異世界を中国拳法でぶん殴る! ~転生したら褐色ショタで人外で、おまけに凶悪犯罪者だったけど、前世で鍛えた中国拳法で真っ当な人生を目指します~

犬童 貞之助

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第五章 ヴリトラ大砂漠

5-12 大砂漠調査、二日目

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「──それで、あの時の変身はなんだったんですか? 髪の毛までちょっと変わっていましたけど」

 物凄く強いらしいアンデッド──ヴェレスを倒した後のこと。

 一人満天の星空を眺めのほほんと入浴していると、いつもは三つ編みな長髪をストレートにおろし、薄桃色の寝間着で身を包んだヤームルが現れた。やだエッチ!

「あのーヤームルさん? 俺今るんるんバスタイム♪ なんすけど?」

「私は十歳の男の子に欲情なんてしないので、入浴中でも何ら問題ありません。ロウ君、話を逸らそうとしたって無駄ですからね」

 寝間着姿の十一歳の少女が、お風呂に入っている十歳の少年に肩をそびやかして言い放つの図。

 客観的に見て問題しかない状況だが、彼女いわく問題ないらしい。やんぬるかな。

「さいですかー。十一歳のヤームルさんの発言としては、中々に問題なような気もしますけど……」
「そんなこと言ったって、私ショタコンじゃないし。ロウ君だって同年代の子より大人の女性を見てデレデレしてることが多いし、似たようなものでしょう」

「ぐはッ。藪蛇やぶへびでしたね、忘れてください。とにかく、あの時のアレはスーパーなヤサイっぽい宇宙人みたいなもんですよ」
「ヤサイっぽい宇宙人って……あのアニメや漫画の?」

 半霊体化した武器と一時的に同化した、などという説明ははばかられたのでお茶を濁すと、怪訝な顔をされてしまった。流石に言い訳が雑過ぎたか?

「はい。最初に会った頃にも言ったような気がしますけど、俺は色々と人には言えないような隠し事があるんです。そういうもんだと納得してもらうしかないですね」

「むう。日本からの転生者ってこと以外にも、隠し事があるってことですか? これ以上にインパクトのありそうなことなんてなさそうだし、教えてくれたっていいと思うんですけど」
「自分で言っててなんですが、転生者とヤサイな人だと、ヤサイな人の方がインパクトあるような気も……」

「確かに……って、まさかロウ君って本当に宇宙人なの? 実はタコみたいな姿だったり?」
「違います。例えですってば。しかし宇宙人と聞いて真っ先にタコ型が思い浮かぶとは、ヤームルさんってサイエンス・フィクションが好きだったりするんですか?」

 話の矛先を逸らすついでに前世の趣味やら暮らしぶりやら、とりとめのない会話をしている内に時間が過ぎ、風呂から上がる時間となった。

 流石の彼女もすっぽんぽん太郎な褐色ボディーを見るのは恥ずかしかったらしく、風呂から上がると伝えると退散してくれた。今日は見張り番も休みだし、このまま就寝して彼女からの追及を躱すとしよう。

 ──などと考えていると。

「ようやっと入浴を済ませたか。ロウは存外風呂好きよな」

「……こっちは俺の就寝場所だぞ?」

 割り当てられた就寝場所へと戻ってみれば、同じく見張り番が休みのセルケトが待ち構えていた。なんなん?

「ふん、お前を待っていたのだから間違いなどではない。聞けば、お前はただ魔神というだけではなく、何やら特殊な事情を持っているというではないか」
「特殊な事情て。人の母親に育てられたってことならお前も知ってるだろ? 誰に吹き込まれたんだよそんなこと」
「そこの曲刀たちや見張りの時間潰しに現れたウィルムからだ。大体、何故ウィルムに話しておいて我には話さんのだ貴様は」

 膨れっ面に加えて金のメッシュを輝かせる、不快指数が高い様子で感情を表すセルケト。やってくれたのう、青トカゲ!

「ちょっとした行き違いだって。アレは事故みたいな感じでバレただけだし、サルガスやギルタブも知った以上、近いうちにお前にも話そうと思ってたし」
「ふんっ、どうだかな。貴様は何かと隠そうとする故に信用ならんのだ。釈明したくば包み隠さず貴様の事情を話してみよ」

「ぬぐぐ……。まあ、俺の日ごろの行いがアレだし、悪かったよ。曲刀たちやウィルムから聞いたなら大筋は分かってるだろうけど、俺は別の世界の記憶があるんだ──」

 いずれは話そうと思っていたし、へそを曲げられても仕方がないしと、異世界の知識を持つに至った経緯をざっくりとした説明で行う。

 六歳までは人族の子供として育てられたこと、そこから孤児院を経て盗賊団に入り、盗賊として生活していたこと。そして十歳の夏、死にかけていたところで異世界の記憶が目覚めた(?)こと。

