異世界を中国拳法でぶん殴る! ~転生したら褐色ショタで人外で、おまけに凶悪犯罪者だったけど、前世で鍛えた中国拳法で真っ当な人生を目指します~

犬童 貞之助

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第四章 魔導国首都ヘレネス

4-27 不法侵入(女神)

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 ヘレネス生活七日目。

 魔神バロールとの面談の予定が神と竜と魔神との人外会談となってしまい、精神を大きくすり減らすことになってしまった日の翌日。

「──ここがロウの創った空間ですか。白一色とは、なんとも、奇妙な……」

 会談後も引っ付いてまわり、魅惑の権能を使って俺の宿泊している宿へ乗り込んできた妖精神イルマタルと共に、異空間へとやってきた。

 この神を異空間へ招き入れる予定など当然なかったが、異空間での鍛錬を終えて朝食のために自室に戻った際、不幸な事故が起きてしまった。

 なんと施錠せじょうしている我が自室に無断で侵入していたイルマタルに、ガッツリと異空間を目撃されてしまったのだ。

 空間魔法を操る神の前では、私的な隠し事など一切が許されないものらしい。まあ相手は神だし、主張する権利もへったくれも無いけども。

「ん? ロウか? 何か忘れ物でも……なぜ、この婆を連れている?」

 そうやって異空間へと舞い戻った俺を見て、何やら鍛錬をしていたらしいウィルムが口を開いたが……イルマタルを視界に入れると、表情が険のあるものとなってしまった。

「あらウィルム、ごきげんよう。それにしても、随分とお上品なご挨拶ね? しっかりと挨拶できたご褒美に、魔法の稽古けいこでもつけてあげましょうか?」

「ぼふッ。ちょっと、イル? いきなり魔力解放しないで下さいよ。突風が凄いですって」
「上等だ。竜鱗のつやにしてくれる!」
「おめーも引き受けんなよ!」

 白銀の魔力が塵旋風を巻き起こし、金の魔力が猛吹雪を吹き散らす。

 彼女らに挟まれる俺は一瞬で髪が乱れ服が霜塗しもまみれである。

 これが時代の最先端、自然災害系女子というやつか。

(馬鹿なこと考えていないで止めた方が良いのでは? シアンたちが震え上がっていますよ)

 吹き荒れる突風であらわになっていた下着たちに目を凝らしていると、黒刀から容赦ないチェックが入った。

 確かにこのままでは、俺の創り上げた快適空間が崩壊してしまう。暢気にパンツウォッチングをしてる場合じゃなかった。

「そこな方々、落ち着かれよ。ここは我の空間我が居城。無法にも騒ぎ立てること、まかりならぬ」

 脳内に三味線のかき鳴らす音を響かせながら、右掌を正面に構えて見得みえを切る。

 決まったぜ、歌舞伎かぶきの見得。恐ろしいほどに。

「こやつは何がしたいのだ?」
「あら、あなたが知っている行動なのかと思いましたが、知らないのですか。何らかの意図があっての行動でしょうが……」

「やめてください冷静に分析されると恥ずかしいです」

 全然決まってなかったぜ、恥ずかしいほどに。羞恥しゅうちで顔から火が出そうだ。

「とにかく、ここは俺の眷属けんぞくも住んでるし、暴れるのは無しだよ。やるにしても戦闘訓練程度に収めてください」
「ふんっ」

「ロウにも眷属がいるのですか? ふふ、まだ幼いのにもう自分の子供を創るとは、なかなか手が早いのですね」
「実際子供みたいなもんですけど、もうちょい言い方ないですかね……」

 イルマタルの言葉に含まれていた若干スケベなニュアンスに憤慨ふんがいしつつ、石の家で引きこもっているシアンたちの下へ転移して彼女らの紹介を行う。

 そうして紹介していく途中、彼女らが人型から不定形となる様を見たイルマタルは、その奇怪さに大きく驚いた。

「……これは、様々な属性の半精霊ということでしょうか? どういった魔神なのかというロウの謎が、ますますもって深まりますね」

「最初は単純なゴーレムを創る予定だったんですけどね。思いのほか生き生きとした感じになっちゃったというか」
「精霊のような眷属と言えば天空神てんくうしんが思い浮かぶが、ロウは魔神であるしな。よく分からん奴だ」

 ウィルムの口から何やら物々しい名が聞えたが、神と魔神は正反対だし、流石に無関係だろう。

「何にしても、こやつらはまこと奇怪だぞ。妾が半身を氷結粉砕しても、寸秒で再生しよるからな」

[[[──……]]]
「ちょ、お前そんなことやってたのかよ。最近こいつらの魔力消費量が多いのも道理だ」

 得意げに自身の恐ろしい所業を明かす彼女に、我が眷属たちは戦慄している。

 きっと強制的に彼女の鍛錬? 暇つぶし? に従事させられているのだろう。消耗が激しいだろうし、今後はこいつらに渡す魔力を多めにしておこう。

 そんなこんなで眷属の紹介を終え、この場はお開き。

 ウィルムを残し異空間を去ろうとしたが──。

「おい、ロウ。妾も外へ出るぞ」
「マジかー」

 ──尊大高飛車系わがままじゃじゃ馬女子(竜)が、またも外出したいとせがんできた。

「あらウィルム、あなたは他の竜たちに、魔神から打ち負かされたということを隠したいのではなかったのですか?」

「ふんっ。あれらが人の街にくることなど、まず無いだろう。そんなものを恐れて鍛錬の機会を逃すなど、愚の骨頂こっちょうだ」
「鍛錬って、お前街で鍛錬するつもりかよ。この国に氷河でも創る気か?」
れ者が。今日は貴様が人の子に自身の技を教えると言っていただろうが。あの体術を教えるのなら、妾にも教えよということだ」

 小鼻を膨らませて彼女が言い放った言葉は、子供に教えるなら私にも教えてよ(意訳)、というものだった。

 う~ん? ウィルムはシアンたちから体術の指導を受けていたはずだが……。

「そういうことなら良いけども。シアンたちから教わるのは、やっぱり言葉の面で不便だったか?」
「多少不便ではあるが、障害となる程のものではない。それよりも貴様とこやつらでは、肉体の内面における動きがまるで違うのだ。真に模倣するなら、貴様を観察せねば話にならん」

「ん~。知識技術は殆ど同じはずなんだけどな」
「ふふふっ、良いではありませんか、ロウ。体術のことはよく分かりませんが、ウィルムがあなたから直接教えてもらいたい意思があるのは、わたしから見ても間違いありませんよ」

 イルマタルがいつくしむような優しい微笑みを浮かべると、ウィルムの表情が歪み鼻にしわがよったが……特に言い返すこともせず、そのまま表情を固定した。

 まるで唸り声をあげ威嚇いかくしている犬のようだと吹き出しそうになりながら、異空間の門を潜り自室に戻る。

 ウィルムとかわりばんこで入浴して身を清め、途中で現れたセルケトも伴って、四人で朝食へと出向く。

 ……いや、三柱と一匹か? 魔神に竜に神にと、頭痛が止まらなくなるような面子だ。

 改めて冷静に考えると、相当やべーぞこれ。ちょっとしたいさかいが起きただけでも、国が吹き飛びそうな気がする。誇張抜きで。

 イルマタルが甘い芳香で人々を惑わし、ウィルムが言い寄る男たちを凍らせていく様を眺めながら、俺は状況を棚上げして料理をむさぼるのだった。
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