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第七章 混沌の交易都市
7-7 悪鬼の眷属
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十人近い大所帯(いずれも人外)で賑やかな夕食を済ませたロウは、吸血鬼姉妹や上位精霊を自身の空間へ戻した後、竜と魔神とを伴って城門へ向かう。魔眼の魔神バロールとの面会予定があるからだ。
「──ふんっ。あのバロールとまた話す機会を持つとはな。やいロウ、ティアマトの言葉、忘れたのではあるまいな?」
「バロール様と関係を持つのなら竜が敵対するってやつだろ? 忘れてないよ。だから魔神同士でこそこそ会わずに、こうしてお前たちを連れてきてるわけだし」
件の魔神と直接殺し合ったこともあるウィルムが険のある声音で問い質すと、ロウは竜同伴であれば問題ないだろうと切って返す。
「我はその約定を知らぬが、我ら竜属が共にあれば会っても良いというものなのか?」
「君らから見て密なやり取りが無ければ大丈夫だろう、ってことだよ。……直接ティアマトさんに聞いたら駄目って言われそうだけども」
枯色の優男ことドレイクが疑問を口にするれば、やや弱気となりながらも問題ないだろうと言葉を重ねた。
(実際、会うのは不味い気がするんだよなー。約束しちゃってるから今更無しにはできないけど。ティアマトは分かりにくかったけど、シュガールなんかはバロールと会ったって言った時に滅茶苦茶怒ってたし)
(関係を深めるつもりが無いということを、バロールにもウィルムたちにも強調するより他は無いですね)
「そうしろ。まかり間違ってもあの女に近づくような真似はするなよ? ロウ」
「お、おう」
当然のように念話を傍受して会話に割り込んでくる蒼髪美女に慄きつつ歩き続け、少年は待ち合わせ場所の西門へと到着した。
雨天の夕刻というだけあって人気が皆無な城門前。その広場の端に、傘を差して佇立する男性が一人。ロウは目的の人物だろうとあたりをつけ近付いていく。
「──バロール同様の“茜色”の魔力。奴の眷属か? 忌々しい」
「やっぱりあの人であってたか。俺の『眼』じゃ判別できないけど、『竜眼』って本当に凄いのなー」
「当然であろう。我ら竜属がこの世の頂点であると示すものの一つが、この『眼』であるのだからな。貴様ら神や魔神の持つ『魔眼』とはものが違うのだ」
などという会話を挟み、ロウは男性の下へ到着。氷の傘を一旦解除して顔を見せ、少年は男性に話しかけた。
「お待たせしました。バロール様と面会予定のロウです。ルフタ様、でお間違いないでしょうか?」
「お待ちしておりました、ロウ様。眷属たる私めに敬称などは不要でございますので、ロウ様の思うままにお呼びください」
「それではルフタさん、と。バロール様とお話しする際にこちらの三名も同行させたいのですが、よろしいでしょうか? いずれも事情を知る者たちで、バロール様もご存じだと思います」
「ふんっ」
「我らのことは呼び捨てるというのに、魔神の眷属には敬意を払うのか? どこまでも竜を軽んじる魔神よ」
少年が長身の老執事と話しを進めていると、面白くないとばかりに不満げな表情となる竜たち。そんな竜たちの反応を見た執事の男性は、目を点にしつつも問いを発する。
「……? ロウ様、お連れ様のお言葉の中に、竜がどうのというものがありましたが……?」
「はい。三名のうちこっちの優男と蒼髪のお姉さんは竜ですね。繰り返しになりますが、バロール様もご存じです」
「……。いや、まさか。いやしかし、ロウ様。我が主はかつて竜との争いの先頭に立ったこともあります。竜から向けられる怨みは魔神の中でも特に深いものですし、その者たちがご同行となると些か問題が……」
何食わぬ顔で竜の同行を告げられたルフタは大いに狼狽える。しかし、ロウは強硬姿勢を崩さない。
「なあに大丈夫ですよ。こっちのお姉さん、ウィルムは魔導国にいる時バロール様と直接会ってますし、そこにもう一柱加わるだけです。こいつらも暴れる気なんてありませんし、問題なんて起きませんよ。な、ドレイク?」