 更には宿った記憶、大陸拳法が趣味の平凡な大学生だった、中島太郎なかじまたろうのこと。

 時折セルケトや曲刀たちから質問を差し込まれながらも、ロウとしての人生と中島太郎としての人生を語っていく。

「──つまり、セルケトと初めて会う一週間ちょっと前に記憶を得たってことになる」

「……なるほどな。魔神とはいえ幼子に圧倒されたのは業腹だったが、幼子の倍以上の時間を戦闘技術の鍛錬に費やしていた過去があったのなら、納得できんでもない」
「つっても、魔物なんていない世界だったし、実戦経験は皆無だったけどなー。お前に勝てたのは、魔神としての力で強引押し切ったって感じが強いかな。二回目は発想で勝った感じだけど」

(……詳しいロウの過去を聞いて、また納得がいきましたよ。妙に専門的な知識があったりするのは、学術機関にいた過去があったからだったのですね)

「俺が特別物知りだってことはないんだけどな。多分ヤームルの方がずっと専門的な知識を持ってるぞ? 医療器材開発……医術に関わることを生業なりわいにしてたみたいだし」

 平々凡々な過去を褒められるというのは何とも気恥ずかしく、ヤームルの例を挙げて話をずらす。

「あの娘もロウと同じ世界の住人なのであったか? 同じ年頃の幼子がどちらも転生者とは、奇妙なこともあるものよな」
「俺やヤームルが死んだ時は他にも大勢人がいたから、その人らもこの世界にやってきていると仮定したら、まだまだ転生者はいるかもしれない。まあ、俺みたいに人外ってパターンもあるかもだけど」

(異なる世界の存在と混じりあい変質した存在が、大勢いる可能性があるのか……。中々恐ろしい事態だな)

「まあなあ。俺もヤームルも大分逸脱した存在みたいだし、転生者の中には得た力を思うままに振るう奴もいるかもな。まあ、逸脱してるといっても種族の枠に収まる程度だし、せいぜいがその枠の中で幅を利かせて暴れまわるくらいだろうけど」

((……))
「何とも魔神らしい、天から見下ろすような感想よな」

 転生者の所感を述べると曲刀たちに沈黙され、セルケトからは肩をすくめられてしまった。なにやら自然に魔神視点での物言いとなっていたらしい。

 曲刀たちから送られてくる「自分のやってきた非常識な行いの数々を棚上げし過ぎだろう」という思念をまるっと無視し、話を強制的に切り上げる。

 そのまま俺は、もっと話せと渋るセルケトに曲刀たちが人化出来るようになったことを伝えて彼らを渡し、纏めて部屋から追い出して就寝したのだった。

◇◆◇◆

 翌朝。ヘレネスを出発してから九日目にして、大陸北部中心部での調査の二日目。

 前日からリーダーのみを取り替えた編成での調査は、午前と午後も交代して行うこととなった。

 すなわち、我らがアインハルト班は今から出発である。

「それじゃあ行ってきますね」「留守をよろしく頼む」
「いってらっしゃーい」「昼が近くなると一気に暑くなるから、水分補給には十分気を付けてね」

 ヘレナたち女性オンリー班から見送られ、いざ出発。今日はより中央に近い領域、拠点から北西へと足を延ばすことになっている。

 爆心地である大陸北部の中央へ近づくほど残留している魔力が濃くなるため、竜の痕跡を発見できる可能性が高くなるのだという。

 反面、領域に残っている魔法の効果も強くなるため、長居は禁物である。

 仮にこの領域内で一夜を過ごせばたちまち乾燥しきり、翌朝には枯れ木のような死体となってしまうだろうと、移動中腕の中にいるアインハルトが説明する。

 そう、今回はこの教授をお姫様抱っこ中である。

 絵面的には灰色のナイスガイを抱きかかえ高速移動する線の細い褐色少年だ。極めて不可解である。

「フフッ、ロウ君に抱きかかえられるというのも、何とも不思議な感覚だ。年頃も背丈も息子と変わらないくらいだというのに」
「教授、それもう十回くらい聞きましたよ。水分補給は大丈夫ですか?」
「少しさせてもらおうかな」

 見晴らしの良い砂丘の頂上で立ち止まり、お姫様(中年男性)を解放する。

 宙に浮かべた水球で二人してぐびぐびと喉を潤す様は、はたから見れば師匠と弟子のようにも見えるかもしれない。

 残りのメンバーであるヤームルとウィルムはといえば、遥か遠方を突き進んでいる。

 少女を抱きかかえるウィルムが大の大人を抱く俺に対抗意識を燃やしたらしく、ずんずんと進んでいった結果だったが……。いつの間にやら、遠すぎて豆粒ほどに見えるまで距離が開いてしまった。

