異世界を中国拳法でぶん殴る! ~転生したら褐色ショタで人外で、おまけに凶悪犯罪者だったけど、前世で鍛えた中国拳法で真っ当な人生を目指します~

犬童 貞之助

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第七章 混沌の交易都市

7-6 求心力

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 宿から離れ、人通りが皆無な雨の路地。

 友人を迎えに行くていで外出した俺は、空間魔法を扱えそうな場所を探していた。宿に泊まる面々を異空間から呼び出すためである。

「……おい」「ああ」「追い詰めて囲むか」

 路地より屋根の上の方が目立たないかな──などと考えていると、路地の壁際にたたずんでいた三人組から不穏な気配と言葉が漏れた。それを証明するかのように、彼らは俺の後を滑るように追跡し始める。怖いお兄さんたちにロックオンされてしまったようだ。

 ディエラとの会話の余韻よいんもあったもんじゃないぜ、全く。

(雨の中子供一人じゃあ、さもあらん。お前さんも罪な男だな)
(不届きな連中なのです。殺りますか?)
「殺らねえよ!」

 阿呆な会話を繰り広げながら路地裏へおもむき、屋根の上へと跳びあがって後をつけていた三人組を撒く。面倒事などさっさと逃げるが一番であろう。

「!? いねえぞ、あのガキ!」「この先は行き止まりだろ? どこへ消えやがった」

(こんな天気であっても小悪党は活動するものなのですね)
「天気が悪いと人目も少なくなるし音だってまぎれるし、活動しやすいってくらいかもなー」

 呆れたようなギルタブの言葉に元盗賊としての感想を告げつつ、周囲を確認。人影がないと知ったところで魔法を構築し、異空間につないだ門を潜り白一色の大地を踏む。

 中に入れば外の天候とは無縁な清浄なる空間。

「ちぃっ」「はあぁっ!」

 そんな我が異空間では、剣翼を生やした蒼髪美女が吹雪を巻き起こして氷河を創り、竜胆色りんどういろの美女が漆黒の方天戟ほうてんげきを振るって氷河を叩き割っていた。

 それは言わずもがな、人へと変じている青玉竜せいぎょくりゅうウィルムと異形の魔神セルケトである。

 何やってんだこいつら……。

「あばばばー。やっぱり竜と魔神って、とんでもなさすぎるよー──って、ロウ君。おかえりー」

「どうもどうも。いきなりで悪いですがアムールさん、あれって何事ですか?」

 俺の開いた入り口の近く、吹雪吹き荒れる場から離れたところで震えていた吸血鬼の少女──アムールに、奇怪な状況の説明を求める。

「喧嘩とかじゃないみたいなんだけど、強くなった? らしいセルケトさんの力が見たいって、ウィルムさんが言いだして。最初の内は動かない氷に力を見せていくだけだったんだけど、何だかどんどん過激になっていっちゃって」

「その光景が目に浮かぶようですよ……。もうリマージュに着いちゃったので、止めてきますね」
「お願いー。って、もう公国に着いちゃったんだ? 空間魔法ってば凄いなあ」

 黒髪美少女に見送られて吹雪の中心地へ移動。金の魔力たぎる手刀と赤紫の魔力滲む方天戟とが切り結ぶその間に、銀刀を抜き放ち割って入る。

「むっ」「むう」

「はいはい、遊ぶのもそこまで。もう公国に着いて宿取ったから、お出かけの準備をしなさい」

 方天戟の穂先ほさきを踏まれたセルケトも手刀を銀刀で止められたウィルムも、いずれも不満そうな声を漏らす。が、我が両腕を半降魔ごうま状態に移行させるとすぐに収めてくれた。

「到着したのであれば仕方があるまい。セルケトよ、今回のところは見逃しておいてやる」

「ふむ。我も竜鱗へこうする術というものを会得できた。魔物であった以前とは違うということも刻み込めたようであるし、ここで止めても何の問題もないか」
「竜鱗へ抗する術だと? 笑わせる。人に変じた妾を斬ったくらいでいい気なものだな。真なる竜鱗の硬度というもの、刻み込んでやろうか!」
「ほう、巨大な獲物というものも試したいところである。なれば始めるか!」

「止めろっつってんだろうが」

 終息を迎えたと思えばいきなり再燃である。全然収めてくれてなかった。

「お前らってそんないがみ合う仲だっけ? むしろ仲良しだと思ってたんだけど」

「ふん。別にいがみ合ってなどいない。ただ、上下関係というものを教えてやろうとしただけだ」
「我も魔神となったが故、ウィルムとは同格にあると思っているのだが。こやつは聞き届けてくれなんだ」

「ははあ。可愛がってた後輩がいつの間にか滅茶苦茶強くなってて、先輩としては心中複雑的な?」
「訳の分からんことを言う。先も言った通り妾が竜であり上位者であるというだけだ」
「全く、竜属とは頭の固き連中よな」

 例えてみるも的外れだったらしく嘆息されてしまった。恥ずかしいけど場の空気が弛緩しかんしたし結果オーライだ。

 空気が落ち着いたところで、夕食をとる面々を集めにかかる。

「ウィルムさんとセルケトさん、落ち着いた?」「何の騒ぎだ?」「あの戟、やはり只ならぬ得物であるな」[[[──]]]