「フッ。我は魔神バロールを伝聞でしか知らぬ。故に此度の会合で如何ほどのものか、我が竜拳で試してみるのも一興やも──」
「あ゛あ゛?」
「──いや、今は機ではあるまいな。バロールに妙な動きでもない限り、我も荒事を起こすような真似はせんさ。故にロウよ、真紅の魔力を滾らせるのは止めよ」
「ここまでくるとドレイクが憐れに思えてきたぞ」「ふんっ」「……」
雨水が吹き飛ぶほどの圧が少年の身より溢れると、魔神の拳を思い出した枯色の青年が顔を青くした。
ごく自然に竜を脅すロウを見て心胆を寒くしたルフタだったが、己が使命を全うするために恐怖心を飲み込み警告を発する。
「眷属という卑小の身ですが、バロール様に危害が及ぶようであれば私の全てをかけ排除にあたる所存です。ロウ様、どうか不用意な真似をなさいませぬようお願い申し上げます」
「勿論です。俺だってバロール様やルフタさんに睨まれるのは御免ですからね。それじゃあ、ご案内をお願いしても?」
「承りました。こちらへ」
少年が素直に応じたことに胸を撫で下ろした老執事は身を翻し、西門の外へと向かう。
門を出てすぐ、一行は豪華な馬車に出迎えられた。二頭立ての大型馬車を牽くのは、かつてロウも利用した魔獣アルデンネである。
「こちらの馬車で郊外の別邸にご案内いたします。お茶や焼き菓子も用意しておりますので、到着までの間ご自由にお寛ぎください」
「ありがとうございます。それではお邪魔しますね」
「ほう、茶と菓子か。あの巌巒にしては気が利いている」
「むう。あの魔獣を見ると前々回の揺れを思い出すが……大丈夫であろうか?」
「籠か。人族というものは力無きが故か、面白いものを創りだす」
等々、好き好きに感想を漏らしつつ搭乗していくロウたち。
彼らを出迎えたのは昼白色の明かりを灯す魔道具に全面革張りのソファ、様々な菓子類が詰まったショーケース。そしてそれらを装飾する煌びやかな宝石、貴金属である。
貴族御用達ということもあり、馬車の内部は外観同様に広く快適な空間となっている。少年はその豪奢な内装に驚き声を上げ、ソファに腰を下ろす。
「おぉー。馬車の中だってのに高級宿の客室みたいだ。ソファふっかふかだわ」
「フム。あのぼろ宿とは比べ物にならんな。ちいと狭いが我に相応しい調度品の数々である」
「柔らかいばかりで落ち着かんな。やはり妾は氷の椅子の方が良い」
「ほうほう。この焼き菓子、中々に上品な味わいだぞ、ロウよ」
「もう食ってんのかよ。あんまり食べると前みたいに酔っちまうかもしれんぞ」
ロウがセルケトに注意を促したところで馬車の戸が閉まり、ルフタの念話が全員へ届けられた。
「これより出発いたします。到着は日没後を予定しておりますが、雨天のため多少遅れが生じる可能性もございます。ご了承ください」
「うおッ、念話か」
「やい、眷属。菓子はあるが茶がないぞ。用意せい」
「失礼いたしました。すぐにご準備いたしますので、今しばらくお待ちください」
「……ウィルムも当たり前のように念話使えるのな」
「当然であろう? 妾は青玉竜なるぞ」
「当然であるな」「すげーな竜属」「むう。我も習得しておきたいところだが」
念話に念話で返したウィルムがそっくり返っていると、小さな揺れと共に馬車が動き始めた。
路面が良いのか車輪が良いのか、あるいはその両方か。ロウたちの乗る馬車の揺れはごく小さく、蹄の音や流れゆく景色が無ければ進んでいると知覚できないほどだ。
そんな快適空間の中、数体のゴーレムが給仕のためにせかせかと動き回る。人の頭部程の大きさで湯を沸かし茶を用意する木人は、ルフタの創りだしたハシバミのゴーレムである。
[[[──]]]
「御者しながらどうやってお茶を用意するんだろうって思ってたら、ゴーレムかあ。頭のもさもさした葉っぱが可愛いのな」
「愛らしい外見ではあるが、このゴーレムが淹れる茶というのも中々に旨い。茶葉も良いのであろうが流石は魔神バロールの眷属、ゴーレムの操作一つとっても並ではないということか」
「気に入らん。気に入らんが、確かに茶は旨い。昔のアレからは考えられん嗜みだ」