「向こうと随分離されちゃいましたけど、大丈夫ですかね」

「ウィルムさんもロウ君と同じくらいの強さだと言うし、不意な襲撃でも問題は無いだろうね。……強さと言えば、昨日ヘレナやヤームル君が興奮気味に語っていた力は、一体どういうものだったんだい?」

「人には言えない奥の手ってやつですよ」

 答える気なしという姿勢を見せると、呆れたような視線が返ってきた。残念ながらそういった態度は慣れっこなんだぜ。

(お前さん、そういうところは本当に外道だよな)
(誠実さの欠片も無いのです)

 曲刀たちからも非難するような念話を頂いた。

 しかし俺は揺るがない。
 というか、曲刀のことを教えたら色々連鎖してバレそうだし。

 そんなやり取りを経つつも進行再開。アインハルトに調査魔道具を動かしてもらいながら、北西へと歩を進める。

 されども、魔道具には反応なし。

 日が昇っている時間はアンデッドが活動しているということもないため、彼らの魔力を拾うこともない。時間が経てども全くの無反応である。

「反応、ありませんね」
「うむ。こうも無反応だと、魔道具の調子を疑ってしまう──おや?」

 噂をすればなんとやら、アインハルトが持っていた魔道具に微かな光が宿った。

「ロウ君、降ろしてもらえるかい?」
「はい、足場が悪いので気を付けてくださいね」

 砂丘の斜面で教授を降ろし、彼と共に魔道具の反応があったところへと向かう。

 ウィルムたちは反応を見逃していたのか、ここにはいないようだ。

 反応があったのは砂丘の谷間。何の変哲もない場所であり、俺の魔力感知でも何かがあるということは分からない。魔力を感知するこの魔道具は、余程感知力に優れているのだろう。

 もやもやと考えている内にアインハルトが風の魔術を構築し、魔法陣を展開して地面をざりざりと掘り返し始めた。

 小さな旋風で砂を巻き上げるその様は、機材要らずのボーリングの如きである。

 あっという間に数メートルほど掘り進んで、目標物が出土した。

 そこにあったのはありふれた形の岩石である。大きさは成人男性の胴回りほど、それなりの大きさだ。それ以外には、特徴が見られないように思えたが──。

「これは、珍しい。竜の魔力で変質した、結晶体……宝石のようだ。それも相当な大きさらしい」
「宝石ですか? っと、この部分ですか。磨いてなくても綺麗ですね」

 身体強化により岩石をひょいと持ち上げた教授が示す部分を見ると、黒っぽい岩の表面から琥珀色こはくいろの美しい結晶が顔を出していた。

 八角柱状の結晶が岩から飛び出る様は何ともシュールだが、岩が削れて硬質な宝石だけが削れずに露出した、ということなのだろうか。

 疑問符を浮かべている内に岩石の破砕作業が終わり、手のひらほどの長さがある濃い青色の宝石が──。

「──あれ? 色変わってないですか、これ」

「フフ、それがこの宝石の特異な点でね。不思議なことに見る角度によって色が変わって見える、多色性たしょくせいを持っているんだよ。極めて硬い上に美しく、魔力によく反応する。竜の変質物の中でも変わり者、それがこのダイクロアイトと呼ばれる宝石なのさ」
「ほぇー」

 疑問を呈すれば饒舌じょうぜつに語るアインハルト氏。発見したことがよほど嬉しかったらしい。

「何を騒いでいる」「教授、何かあったんですね」

 その後も続くダイクロアイトなる宝石の高説を聞いていると、ウィルムたちがやってきた。ヤームルは魔道具を持っているため、何かを見つけたということは把握しているようだ。

「見たまえヤームル君。竜の魔力により変質した宝石だよ。竜鱗を見つけることは叶わなかったが、この宝石もまた、高い魔力伝導率を誇っている。貴重な発見には違いない」
「やりましたね、教授!」

「ほう、美しいな。色合いも気品がある。妾によく合いそうではないか。やいロウ、他にないか探してこい」
「自前で変質させりゃ良いんじゃないですかね」

 喜ぶ研究者組を尻目にウィルムとこそこそ話し合う。竜はひたすら寿命が長いというし、身に着けていれば勝手に変質するだろう。

 というか、こいつが身に着けている宝石類や金細工は既に変質しているんじゃないだろうか? 以前に見た時はただの金細工というより、言い知れない魅力を放っていたように思えたし。

たわけが。変質させるにも元となる宝石がいるだろうが。それに変化には時間が掛かる。貴様に探させた方がずっと効率が良い」
「滅茶苦茶すぎる……一日探して見つからないんだぞ」

(ククッ、すっかり尻に敷かれてるな)
(未明のセルケトのことといい今のウィルムといい、ロウは女性に振り回されることが好きなのでしょうか?)

 曲刀たちの妄言に対しそんな趣味はないと断じる、調査中の一幕だった。
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