浮かべ、焼夷弾しょういだんの如き豪火球をバカスカと撃ちまくるエスリウ。

 それを体捌きと空間魔法でひらひらと躱していると、考え込むようなサルガスの念話が耳に入る。

 ずっと黙っているかと思えば、エスリウがどのような魔神であるかを考えていたらしい。

 罵倒ばとうした俺が言うのもなんだけど、もっと女らしかったはずって評すのも酷いな。

〈このっ、ちょこまかと……!〉

 周囲を完全に氷原から焦土へと姿を変えた頃合いで、業を煮やしたエスリウの三眼が妖しく光り──直下より、ウィルム並みの桁違いの魔力ッ!?

 魔力感知を行うまでもなく感じられたのは、空中に浮かぶ巨大火球の数倍もの範囲を満たす茜色の魔力。

 これは不味い、広すぎる。早く空間魔法を──。

「──くッ、はあ!?」

(ロウッ!?)

 エスリウに、引き寄せられるッ!? 座標が、ズレる!

〈あら、こちらの『魔眼』はしっかり効くのですね? うふふ、これならしっかりと焼けそうです──『燎原烈火りょうげんれっか』っ!〉

 俺は食い物かよ、というか、「魔眼」って──。

 ──そこまで考えたところで時間切れ。

 大地が燃え上がり、大湿原に焦熱地獄が顕現した。

◇◆◇◆

「──ヅッア゛ア゛ッ!」

 ──脱出ゥァァア!

 速攻で水球を浮かべそのままダイブ。

 あ゛あ゛あ゛ぶねえッ!

 灼熱地獄からの脱出先は、我が異空間。

 引き寄せられる方向に門を開けば、問題なく移動できたというわけだ。一秒くらい天衝く火柱の中であぶられたけど。

(……)

 サルガスも熱でやられてしまったのか、意識が無いようだ。刀身が溶けているということはないものの、鞘がすすけたように焦げている。

 鞘も本体らしいし、無理は禁物ということで置いていくか。
 そもそもアレ相手だと、銀刀で切りつけるタイミングがそう無いし。

 銀刀を床に置きつつ改めて身体を確認すれば、ほんの少し炙られただけでほぼ肌着状態にまで服が焼かれ、全力強化していた肉体もほんのり焼けていた。

 生焼け褐色少年一丁上がりってか。野郎、ぶっ殺してやる。

「あ、野郎じゃなくて女か……まあ、それは置いといて」

 異空間の出口を構築しながら思考を切り替え、エスリウの言った「魔眼」について考えを巡らせる。

 ──確か、「“こちらの魔眼は”効くのですね」そんなセリフだったが……。複数ある「魔眼」とやらの効果の一つが、あの魔法とは異なる原理の引き寄せなのだろう。

 となれば、あの俺の身体を一時停止させるのも同じ「魔眼」のものと考えるべきか。

 いや……エスリウは引き寄せの魔眼を使った時に“こっちは効果が出る”と言っていたし、効果が薄いらしい停止の魔眼は使う可能性が低いか? とりあえずのところ、俺の動きを阻害した引き寄せの魔眼に注意するとしよう。

「引き寄せだけじゃなくて押し出す力もあるかもしれないけど……やることは変わらないか」

 引き寄せられるならばこちらからも踏み込み、押し返されれば距離をとる。

 仮に先ほどのようなことがあっても、全力で踏み込めば大陸拳法の間合いとなる。それならむしろ大歓迎である。

 こうするはし、ゆだねるはし。

 無理にあらがうくらいならその勢いを利用してしまえというのは、太極拳の要訣ようけつ捨己従人しゃきじゅうじん”に通じるものがあろう。

「よしッ。後はぶちのめすだけか」

 方針を固めたところで外界へとつながる門を構築完了。
 それを潜り、黒煙くすぶる焦土を踏む。

 ──潜った先で我が眼前に広がるは、エスリウのたくましいおケツだった。

 その紫がかった臀部でんぶは尻というより岩を二つくっつけたような造形である。

 ……やっぱお前男だろ!

