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第五章 ヴリトラ大砂漠
5-17 竜と魔神の殴り合い
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意気揚々──そんな気分で異空間の外へと繰り出すと、いきなり俺の右腕が消滅した。
〈──んおッ!?〉(!?)
な、何が起こっているか分からねえ──と思っている間に消えゆく右半身。
このままでは本気で不味いと魔法構築、長距離転移!
訳の分からないまま数キロメートル移動したところで、先ほどいた場所が金の魔力で満たされていることが「魔眼」で見て取れた。
ヴリトラの乾燥魔法? 渇きの権能? で俺の体が干乾びたようだった。出待ちかよ。
(ロウ、大丈夫か!?)
〈大丈夫じゃないけど大丈夫だ。放っておくと死ぬかもしれんが、これくらいなら瞬きする間に再生できるぜ。ガハハハ〉
【……いっちょんも死なんな、きさん。せからしいのう!】
人体とは肉体構造が違うらしい、血の一滴も出ない右半身を魔法で再生させていると、乾燥地帯より琥珀色の巨竜が飛来。
渇きを帯びた烈風を撒き散らし、俺の目の前に着地した。
〈魔神だもんでね。というか、お前も大概しつこい爺だけどな〉
【こんクソガキが。再生できんほどの塵にしたる】
〈ハッ! やってみろよバーカ! このクソジジイ! 黄色トカゲー!〉
【ぶちくらすッ!】
人の頃より格段に長くなった舌を疑似餌のように動かして挑発すると、面白いくらいに激高するヴリトラ。どうして竜属とはこうも短気なのか。
(お前さんが腐れ外道なだけだと思うが……)
脳内で竜属の気質を考察していると、我が身に憑依している銀刀から突っ込みを頂いてしまった。お前はどっちの味方なんだよ。
そうこうしている内に迫りくる巨竜の拳!
〈──フッ!〉
豪速で迫るそれを手の甲で捲り上げるように軌道をずらす大陸拳法の“撩”で捌き、外へと逸らす。
再び塵と化す我が腕に、吹き荒れる衝撃波。抉れる大地に揺れる大陸。
【グルアアッ!】
舞い上がった砂塵を裂いて打ち出された逆手の竜拳を、懐へ入ることで逃れ。
猛る咆哮と共に繰り出されたサマーソルトキック&テールを、強靭な足を活かした横っ飛びで躱し。
躱しざまに、土魔法でもって足場を構築。
これすなわち準備完了、待ちに待ったこちらのターンである。
〈攻守、交替って、なァッ!〉
足場を蹴ってヴリトラに接近し、更なる足場を一気に創出。天へ突き上げ懐までの最短ルートと成し、俺自身の踏み込みと合わせて超加速。
宙返りで隙を晒している巨竜の腹部に、ありったけの力を込めた左拳上段突き──八極拳金剛八式・降龍を叩き込むッ!
〈哧ッ!〉
【う゛ッ!?】
渇きの竜鱗により打ち込んだ拳は腕ごと消滅したが、手応え十分。
そのまま消し飛んでしまった両腕の再生を行いつつ、追撃を構築。
己の背部に“増えた”器官に神経を向け、竜を打倒する武器を創り出す!
(!? アシエラたちの“腕”か、それは!?)
〈吸血鬼姉妹より、沢山生えてるみたいだけど、なァ!〉
己の背中に生える漆黒の体毛に混じり埋まっていたのは、あのアシエラたちに生えた“腕”にも似た無数の触腕。それを伸長させ、綯い合わせ、膨張させる。
そこから創り出されしは、見るも悍ましき漆黒の巨腕。
ヴリトラの全長に等しいそれを、上段突きで吹っ飛んでいる、奴の横合いから打ち付けるッ!
〈是烎啊ッ!〉
【お゛あ゛ッ……】
踏み込みの推力と震脚の反力、更に股関節・腰部の回転と中正たる姿勢の十字勁。
そこに魔神の魔力と銀刀の魔力制御力を上乗せした渾身の一撃でもって、竜鱗を砕き腕をへし折り翼をひしゃげさせ──巨竜を彼方に打ち飛ばす!
〈決まったぜ。恐ろしいほどに〉
魔神の身で操るは、八極拳八大架式・馬歩横打の触腕式ってね。
大地の強震を感じ薄暗い空に立ち昇る土煙を見ながら触腕をほどき、喉辺りに生える山羊髭を撫でつけ決めポーズ。やっぱり八極拳は最強だな。
(あの巨竜を彼方まで殴り飛ばすか……一体、どんな馬鹿力──)
【──グオオォォォッ!】
〈……決まってなかったな。流石竜ですわー〉
(やっぱり駄目な気がしてきたぞ……)
宣言したのがフラグだったのか? と思えるほどの強烈な咆哮が響き、大地が共鳴でもしているかのように鳴動する。
そして、猛烈な勢いで集束しだす魔力!