 妹と違い石の砦から状況を見守っていた吸血鬼アシエラに、我関せずと傍観を決め込んでいた上位精霊ニグラス、未知なる魔神を観察していた枯色竜かれいろりゅうドレイク。上記外出組の面々に我が眷属けんぞくたちを加えた全員が揃ったので、サクッと説明を開始した。

「公国の交易都市に到着したので夕食のために外に出ますよー。っと、ニグラスも来たか。お前はどうする? 外の夕食はお肉の料理も出るけど」

「そうか。まだ肉を求める時期ではないが、人の世のうつろいを確かめる良い機会とも言える。私も外へ出るとしよう」
「さいですか。それじゃあ人化したサルガスを含めて計九人だな」

[──?][──!][──……][──]

「うん? お前たちも出たい? 部屋が空いてないし、難しいな。帝国に行った時はちゃんと部屋取ってやるから、今回は我慢してくれよな」

 外へ出たいとごねる眷属たちをなだめ空間魔法を構築。竜に魔神に精霊にと引き連れ雨の中へと戻っていく。

「わっ。本当に街中だ」「木造の建物が結構多いね。魔導国とは街並みが違う」

「ここも雨か。僅かに金の魔力が見て取れるということは、やはりレヴィアタンの影響か?」
「であろうな。大陸中央から遠く離れているというのに流石は古き竜の一柱、我らとは力の規模が違っている」

「……。人の密度は変わっているが、生活の様式は変わらないか」
「そういうもんか? 人の生活ってあんまり変わんないもんなのかね」

 好き好きに感想を述べる彼らの先頭に立ち、屋根から飛び降り路地裏へ。

「「「──ッ!?」」」

「あッ」

 高所からの着地を華麗に決めると、先ほど俺を追跡していた三人組と目が合った。

 こっちに戻ってきてから周りを確認する作業を忘れていた故である。やっちまったい!

「ロウ、宿へ行くのではなかったのか?」「どうした? この者どもが何かしたのか?」「あや、見られちゃった?」

「んなッ!?」「どっから、上から!?」「なんなんだ、こいつら」

 不測の事態に動じている俺と男たちを待ちはしないと、次々と降ってくる面々。

「不愉快な視線であるな。焼くか?」

 増えていく美女たちを見た彼らは口を大開にして呆け、最後にやってきたドレイクの覇気を見るや逃走した。

「ひいぃぃッ!?」「ぎやああぁぁッ!」「あ、ああぁぁぁッ!?」

「……。ドレイクの威嚇いかくって凄え効果だな」
「荒事になれてる私たちでも震え上がるほどの覇気だし、普通の男の人だと恐慌きょうこう状態になるのも仕方がないかもね」

「フッ。アシエラよ、これは竜ならば当然具えている性質である。そう褒めるな」

 褒められているのか微妙な言葉でも得意げな雰囲気を滲ませる、枯色の優男ことドレイク。

 こんな奴でもこの街丸ごと飲み込むような溶岩湖を生み出しちゃうんだから、竜属とは恐ろしいものである。

「やい、貴様ら。何を縷々るるとして話している? 早う宿へ向かうぞ」
「すんませんね。それじゃあ行きますよっと」「ウィルムよ、すまなんだ」

 冷気の膜を傘代わりにしている蒼髪美女にせかされたため、宿に向けて出発。

 といっても距離的に近いため、数分の内に到着。ぞろぞろと連なって入り口に入りそのまま受付に向かう。

「おかえりーってあれ、ギルタブさんも? うわっ!?」

「ただいま戻りました。予定より一人増えちゃったので銀貨二枚、十日分のお代です」
「いや、もう十分もらってるからそれは大丈夫なんだけど……なんだか、凄い集団だね? おまけに綺麗な女の人ばっかり」
「ほう。この者がロウの昔の女か。可憐だが、華奢きゃしゃだな」

「ちょッ!?」
「へっ、えぇっ!?」

 受付に向かいディエラを視界に収めたセルケトの開口一番がこれである。マジふざけんなよお前!

「こやつは肉感的な女を好んでいると思っていたが、随分とな女だな。まあ良い。ロウ、早う食堂へ案内しろ」

「お前ら一体俺を何だと……つうか、ディエラさんに対して失礼なこと言ってんじゃねえよ。ほんとすんません、ディエラさん。馬鹿の妄言もうげんなんで聞き流してください」
「う、うん。平気平気。でも、えっ? 昔の女って、じゃあ今は……?」
「うひゃー。ロウ君ってばヤリ手だねえ。年上のお姉さんまで毒牙にかけてるなんて、私ちょっと自信なくしちゃうよ」

 ウィルムの阿呆を封殺していると、普段はまともなアムールまで状況をかき乱す側に回ってしまった。いや、よくよく考えればこの子はかき回してばっかりだったか。

「ちょっと何適当なこと言ってるんですか。収拾つけてくださいよ本当」

「よく分からない状況だ。あちらから肉の匂いがするが、向こうでいいのか?」
「そうそう。それじゃあ食堂に向かいますんで。お騒がせしましたッ!」
「あっ、ちょっと!?」

 ただ一人宿の内装を観察していたニグラスの言葉に飛び付き、これ幸いと食堂に向かう。

「お前さんに大人数を纏めるのは無理だな。酷い有様だ」
「ロウには指導者に求められる求心力というものが備わっていませんから。仕方のないことなのです」

「うっせー。それが分かってるなら少しは手伝ってくれよ、もう」

 人化済みの曲刀たちお小言をもらいつつ、俺は逃げるように食堂へと駆け込んだのだった。
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