〈──っ!?〉

 転移門の魔力に気付いたのか、素早く身を翻し腕を振り回す岩女。

 それに対し、手の平で攻撃を逸らす摔掌しゅつしょうで、迫る裏拳を捌──。

「──あぁっつッ!?」

〈ふふっ。貴方みたいな魔神と普通の殴り合いだなんて、するわけが無いでしょう?〉

 凶悪な形相を不気味にゆがめて言い放ったエスリウの裏拳から次ぐ、槍のような中段突き、竜巻の如き振り打ち、噴火さながらの拳による打ち上げと前蹴りの連撃。

 それら全てに、こちらをずいまで焼き尽くす灼熱が宿る。

 己の身体に火を纏わせるヴィクターの「纏火まといび」を彷彿とさせる現象だが、纏っている熱量は桁違い。彼女の攻撃をいなす度に、接した皮膚が吹き飛び肉が焦げ落ちていく。全力で身体強化中にもかかわらず、だ。

 魔神たるその力は確かに凄まじく、天災そのものと格闘しているような気分になってくる。彼女の攻撃が直撃すれば、我が身は爆散すること間違いなしだ。

「──ハッ!」

 けれども。

 その攻め手は虚実巧みに織り交ぜるヴィクターほど多彩ではないし。
 回避が困難な鋭さを持つレルミナの連撃ほど苛烈かれつでもないし。
 守りを突き崩す様な技の冴えを見せるセルケトほど洗練されてはいない。

 しからば、躱し捌き応じること、いと易し。

〈こん、のぉっ! 諦めて、当たり、なさい!〉

 彼女は周囲に灼熱の嵐を発生させて乱打連打を繰り出すが、それが我が身を捉えることはない。

 蒸散確実の爆熱拳だろうが、当たらなければどうということは無いのだッ!

「ぬるいなァ、エスリウッ!」

 二連装アッパーカットという四本腕ならではの攻撃を、左腕を焦がしながら逸らしたところで──守勢一転攻勢転換。

 反撃開始だ。

ッ! さいッ!」

 手始めに守りの意識の薄い下半身──向うすねを下段前蹴りで粉砕。

 更に引き足を利用した裏拳正面打ちで、もう一方の大腿骨だいたいこつを叩き折るッ!

〈ぁぐっ!?〉

 腕を振り切った状態からいきなり両足を砕かれ、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる四つ腕の魔神。

 片膝立ちとなった彼女は四本腕で頭部を十字に、胸部腹部を腕を締めて守りの態勢。鉄壁である。

 されども、愚かなり。

 攻めを断ち切るのはいつでも攻撃。守勢に回って勝てる道理があるまいて。

せいッ──ァッ!」

 守り上から掌打を打ち込み、意識が上半身へ向いたところで──脇腹に逆手の鉤突かぎづき。

 重厚な筋肉を貫き骨を破砕する感触が、拳を伝う。

〈づっ……〉

 苦悶の声が漏れ胸部の守りが緩むと同時。皮膚が触れ合う間合いへ一気に踏み込む!

 クロスに構えた両手でもって、緩んだ守りを破る崩し技──八極拳金剛八式・虎抱こほうで腕の防御をこじ開け、がら空きの胸部へ真正面から両腕掌打ッ!

ふんッ!」

〈かはっ……〉

 ゼロ距離からの震脚と共に打ち出した両腕掌打──八極拳六大開・虎撲こぼくをもろに受け、喀血かっけつしながら仰向けで倒れるエスリウ。

 そこへ、駄目押しの追撃。

殪啊えいあッ!」

 殺意と気合の発勁を乗せた、締めの前蹴りを泳いだ上半身にぶち込み、焦土の彼方へと蹴り飛ばす!