〈ッ! 野郎、空間魔法をぶち破ったあの技か!?〉
(防御出来ないあの技か。どうするんだ? 転移門も異空間も無効化されただろう)
〈防御貫通技ってのは回避するのが鉄則だ!〉
返答しながら魔力を練り上げ空間変質魔法を発動。薄暗い周囲を塗り潰す「常闇」でもって、周囲の光と魔力とを完全遮断する。
〈ガハハハ! これなら見えまい!〉
一人高笑いするが、サルガスは無言。
ひょっとしたら魔力を利用した念話も、この常闇に吸収されているのかもしれない。
思考を脇へと逸らしつつも移動開始。
見えていたヴリトラと直角になるよう進路をとり、蹄のある脚を使って疾走する。
〈おおよその方向は分かってるし、そっちに向かって突っ走れば──どわあ゛あ゛っづッ!?〉
そうやって移動していると、突如側面より爆熱!?
毛やら肉やらが焼ける臭いに追われながら、一目散に闇から脱出!
すると、絶賛融解中の大地と唸り声を上げる琥珀竜が目に入った。
【──面妖な闇やのう。儂の“陽焱”でも消し飛ばせんとは……】
〈あの耄碌爺、ブレス吐いたのかよ。直撃してないとはいえ、消し飛んでないのが奇跡だな〉
(「常闇」のおかげで軽減されたのか……? って、言ってる場合じゃないぞ!?)
抉れた砂陰に隠れながら回復魔法を行使していると、何者をも見通す「竜眼」で看破されてしまった。ですよねー。
【まぁだ生きとるんかァきさん! 死ねいッ!】
いつの間にやら回復していたらしい二対の翼が踊り、再び渇きの烈風が荒れ狂う。
〈ハッ。そいつはもう見切ったぜヴリトラ!〉
恐るべき威力を秘めているとはいえ、既に見飽いた技だ。「空間歪曲」による対処を覚えた今となっては、“当たらなければどうということはない”そのものである。
──などと余裕ぶっこいていると、今度は足元の地面が渦を巻きはじめた。やべェッ!?
(!? 不味いぞ、ロウ!)
銀刀にせかされて転移先を探るも、俺の操作範囲全てが金の魔力で満ちていた。
つまりは逃げ場無し!
〈──なんてな〉
地平まで埋め尽くすは、金なる竜巻砂嵐。国をも呑み込む災厄の大魔法。
どっこい、「空間連結」こと転移門を持つ俺には脅威とならない。
向かってくる砂の濁流なんぞ、別方向に流してしまえばそれで終いなのだ。
〈って、やばい!?〉
(ブレス!? いや、またあの切断魔法……竜巻との同時攻撃か!)
転移門による全方位防御を行った丁度その時に、またもヴリトラの下へと集束を始める金の魔力。
それは恐らくサルガスの言う通り、空間魔法すら切り裂くあの魔法だろう。
守りの外は消滅必至の大砂嵐、さりとて内にいれば万物両断の一撃でお陀仏(魔神が仏とはこれ如何に)確定。
ならば如何にするか?
答え: 風魔法で防御を行いつつ砂嵐の勢いに乗り、逆巻く嵐を移動の足として逆用する。
抗えぬなら順ってしまえ、いつぞやの捨己従人である。
こちらが真紅の魔力を練ったところで、相手方の魔力も収斂完了。
それが放たれる寸前に転移門を潜り、風魔法を頼りに金砂擾乱の只中へと突入する!
〈ぐ、う、ぅ……!〉
砂嵐の中は、前後左右に上下までもが不明瞭となるほど、猛烈に攪拌されていた。
辛うじて上方へ向かう砂の主流があるものの、それに逆行するような流れが幾つもあり、主流に沿っていてもこちらの風魔法が次々と食い破られていく。
〈まあ、流れに沿うだけでいいのなら、あいつらも四肢欠損とは、ならんよな。……こんなとんでもねえ魔法を、あいつらに放ちやがったのか、あのクソジジイは。こんちくしょうめ〉
(……! ロウッ! 北側に砂嵐の切れ目だ! 転移で移動しろ!)
〈……北側って、どっちだっけ?〉
(右側だ馬鹿!)
手足を砂嵐で削られ目を回しながらも右側へ魔力感知の意識を伸ばすと、操作限界ギリギリで金の魔力が途切れた場所が。
飛びつくように転移、薄暗い空へと帰還!
大空よ! 私は帰ってきたァ!
〈ヌァハハハ! 脱出してやったぜ──〉
【──フン。きさんなら凌ぐやろうと、思っとったぞ? 山羊頭めが】
〈ゲェッ!?〉(!?)
手の舞い足の踏む所を知らず喜んだのも束の間、頭上より降ってくるクソジジイの声。
寒気を覚えて見上げてみれば──小癪にも魔力を隠し拳を構える、クソッタレな琥珀竜の姿!