「うん? ウィルムってルフタさんと顔見知りだったんだ?」
ロウとセルケトがゴーレムについて唸っている間も、ウィルムは変わらず不機嫌のまま。少年は怨みの深さに気圧されつつも彼女と眷属の関係について触れた。
「そうではない。破壊しか能のない者の眷属であれば、その性質を継いだものとなるはずであろう。こうしてあの者の眷属が妾たちを満足させるということは、あやつそのものにもこれらもてなす行為への理解があるということだ。人族の小間使いに用意させることとはわけが違う」
「そういうもんなのか。エスリウ様曰く古くからの眷属らしいし、バロール様が荒れてた時期の眷属なんだろうけど。長く生きてる間に色々あったんじゃない? お前たち竜属だって知識豊富だしさ」
「フム。確かに我ら竜属は膨大なる知識を有するが、知識を吸収しようとも本質は変わらぬ。破壊の権化バロールがこうして人の世に馴染むのは、本質が変化してしまったのではないか? そう思えるほどの変わりようであろう」
少年が時の流れで性質も変わり得るだろうと言えば、会話に参入したドレイクが本質は変わらないものだと主張する。
「変わらない本質か。まあその辺りも聞いてみれば良いんじゃないの? 折角本人に会うんだし、案外納得するようなものかもよ」
「雑な切り上げ方よな。面倒になったのか?」
「少し真面目に話したかと思えばこれよ。やはりこやつは話にならん」
結局のところ本人に聞くより他はないと考え話を締めたロウだったが、女性二名からひんしゅくを買ってしまった。
(フッ。お前さんはこういうところがまだまだ甘いな。まあ魔神故にって面もあるかもしれんが)
(こういう点もロウらしくて良いと思いますよ、私は)
その上、曲刀たちからは何故か慰められてしまった。
「よく分からんけど俺の味方はお前たちだけか。やはり竜と魔神とが心を通わせるのは難しいようだな」
「我は魔神であるぞ? ロウよ」
「そっすね。魔神同士でも難しいんスよ」
(幾らなんでも雑過ぎる)(ロウはブレませんね)「口の減らん奴よ」「応じるだけ無駄か」
だがしかし、あっという間に孤立無援となってしまった。少年に人徳が無き故である。
大仰に嘆く少年が周囲から嘆息される、馬車での一幕だった。
「──ふんっ。あのバロールとまた話す機会を持つとはな。やいロウ、ティアマトの言葉、忘れたのではあるまいな?」
「バロール様と関係を持つのなら竜が敵対するってやつだろ? 忘れてないよ。だから魔神同士でこそこそ会わずに、こうしてお前たちを連れてきてるわけだし」
件の魔神と直接殺し合ったこともあるウィルムが険のある声音で問い質すと、ロウは竜同伴であれば問題ないだろうと切って返す。
「我はその約定を知らぬが、我ら竜属が共にあれば会っても良いというものなのか?」
「君らから見て密なやり取りが無ければ大丈夫だろう、ってことだよ。……直接ティアマトさんに聞いたら駄目って言われそうだけども」
枯色の優男ことドレイクが疑問を口にするれば、やや弱気となりながらも問題ないだろうと言葉を重ねた。
(実際、会うのは不味い気がするんだよなー。約束しちゃってるから今更無しにはできないけど。ティアマトは分かりにくかったけど、シュガールなんかはバロールと会ったって言った時に滅茶苦茶怒ってたし)
(関係を深めるつもりが無いということを、バロールにもウィルムたちにも強調するより他は無いですね)
「そうしろ。まかり間違ってもあの女に近づくような真似はするなよ? ロウ」
「お、おう」
当然のように念話を傍受して会話に割り込んでくる蒼髪美女に慄きつつ歩き続け、少年は待ち合わせ場所の西門へと到着した。
雨天の夕刻というだけあって人気が皆無な城門前。その広場の端に、傘を差して佇立する男性が一人。ロウは目的の人物だろうとあたりをつけ近付いていく。
「──バロール同様の“茜色”の魔力。奴の眷属か? 忌々しい」
「やっぱりあの人であってたか。俺の『眼』じゃ判別できないけど、『竜眼』って本当に凄いのなー」
「当然であろう。我ら竜属がこの世の頂点であると示すものの一つが、この『眼』であるのだからな。貴様ら神や魔神の持つ『魔眼』とはものが違うのだ」