 打ち込んだ手足を焦がしながら放った連撃は、八極拳六大開“ぼく”・虎撲連環こぼくれんかん

 色々動作をすっ飛ばしたけど、全部打ち込んだなら人間だと五回くらい死んでいそうな八極拳の秘奥ひおうである。

 やっぱり八極拳って最恐ですわー。

「……しつこい奴だな、あんたも」

 ──しかしそれでも、相手は魔神なるもの。

 殺しても死なぬ手合いである。

 止めを刺さんと近付くこちらの足元に、巨大な火柱が吹き上がり……エスリウの周りに、炎の壁が立ちふさがる。

 案の定生きていたようだ。全く、殺し甲斐のある相手だぜ。

〈力のままに暴れまわり、世を乱す。そんな貴方には、決して。負けるわけには、いかない!〉

 吐いた血反吐を煮え立たせながら宣言し、三眼を茜色に輝かせる魔神は、異形ながらに熱い信念を感じさせる。

 きっと彼女にも何らかの事情があって、それで俺の殺害に及んだのだろう。

 もしかしたらやむにやまれぬ、のっぴきならない状況下にあるのかもしれない。

 とはいえ──。

「──ハッ! 知ったこっちゃないな!」

 そんなもん知るかバーカ! 黙って殺される奴がいるか! 死んでしまえ!

 象牙色の長髪を逆立たせ魔力を発する魔神に、問答無用の突貫襲撃。

 吹き上がる灼熱の壁を魔力を込めた大水流で飲み込み、消火と同時に魔力を解放ッ!

 水の強制相転移魔法「氷瀑ひょうばく」によって魔神の拘束を成し、拘束ごと叩き潰すべく「柱落とし」を発動させる!

〈ぐっ!?〉
「潰れ──ッ!?」

 上空に石柱を創り上げ、後は潰すだけだと思った矢先。

 巨大な綱で引かれたかのように、体が丸ごとエスリウの傍へ引き寄せられる。全力で抵抗しても引きずられるほどの、猛烈な引力だ。

〈見事な拘束ですが……ふふっ、このままでは貴方も潰れてしまいそうですね?〉

 魔眼の引力でズルズルと引き寄せられる俺に、邪悪な笑みで語り掛ける三眼の魔神。

 引き寄せによる道連れか、あるいはこちらが拘束解除することによる脱出を目論んでいるのだろう。

 ……性格の悪いこいつのことだ。恐らく俺が氷の拘束を解除し避けようとする瞬間にでも停止させる魔眼を使い、俺を石柱のにえにとでも考えているのだろう。見え透いているぜ?

「──お望み通り解除してやるよ」

 ──拳っていう付きでなァッ!

 捨己従人しゃきじゅうじんッ!

 引き寄せの勢いを利用して突撃ッ!

 「氷瀑」が解除され水中に没するエスリウ目掛け、渾身の中段突き──八極拳金剛八式・衝捶しょうすいを突き入れるッ!

「どぉっせいぃッ!」
〈ぐっ、はぁっ……〉

 四本腕の縦縦クロスと鉄壁の構えで防御するエスリウをぶん殴り、水中から弾き飛ばす。

 しかし、ぶっ飛ばしたまではいいが、己はどうするか。

 転移は俺が動いているため座標指定が間に合わない。回避しようにも水中で思うように動けない。

 ならば、如何にするのか?

 答え: 転移門で石柱を飲み込み、別の場所へ落下させる。

 俺が移動中だろうが、柱の落下先は変わらない。
 であれば、落下物の方を移動させてしまえば良い。

 如何なる大質量であっても、単純な自由落下など俺の脅威とはなり得ないのだ。

〈……っ! 本当に、ふざけた力ですね!〉

 石柱を魔法で飲み込み無傷でやり過ごした俺を見て、ずぶ濡れ状態で悪態をつき大火球を生成するエスリウ。

 それに対し、こちらも火球に打ち合わせる特大水球を生成。
 放った互いの魔法がぶつかり合い、辺り一帯を包むような水蒸気の大爆発が引き起こされる。

 ──火球で乾いたあいつの肌も、これでまた水で濡れたというわけだ。

 となれば、狙うは一撃必殺たる雷撃であろう。

 人の肌は乾燥状態と湿潤しつじゅん状態で倍ほど電気の通りやすさが違うらしいが……魔神であればどうだろうか?

〈──っ!?〉

 水蒸気が晴れる寸前。

 持ち前の隠形術おんぎょうじゅつで気配を遮断して魔神の裏を取り、怨敵おんてきが背に解き放つは──全力全開の大放電。

 セルケト戦よりも強化された雷撃。お前は耐えられるかな?