【難しいことは言わん──去ねぃッ!】
〈ッ!──哈ッ!〉
銀刀の憑依により増した魔力を全開にし、肉体の内面の力を外へと発勁すると同時──竜をもぶっ飛ばす竜拳炸裂。
〈ぅごッ……〉
逆巻く砂嵐へとぶっ飛ばされ、勢いそのまま砂嵐をぶち抜き、土色の大地に激突。
ついでに衝撃波でヴリトラが数柱入るほどのクレーターを形成してしまった。
〈ごっはぁ…………ぐは……生きてるぞ、ざまあみろこの野郎……うぐ〉
(……本当に凄いな、ロウ。今のはあの魔神エスリウすら比較にならない、魔神でも爆散するような一撃だった気がするが。ウィルムを地平までぶっ飛ばしたアレだろ?)
〈ガハハ。発勁舐めんなって、話ですよ……ふぅ〉
驚愕の隕石体験で溜まった砂を上下の口から吐き終え、立ち込める爆煙の中尻尾と触腕を支えに起き上がる。
全身の肉が千切れ皮がはち切れるような衝撃だったが、回復魔法で誤魔化せる範囲だ。下の口の牙が幾つか折られたけど、まあ大丈夫だろう。
(大丈夫か……って、そんなとこにも口? があるのか。お前さんって結構な異形だよな)
〈二足立ちってこと以外、人っぽい要素ないもんな。多分なんでも食えるぜ、ここから。どうにも俺の権能に直結してるっぽいし……ん? そういえば俺、自分の権能使ってなかったわ。俺もヴリトラがやってるみたいに、魔力に権能を乗せることが出来たら……〉
銀刀に応じている内に己の権能“虚無”を一切使っていなかったことに気が付き、早速応用に挑戦。
幸いにも、俺をぶっ飛ばしたクソジジイはこちらを仕留めたとでも思っているのか、動く気配や魔力集束が見られない。
しかし、権能を乗せるといってもどうしたものか。それも“虚無”である。虚ろな魔力ってどんなんやねん。
権能の使用法に関しては、降魔状態になった時に自ずから理解できたが……。とりあえず解放してみるか。俺の生存がヴリトラにバレるだろうけど、遅かれ早かれだ。
(こんな時でも行き当たりばったりだよな、お前さん)
〈このままだと勝ち筋ないんだから、仕方がないだろ。勝つための手は探さないといけないし〉
痛いところを突いてくるサルガスに言い訳しつつ、己の権能を解放する。
俺の司る力は虚無。虚ろであり、渾沌の無だ。
確か、著名な思想家である老子の言葉では、仏教の空思想的な解説……すなわち、渾沌とした原初の無の状態も森羅万象が生滅流転で巡る有の状態も、名前や形態が違うだけで本質は同一──虚無である。……というような説明がなされていた。
翻って、俺が司っている“虚無”は曖昧模糊である。
あらゆる状態を内包しつつ、その形態が不定不明瞭で溶け合っているというか、不確かだ。
今も下の口内で“虚無”が蠢いているが……体のどことも繋がっていないそこは、固体なのか液体なのか、何かが有るか無いかすら判然としないのだ。
……こんなヤバそうな権能、解放して大丈夫なのだろうか?
〈まあ、なるようになるか〉
(また投げやりな……)
迷っていても仕方がない。男は度胸、ええいままよ、だ。
相棒から呆れられようとも、是非もなし。
〈哈ッ!〉
俺にとって一番力の入る所作である陳式太極拳小架式・金剛搗碓、立ちながら座禅を組むような動作で権能を解放ッ!
鋭い呼気と同時に虚無を迸らせ──。
真紅の魔力が絶対無の漆黒に変じ、背部の触腕が異形の口部へと変容した。
◇◆◇◆
〈──んおッ!?〉(!? 大丈夫か!?)
俺が“虚無”を解放すると、我が真紅の魔力が闇色へ変化。背中から生える触腕も、悍ましい牙を持つ極太のウツボのような状態へと生まれ変わる。
な、何を言っているのか分からねーと思うが……。
【きさん、まだ生きとんのか? ほんにじゃかしいやっちゃのう。……そのうえ漆黒の魔力たあ、奇怪な】
己の背から生える目や鼻の無い虚ろなウツボどもに動じていると、呆れたような声と一緒に巨竜が飛んでくる。流石に気づかれたようだ。
〈お前から手を出してきてんのに、よく言うぜ〉
【フン、きさんがウィルムを唆したんが先やろうが。……竜でもないんに儂の拳をくらって生きとるたあ、ここで確実に殺しとった方がよさそうやのう!】
警戒度合い引き上げ宣言と同時に金の魔力を輝かせ、例の空間貫通斬撃・翼撃版を繰り出すヴリトラ。
〈芸がねえな! そんなもん空間魔法で──って、貫通するッ!?〉
対し、衝撃波の軌道を捻じ曲げる空間魔法を展開し──何故か魔法が切断消滅。
、逸らそうとしていたため転移も間に合わず、あわやなます切り──とビビったが。
〈──お?〉
【なにぃ!?】
何物をも切断するはずの貫通斬撃が、俺の身から溢れていた“虚無”を帯びた魔力に触れるとたちまち霧散。
発生していた衝撃波で多少身を削られはしたものの、空間切断自体は無効化したようだった。
〈……フッ。計算通り〉
(嘘吐け!)