などという会話を挟み、ロウは男性の下へ到着。氷の傘を一旦解除して顔を見せ、少年は男性に話しかけた。
「お待たせしました。バロール様と面会予定のロウです。ルフタ様、でお間違いないでしょうか?」
「お待ちしておりました、ロウ様。眷属たる私めに敬称などは不要でございますので、ロウ様の思うままにお呼びください」
「それではルフタさん、と。バロール様とお話しする際にこちらの三名も同行させたいのですが、よろしいでしょうか? いずれも事情を知る者たちで、バロール様もご存じだと思います」
「ふんっ」
「我らのことは呼び捨てるというのに、魔神の眷属には敬意を払うのか? どこまでも竜を軽んじる魔神よ」
少年が長身の老執事と話しを進めていると、面白くないとばかりに不満げな表情となる竜たち。そんな竜たちの反応を見た執事の男性は、目を点にしつつも問いを発する。
「……? ロウ様、お連れ様のお言葉の中に、竜がどうのというものがありましたが……?」
「はい。三名のうちこっちの優男と蒼髪のお姉さんは竜ですね。繰り返しになりますが、バロール様もご存じです」
「……。いや、まさか。いやしかし、ロウ様。我が主はかつて竜との争いの先頭に立ったこともあります。竜から向けられる怨みは魔神の中でも特に深いものですし、その者たちがご同行となると些か問題が……」
何食わぬ顔で竜の同行を告げられたルフタは大いに狼狽える。しかし、ロウは強硬姿勢を崩さない。
「なあに大丈夫ですよ。こっちのお姉さん、ウィルムは魔導国にいる時バロール様と直接会ってますし、そこにもう一柱加わるだけです。こいつらも暴れる気なんてありませんし、問題なんて起きませんよ。な、ドレイク?」
「フッ。我は魔神バロールを伝聞でしか知らぬ。故に此度の会合で如何ほどのものか、我が竜拳で試してみるのも一興やも──」
「あ゛あ゛?」
「──いや、今は機ではあるまいな。バロールに妙な動きでもない限り、我も荒事を起こすような真似はせんさ。故にロウよ、真紅の魔力を滾らせるのは止めよ」
「ここまでくるとドレイクが憐れに思えてきたぞ」「ふんっ」「……」
雨水が吹き飛ぶほどの圧が少年の身より溢れると、魔神の拳を思い出した枯色の青年が顔を青くした。
ごく自然に竜を脅すロウを見て心胆を寒くしたルフタだったが、己が使命を全うするために恐怖心を飲み込み警告を発する。
「眷属という卑小の身ですが、バロール様に危害が及ぶようであれば私の全てをかけ排除にあたる所存です。ロウ様、どうか不用意な真似をなさいませぬようお願い申し上げます」
「勿論です。俺だってバロール様やルフタさんに睨まれるのは御免ですからね。それじゃあ、ご案内をお願いしても?」
「承りました。こちらへ」
少年が素直に応じたことに胸を撫で下ろした老執事は身を翻し、西門の外へと向かう。
門を出てすぐ、一行は豪華な馬車に出迎えられた。二頭立ての大型馬車を牽くのは、かつてロウも利用した魔獣アルデンネである。
「こちらの馬車で郊外の別邸にご案内いたします。お茶や焼き菓子も用意しておりますので、到着までの間ご自由にお寛ぎください」
「ありがとうございます。それではお邪魔しますね」
「ほう、茶と菓子か。あの巌巒にしては気が利いている」
「むう。あの魔獣を見ると前々回の揺れを思い出すが……大丈夫であろうか?」
「籠か。人族というものは力無きが故か、面白いものを創りだす」
等々、好き好きに感想を漏らしつつ搭乗していくロウたち。
彼らを出迎えたのは昼白色の明かりを灯す魔道具に全面革張りのソファ、様々な菓子類が詰まったショーケース。そしてそれらを装飾する煌びやかな宝石、貴金属である。
貴族御用達ということもあり、馬車の内部は外観同様に広く快適な空間となっている。少年はその豪奢な内装に驚き声を上げ、ソファに腰を下ろす。
「おぉー。馬車の中だってのに高級宿の客室みたいだ。ソファふっかふかだわ」
「フム。あのぼろ宿とは比べ物にならんな。ちいと狭いが我に相応しい調度品の数々である」
「柔らかいばかりで落ち着かんな。やはり妾は氷の椅子の方が良い」
「ほうほう。この焼き菓子、中々に上品な味わいだぞ、ロウよ」