「──耐えられるものなら耐えてみろってな!」

 俺の想いを受けた紅の魔力が、神を滅ぼす雷と化し──焦土となった大湿原を、白光が埋め尽くした。 

◇◆◇◆

〈──っ……〉

 大気をつんざく雷鳴が轟き、魔神を貫いた雷光が夜空の闇へと消えていく。

 防音魔法で耳を保護していてもなお聞える大音量は、本物の雷と違わぬ破壊力を持つことの証左なのだろうか。

 首を動かして所在を探れば、白煙を上げて崩れ落ちる炭化した魔神が目に入る。

 周囲に満ちる紅の魔力に混じり茜色の魔力も残っているので、そんなナリでもまだ生きているようだが……身動きは出来ないのだろう。

 効果は十分、流石は雷撃だ。こっちも大火傷したかいがあったぜ。ガハハ。

 ──雷撃が直撃したわけではないが、こちらも雷撃発生時の衝撃波で自爆し、吹き飛んでいる。おまけで魔法を放った右腕が衝撃波の熱で黒焦げである。

 ……元々エスリウの魔法で焦げていたし、別にいいか? とっくに痛みを感じないし。

[──?][──]

 そのまま大の字で寝転がっていると、シアンとコルクの気配が近づいてきた。

 上体を起こしてみれば、服がボロボロになり局部が危うい姿になっている二人の姿。

 更には、芽の生えたつたが絡みつき、白濁した血液を垂らしたマルトっぽい人物が目に入る。コルクに引きずられている彼女だが、息はあるのだろうか?

「……おう、結構派手にやったのな。加減しなくていいとは言ったけど」
[──、──][──、──っ!]

 ジェスチャーいわく、コルクは相手の魔力を枯渇させ四肢を砕いたところで止めようとしたが、シアンがそこから更に意識が無くなるまで切り刻み、蹴り飛ばしたらしい。

 ……怖すぎだろこいつ。誰に似たんだか。

(シアンはロウのことで大いに怒っていましたからね。少々やり過ぎてしまっても仕方がない範囲なのです)

 大の字から起き上がって感情豊かな肉体言語を眺めていると、シアンに預けていたギルタブから念話による補足が入った。

 生きているか定かじゃない状態が“少々やり過ぎ”とはこれ如何に。

「ぐ……まだ……まだ……!」

 黒刀からの報告を聞いていれば、炭化した魔神から素っ裸で人状態のエスリウが出土した。

 なんか前にもあったなこういうの……。

「もう止めとけよ。お前だけじゃなくてお前の従者だって死にかけだぞ」

「っ!? マルト!?」

 四つ這いで歯を食いしばり不撓不屈ふとうふくつの戦意を見せるエスリウの前に、血塗れ蔦まみれのマルトを放り投げる。

 あ、これ凄く悪役っぽいかもしれない。

 ──傷だらけの全裸の美少女に対し、虫の息の従者を投げて寄こす。字に起こせば鬼畜の所業である。いや、見たまんまだけども。

「ああっ、なんてこと……」

 すみれ色の瞳に光る雫を浮かべ、従者を抱き寄せる主。

 麗しい主従ですねー。そこまで大切なら、わざわざ俺みたいな不確定な存在にちょっかい出さなければいいものを。

「──お前は瀕死で、マルトも虫の息。丁度いいし、仲良く死んどくか?」

 エスリウたちを見下ろし、みしりと魔力を解放させる。

 こっちを殺そうとしておきながら、涙ぐましい主従愛だと? 舐めるのも大概にしろよ。屑野郎が。

「……っ」

 俺の怒りに呼応し、シアンとコルクも圧を発した。

 大気のゆがみが視認できるほどの紅の嵐が吹き荒れ、エスリウたちを締め上げる。

 従者を抱き寄せ生唾を飲む主。
 そのか細い腕は、哀れなほどに震えていた。

「──おいロウ。無事ならさっさと戻って……うむ? どういう状況なのだ? これは」

 串刺しにするかくびり殺すか、それとも撲殺するか圧殺するか──と冷めた頭で殺害方法を考えていたその時、ゆったりとした声が思考をさえぎる。

「……セルケト」

 超マイペースサソリ女ことセルケトの登場だった。

 どういう状況かって、俺が聞きたいくらいだわ。
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祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

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