山羊頭でキメ顔を作るも一瞬で突っ込まれつつ、唖然としている琥珀竜の下へ転移。
隙だらけの後肢へウツボ……もとい触腕たちを突撃させる!
〈せりゃあ!〉
【ぐぬッ!?】
ノリで攻撃させたにもかかわらず、琥珀竜の竜鱗を食み腱を食い破る我が触腕たち。竜鱗を食うってどんだけ悪食なんだよこのウツボ。
というか、俺が直接殴るよりも効果的である。なんだか悲しい。
【こんのォ、虫けらがァ!】
くだらないことを考えつつ次々と絡みつかせ、触腕たちが右後肢の骨まで食い進んだところで──急降下で叩き落とされ、地面に埋没。
〈ぬごぶッ。やりやがったな!〉
すぐに地中から這い出すも、ヴリトラは宙へと逃げてしまった。
でかい図体のくせにとんずらこいてんじゃねえぞ!
〈逃がすかッ!〉
衝撃波を撒き散らして飛び去った琥珀竜を感知で捕捉、転移で追跡!
かの竜の飛行速度は音速の数倍なれど、寸秒で五キロメートルくらい移動できる今の俺ほどは距離を稼げない。
魔神からは逃げられないぜ? ヴリトラァ!
【──! ガルゥァアッ!】
空間魔法で回り込めば──先回りするこちらの動きを看破していたらしく、琥珀色の竜拳が迫る!
とはいえ、竜と何度も戦った俺である。相手の反撃など織り込み済みだ。
〈撕ッ!〉
【ゲェッ!?】
腕のように綯い合わせた漆黒の触腕で竜の拳を外へと捌き、逆手の触腕でカウンター。
胸部へ触腕中段突きを叩き込み──胸骨をへし折った感触を覚えたところで、肘を返すように裏拳を打ち下ろすッ!
〈──哼ッ!〉
【ガッ……】
相撲の素首落としの如く頸椎に裏拳をぶち込まれたヴリトラは、隕石のように地上へ落下。
先ほどの俺がそうだったように、激突の衝撃波で巨大なクレーターを形成した。
叩き込んだ連撃は八極拳六大開“攔”・攔捶に反砸。
銀刀パワーに虚無を帯びた触腕にと人外要素マシマシの大陸拳法。その重撃は並ぶものなき硬度の竜鱗すら易々砕く。
【……グッ、ガァアアアッ!】
──しかれども、相手は最強の竜の一柱。
相手がウィルムならノックアウトを通り越して息の根を止めていそうな剛撃であっても、それがヴリトラであれば致命傷とはならないようだ。
骨や鱗を砕いたし、一応効いてはいるみたいだが……。
(竜の一撃に等しい攻撃でも仕留めきれないのか。まるで不死身だな)
〈こうなったら食い尽くしてやるしかないか? この触腕で食べると食ってる感じがしないんだよな〉
(竜を食うて。……いや、もう何も言うまい)
致命傷を与えられぬなら食い殺してしまえってな。
そんな決意の下、体勢を崩している内に捕食すべく地上へ転移すれば、咆哮に“渇き”の権能を乗せて周囲全てを消し飛ばさんとする琥珀竜。
ならばとこちらも“虚無”の権能を乗せた漆黒の魔力を纏い、“渇き”を相殺しながら同色の触腕でもって殴り掛かる!
〈──ぐぅッ!〉
だがしかし、渇きを相殺できても咆哮の衝撃波までもは無効化できず。
尋常ならざる音圧は突っ切ること能わず押し返され、逆にこちらが空へと吹き飛んでしまった。
〈……!?〉
そのまま空間魔法で足場を創り漆黒の魔力で渇きの烈風を防いでいると、咆哮が途切れ視界が晴れたが……琥珀色の巨体も消えていた。
魔力感知を行えば反応がしっかりとあり、どういうことだと目を凝らせば──別個体のように体が小さくなった、二足立ちで宙に佇む竜の姿を発見する。
【……】
全長で五十メートルほどあった巨体は、俺よりふた回りほど大きい体高五メートルほどに。
二対あった琥珀色の大翼や、長くしなやかだった手足も尾も、今や全てが小さくなっているが……。四足立ちから二足立ちに変わり、ほっそりとした以前の印象から真逆の堅牢さを感じさせる。
それより何より、四枚の翼の更に後ろで浮かぶ、虹に煌めく輪光の存在。
その神聖なる日輪は、地球時代に何度か見た仏像の如きである。
こいつ、ヴリトラからインドラか帝釈天に改名した方が良いんじゃね?
【──木端の魔神に見せるには惜しい姿よ。光栄に思え】
〈滅茶苦茶嬉しいっすね。どっちかっていうと、その姿を見せずに帰ってくれたんならもっと嬉しかったんすけど〉
【いっちょんも口が減らん奴やのう。まあ良い──去ねぃ、毛虫がッ!】
羽虫から毛虫にランクアップ(?)した──そう思ったところで琥珀色の翼が虹に煌めき、ヴリトラの姿がブレる。
ラウンドフォー? ファイブ? の開始である。
〈──んおッ!?〉(!?)