「もう食ってんのかよ。あんまり食べると前みたいに酔っちまうかもしれんぞ」
ロウがセルケトに注意を促したところで馬車の戸が閉まり、ルフタの念話が全員へ届けられた。
「これより出発いたします。到着は日没後を予定しておりますが、雨天のため多少遅れが生じる可能性もございます。ご了承ください」
「うおッ、念話か」
「やい、眷属。菓子はあるが茶がないぞ。用意せい」
「失礼いたしました。すぐにご準備いたしますので、今しばらくお待ちください」
「……ウィルムも当たり前のように念話使えるのな」
「当然であろう? 妾は青玉竜なるぞ」
「当然であるな」「すげーな竜属」「むう。我も習得しておきたいところだが」
念話に念話で返したウィルムがそっくり返っていると、小さな揺れと共に馬車が動き始めた。
路面が良いのか車輪が良いのか、あるいはその両方か。ロウたちの乗る馬車の揺れはごく小さく、蹄の音や流れゆく景色が無ければ進んでいると知覚できないほどだ。
そんな快適空間の中、数体のゴーレムが給仕のためにせかせかと動き回る。人の頭部程の大きさで湯を沸かし茶を用意する木人は、ルフタの創りだしたハシバミのゴーレムである。
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「御者しながらどうやってお茶を用意するんだろうって思ってたら、ゴーレムかあ。頭のもさもさした葉っぱが可愛いのな」
「愛らしい外見ではあるが、このゴーレムが淹れる茶というのも中々に旨い。茶葉も良いのであろうが流石は魔神バロールの眷属、ゴーレムの操作一つとっても並ではないということか」
「気に入らん。気に入らんが、確かに茶は旨い。昔のアレからは考えられん嗜みだ」
「うん? ウィルムってルフタさんと顔見知りだったんだ?」
ロウとセルケトがゴーレムについて唸っている間も、ウィルムは変わらず不機嫌のまま。少年は怨みの深さに気圧されつつも彼女と眷属の関係について触れた。
「そうではない。破壊しか能のない者の眷属であれば、その性質を継いだものとなるはずであろう。こうしてあの者の眷属が妾たちを満足させるということは、あやつそのものにもこれらもてなす行為への理解があるということだ。人族の小間使いに用意させることとはわけが違う」
「そういうもんなのか。エスリウ様曰く古くからの眷属らしいし、バロール様が荒れてた時期の眷属なんだろうけど。長く生きてる間に色々あったんじゃない? お前たち竜属だって知識豊富だしさ」
「フム。確かに我ら竜属は膨大なる知識を有するが、知識を吸収しようとも本質は変わらぬ。破壊の権化バロールがこうして人の世に馴染むのは、本質が変化してしまったのではないか? そう思えるほどの変わりようであろう」
少年が時の流れで性質も変わり得るだろうと言えば、会話に参入したドレイクが本質は変わらないものだと主張する。
「変わらない本質か。まあその辺りも聞いてみれば良いんじゃないの? 折角本人に会うんだし、案外納得するようなものかもよ」
「雑な切り上げ方よな。面倒になったのか?」
「少し真面目に話したかと思えばこれよ。やはりこやつは話にならん」
結局のところ本人に聞くより他はないと考え話を締めたロウだったが、女性二名からひんしゅくを買ってしまった。
(フッ。お前さんはこういうところがまだまだ甘いな。まあ魔神故にって面もあるかもしれんが)
(こういう点もロウらしくて良いと思いますよ、私は)
その上、曲刀たちからは何故か慰められてしまった。
「よく分からんけど俺の味方はお前たちだけか。やはり竜と魔神とが心を通わせるのは難しいようだな」
「我は魔神であるぞ? ロウよ」
「そっすね。魔神同士でも難しいんスよ」
(幾らなんでも雑過ぎる)(ロウはブレませんね)「口の減らん奴よ」「応じるだけ無駄か」
だがしかし、あっという間に孤立無援となってしまった。少年に人徳が無き故である。
大仰に嘆く少年が周囲から嘆息される、馬車での一幕だった。
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