な、何が起こっているか分からねえ──と思っている間に消えゆく右半身。
このままでは本気で不味いと魔法構築、長距離転移!
訳の分からないまま数キロメートル移動したところで、先ほどいた場所が金の魔力で満たされていることが「魔眼」で見て取れた。
ヴリトラの乾燥魔法? 渇きの権能? で俺の体が干乾びたようだった。出待ちかよ。
(ロウ、大丈夫か!?)
〈大丈夫じゃないけど大丈夫だ。放っておくと死ぬかもしれんが、これくらいなら瞬きする間に再生できるぜ。ガハハハ〉
【……いっちょんも死なんな、きさん。せからしいのう!】
人体とは肉体構造が違うらしい、血の一滴も出ない右半身を魔法で再生させていると、乾燥地帯より琥珀色の巨竜が飛来。
渇きを帯びた烈風を撒き散らし、俺の目の前に着地した。
〈魔神だもんでね。というか、お前も大概しつこい爺だけどな〉
【こんクソガキが。再生できんほどの塵にしたる】
〈ハッ! やってみろよバーカ! このクソジジイ! 黄色トカゲー!〉
【ぶちくらすッ!】
人の頃より格段に長くなった舌を疑似餌のように動かして挑発すると、面白いくらいに激高するヴリトラ。どうして竜属とはこうも短気なのか。
(お前さんが腐れ外道なだけだと思うが……)
脳内で竜属の気質を考察していると、我が身に憑依している銀刀から突っ込みを頂いてしまった。お前はどっちの味方なんだよ。
そうこうしている内に迫りくる巨竜の拳!
〈──フッ!〉
豪速で迫るそれを手の甲で捲り上げるように軌道をずらす大陸拳法の“撩”で捌き、外へと逸らす。
再び塵と化す我が腕に、吹き荒れる衝撃波。抉れる大地に揺れる大陸。
【グルアアッ!】
舞い上がった砂塵を裂いて打ち出された逆手の竜拳を、懐へ入ることで逃れ。
猛る咆哮と共に繰り出されたサマーソルトキック&テールを、強靭な足を活かした横っ飛びで躱し。
躱しざまに、土魔法でもって足場を構築。
これすなわち準備完了、待ちに待ったこちらのターンである。
〈攻守、交替って、なァッ!〉
足場を蹴ってヴリトラに接近し、更なる足場を一気に創出。天へ突き上げ懐までの最短ルートと成し、俺自身の踏み込みと合わせて超加速。
宙返りで隙を晒している巨竜の腹部に、ありったけの力を込めた左拳上段突き──八極拳金剛八式・降龍を叩き込むッ!
〈哧ッ!〉
【う゛ッ!?】
渇きの竜鱗により打ち込んだ拳は腕ごと消滅したが、手応え十分。
そのまま消し飛んでしまった両腕の再生を行いつつ、追撃を構築。
己の背部に“増えた”器官に神経を向け、竜を打倒する武器を創り出す!
(!? アシエラたちの“腕”か、それは!?)
〈吸血鬼姉妹より、沢山生えてるみたいだけど、なァ!〉
己の背中に生える漆黒の体毛に混じり埋まっていたのは、あのアシエラたちに生えた“腕”にも似た無数の触腕。それを伸長させ、綯い合わせ、膨張させる。
そこから創り出されしは、見るも悍ましき漆黒の巨腕。
ヴリトラの全長に等しいそれを、上段突きで吹っ飛んでいる、奴の横合いから打ち付けるッ!
〈是烎啊ッ!〉
【お゛あ゛ッ……】
踏み込みの推力と震脚の反力、更に股関節・腰部の回転と中正たる姿勢の十字勁。
そこに魔神の魔力と銀刀の魔力制御力を上乗せした渾身の一撃でもって、竜鱗を砕き腕をへし折り翼をひしゃげさせ──巨竜を彼方に打ち飛ばす!
〈決まったぜ。恐ろしいほどに〉
魔神の身で操るは、八極拳八大架式・馬歩横打の触腕式ってね。
大地の強震を感じ薄暗い空に立ち昇る土煙を見ながら触腕をほどき、喉辺りに生える山羊髭を撫でつけ決めポーズ。やっぱり八極拳は最強だな。
(あの巨竜を彼方まで殴り飛ばすか……一体、どんな馬鹿力──)
【──グオオォォォッ!】
〈……決まってなかったな。流石竜ですわー〉
(やっぱり駄目な気がしてきたぞ……)
宣言したのがフラグだったのか? と思えるほどの強烈な咆哮が響き、大地が共鳴でもしているかのように鳴動する。
そして、猛烈な勢いで集束しだす魔力!
〈ッ! 野郎、空間魔法をぶち破ったあの技か!?〉
(防御出来ないあの技か。どうするんだ? 転移門も異空間も無効化されただろう)
〈防御貫通技ってのは回避するのが鉄則だ!〉
返答しながら魔力を練り上げ空間変質魔法を発動。薄暗い周囲を塗り潰す「常闇」でもって、周囲の光と魔力とを完全遮断する。
〈ガハハハ! これなら見えまい!〉
一人高笑いするが、サルガスは無言。
ひょっとしたら魔力を利用した念話も、この常闇に吸収されているのかもしれない。
思考を脇へと逸らしつつも移動開始。
見えていたヴリトラと直角になるよう進路をとり、蹄のある脚を使って疾走する。
〈おおよその方向は分かってるし、そっちに向かって突っ走れば──どわあ゛あ゛っづッ!?〉
そうやって移動していると、突如側面より爆熱!?
毛やら肉やらが焼ける臭いに追われながら、一目散に闇から脱出!
すると、絶賛融解中の大地と唸り声を上げる琥珀竜が目に入った。
【──面妖な闇やのう。儂の“陽焱”でも消し飛ばせんとは……】
〈あの耄碌爺、ブレス吐いたのかよ。直撃してないとはいえ、消し飛んでないのが奇跡だな〉
(「常闇」のおかげで軽減されたのか……? って、言ってる場合じゃないぞ!?)
抉れた砂陰に隠れながら回復魔法を行使していると、何者をも見通す「竜眼」で看破されてしまった。ですよねー。
【まぁだ生きとるんかァきさん! 死ねいッ!】
いつの間にやら回復していたらしい二対の翼が踊り、再び渇きの烈風が荒れ狂う。
〈ハッ。そいつはもう見切ったぜヴリトラ!〉
恐るべき威力を秘めているとはいえ、既に見飽いた技だ。「空間歪曲」による対処を覚えた今となっては、“当たらなければどうということはない”そのものである。
──などと余裕ぶっこいていると、今度は足元の地面が渦を巻きはじめた。やべェッ!?
(!? 不味いぞ、ロウ!)
銀刀にせかされて転移先を探るも、俺の操作範囲全てが金の魔力で満ちていた。
つまりは逃げ場無し!
〈──なんてな〉
地平まで埋め尽くすは、金なる竜巻砂嵐。国をも呑み込む災厄の大魔法。
どっこい、「空間連結」こと転移門を持つ俺には脅威とならない。
向かってくる砂の濁流なんぞ、別方向に流してしまえばそれで終いなのだ。
〈って、やばい!?〉
(ブレス!? いや、またあの切断魔法……竜巻との同時攻撃か!)
転移門による全方位防御を行った丁度その時に、またもヴリトラの下へと集束を始める金の魔力。
それは恐らくサルガスの言う通り、空間魔法すら切り裂くあの魔法だろう。
守りの外は消滅必至の大砂嵐、さりとて内にいれば万物両断の一撃でお陀仏(魔神が仏とはこれ如何に)確定。
ならば如何にするか?
答え: 風魔法で防御を行いつつ砂嵐の勢いに乗り、逆巻く嵐を移動の足として逆用する。
抗えぬなら順ってしまえ、いつぞやの捨己従人である。
こちらが真紅の魔力を練ったところで、相手方の魔力も収斂完了。
それが放たれる寸前に転移門を潜り、風魔法を頼りに金砂擾乱の只中へと突入する!
〈ぐ、う、ぅ……!〉
砂嵐の中は、前後左右に上下までもが不明瞭となるほど、猛烈に攪拌されていた。
辛うじて上方へ向かう砂の主流があるものの、それに逆行するような流れが幾つもあり、主流に沿っていてもこちらの風魔法が次々と食い破られていく。
〈まあ、流れに沿うだけでいいのなら、あいつらも四肢欠損とは、ならんよな。……こんなとんでもねえ魔法を、あいつらに放ちやがったのか、あのクソジジイは。こんちくしょうめ〉
(……! ロウッ! 北側に砂嵐の切れ目だ! 転移で移動しろ!)
〈……北側って、どっちだっけ?〉
(右側だ馬鹿!)
手足を砂嵐で削られ目を回しながらも右側へ魔力感知の意識を伸ばすと、操作限界ギリギリで金の魔力が途切れた場所が。
飛びつくように転移、薄暗い空へと帰還!
大空よ! 私は帰ってきたァ!
〈ヌァハハハ! 脱出してやったぜ──〉
【──フン。きさんなら凌ぐやろうと、思っとったぞ? 山羊頭めが】
〈ゲェッ!?〉(!?)
手の舞い足の踏む所を知らず喜んだのも束の間、頭上より降ってくるクソジジイの声。
寒気を覚えて見上げてみれば──小癪にも魔力を隠し拳を構える、クソッタレな琥珀竜の姿!
【難しいことは言わん──去ねぃッ!】
〈ッ!──哈ッ!〉
銀刀の憑依により増した魔力を全開にし、肉体の内面の力を外へと発勁すると同時──竜をもぶっ飛ばす竜拳炸裂。
〈ぅごッ……〉
逆巻く砂嵐へとぶっ飛ばされ、勢いそのまま砂嵐をぶち抜き、土色の大地に激突。
ついでに衝撃波でヴリトラが数柱入るほどのクレーターを形成してしまった。
〈ごっはぁ…………ぐは……生きてるぞ、ざまあみろこの野郎……うぐ〉
(……本当に凄いな、ロウ。今のはあの魔神エスリウすら比較にならない、魔神でも爆散するような一撃だった気がするが。ウィルムを地平までぶっ飛ばしたアレだろ?)
〈ガハハ。発勁舐めんなって、話ですよ……ふぅ〉
驚愕の隕石体験で溜まった砂を上下の口から吐き終え、立ち込める爆煙の中尻尾と触腕を支えに起き上がる。
全身の肉が千切れ皮がはち切れるような衝撃だったが、回復魔法で誤魔化せる範囲だ。下の口の牙が幾つか折られたけど、まあ大丈夫だろう。
(大丈夫か……って、そんなとこにも口? があるのか。お前さんって結構な異形だよな)
〈二足立ちってこと以外、人っぽい要素ないもんな。多分なんでも食えるぜ、ここから。どうにも俺の権能に直結してるっぽいし……ん? そういえば俺、自分の権能使ってなかったわ。俺もヴリトラがやってるみたいに、魔力に権能を乗せることが出来たら……〉
銀刀に応じている内に己の権能“虚無”を一切使っていなかったことに気が付き、早速応用に挑戦。
幸いにも、俺をぶっ飛ばしたクソジジイはこちらを仕留めたとでも思っているのか、動く気配や魔力集束が見られない。
しかし、権能を乗せるといってもどうしたものか。それも“虚無”である。虚ろな魔力ってどんなんやねん。
権能の使用法に関しては、降魔状態になった時に自ずから理解できたが……。とりあえず解放してみるか。俺の生存がヴリトラにバレるだろうけど、遅かれ早かれだ。
(こんな時でも行き当たりばったりだよな、お前さん)
〈このままだと勝ち筋ないんだから、仕方がないだろ。勝つための手は探さないといけないし〉
痛いところを突いてくるサルガスに言い訳しつつ、己の権能を解放する。
俺の司る力は虚無。虚ろであり、渾沌の無だ。
確か、著名な思想家である老子の言葉では、仏教の空思想的な解説……すなわち、渾沌とした原初の無の状態も森羅万象が生滅流転で巡る有の状態も、名前や形態が違うだけで本質は同一──虚無である。……というような説明がなされていた。
翻って、俺が司っている“虚無”は曖昧模糊である。
あらゆる状態を内包しつつ、その形態が不定不明瞭で溶け合っているというか、不確かだ。
今も下の口内で“虚無”が蠢いているが……体のどことも繋がっていないそこは、固体なのか液体なのか、何かが有るか無いかすら判然としないのだ。
……こんなヤバそうな権能、解放して大丈夫なのだろうか?
〈まあ、なるようになるか〉
(また投げやりな……)
迷っていても仕方がない。男は度胸、ええいままよ、だ。
相棒から呆れられようとも、是非もなし。
〈哈ッ!〉
俺にとって一番力の入る所作である陳式太極拳小架式・金剛搗碓、立ちながら座禅を組むような動作で権能を解放ッ!
鋭い呼気と同時に虚無を迸らせ──。
真紅の魔力が絶対無の漆黒に変じ、背部の触腕が異形の口部へと変容した。
◇◆◇◆
〈──んおッ!?〉(!? 大丈夫か!?)
俺が“虚無”を解放すると、我が真紅の魔力が闇色へ変化。背中から生える触腕も、悍ましい牙を持つ極太のウツボのような状態へと生まれ変わる。
な、何を言っているのか分からねーと思うが……。
【きさん、まだ生きとんのか? ほんにじゃかしいやっちゃのう。……そのうえ漆黒の魔力たあ、奇怪な】
己の背から生える目や鼻の無い虚ろなウツボどもに動じていると、呆れたような声と一緒に巨竜が飛んでくる。流石に気づかれたようだ。
〈お前から手を出してきてんのに、よく言うぜ〉
【フン、きさんがウィルムを唆したんが先やろうが。……竜でもないんに儂の拳をくらって生きとるたあ、ここで確実に殺しとった方がよさそうやのう!】
警戒度合い引き上げ宣言と同時に金の魔力を輝かせ、例の空間貫通斬撃・翼撃版を繰り出すヴリトラ。
〈芸がねえな! そんなもん空間魔法で──って、貫通するッ!?〉
対し、衝撃波の軌道を捻じ曲げる空間魔法を展開し──何故か魔法が切断消滅。
、逸らそうとしていたため転移も間に合わず、あわやなます切り──とビビったが。
〈──お?〉
【なにぃ!?】
何物をも切断するはずの貫通斬撃が、俺の身から溢れていた“虚無”を帯びた魔力に触れるとたちまち霧散。
発生していた衝撃波で多少身を削られはしたものの、空間切断自体は無効化したようだった。
〈……フッ。計算通り〉
(嘘吐け!)
山羊頭でキメ顔を作るも一瞬で突っ込まれつつ、唖然としている琥珀竜の下へ転移。
隙だらけの後肢へウツボ……もとい触腕たちを突撃させる!
〈せりゃあ!〉
【ぐぬッ!?】
ノリで攻撃させたにもかかわらず、琥珀竜の竜鱗を食み腱を食い破る我が触腕たち。竜鱗を食うってどんだけ悪食なんだよこのウツボ。
というか、俺が直接殴るよりも効果的である。なんだか悲しい。
【こんのォ、虫けらがァ!】
くだらないことを考えつつ次々と絡みつかせ、触腕たちが右後肢の骨まで食い進んだところで──急降下で叩き落とされ、地面に埋没。
〈ぬごぶッ。やりやがったな!〉
すぐに地中から這い出すも、ヴリトラは宙へと逃げてしまった。
でかい図体のくせにとんずらこいてんじゃねえぞ!
〈逃がすかッ!〉
衝撃波を撒き散らして飛び去った琥珀竜を感知で捕捉、転移で追跡!
かの竜の飛行速度は音速の数倍なれど、寸秒で五キロメートルくらい移動できる今の俺ほどは距離を稼げない。
魔神からは逃げられないぜ? ヴリトラァ!
【──! ガルゥァアッ!】
空間魔法で回り込めば──先回りするこちらの動きを看破していたらしく、琥珀色の竜拳が迫る!
とはいえ、竜と何度も戦った俺である。相手の反撃など織り込み済みだ。
〈撕ッ!〉
【ゲェッ!?】
腕のように綯い合わせた漆黒の触腕で竜の拳を外へと捌き、逆手の触腕でカウンター。
胸部へ触腕中段突きを叩き込み──胸骨をへし折った感触を覚えたところで、肘を返すように裏拳を打ち下ろすッ!
〈──哼ッ!〉
【ガッ……】
相撲の素首落としの如く頸椎に裏拳をぶち込まれたヴリトラは、隕石のように地上へ落下。
先ほどの俺がそうだったように、激突の衝撃波で巨大なクレーターを形成した。
叩き込んだ連撃は八極拳六大開“攔”・攔捶に反砸。
銀刀パワーに虚無を帯びた触腕にと人外要素マシマシの大陸拳法。その重撃は並ぶものなき硬度の竜鱗すら易々砕く。
【……グッ、ガァアアアッ!】
──しかれども、相手は最強の竜の一柱。
相手がウィルムならノックアウトを通り越して息の根を止めていそうな剛撃であっても、それがヴリトラであれば致命傷とはならないようだ。
骨や鱗を砕いたし、一応効いてはいるみたいだが……。
(竜の一撃に等しい攻撃でも仕留めきれないのか。まるで不死身だな)
〈こうなったら食い尽くしてやるしかないか? この触腕で食べると食ってる感じがしないんだよな〉
(竜を食うて。……いや、もう何も言うまい)
致命傷を与えられぬなら食い殺してしまえってな。
そんな決意の下、体勢を崩している内に捕食すべく地上へ転移すれば、咆哮に“渇き”の権能を乗せて周囲全てを消し飛ばさんとする琥珀竜。
ならばとこちらも“虚無”の権能を乗せた漆黒の魔力を纏い、“渇き”を相殺しながら同色の触腕でもって殴り掛かる!
〈──ぐぅッ!〉
だがしかし、渇きを相殺できても咆哮の衝撃波までもは無効化できず。
尋常ならざる音圧は突っ切ること能わず押し返され、逆にこちらが空へと吹き飛んでしまった。
〈……!?〉
そのまま空間魔法で足場を創り漆黒の魔力で渇きの烈風を防いでいると、咆哮が途切れ視界が晴れたが……琥珀色の巨体も消えていた。
魔力感知を行えば反応がしっかりとあり、どういうことだと目を凝らせば──別個体のように体が小さくなった、二足立ちで宙に佇む竜の姿を発見する。
【……】
全長で五十メートルほどあった巨体は、俺よりふた回りほど大きい体高五メートルほどに。
二対あった琥珀色の大翼や、長くしなやかだった手足も尾も、今や全てが小さくなっているが……。四足立ちから二足立ちに変わり、ほっそりとした以前の印象から真逆の堅牢さを感じさせる。
それより何より、四枚の翼の更に後ろで浮かぶ、虹に煌めく輪光の存在。
その神聖なる日輪は、地球時代に何度か見た仏像の如きである。
こいつ、ヴリトラからインドラか帝釈天に改名した方が良いんじゃね?
【──木端の魔神に見せるには惜しい姿よ。光栄に思え】
〈滅茶苦茶嬉しいっすね。どっちかっていうと、その姿を見せずに帰ってくれたんならもっと嬉しかったんすけど〉
【いっちょんも口が減らん奴やのう。まあ良い──去ねぃ、毛虫がッ!】
羽虫から毛虫にランクアップ(?)した──そう思ったところで琥珀色の翼が虹に煌めき、ヴリトラの姿がブレる。
ラウンドフォー? ファイブ? の開始である。
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